針先をリアルタイムで追え―肝細胞癌ラジオ波焼灼術を支える「目」は何か
第118回医師国家試験 F問題 第20問
国試問題にチャレンジ
肝細胞癌に対するラジオ波焼灼術の施行時に用いられるのはどれか。
- a.腹部MRI
- b.腹部超音波
- c.超音波内視鏡
- d.腹部血管造影
- e.上部消化管内視鏡
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肝細胞癌に対するラジオ波焼灼術(RFA)は、電極針を腫瘍に刺して高周波電流で凝固壊死させる治療で、針先と周囲の血管・胆管・消化管をリアルタイムに確認できる腹部超音波のガイド下に経皮的に行います。描出困難な病変には造影超音波やCT・MRIとのフュージョンイメージングを補助的に用い、マイクロ波焼灼療法やエタノール注入療法も同様に超音波ガイド下で行います。一方、腹部血管造影はTACEや肝動注化学療法、上部消化管内視鏡は静脈瘤の評価・治療、MRIは診断や治療効果判定、超音波内視鏡は膵胆道や消化管壁の精査に用いられます。焼灼療法は肝予備能が保たれた3個以下・3cm以下の腫瘍がよい適応で、大血管近傍ではヒートシンク効果による焼き残しに注意が必要です。治療ごとに「施行中に何を見る必要があるか」を考えることで、各モダリティの役割を体系的に理解できます。
解答・解説
正解はbです
テーマ
肝細胞癌に対する局所療法の一つであるラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation:RFA)を、どの画像モダリティで誘導(ガイド)しながら行うかが問われている。
RFAの手技の概要
RFAは、体表から細い電極針を肝臓内の腫瘍に刺し、針先から約460kHz前後の高周波電流を流して周囲組織にジュール熱を発生させ、腫瘍を凝固壊死させる治療である。腫瘍の中心に正確に針を置き、腫瘍とその周囲数mmの安全域(セーフティマージン)まで焼き切ることが目標となる。 そのため、施行中には次の条件を満たす画像誘導が必要である。 ・針の刺入経路と針先の位置をリアルタイム(実時間)で確認できる ・血管・胆管・胆嚢・消化管・横隔膜など、損傷を避けるべき周囲構造を見ながら穿刺できる ・ベッドサイドや処置室で手軽に使え、放射線被曝がない これらを最もよく満たすのが体表からの腹部超音波(経皮的超音波)であり、RFAは原則として超音波ガイド下に経皮的に行われる。焼灼中には組織の加熱によって発生する微小な気泡が高エコー域として描出されるため、焼灼範囲のおおまかな目安にもなる。
考え方
選択肢の各検査が「どの治療・処置の際に使われるか」を整理すれば、RFAに対応するのは腹部超音波であると判断できる。血管造影はTACE(肝動脈化学塞栓療法)、上部消化管内視鏡は食道・胃静脈瘤治療、MRIは診断目的、超音波内視鏡は膵胆道・消化管壁の診断・処置と結びつけて覚えるとよい。
選択肢考察
- ×a. 腹部MRI
誤り。造影MRI、特にEOB・プリモビスト(ガドキセト酸ナトリウム)を用いた肝特異性造影MRIは、肝細胞癌の存在診断・質的診断や、治療前の病変数の把握、治療後の効果判定に非常に有用である。しかし、撮像に時間がかかりリアルタイムに穿刺を誘導するのに向かないこと、強い磁場のもとでは通常の金属製電極針や高周波発生装置を安全に使用できないことから、RFAの施行時に用いる誘導手段ではない。MRIは「治療前後の診断・評価」で使うモダリティである。
- ○b. 腹部超音波
正しい。RFAは経皮的に腹部超音波で腫瘍を描出し、プローブに付けた穿刺ガイドに沿って電極針を腫瘍内に刺入して焼灼する。超音波はリアルタイムに針先と腫瘍・周囲の血管や臓器との位置関係を観察でき、被曝がなく簡便である。焼灼中に生じる高エコー域で焼灼範囲の目安も得られる。通常のBモードで見えにくい腫瘍には、超音波造影剤(ペルフルブタン:ソナゾイド)を用いた造影超音波や、CT・MRI画像を超音波画像に同期させるフュージョンイメージング(融合画像)が補助として用いられるが、いずれも超音波ガイドが基本である。マイクロ波焼灼療法(MWA)や経皮的エタノール注入療法(PEIT)も同様に超音波ガイド下で行う。
- ×c. 超音波内視鏡
