StudyMed医師国家試験

オタワで生まれ、バンコクで育った理念―ヘルスプロモーションと国際宣言の見分け方

第110回医師国家試験 B問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第34問

ヘルスプロモーションについて述べられているのはどれか。2つ選べ。

  1. a.アルマ・アタ宣言
  2. b.オタワ憲章
  3. c.ジュネーブ条約
  4. d.バンコク憲章
  5. e.ヘルシンキ宣言

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の問題で、ヘルスプロモーションについて述べた国際文書を選ぶ。似た名前の宣言や憲章が並んでいるから、それぞれ「いつ、どの組織が、何をテーマに出したか」を対応させて整理するのがコツだ。まず、ヘルスプロモーションという言葉をどう理解しているかな。
医学生医学生
健康増進、つまり運動や食事など生活習慣を改善して病気を防ぐこと、というイメージです。
ドクタードクター
半分正解だね。個人の生活習慣改善も含まれるけれど、ヘルスプロモーションの本質は、健康を個人の努力だけに任せず、政策や環境、地域社会に働きかけて、人々が健康的な選択をしやすい条件を整えることにあるんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、健康の社会的決定要因という言葉を習いました。それと関係がありますか。
ドクタードクター
大いに関係がある。ヘルスプロモーションを初めて体系的に示したのが、1986年にWHOがカナダで開いた第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択されたオタワ憲章だ。そこでは「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義された。
医学生医学生
そして2005年のバンコク憲章で、その定義に健康の決定要因が加わったんですね。
ドクタードクター
その通り。タイのバンコクで開かれた第6回会議で、グローバル化した世界の中で健康の決定要因に取り組む戦略が示され、定義が「健康とその決定要因をコントロールし、改善する」と再定義された。ヘルスプロモーションを政策課題の中心に据え、政府や企業、地域社会の責務とすることも求めている。この2つが正解だ。
医学生医学生
アルマ・アタ宣言も健康づくりの話だったと思うので、迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。アルマ・アタ宣言は1978年にWHOとUNICEFが採択したもので、テーマはプライマリヘルスケアだ。「2000年までにすべての人に健康を」を掲げ、住民参加や予防重視、地域資源の活用などを原則とした。ヘルスプロモーションの源流の1つではあるけれど、主題が違うんだ。
医学生医学生
ジュネーブ条約は、医師の倫理を誓うものでしたっけ。
ドクタードクター
そこは名前が似ているので要注意。医師の職業倫理の宣誓はジュネーブ宣言で、1948年に世界医師会が採択したヒポクラテスの誓いの現代版だ。一方ジュネーブ条約は、戦時の傷病者や捕虜、文民を保護する国際人道法の条約で、赤十字条約とも呼ばれる。どちらにしてもヘルスプロモーションとは関係がない。
医学生医学生
ヘルシンキ宣言は研究倫理ですよね。基礎医学の研究室配属のときに、倫理審査の説明で名前が出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。1964年に世界医師会が採択した、人間を対象とする医学研究の倫理原則だ。インフォームド・コンセントや倫理審査委員会での審査、被験者の利益を科学や社会の利益より優先することを定めていて、ニュルンベルク綱領を発展させたものだよ。
医学生医学生
整理すると、ヘルスプロモーションはWHOのオタワとバンコク、倫理系は世界医師会のジュネーブ宣言・ヘルシンキ宣言、PHCはアルマ・アタ、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展としてオタワ憲章の中身も押さえておこう。3つの基本戦略は唱道、能力の付与、調停。5つの活動領域は、健康的な公共政策づくり、健康を支援する環境づくり、地域活動の強化、個人技術の開発、ヘルスサービスの方向転換だ。
医学生医学生
個人技術の開発は5つのうちの1つにすぎない、というところに理念が表れていますね。
ドクタードクター
いい気づきだ。たとえば禁煙なら、本人への指導だけでなく、受動喫煙防止の法整備やたばこ税、職場の禁煙環境づくりまで含めて考えるのがヘルスプロモーションの発想だ。日本では健康日本21の基本理念にも取り入れられている。
医学生医学生
外来で生活指導をするときも、その人の生活環境や社会的背景まで目を向ける必要がある、ということですね。
ドクタードクター
その通り。ちなみにアルマ・アタ宣言の40周年にあたる2018年にはアスタナ宣言でプライマリヘルスケアが再確認された。リスボン宣言の患者の権利も含め、国際文書は年代と主催組織をセットで覚えると混乱しにくいよ。

まとめ

ヘルスプロモーションは、1986年のWHOによるオタワ憲章で「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」として提唱され、2005年のバンコク憲章で「健康の決定要因」を加えて再定義されました。オタワ憲章は唱道・能力の付与・調停の3戦略と、健康的な公共政策づくりやヘルスサービスの方向転換を含む5つの活動領域を示し、健康を個人の努力だけでなく社会的条件の整備によって実現するという考え方を打ち出しています。紛らわしい文書として、アルマ・アタ宣言はプライマリヘルスケア、ヘルシンキ宣言は医学研究の倫理、ジュネーブ宣言は医師の倫理、ジュネーブ条約は戦争犠牲者の保護を扱います。国際文書を年代・主催組織・テーマで整理しておくことは、試験対策だけでなく、患者の生活背景や社会環境まで視野に入れた診療や地域保健活動を考える土台になります。

