StudyMed医師国家試験

血痰も空洞も塗抹陽性も決め手にならない―結核とNTMを分ける「結核菌だけの抗原」

第110回医師国家試験 A問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第110回 A問題 第2問

非結核性肺抗酸菌症では頻度が低く,肺結核症で頻度が高い所見はどれか。

  1. a.血痰
  2. b.CRP上昇
  3. c.空洞性肺結節
  4. d.喀痰塗抹Ziehl-Neelsen染色陽性
  5. e.全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉陽性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肺結核症と非結核性肺抗酸菌症、いわゆるNTM症をどう見分けるかという問題だ。どちらも抗酸菌による慢性の肺感染症で、症状も画像もよく似ている。着眼点は「抗酸菌感染症として共通する所見」と「結核菌にしかない所見」を区別できるかどうかだよ。
医学生医学生
そもそも、なぜ両者を見分けることがそんなに大事なんでしょうか。どちらも抗酸菌なら、治療も似ている気がします。
ドクタードクター
大事な問いだね。結核はヒトからヒトへ空気感染するから、感染症法の二類感染症として届出が必要で、排菌があれば入院勧告、接触者健診も行う。一方NTMは土壌や水などの環境にいる菌で、原則ヒトからヒトへはうつらない。治療薬や期間も違う。だから見分けを誤ると、公衆衛生上も治療上も影響が大きいんだ。
医学生医学生
なるほど。では、まず血痰はどうでしょう。結核といえば喀血のイメージが強いです。
ドクタードクター
イメージ通り結核でも出るけれど、NTM症でも出る。空洞の壁や拡張した気管支の壁の血管が破綻して起こるからね。特にMAC症の結節・気管支拡張型では、気管支拡張に伴う血痰が比較的よくみられる。血痰の有無では区別できないんだ。
医学生医学生
CRPは炎症マーカーなので、どちらでも上がりそうですね。
ドクタードクター
その通り。CRPは原因を問わず炎症で肝臓が作る急性期蛋白だから、病変が広く活動性が高ければどちらでも上がり、軽症ならどちらでも正常のことがある。鑑別には役立たないね。
医学生医学生
空洞性病変は、病理の講義で乾酪壊死が気管支に排出されてできると習いました。これは結核に特徴的ではないんですか。
ドクタードクター
結核では上葉のS1、S2やS6の空洞が典型的だけど、NTM症にも空洞をつくる型がある。MAC症の線維空洞型は上葉に空洞をつくって結核にそっくりだし、M. kansasii症でも薄壁の空洞がよくみられる。空洞があるだけで結核と決めてはいけないよ。
医学生医学生
じゃあ喀痰のZiehl-Neelsen染色で赤い桿菌が見えたら、結核と言っていいですか。微生物学実習で染めたのを思い出しました。
ドクタードクター
そこがこの問題の一番の落とし穴だ。Ziehl-Neelsen染色が見ているのは「抗酸性」という性質で、これは結核菌にもNTMにも共通している。陽性なら「痰に抗酸菌が出ている」ことはわかるけれど、どの菌種かはわからない。蛍光染色も同じだね。
医学生医学生
塗抹は菌種まではわからない……。そうなると、残るのはIGRAですね。
ドクタードクター
正解。IGRAは患者の血液を結核菌の特異抗原、ESAT-6やCFP-10で刺激して、感作されたTリンパ球が出すインターフェロンγを測る検査だ。これらの抗原はBCGワクチン株にも、MACなど大部分のNTMにもない。だから結核菌の感染で陽性になり、MAC症では基本的に陽性にならない。
医学生医学生
ツベルクリン反応だとBCG接種で陽性になってしまうから、日本ではIGRAが重宝されるんですね。
ドクタードクター
そう、ツベルクリン反応は特異度が低いのが弱点で、多くのNTM感染でも陽性になりうる。ただしIGRAにも限界がある。潜在性結核感染でも陽性になるので、活動性結核か既感染かは区別できない。それに、M. kansasiiやM. marinum、M. szulgaiのように同じ特異抗原をもつ一部のNTMでは陽性になりうる。
医学生医学生
じゃあIGRA陽性でも、それだけで活動性の肺結核と確定はできないんですね。最終的にはどうやって決めるんですか。
ドクタードクター
菌種の確定は培養による同定と、結核菌群やMACを特異的に検出する核酸増幅法、PCRやLAMP法で行う。培養は数週間かかるけれど薬剤感受性もわかる。核酸増幅法は短時間で結果が出るから、塗抹陽性のときにまず結核かどうかを判断するのに役立つんだ。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、塗抹陽性の患者さんが出たときに、PCRの結果が出るまで個室管理になっていたのを見ました。
ドクタードクター
まさに臨床の流れそのものだね。もう一つ、患者背景も参考になる。MAC症の結節・気管支拡張型は基礎疾患のない中高年の痩せ型女性に多く、中葉・舌区の気管支拡張と小結節が特徴だ。MAC症の補助診断には血清の抗GPLコアIgA抗体も使われる。それから高齢者や免疫不全者では、結核でもIGRAが偽陰性や判定不可になることがあるので、陰性だからといって結核を否定しきらないことも大切だよ。
医学生医学生
共通する所見で安心せず、結核菌に特異的な検査と菌の同定で詰めていく、ということですね。

