肝転移でも「切れば治る」がある―大腸癌だけが特別な理由は門脈にあり
第110回医師国家試験 A問題 第3問
国試問題にチャレンジ
転移性肝癌において肝切除術により予後の改善が最も期待できるのはどれか。
- a.乳癌
- b.肺癌
- c.胃癌
- d.膵癌
- e.大腸癌
対話形式の解説
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医学生まとめ
転移性肝癌に対する肝切除で予後改善が最も期待できるのは大腸癌です。大腸の静脈血は門脈を経てまず肝臓に流入するため、肝臓が最初で唯一の遠隔転移臓器となることが多く、肝転移を完全切除できれば切除後5年生存率はおおむね35〜50%前後に達します。切除不能例でも分子標的薬を含む化学療法で縮小させて切除に持ち込むconversion surgeryがあり、同時性・異時性のいずれも切除の対象となりえます。一方、乳癌・肺癌は大循環を介して全身に広がり、胃癌は腹膜播種、膵癌は高い悪性度により肝転移が全身病の一部とみなされ、全身薬物療法が中心です。「転移が局所にとどまる時期があるか」という視点は、転移巣の外科治療の適応を考えるうえでの基本となります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
転移性肝癌(他臓器の癌が肝臓に転移したもの)に対して肝切除を行ったとき、生存期間の延長がもっとも期待できる原発巣はどれかを問う問題である。
考え方
肝転移を外科的に切除して予後が改善するためには、「肝転移が全身に広がった病気の一部分にすぎない」のではなく、「肝臓にとどまっている時期がある」ことが前提となる。 多くの癌は血行性に全身へ広がるため、肝転移が見つかった時点で肺・骨・腹膜などにも微小転移が存在すると考えられ、肝臓だけを切除しても予後は変わらない。 一方、大腸癌は腸管からの静脈血が門脈を通ってまず肝臓に流れ込むため、肝臓が最初の、そしてしばしば唯一の遠隔転移臓器となる。このため、肝転移を完全に切除できれば治癒や長期生存が得られる症例が少なくない。大腸癌肝転移の切除後5年生存率はおおむね35〜50%前後と報告されており、近年は分子標的薬を含む化学療法と組み合わせることで、初診時に切除不能でも腫瘍が縮小して切除可能となる例(conversion surgery)もある。 したがって、肝切除による予後改善がもっとも期待できるのは大腸癌である。
選択肢考察
- ×a. 乳癌
乳癌は早期から血行性に全身へ散布される性質をもち、肝転移は骨・肺・脳などを含む全身転移の一部として現れることが多い。肝臓だけを切除しても他部位の病変が残るため、予後の改善は期待しにくい。治療の主体は内分泌療法、抗HER2療法、化学療法などの全身薬物療法である。
- ×b. 肺癌
肺癌の肝転移は、肺静脈から大循環に入った腫瘍細胞による血行性転移であり、脳・骨・副腎など他臓器への転移を伴うことが多い全身病の一表現である。肝切除による生存延長は期待できず、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、化学療法などの全身治療が選択される。
- ×c. 胃癌
胃癌も門脈を介して肝転移をきたすが、肝転移と同時に腹膜播種や広範なリンパ節転移を伴うことが多く、肝臓に限局する例は少ない。ごく限られた条件(単発・少数で他の非治癒因子がない等)では切除が検討されることもあるが、一般的には肝転移例は化学療法の対象であり、肝切除による予後改善の効果は大腸癌に比べて明らかに劣る。
- ×d. 膵癌
膵癌(浸潤性膵管癌)は悪性度が非常に高く、肝転移がある時点で腹膜播種や他の微小転移が広く存在すると考えられる。肝転移を伴う膵癌は切除不能(遠隔転移を有するステージⅣ)として扱われ、肝切除は予後を改善しないため、全身化学療法が標準治療である。
- ○e. 大腸癌
大腸の静脈血は上・下腸間膜静脈から門脈を経て肝臓に流入するため、肝臓は大腸癌の最初の遠隔転移臓器となりやすく、肝転移が唯一の遠隔転移である症例も多い。原発巣と肝転移巣をともに完全切除(R0切除)できれば長期生存や治癒が得られ、切除後の5年生存率は35〜50%前後に達する。切除不能例に対しても化学療法で縮小させてから切除する戦略があり、肝切除による予後改善がもっとも期待できる原発巣である。
大腸癌肝転移の治療方針
大腸癌治療ガイドラインでは、切除可能な肝転移には肝切除が推奨されている。切除の適応として、おおむね以下の条件が挙げられる。 ・耐術可能である ・原発巣が制御されている、または制御可能である ・肝転移巣を遺残なく切除できる ・肝外転移がない、または制御可能である ・十分な残肝機能(残肝容積)が確保できる 切除できない場合は、殺細胞性抗癌薬(フルオロウラシル系、オキサリプラチン、イリノテカンなど)に分子標的薬(抗VEGF抗体、抗EGFR抗体など)を併用する全身化学療法が行われ、腫瘍縮小が得られれば切除(conversion surgery)を目指す。肺転移についても、切除可能であれば同様に切除が考慮される。
同時性と異時性
原発巣の診断時に肝転移が見つかるものを同時性肝転移、原発巣切除後に肝転移が出現するものを異時性肝転移という。大腸癌ではどちらも切除の対象になりうる。
肝切除が考慮されるその他の転移性肝腫瘍
大腸癌以外では、神経内分泌腫瘍(NET)の肝転移や消化管間質腫瘍(GIST)の肝転移なども、症例によって切除が検討される。一方、乳癌・肺癌・膵癌などの肝転移は全身病の一部とみなされ、薬物療法が中心となる。
転移経路の整理
消化管(胃・小腸・大腸)や膵臓、脾臓の静脈血は門脈に集まり肝臓へ流入するため、これらの臓器の癌は肝転移をきたしやすい。肺・乳腺などの癌は大循環を経由するため、肝臓以外の臓器にも同時に転移しやすい。
POINT
・肝転移の切除で予後改善がもっとも期待できるのは大腸癌である。 ・大腸癌は門脈を介して肝臓に最初に転移しやすく、肝臓に限局した転移を完全切除できれば長期生存が得られる(切除後5年生存率はおおむね35〜50%前後)。 ・切除不能例でも化学療法で縮小させ、切除可能にする戦略(conversion surgery)がある。 ・乳癌、肺癌、膵癌の肝転移は全身病の一部とみなされ、全身薬物療法が中心である。
