StudyMed医師国家試験

老いると「増える」ものは何か―硬くなる血管が脈圧を広げるしくみ

第118回医師国家試験 F問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第118回 F問題 第21問

高齢者で増大するのはどれか。

  1. a.骨量
  2. b.脈圧
  3. c.肺活量
  4. d.心拡張能
  5. e.糸球体濾過量

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は加齢に伴う生理機能の変化、いわゆる生理的老化の問題だ。選択肢の多くは年をとると減っていくものだから、「何が例外的に増えるのか」を見抜く視点が大切になる。まずは老化を組織レベルでどう捉えるか、考えてみようか。
医学生医学生
年をとると全体的に細胞が減って、いろいろな機能が落ちていくイメージです。
ドクタードクター
そう、それが一つ目の柱で「実質細胞の減少」だ。ネフロンも肺胞も心筋細胞も減っていく。もう一つの柱が「間質の変化」で、弾性線維が変性・断裂して、代わりに膠原線維が増える。つまり組織が硬くなるんだ。
医学生医学生
病理実習で高齢者の大動脈を見たとき、弾性板がちぎれて線維が増えていると説明されました。
ドクタードクター
まさにそれ。「量や予備能は減り、硬さは増す」と整理すると、加齢で増えるのは硬くなった結果として出てくる指標か、代償や過形成によるもの、と絞り込める。では選択肢を見よう。骨量はどうかな。
医学生医学生
骨量は20〜40歳頃にピークがあって、その後は減っていくはずです。閉経後の女性は特に急に落ちますよね。
ドクタードクター
その通り。エストロゲンが下がると破骨細胞による骨吸収が亢進して、骨粗鬆症や椎体・大腿骨近位部の脆弱性骨折につながる。だから骨量は減少だ。次に肺活量はどう考える?
医学生医学生
肺は弾性線維が減って……肺が膨らみやすくなるなら、肺活量はむしろ増えそうな気もします。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。肺の弾性収縮力が落ちると、息を吐き切る力が弱まり、末梢気道も早めに閉じてしまう。胸郭も肋軟骨の石灰化や呼吸筋力の低下で動きにくくなる。結果として、吸ってから吐き出せる量である肺活量や1秒量は減る。一方で、吐き切っても肺に残る残気量は増えるんだ。
医学生医学生
全肺気量はあまり変わらないまま、肺活量が減って残気量が増える、という対比ですね。
ドクタードクター
そう、ここは試験でもよく問われる。続いて心拡張能。心筋細胞が減って、残った細胞は肥大し、間質は線維化する。左室壁が硬くなるから、拡張期に血液を受け入れる力は落ちるんだ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、駆出率は保たれているのに心不全になる高齢女性の患者さんを担当しました。HFpEFですね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。拡張能が落ちると心房収縮による充満に頼るようになるから、心房細動を合併すると一気に悪化しやすい。最後に糸球体濾過量は?
医学生医学生
糸球体硬化でネフロンが減るので低下します。でも血清クレアチニンはあまり上がらないと聞きました。
ドクタードクター
筋肉量も減るからクレアチニン産生が少なく、見かけ上は正常に見えやすいんだ。だから高齢者に腎排泄型の薬を使うときは、推算GFRやクレアチニンクリアランスで評価して用量を調整する。では残った脈圧はどうだろう。
医学生医学生
消去法では脈圧が正解ですが、なぜ増えるのかをきちんと説明できる自信がありません。
ドクタードクター
大事なところだね。若い人の大動脈は弾性に富み、収縮期に拍出された血液を壁が伸びて受け止め、拡張期には縮んで血液を送り続ける。これがウィンドケッセル機能だ。加齢で大動脈が硬くなるとこの緩衝作用が失われ、収縮期血圧は上がり、拡張期血圧はむしろ下がる。さらに末梢からの反射波が早く戻って収縮期に重なることも収縮期血圧を押し上げる。結果として脈圧が広がるんだ。
医学生医学生
だから高齢者には収縮期血圧だけが高い孤立性収縮期高血圧が多いんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、加齢で増えるものには残気量、機能的残気量、肺胞気-動脈血酸素分圧較差、左室壁厚、前立腺の大きさ、体脂肪率などがある。逆に体内総水分量や圧受容体反射の感度は低下するから、高齢者は脱水や起立性低血圧、薬の副作用を起こしやすい。
医学生医学生
臓器は基本的に萎縮するけれど、心筋の肥大と前立腺の過形成は例外として覚えておきます。
ドクタードクター
いいまとめだ。加齢変化を丸暗記するのではなく、「実質の減少」と「組織の硬化」という2本の軸から理由づけできれば、初めて見る選択肢にも対応できるし、高齢者診療で薬の量を決めたり、転倒や脱水のリスクを予測したりする場面でも役に立つよ。