まとめ

肺結核症と非結核性肺抗酸菌症(NTM症)は症状・炎症反応・画像がよく似ており、血痰、CRP上昇、空洞性病変、喀痰塗抹での抗酸菌陽性はいずれも両者に共通するため鑑別には使えません。IGRAは結核菌特異抗原(ESAT-6、CFP-10)に対するT細胞の反応をみる検査で、BCG接種や大部分のNTM(MACを含む)では陽性にならず、結核菌感染で陽性となります。ただし潜在性結核感染でも陽性となり活動性かどうかは区別できず、M. kansasiiなど一部のNTMでは陽性になりうること、高齢者や免疫不全者では偽陰性がありうることに注意が必要です。菌種の確定は培養同定と核酸増幅法で行います。結核は空気感染し届出や隔離が必要な疾患であるため、両者を正しく見分ける考え方は公衆衛生と臨床の両面で欠かせません。

解答・解説

正解はeです

肺結核症と非結核性肺抗酸菌症(NTM症:nontuberculous mycobacteriosis)は、どちらも抗酸菌(細胞壁に脂質が多く、染色後に酸で脱色されにくい細菌群)による慢性の肺感染症である。症状(咳、痰、血痰、発熱、体重減少)、炎症反応、画像所見(結節、空洞、気管支拡張、散布影)は互いによく似ており、それだけで両者を見分けることは難しい。 両者の鑑別が重要なのは、肺結核はヒトからヒトへ空気感染し、感染症法に基づく届出・隔離・接触者健診が必要になるのに対し、NTM症は原則としてヒトからヒトへは感染しないためである。治療薬や治療期間も異なる。 本問では、「抗酸菌感染症として両者に共通する所見」と「結核菌に特異的な所見」を区別できるかが問われている。結核菌の特異抗原(ESAT-6、CFP-10など)に対する免疫反応をみるインターフェロンγ遊離試験(IGRA)は、ほとんどのNTM(MAC:Mycobacterium avium complexを含む)では陽性にならず、結核菌の感染で陽性になる。そのため、本問の条件を満たす。最終的な鑑別は、培養や核酸増幅法(PCRなど)で菌種を同定して行う。

選択肢考察

  1. ×a.  血痰

    両者でみられる。肺結核でもNTM症でも、空洞の壁や拡張した気管支の壁で血管が破綻し、血痰や喀血が起こる。特にMAC症の結節・気管支拡張型では、気管支拡張に伴う血痰が比較的多い。血痰の有無で両者を区別することはできない。

  2. ×b.  CRP上昇

    両者でみられる。CRP(C反応性蛋白)は、炎症に反応して肝臓で作られる急性期蛋白で、原因を問わず炎症があれば上昇する。肺結核、NTM症のいずれでも、病変が広がり活動性が高ければ上昇する。逆に、軽症例ではどちらでも正常のことがある。非特異的な炎症マーカーであり、鑑別には役立たない。

  3. ×c.  空洞性肺結節

    両者でみられる。空洞は、乾酪壊死(チーズ様の凝固壊死)を起こした病巣が気管支とつながり、壊死物質が排出されてできる。肺結核では上葉(S1、S2、S6)の空洞が典型的である。NTM症でも、MAC症の線維空洞型(上葉に空洞をつくり、結核に似る型)や、M. kansasii症で薄壁の空洞がしばしばみられる。空洞の存在だけで結核と決めることはできない。