誤り。超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography:EUS)は、内視鏡の先端に超音波プローブが付いたもので、消化管の内腔側から膵臓・胆道や消化管壁を高い解像度で観察する。膵腫瘍や胆道疾患の精査、粘膜下腫瘍の評価、超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)による組織採取、膵仮性嚢胞のドレナージなどに用いられる。肝細胞癌のRFAは体表からの経皮的アプローチが標準であり、EUSは用いない。
- ×d. 腹部血管造影
誤り。腹部血管造影は、カテーテルを大腿動脈などから肝動脈まで進めて行う手技で、肝細胞癌では肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization:TACE)、肝動注化学療法(hepatic arterial infusion chemotherapy:HAIC)、腫瘍破裂による腹腔内出血に対する肝動脈塞栓術(TAE)の際に行われる。肝細胞癌が主に肝動脈から栄養されることを利用した治療であり、RFAの誘導には使わない。なお、超音波で描出困難な病変に対してTACEとRFAを組み合わせることはあるが、焼灼そのものの誘導手段は超音波である。
- ×e. 上部消化管内視鏡
誤り。上部消化管内視鏡は食道・胃・十二指腸の観察や治療に用いる。肝硬変・肝細胞癌の診療では、門脈圧亢進症に伴う食道・胃静脈瘤の評価や、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)・内視鏡的硬化療法(EIS)の際に使われる。そのほか早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)などでも用いるが、肝内腫瘍を焼灼するRFAには関係しない。
肝細胞癌の主な治療法と使用する手技・モダリティ
・肝切除:外科手術(開腹または腹腔鏡)。 ・焼灼療法(RFA、マイクロ波焼灼療法〈MWA〉):経皮的に超音波ガイド下で行う。 ・経皮的エタノール注入療法(PEIT):超音波ガイド下に無水エタノールを注入する。現在はRFAが主流。 ・TACE/HAIC:腹部血管造影下にカテーテルで行う。 ・薬物療法:免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ+ベバシズマブ、デュルバルマブ+トレメリムマブなど)や分子標的薬(ソラフェニブ、レンバチニブなど)。 ・肝移植:主にChild-Pugh分類Cで、ミラノ基準(単発5cm以下、または3個以下かつ各3cm以下で、脈管侵襲・肝外転移がない)などを満たす症例が対象。
肝癌診療ガイドラインに基づく治療選択の大枠
肝予備能(Child-Pugh分類A・B)が保たれている場合、 ・腫瘍数1〜3個、腫瘍径3cm以下:肝切除または焼灼療法 ・腫瘍数1〜3個、腫瘍径3cm超:第一選択は肝切除、第二選択は塞栓療法(TACE) ・腫瘍数4個以上:塞栓療法、肝動注化学療法、薬物療法など ・脈管侵襲や肝外転移がある場合(Child-Pugh A):薬物療法が中心 Child-Pugh分類Cでは肝移植(条件を満たす場合)か緩和ケアが基本となる。
RFAの特徴
・低侵襲で入院期間が短く、肝機能への負担が小さい。 ・焼灼範囲は1回あたり直径3cm程度が目安であり、3cm以下の小型病変がよい適応となる。 ・大血管に接する腫瘍では血流による冷却効果(ヒートシンク効果)で焼灼が不十分になりやすい。 ・合併症として出血、肝膿瘍、胆管損傷、消化管穿孔、腫瘍の播種などがある。 ・治療効果は治療後の造影CT・造影MRIで、腫瘍全体に造影効果の消失した焼灼域がセーフティマージンを含めて得られているかで判定する。
POINT
・肝細胞癌のRFAは、経皮的に腹部超音波ガイド下で行う(MWA・PEITも同様)。 ・描出困難例では造影超音波(ソナゾイド)やCT/MRIとのフュージョンイメージングで補助する。 ・腹部血管造影はTACE・HAIC・TAE、上部消化管内視鏡は静脈瘤治療、MRIは診断・効果判定、EUSは膵胆道・消化管壁の精査に用いる。 ・焼灼療法の適応の目安は腫瘍数3個以下かつ腫瘍径3cm以下。
