4cm・4個で迷わない―肝細胞癌TACEの適応は「肝予備能・肝外転移・門脈」で決まる
第117回医師国家試験 F問題 第16問
国試問題にチャレンジ
肝細胞癌に対し肝動脈化学塞栓療法が行われるのはどれか。(編注:選択肢表は下記をご参照ください。) 肝予備能 腫瘍の最大径 腫瘍の個数 肝外転移 門脈本幹閉塞 a Child A 4cm 4 なし なし b Child A 4cm 4 あり なし c Child B 4cm 4 なし あり d Child B 4cm 4 あり なし e Child C 4cm 4 なし なし
- a.Child A 4cm 4 なしなし
- b.Child A 4cm 4 ありなし
- c.Child B 4cm 4 なしあり
- d.Child B 4cm 4 ありなし
- e.Child C 4cm 4 なしなし
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肝細胞癌の治療は、肝予備能、肝外転移、脈管侵襲、腫瘍数、腫瘍径の5因子をもとに選択します。TACEは、腫瘍が主に肝動脈、正常肝が主に門脈から栄養されるという血流支配の違いを利用した治療で、Child-Pugh A〜B、肝外転移なし、脈管侵襲なしで、腫瘍が4個以上と多発する症例がよい適応です。門脈本幹閉塞では正常肝が梗塞に陥るため原則禁忌、Child-Pugh Cでは肝不全を誘発するため適応外で、肝移植(ミラノ基準または5-5-500基準)か緩和ケアが検討されます。肝外転移があれば、免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法や分子標的薬による薬物療法が中心となります。「癌を治す」と「肝機能を守る」の両立という視点でアルゴリズムを理解することが、肝癌診療の実践につながります。
解答・解説
正解はaです
肝細胞癌の治療法は、日本肝臓学会の『肝癌診療ガイドライン』の治療アルゴリズムに沿って、①肝予備能(Child-Pugh分類)、②肝外転移の有無、③脈管侵襲(門脈・肝静脈への腫瘍浸潤)の有無、④腫瘍数、⑤腫瘍径の5因子をもとに選択される。本問は5つの選択肢すべてで腫瘍の最大径(4cm)と個数(4個)が共通なので、残る「肝予備能」「肝外転移」「門脈本幹閉塞」の3点で肝動脈化学塞栓療法(TACE)の適応を判断すればよい。 TACEは、カテーテルを腫瘍を栄養する肝動脈まで進め、抗癌薬(多くはリピオドールという油性造影剤と混ぜたもの)を注入したうえで塞栓物質で動脈を詰め、腫瘍を虚血壊死させる治療である。これが成り立つ前提は次の2つである。 1つ目は、正常肝組織が門脈からの血流で生き残れることである。肝細胞癌は主に肝動脈から栄養されるのに対し、正常肝は血流の大半を門脈から受けている。そのため肝動脈を塞栓しても、門脈血流が保たれていれば正常肝は壊死を免れる。門脈本幹が腫瘍栓などで閉塞している状態でTACEを行うと、正常肝も血流を失って広範な肝梗塞・肝不全をきたすおそれがあるため、原則として禁忌となる。 2つ目は、治療後の肝機能低下に耐えられるだけの肝予備能があることである。TACEは塞栓範囲の肝実質にもある程度の障害を与えるため、肝予備能が高度に低下したChild-Pugh分類Cでは肝不全を誘発する危険が大きく、適応とならない。 さらに、TACEは肝臓の中の病変だけを治療する局所療法であるため、肝外転移がある場合は全身に効く薬物療法が優先される。 以上から、Child-Pugh A、肝外転移なし、門脈本幹閉塞なしで、肝内に多発(4個)する病変を有する症例が、TACEの最もよい適応となる。ガイドラインのアルゴリズムでも、Child-Pugh A〜Bで肝外転移・脈管侵襲がなく腫瘍数4個以上の場合、第一に推奨される治療はTACEである。
選択肢考察
- ○a. Child A 4cm 4 なしなし
TACEの適応であり、これが正解である。肝予備能は良好(Child-Pugh A)で、肝外転移も門脈本幹閉塞もなく、病変は肝内に限局している。腫瘍が4個と多発しているため、切除やラジオ波焼灼療法(RFA)などの局所根治療法では取り切ることが難しく、肝内の複数病変をまとめて治療できるTACEが第一選択となる。治療アルゴリズム上も「肝外転移なし・脈管侵襲なし・腫瘍数4個以上」はTACEが推奨される典型的な条件であり、そのほか肝動注化学療法や薬物療法も選択肢として挙げられる。
- ×b. Child A 4cm 4 ありなし
