「治ったはず」のウイルスが目を覚ます―抗癌化学療法とB型肝炎再活性化
第110回医師国家試験 A問題 第4問
国試問題にチャレンジ
抗癌化学療法により再活性化をきたす肝炎ウイルスはどれか。
- a.A 型
- b.B 型
- c.C 型
- d.D 型
- e.E 型
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
抗癌化学療法や免疫抑制療法で再活性化をきたす肝炎ウイルスはB型です。B型肝炎ウイルスはDNAウイルスで、肝細胞の核内にcccDNAという安定した鋳型を残すため、HBs抗原陽性のキャリアだけでなく、HBs抗原陰性でHBc抗体やHBs抗体が陽性の既往感染者でも再増殖しえます(de novo B型肝炎)。A型・E型は急性で終わるRNAウイルス、C型は持続感染するもののcccDNAのような潜伏の仕組みをもたず、D型はB型に依存する欠損ウイルスであり、いずれも再活性化の主役ではありません。リツキシマブ併用化学療法、ステロイド、造血幹細胞移植などは特にハイリスクで、治療前のHBs抗原・HBc抗体・HBs抗体のスクリーニングと、核酸アナログによる予防やHBV-DNAモニタリングが求められます。「持続感染」と「潜伏・再活性化」を区別して理解することは、あらゆる診療科で免疫抑制治療を安全に行うための基本になります。
解答・解説
正解はbです
問われていること
抗癌化学療法などで免疫が抑えられたときに「再活性化」を起こす肝炎ウイルスを選ぶ問題である。
考え方
再活性化とは、いったん免疫によって抑え込まれていたウイルスが、宿主の免疫低下をきっかけに再び増殖し始める現象である。再活性化が起こるためには、ウイルスが体内(肝細胞内)に長期間潜み続ける仕組みをもっていることが必要となる。 B型肝炎ウイルス(HBV)はDNAウイルスであり、感染した肝細胞の核内にcccDNA(covalently closed circular DNA:閉環状二本鎖DNA)という安定した鋳型を形成する。このcccDNAは、血液検査上「治癒した」と考えられる既往感染者(HBs抗原陰性でHBc抗体またはHBs抗体陽性)でも肝細胞内に残存している。そのため、化学療法、副腎皮質ステロイド、リツキシマブ(抗CD20抗体)などの免疫抑制作用をもつ治療を行うと、ウイルスが再増殖して肝炎を起こすことがある。これをHBV再活性化という。 A型・E型は急性感染で終わるRNAウイルスで、肝細胞内に潜伏する仕組みをもたない。C型は持続感染を起こすが、cccDNAのような潜伏型の鋳型をもたず、免疫抑制下での「再活性化」は臨床上問題となる概念として確立していない。D型はHBVの存在を前提とする欠損ウイルスである。 したがって、正解はB型である。
選択肢考察
- ×a. A 型
A型肝炎ウイルス(HAV)は経口感染するRNAウイルスで、急性肝炎を起こした後は免疫によって完全に排除され、慢性化も潜伏もしない。治癒後は終生免疫が得られるため、化学療法による再活性化は起こらない。
- ○b. B 型
HBVは肝細胞核内にcccDNAを形成して長期に残存するため、HBs抗原陽性のキャリアだけでなく、HBs抗原陰性の既往感染者でも、化学療法や免疫抑制療法により再増殖(再活性化)しうる。再活性化による肝炎は重症化・劇症化しやすく、既往感染者からの再活性化(de novo B型肝炎)は特に致死率が高いことが知られている。
- ×c. C 型
C型肝炎ウイルス(HCV)は持続感染して慢性肝炎・肝硬変・肝細胞癌の原因となるRNAウイルスであるが、HBVのcccDNAのような核内に潜む安定な鋳型をもたない。免疫抑制下でウイルス量が増加する報告はあるものの、HBVのように治癒状態から再増殖して重症肝炎を起こす「再活性化」として問題になることはなく、本問の答えには当たらない。
- ×d. D 型
D型肝炎ウイルス(HDV)は増殖にHBVのHBs抗原を必要とする欠損RNAウイルスで、HBVとの同時感染または重複感染でしか成立しない。単独で潜伏・再活性化する性質はなく、わが国ではきわめてまれである。化学療法で再活性化をきたすウイルスとして問われるものではない。
- ×e. E 型
E型肝炎ウイルス(HEV)は豚・イノシシ・シカの肉の生食などで経口感染するRNAウイルスで、通常は急性肝炎で終わる。臓器移植後などの免疫不全者では慢性化することがあるが、これは新たな感染が持続する現象であり、潜伏していたウイルスの再活性化ではない。
HBV再活性化の対象者
・HBs抗原陽性者(キャリア):もともとウイルスが増殖可能な状態にあり、免疫抑制で肝炎が増悪しやすい。 ・HBs抗原陰性で、HBc抗体またはHBs抗体が陽性の既往感染者:血液上は治癒していても肝細胞内にcccDNAが残存しており、再活性化しうる。これによる肝炎をde novo B型肝炎と呼び、劇症化しやすく予後不良である。
再活性化のリスクが高い治療
・造血幹細胞移植 ・リツキシマブ(抗CD20抗体)を含む化学療法(悪性リンパ腫など) ・副腎皮質ステロイドを含む化学療法 ・関節リウマチなどに対する免疫抑制薬や生物学的製剤(TNF阻害薬など)
予防の考え方(日本肝臓学会のガイドラインに基づく流れ)
1. 免疫抑制・化学療法の開始前に全例でHBs抗原を測定する。 2. HBs抗原陽性なら、核酸アナログ(エンテカビルなど)を予防的に投与する。 3. HBs抗原陰性ならHBc抗体・HBs抗体を測定し、いずれかが陽性であればHBV-DNA量を測定する。 4. HBV-DNAが一定値以上なら核酸アナログを投与し、未満であれば治療中・治療後にHBV-DNAを定期的にモニタリングして、陽性化した時点で核酸アナログを開始する。 再活性化による肝炎は発症すると重症化しやすく、原疾患の治療継続も困難になるため、発症させないことが最も重要である。
肝炎ウイルスの整理
・A型:RNA、経口感染、急性のみ ・B型:DNA、血液・体液感染、急性・慢性、潜伏と再活性化あり ・C型:RNA、血液感染、慢性化しやすい ・D型:RNA、HBV存在下でのみ増殖 ・E型:RNA、経口感染(獣肉生食など)、通常は急性、妊婦で重症化しやすい
POINT
・抗癌化学療法や免疫抑制療法で再活性化する肝炎ウイルスはB型である。 ・HBVは肝細胞核内のcccDNAとして残存するため、HBs抗原陰性の既往感染者(HBc抗体・HBs抗体陽性)でも再活性化しうる(de novo B型肝炎)。 ・再活性化による肝炎は重症化・劇症化しやすく、治療前のHBs抗原・HBc抗体・HBs抗体のスクリーニングと、核酸アナログによる予防・HBV-DNAモニタリングが重要である。 ・リツキシマブ併用療法や造血幹細胞移植は特にハイリスクである。