  4. ×d.  喀痰塗抹Ziehl-Neelsen染色陽性

    両者でみられる。Ziehl-Neelsen染色は、石炭酸フクシンで加温染色したのち酸アルコールで脱色し、抗酸菌だけを赤く染め出す方法である。抗酸性という性質は結核菌とNTMに共通するため、陽性であれば「抗酸菌が痰の中に出ている」ことはわかるが、菌種は区別できない。蛍光染色(オーラミン染色など)も同様である。菌種は、培養による同定や、結核菌群・MACを特異的に検出する核酸増幅法で決める。

  5. ○e.  全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉陽性

    これが正解である。IGRA(interferon-gamma release assay)は、患者の血液を結核菌の特異抗原(ESAT-6、CFP-10など)で刺激し、感作されたTリンパ球が放出するインターフェロンγを測る検査である。日本ではQFT(クォンティフェロン)とT-SPOTが使われている。これらの抗原は、BCGワクチン株とMACなど大部分のNTMにはないため、BCG接種やMAC症の影響を受けず、結核菌感染で陽性になる。ツベルクリン反応がBCG接種で陽性になり特異度が低いのとは対照的である。ただし、IGRAは潜在性結核感染症でも陽性になり、活動性結核と既感染は区別できない。また、特異抗原をもつ一部のNTM(M. kansasii、M. marinum、M. szulgaiなど)の感染では陽性になりうる。高齢者や免疫不全者では、結核でも偽陰性・判定不可になることがある。

肺結核症と非結核性肺抗酸菌症の比較

・病原体:結核は結核菌群(主にMycobacterium tuberculosis)。NTM症は、日本ではMAC(M. avium、M. intracellulare)が約9割を占め、次いでM. kansasii、M. abscessusなどが多い。 ・感染経路:結核はヒトからヒトへの空気感染(飛沫核感染)。NTMは土壌・水系などの環境に住む菌で、原則としてヒトからヒトへは感染しない。 ・好発:結核は高齢者、免疫低下者、結核高まん延国の出身者に多い。MAC症の結節・気管支拡張型は、基礎疾患のない中高年の痩せ型女性に多い。 ・画像:結核は上葉(S1、S2、S6)の空洞・散布影・tree-in-bud(小葉中心性の分岐状粒状影)が典型的である。MAC症は中葉・舌区の気管支拡張と小結節(結節・気管支拡張型)、または上葉空洞(線維空洞型)を示す。 ・届出・隔離:結核は感染症法の二類感染症で、直ちに届出が必要である。塗抹陽性など排菌があれば入院勧告の対象となる。NTM症は届出・隔離の対象ではない。 ・治療:結核はイソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール(またはストレプトマイシン)の4剤で2か月、その後イソニアジドとリファンピシンで4か月が標準である。MAC症は、クラリスロマイシン(またはアジスロマイシン)、リファンピシン、エタンブトールの3剤を、菌陰性化後も長期に続ける。

抗酸菌の検査

・塗抹検査(Ziehl-Neelsen染色、蛍光染色):迅速だが菌種は区別できない。 ・培養検査(小川培地、液体培地):菌の同定と薬剤感受性検査ができるが、数週間かかる。 ・核酸増幅法(PCR、LAMP法など):結核菌群・MACを短時間で特異的に検出できる。 ・免疫学的検査:IGRAは結核菌特異抗原への反応をみる。ツベルクリン反応はBCG接種や多くのNTM感染で陽性になりうる。MAC症の補助診断には、血清抗GPL(glycopeptidolipid)コア IgA抗体が用いられる。

POINT

・血痰、CRP上昇、空洞、塗抹での抗酸菌陽性は、肺結核とNTM症に共通する所見であり、鑑別には使えない。 ・IGRAは結核菌特異抗原(ESAT-6、CFP-10)を用いるため、BCG接種やMAC症の影響を受けず、結核菌感染で陽性になる。 ・IGRAは潜在性結核感染でも陽性になり、活動性結核かどうかは区別できない。M. kansasiiなど一部のNTMでは陽性になりうる。 ・菌種の確定は培養同定と核酸増幅法(PCRなど)で行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。