解答・解説

正解はb, dです

ヘルスプロモーション(health promotion)は、WHO(世界保健機関)が1986年にカナダのオタワで開いた第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択した「オタワ憲章」で提唱された考え方である。オタワ憲章では「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義され、2005年にタイのバンコクで開かれた第6回会議の「バンコク憲章」では、これに「健康の決定要因」を加え、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と再定義された。 ヘルスプロモーションの特徴は、健康を個人の努力(生活習慣の改善)だけに任せるのではなく、政策・環境・地域社会といった社会的要因に働きかけて、人々が健康的な選択をしやすい条件を整えるという点にある。 本問は、公衆衛生・医療倫理に関する代表的な国際宣言・憲章・条約の名称と内容を対応させて覚えているかを問うものである。各文書がいつ、どの組織によって、何をテーマに出されたかを整理しておけば容易に解ける。ヘルスプロモーションを扱っているのはオタワ憲章とバンコク憲章である。

選択肢考察

  1. ×a.  アルマ・アタ宣言

    アルマ・アタ宣言は、1978年にWHOとUNICEF(国連児童基金)が旧ソ連のアルマ・アタ(現カザフスタンのアルマトイ)で開いた国際会議で採択されたもので、プライマリヘルスケア(PHC)の理念を初めて打ち出した。「2000年までにすべての人に健康を(Health for All by the year 2000)」を目標に掲げ、住民の主体的参加、地域の資源の有効活用、予防重視、適正技術の使用、他分野との協調・統合などを原則とする。ヘルスプロモーションの源流の一つではあるが、テーマはプライマリヘルスケアである。

  2. ○b.  オタワ憲章

    1986年の第1回ヘルスプロモーション国際会議(WHO主催、カナダ・オタワ)で採択された憲章であり、ヘルスプロモーションの理念と定義を初めて体系的に示した。健康のための前提条件(平和、住居、教育、食料、収入、安定した生態系、持続可能な資源、社会的公正と公平)を挙げたうえで、3つの基本戦略(唱道・能力の付与・調停)と5つの活動領域(健康的な公共政策づくり、健康を支援する環境づくり、地域活動の強化、個人技術の開発、ヘルスサービスの方向転換)を提示した。

  3. ×c.  ジュネーブ条約

    ジュネーブ条約は、戦時における傷病者・捕虜・文民など戦争犠牲者の保護を定めた国際人道法の条約であり、赤十字条約とも呼ばれる。1864年に最初の条約が結ばれ、現在の4条約は1949年に締結された。ヘルスプロモーションとは関係がない。なお、名前が似た「ジュネーブ宣言」は1948年に世界医師会(WMA)が採択した、医師の職業倫理に関する宣誓(ヒポクラテスの誓いの現代版)であり、混同しないよう注意する。

  4. ○d.  バンコク憲章

    2005年にタイのバンコクで開かれた第6回ヘルスプロモーション国際会議で採択された憲章である。グローバル化が進む世界において、健康の決定要因に取り組むためのヘルスプロモーションの戦略と公約を示した。オタワ憲章の理念を引き継ぎつつ、ヘルスプロモーションの定義に「健康の決定要因」を明示的に加えたこと、ヘルスプロモーションを国際的・国内的な政策課題の中心に据え、政府・企業・地域社会の責務とすることを求めた点が特徴である。

  5. ×e.  ヘルシンキ宣言

    ヘルシンキ宣言は、1964年に世界医師会がフィンランドのヘルシンキで採択した「人間を対象とする医学研究の倫理的原則」である。被験者の自由意思によるインフォームド・コンセント、研究計画の倫理審査委員会による審査、被験者の利益を科学や社会の利益より優先することなどを定め、その後も繰り返し改訂されている。第二次世界大戦中の人体実験への反省から生まれたニュルンベルク綱領(1947年)を発展させたものであり、ヘルスプロモーションとは無関係である。

ヘルスプロモーションの3つの基本戦略(オタワ憲章)

1. 唱道(advocate):政治・経済・社会・文化・環境などの条件を健康に好ましいものにするよう、健康の重要性を主張・提唱する 2. 能力の付与(enable):すべての人が健康の潜在能力を十分に発揮できるよう、機会や資源を公平に確保し、能力を高める 3. 調停(mediate):行政・民間・地域社会など社会のあらゆる部門の利害を調整し、協調した行動を促す

5つの活動領域(オタワ憲章)

1. 健康的な公共政策づくり 2. 健康を支援する環境づくり 3. 地域活動の強化 4. 個人技術の開発 5. ヘルスサービスの方向転換(治療中心から予防・健康増進を含むものへ)

公衆衛生・医療倫理に関する主な国際文書

・ニュルンベルク綱領(1947年):人体実験の倫理原則、被験者の自発的同意 ・ジュネーブ宣言(1948年、世界医師会):医師の倫理(ヒポクラテスの誓いの現代版) ・ヘルシンキ宣言(1964年、世界医師会):人間を対象とする医学研究の倫理 ・アルマ・アタ宣言(1978年、WHO・UNICEF):プライマリヘルスケア ・リスボン宣言(1981年、世界医師会):患者の権利 ・オタワ憲章(1986年、WHO):ヘルスプロモーション ・バンコク憲章(2005年、WHO):グローバル化した世界におけるヘルスプロモーション ・アスタナ宣言(2018年、WHO・UNICEF):アルマ・アタ宣言40周年、プライマリヘルスケアの再確認

日本での展開

ヘルスプロモーションの考え方は、国民健康づくり運動である「健康日本21」の基本理念に取り入れられている。

POINT

・ヘルスプロモーション=オタワ憲章(1986年)で提唱、バンコク憲章(2005年)で健康の決定要因を加えて再定義 ・定義:人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス ・3戦略:唱道・能力の付与・調停 ・5活動領域:健康的な公共政策、支援的環境、地域活動、個人技術、ヘルスサービスの方向転換 ・アルマ・アタ宣言=プライマリヘルスケア、ヘルシンキ宣言=医学研究倫理、ジュネーブ宣言=医師の倫理、ジュネーブ条約=戦争犠牲者の保護

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。