筋層に潜り込んだ内膜―子宮腺筋症の症状を「3つの箱」で整理する
第110回医師国家試験 A問題 第49問
国試問題にチャレンジ
37歳の女性。1回経妊0回経産婦。不正性器出血を主訴に来院した。内診で子宮は小児頭大,付属器と子宮傍組織とに異常を認めない。子宮頸部と内膜の細胞診で異常を認めない。骨盤部MRIのT2強調矢状断像を別に示す。 この患者の子宮体部に認められる病変と関連しないのはどれか。

- a.頻尿
- b.不妊
- c.月経痛
- d.過多月経
- e.帯下増加
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
子宮腺筋症は、子宮内膜に似た組織が筋層内に入り込んで増える疾患で、MRIのT2強調像では境界不明瞭な筋層の低信号域に点状の高信号が散在し、junctional zoneの肥厚を伴います。症状は、月経痛と過多月経(鉄欠乏性貧血)という月経関連症状、腫大した子宮による頻尿・便秘などの圧迫症状、そして不妊に整理できます。帯下増加は腟炎や子宮頸管炎など腟・頸管の病変で起こる症状であり、筋層の病変である子宮腺筋症とは関連しません。境界明瞭な低信号腫瘤なら子宮筋腫で核出術が可能ですが、腺筋症は境界不明瞭なため根治には子宮全摘術を要する点も重要な違いです。症状を発生部位と機序から考える習慣は、婦人科疾患の鑑別全般に役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・37歳、1回経妊0回経産(妊娠したことは1回あるが出産には至っていない)の女性で、不正性器出血を主訴に受診した。 ・内診で子宮は小児頭大に腫れている。付属器(卵巣・卵管)と子宮傍組織には異常がなく、子宮そのものの病変が考えられる。 ・子宮頸部と内膜の細胞診はともに異常なしで、子宮頸癌や子宮体癌(子宮内膜癌)などの悪性腫瘍は考えにくい。 ・骨盤部MRIのT2強調矢状断像では、子宮体部の筋層(主に後壁側)がびまん性に厚くなり、境界のはっきりしない低信号域の中に点状の高信号が散在している。
診断へのプロセス
子宮筋層から生じて子宮を腫大させる病変として、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮肉腫が鑑別に挙がる。 ・子宮筋腫:T2強調像で境界明瞭な類円形の低信号腫瘤として描出され、周囲の筋層との境目がはっきりしている。 ・子宮腺筋症:筋層内に入り込んだ子宮内膜様組織のため、境界不明瞭な低信号域の中に点状の高信号(異所性の内膜腺や小さな出血)が散在する。 ・子宮肉腫:内部が不均一で、出血や壊死を反映して不整な信号を示すことが多い。 本例の画像は境界不明瞭な筋層の肥厚と点状の高信号を示し、子宮腺筋症と診断できる。
設問の考え方
本問は、子宮腺筋症で起こりうる症状を考え、関連しないものを一つ選ぶ問題である。子宮腺筋症の症状は、①月経に伴う症状(月経痛、過多月経)、②子宮の腫大による周りの臓器の圧迫症状(頻尿など)、③妊娠への影響(不妊)に整理できる。この枠組みに入らないものが正解となる。
選択肢考察
- ×a. 頻尿
関連する。子宮腺筋症で子宮が小児頭大まで大きくなると、子宮の前方にある膀胱が圧迫されて膀胱の容量が減り、頻尿が起こりうる。腫大した子宮による圧迫症状として、ほかに便秘や腰痛もある。
- ×b. 不妊
関連する。子宮腺筋症では子宮の形が変わり、子宮筋層の動きの異常や子宮内膜の環境の変化(慢性の炎症など)により、受精卵が着床しにくくなる。不妊の原因の一つであり、流産や早産のリスクを高めることも知られている。本例も出産歴がない。
- ×c. 月経痛
関連する。筋層内の内膜様組織も月経周期に合わせて増殖と出血を繰り返すため、筋層内の出血・炎症やプロスタグランジンの産生により強い子宮収縮と痛みが起こる。月経痛(月経困難症)は子宮腺筋症の最も代表的な症状で、年々強くなる傾向がある。
- ×d. 過多月経
関連する。子宮が大きくなると子宮内腔が広がって内膜の面積が増え、また厚くなった筋層は十分に収縮できないため止血が悪くなる。その結果、月経の量が増え(過多月経)、鉄欠乏性貧血の原因となる。月経痛と並ぶ主な症状である。
- ○e. 帯下増加
関連しない。帯下(おりもの)は腟や子宮頸管からの分泌物であり、その増加は腟炎(カンジダ、トリコモナス、細菌性腟症など)、子宮頸管炎(クラミジア、淋菌など)、子宮頸部の腫瘍、子宮内膜炎などで起こる。子宮体部の筋層にできる子宮腺筋症は腟や頸管に変化を起こさないため、帯下増加の原因にはならない。
子宮腺筋症の概要
・子宮内膜に似た組織が子宮筋層の中に入り込んで増える疾患である。月経のたびに筋層内で出血と炎症が起こり、周りの平滑筋が厚くなって子宮がびまん性に大きくなる。 ・30〜40歳代の経産婦に多いとされてきたが、近年は未産婦や若年者での診断も増えている。子宮内膜症や子宮筋腫を合併することが多い。 ・エストロゲンに依存して進むため、閉経後には症状が軽くなる。
症状
・月経痛(月経困難症)、過多月経とそれに伴う鉄欠乏性貧血が主な症状である。 ・ほかに慢性の骨盤痛、性交痛、子宮の腫大による頻尿・便秘などの圧迫症状、不妊がある。
検査
・内診では、全体に硬く大きくなった子宮を触れる(子宮筋腫のような結節状の凹凸は乏しい)。 ・経腟超音波:筋層が非対称に厚くなり、内部の不均一なエコーや小さな嚢胞がみられる。 ・MRIのT2強調像:子宮内膜と筋層の境目にある低信号の層(junctional zone)が厚くなり(12 mm以上が目安)、境界不明瞭な低信号域の中に点状の高信号が散在する。子宮筋腫との区別に最も役立つ検査である。 ・血清CA125が高くなることがある。
子宮筋腫との違い
・子宮筋腫:境界明瞭な結節を作るため、核出術(筋腫だけをくり抜く手術)が可能である。 ・子宮腺筋症:周りの筋層との境界がはっきりしないため病変だけを取り除くことが難しく、根治治療は子宮全摘術となる。
治療
・薬物療法:鎮痛薬(NSAIDs)、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、ジエノゲスト(黄体ホルモン製剤)、GnRHアゴニスト/アンタゴニスト、レボノルゲストレル放出子宮内システムなど。 ・手術:妊娠を望まない場合は子宮全摘術、妊娠を望む場合は病巣を切除する子宮温存手術が選ばれることがある。
POINT
・子宮腺筋症=子宮内膜様組織が筋層内で増える疾患で、子宮はびまん性に腫大する。 ・主な症状は月経痛と過多月経(貧血)。ほかに不妊、腫大した子宮による頻尿・便秘などの圧迫症状。 ・帯下増加は腟炎・子宮頸管炎など、腟や頸管の病変で起こる症状であり、子宮腺筋症とは関連しない。 ・MRIのT2強調像で、境界不明瞭な筋層の低信号域と点状の高信号、junctional zoneの肥厚がみられれば子宮腺筋症を考える。境界明瞭な低信号腫瘤なら子宮筋腫である。