まとめ

加齢変化の本質は、実質細胞の減少と、弾性線維の減少・膠原線維の増加による組織の硬化の2つに整理できます。大動脈が硬くなるとウィンドケッセル機能が失われ、収縮期血圧が上昇し拡張期血圧が低下するため脈圧は増大し、高齢者には孤立性収縮期高血圧が多くなります。一方、骨量、肺活量、心拡張能、糸球体濾過量はいずれも加齢で低下し、肺では肺活量が減る代わりに残気量が増えるという対比が重要です。高齢者では筋肉量の減少によって血清クレアチニンが腎機能低下を反映しにくく、拡張能低下によるHFpEFや脱水、起立性低血圧も起こりやすくなります。加齢変化をメカニズムから理解することは、高齢者の薬物投与や合併症予防といった日常診療の判断に直結します。

解答・解説

正解はbです

テーマ

加齢に伴う生理機能の変化(生理的老化)についての問題である。

加齢変化の基本的な考え方

加齢による変化は、組織レベルでは次の2つに集約できる。 ・実質細胞の減少:ネフロン、肺胞、心筋細胞、神経細胞、骨芽細胞の働きなどが減る。 ・間質(結合組織)の変化:弾性線維が変性・断裂し、膠原線維(コラーゲン)が増えて組織が硬くなる。 その結果、多くの臓器では「量」や「予備能」は低下し、「硬さ」は増す。したがって、加齢で増大する指標は、組織が硬くなったことの結果として現れるもの(脈圧、残気量、心筋の壁厚など)や、代償・過形成によるもの(前立腺の過形成など)に限られる、と考えると判断しやすい。

本問の考え方

選択肢のうち骨量・肺活量・心拡張能・糸球体濾過量はいずれも実質の減少や組織の硬化によって低下する「機能・量」である。一方、脈圧は大動脈などの弾性動脈が硬くなることで拡大する指標であり、高齢者で増大する。

選択肢考察

  1. ×a.  骨量

    誤り。骨量(骨に含まれるミネラル、主にカルシウムの総量)は20〜40歳頃に最大値(最大骨量)に達し、その後は骨吸収が骨形成を上回るため加齢とともに減少する。女性では閉経後にエストロゲンが低下すると破骨細胞による骨吸収が亢進し、骨量の減少が急速に進む。そのため高齢女性では骨粗鬆症が多く、椎体・大腿骨近位部・橈骨遠位端などの脆弱性骨折の原因となる。

  2. ○b.  脈圧

    正しい。脈圧は収縮期血圧と拡張期血圧の差である。若年者の大動脈は弾性に富み、心臓の収縮期に拍出された血液を壁が伸びて受け止め(緩衝作用)、拡張期にはその壁が縮むことで血液を送り続ける(ウィンドケッセル機能)。加齢とともに大動脈壁の弾性線維が変性し膠原線維が増えて血管が硬くなる(動脈硬化、動脈スティフネスの増大)と、この緩衝作用が失われるため、収縮期血圧は上昇し、拡張期の血圧維持が弱まって拡張期血圧はむしろ低下する。さらに末梢からの反射波が早く戻って収縮期に重なることも収縮期血圧を高める。結果として脈圧は拡大し、高齢者では収縮期血圧のみが高い収縮期高血圧(孤立性収縮期高血圧)が多くなる。