TACEの適応とならない。肝予備能は良好だが肝外転移がある。TACEは肝内病変のみに作用する局所療法であり、肝外病変には効果がないため、全身に作用する薬物療法が推奨される。現在の一次治療としては、免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法(アテゾリズマブ+ベバシズマブ、デュルバルマブ+トレメリムマブなど)や分子標的薬(レンバチニブ、ソラフェニブ)が用いられる。
- ×c. Child B 4cm 4 なしあり
TACEの適応とならない。門脈本幹が閉塞しているため、肝動脈を塞栓すると正常肝への血流も失われ、広範な肝梗塞や急性肝不全をきたす危険が高く、TACEは原則禁忌である。加えて肝予備能がChild-Pugh Bと低下しており、治療侵襲に耐える余力も乏しい。門脈本幹に及ぶ高度の脈管侵襲を伴う進行例であり、治療は肝機能や全身状態を考慮しつつ薬物療法や肝動注化学療法などが検討されるが、状況によっては緩和ケアが中心となる。
- ×d. Child B 4cm 4 ありなし
TACEの適応とならない。肝外転移があるため、局所療法であるTACEでは病態全体を制御できず、治療の中心は薬物療法となる。ただし薬物療法の有効性・安全性が主に確認されているのはChild-Pugh Aの患者であり、Child-Pugh Bでは肝機能の悪化に注意しながら慎重に適応を判断する必要がある。
- ×e. Child C 4cm 4 なしなし
TACEの適応とならない。肝予備能が高度に低下したChild-Pugh Cでは、TACEによる肝実質障害をきっかけに肝不全が進行する危険が大きい。本症例のように4個の腫瘍を治療しようとすると塞栓範囲も広くなり、なおさら危険である。Child-Pugh Cでの治療選択は肝移植か緩和ケアであり、肝移植はミラノ基準(単発なら5cm以下、多発なら3個以下かつ最大径3cm以下)内、または5-5-500基準(腫瘍径5cm以下、腫瘍数5個以内、AFP 500ng/mL以下)内で、年齢がおおむね65歳以下の場合に検討される。本症例は腫瘍数4個・最大径4cmでミラノ基準は満たさないが、AFP値によっては5-5-500基準を満たしうる。移植の適応がなければ緩和ケアが選択される。
肝癌診療ガイドライン(2021年版)の治療アルゴリズムの概要
・Child-Pugh A〜B 肝外転移あり:薬物療法(Child-Pugh A) 脈管侵襲あり:切除、塞栓療法、肝動注化学療法、薬物療法(Child-Pugh A) 肝外転移・脈管侵襲なし 腫瘍数1〜3個・腫瘍径3cm以内:切除またはアブレーション(RFAなど) 腫瘍数1〜3個・腫瘍径3cm超:切除、塞栓療法 腫瘍数4個以上:塞栓療法、肝動注化学療法、薬物療法 ・Child-Pugh C:肝移植(ミラノ基準内または5-5-500基準内、65歳以下)、移植不能なら緩和ケア
Child-Pugh分類
血清ビリルビン、血清アルブミン、プロトロンビン時間(活性値またはINR)、腹水、肝性脳症の5項目をそれぞれ1〜3点で評価し、合計5〜6点をA、7〜9点をB、10〜15点をCとする。肝切除を検討する際は、これに加えてICG(インドシアニングリーン)15分停滞率を含む肝障害度(A〜C)で切除範囲を決める。
TACEの原理と禁忌
・肝細胞癌(特に多血性の古典的肝細胞癌)は主に肝動脈から栄養され、正常肝は血流の約7〜8割を門脈から受ける。この血流支配の違いを利用して、肝動脈を塞栓し腫瘍を選択的に壊死させる。 ・主な禁忌・慎重適応:門脈本幹の腫瘍栓・閉塞、高度の肝機能障害(Child-Pugh C、難治性腹水、高ビリルビン血症など)、腎機能障害(造影剤使用のため)など。 ・治療後の塞栓後症候群として発熱、腹痛、悪心、肝酵素上昇がみられる。
薬物療法(切除不能肝細胞癌)
一次治療として、アテゾリズマブ+ベバシズマブ、デュルバルマブ+トレメリムマブなどの免疫チェックポイント阻害薬を含む治療や、レンバチニブ、ソラフェニブなどの分子標的薬が用いられる。
POINT
・肝細胞癌の治療は、肝予備能、肝外転移、脈管侵襲、腫瘍数、腫瘍径の5因子で選択する。 ・TACEの典型的適応は、Child-Pugh A〜B、肝外転移なし、脈管侵襲なしで、腫瘍数が多い(4個以上)、または切除・焼灼が困難な症例。 ・門脈本幹閉塞は、正常肝の血流が失われ肝梗塞をきたすためTACEの原則禁忌。 ・肝外転移あり→薬物療法。Child-Pugh C→肝移植(ミラノ基準または5-5-500基準、65歳以下)か緩和ケア。