  3. ×c.  肺活量

    誤り。加齢により肺の弾性線維が減少して肺の弾性収縮力が低下し、胸郭も肋軟骨の石灰化や呼吸筋力の低下によって硬く動きにくくなる。また、末梢気道が早期に閉塞しやすくなる。これらの結果、最大限に吸ってから吐き出せる量である肺活量(VC)や1秒量(FEV1)は減少する。全肺気量はほぼ変わらない一方で、吐き切っても肺に残る残気量(RV)や機能的残気量は増加する点が対比として重要である。肺胞の減少・拡大により死腔も増え、動脈血酸素分圧(PaO2)も年齢とともに低下する。

  4. ×d.  心拡張能

    誤り。加齢により心筋細胞は減少し、残った心筋細胞の肥大や心筋間質の線維化(膠原線維の増加)、脂肪組織の増加が起こる。また、上記の動脈硬化による後負荷の増大も左室肥大を促す。これにより左室壁が硬くなり、拡張期に心室が広がって血液を受け入れる能力(拡張能)は低下する。高齢者、特に高血圧のある高齢女性では、収縮能(左室駆出率)が保たれていても拡張能の低下によって心不全をきたす「左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)」が多い。拡張能が低下すると心房収縮による充満への依存度が高まるため、心房細動を合併すると心不全が悪化しやすい。

  5. ×e.  糸球体濾過量

    誤り。加齢に伴い糸球体の硬化(分節性から全節性へと進む)によって機能するネフロン数が減少し、腎皮質も薄くなる。腎血流量も減少するため、糸球体濾過量(GFR)は加齢とともに低下する。ただし高齢者では筋肉量も減るため、血清クレアチニン値は見かけ上あまり上昇せず、腎機能低下が見逃されやすい。高齢者に腎排泄型の薬剤を投与する際は、年齢を考慮した推算GFRやクレアチニンクリアランスで腎機能を評価し、用量を調整する必要がある。

主な加齢変化の整理

増加・増大するもの ・脈圧、収縮期血圧 ・残気量、機能的残気量、死腔、肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2) ・左室壁厚(心筋細胞の肥大) ・前立腺の大きさ(前立腺肥大症) ・体脂肪率 ・食後血糖・インスリン抵抗性 減少・低下するもの ・骨量、骨密度 ・肺活量、1秒量、PaO2 ・心拡張能、最大心拍数、圧受容体反射の感度 ・糸球体濾過量、腎血流量、尿濃縮能 ・筋肉量・筋力(サルコペニア) ・体内総水分量、細胞内液量 ・免疫能(特に細胞性免疫) ・聴力(高音域から)、視調節力(老視)、嗅覚・味覚

高齢者診療への応用

・体内水分量の減少と口渇感の低下から脱水になりやすい。 ・腎機能低下と体組成の変化により、薬物の血中濃度が上がりやすく、副作用が出やすい。 ・圧受容体反射の低下から起立性低血圧や食後低血圧を起こしやすい。 ・臓器の形態は一般に萎縮するが、心筋肥大と前立腺の過形成は例外として覚えておく。

POINT

・加齢変化の本質は「実質細胞の減少」と「弾性線維の減少・膠原線維の増加による組織の硬化」。 ・動脈硬化により収縮期血圧が上昇し拡張期血圧が低下するため、脈圧は増大する。 ・骨量、肺活量、心拡張能、糸球体濾過量はいずれも加齢で低下する。 ・肺では肺活量が減る一方、残気量は増える(対比で問われやすい)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。