着地の一瞬で切れる靱帯―受傷機転とMRIで見抜く前十字靱帯断裂
第110回医師国家試験 A問題 第5問
国試問題にチャレンジ
3週前にバスケットボールで着地した際に左膝を捻って受傷した21歳の男性の連続した左膝関節部MRIのT2強調矢状断像(A)(B)を別に示す。 最も疑われるのはどれか。

- a.脛骨骨挫傷
- b.膝蓋腱断裂
- c.後十字靱帯断裂
- d.前十字靱帯断裂
- e.Osgood-Schlatter病
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ジャンプの着地や急停止、方向転換などで接触なく膝を捻る非接触型損傷は前十字靱帯損傷の典型的な受傷機転で、断裂音、急性の関節血腫、その後の膝崩れが特徴です。MRI矢状断では、顆間窩から脛骨前方へ斜走する低信号帯である前十字靱帯の連続性途絶(大腿骨付着部側に多い)を確認し、後十字靱帯や膝蓋腱が保たれていることと対比します。後十字靱帯損傷はdashboard injury、膝蓋腱断裂は伸展不能、Osgood-Schlatter病は成長期の脛骨粗面の牽引性骨端症であり、骨挫傷は前十字靱帯損傷に合併しうる所見として理解しておくと整理しやすくなります。診察ではLachmanテスト、前方引き出しテスト、pivot shiftテストが有用で、スポーツ復帰を望む若年者では自家腱による再建術が標準的です。受傷機転・身体所見・画像を結びつけて損傷部位を推定する力は、スポーツ外傷の診療全般に通じる基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・21歳男性、バスケットボールでのジャンプ着地時に左膝を捻って受傷し、3週が経過している。 ・左膝MRIのT2強調矢状断像が連続した2スライスで示されている。
受傷機転からの推定
ジャンプの着地、急停止、急な方向転換(カッティング)など、他者と接触せずに膝が外反・回旋を強制される「非接触型損傷」は、前十字靱帯(ACL)損傷の典型的な受傷機転である。バスケットボール、サッカー、スキー、バレーボールなどで多い。受傷時に「ブチッ」という断裂音(pop)を自覚し、数時間以内に関節血腫による腫脹をきたすことが多い。急性期を過ぎると腫脹や痛みは軽快するが、膝崩れ(giving way)が残りやすい。
画像の読み方
膝の矢状断MRIでは、正常なACLは大腿骨外側顆の内側面(顆間窩の後外側)から脛骨の前方に向かって斜めに走行する、低信号の帯状構造として描出される。本例ではACLの大腿骨付着部側で線維の連続性が途絶しており、ACL断裂と判断できる。 これに対し、後十字靱帯(PCL)は大腿骨内側顆から脛骨後方へ弓状に走る太い低信号の帯として連続性が保たれている。膝蓋腱も前方に連続した低信号帯として描出され、脛骨にも骨髄内の信号変化を認めない。
結論
典型的な受傷機転とMRI所見から、前十字靱帯断裂がもっとも疑われる。
選択肢考察
- ×a. 脛骨骨挫傷
骨挫傷(bone bruise)は骨髄内の微小骨折・出血・浮腫で、MRIのT2強調像や脂肪抑制像で骨髄内の高信号域として描出される。ACL損傷では受傷時に脛骨が前方に亜脱臼するため、大腿骨外側顆と脛骨外側顆の後方に骨挫傷を伴うことがよくある。しかし本例の画像では脛骨の骨髄に信号変化を認めず、主病変はACLの断裂である。
- ×b. 膝蓋腱断裂
膝蓋腱は膝蓋骨下極から脛骨粗面に付く腱で、MRIの矢状断では膝の前面に連続した低信号帯として描出される。本例ではその連続性が保たれている。膝蓋腱断裂では膝伸展が不能となり、膝蓋骨が上方に偏位(膝蓋骨高位)するが、そのような所見はない。
- ×c. 後十字靱帯断裂
PCLは矢状断で大腿骨内側顆から脛骨後方へ弓状に走る低信号帯として描出され、本例では連続性が保たれている。PCL損傷は、交通事故で膝屈曲位のまま脛骨前面をダッシュボードに打ちつける(dashboard injury)など、脛骨が後方へ押される機転で生じることが多く、ジャンプ着地時の捻りによる受傷とは機転が異なる。
- ○d. 前十字靱帯断裂
ジャンプ着地時の膝の捻りという非接触型の典型的な受傷機転に加え、MRI矢状断像でACLが大腿骨付着部側で連続性を失っている。ACLは大腿骨付着部近く(近位側)で断裂することが多い。以上からACL断裂と診断できる。
- ×e. Osgood-Schlatter病
Osgood-Schlatter病は、成長期(おおむね10〜15歳前後)の男子に多い脛骨粗面の骨端症で、ジャンプやダッシュの繰り返しにより大腿四頭筋・膝蓋腱が脛骨粗面の未熟な骨端部を牽引することで生じるオーバーユース障害である。脛骨粗面の膨隆と圧痛を呈する。1回の外傷で発症するものではなく、骨端線が閉鎖した21歳の成人で新たに生じるものでもない。
前十字靱帯(ACL)の機能
ACLは脛骨が大腿骨に対して前方へずれること(前方動揺)と、過度の回旋を制御する。断裂すると膝の前方・回旋不安定性が生じ、膝崩れを繰り返すうちに半月板損傷や関節軟骨損傷が進み、将来の変形性膝関節症の原因となる。
臨床所見と徒手検査
・Lachman(ラックマン)テスト:膝軽度屈曲位(20〜30度)で脛骨を前方に引き出し、前方移動量と終末抵抗(end point)を評価する。ACL損傷の診断でもっとも感度が高い。 ・前方引き出しテスト:膝90度屈曲位で脛骨を前方に引き出す。 ・pivot shift(ピボットシフト)テスト:膝に外反・内旋力を加えながら伸展位から屈曲させ、脛骨外側の亜脱臼とその整復を観察する。回旋不安定性を反映する。 ・急性期は関節血腫を伴うことが多く、外傷性関節血腫の原因としてACL損傷が最多である。
画像診断
単純X線では靱帯は写らないが、脛骨外側関節縁の小さな剝離骨折(Segond骨折)はACL損傷を強く示唆する。確定にはMRIが有用で、ACLの連続性途絶、走行異常、信号上昇のほか、大腿骨外側顆・脛骨外側顆後方の骨挫傷、半月板損傷の合併を評価する。
治療
ACLは関節内にあり血流に乏しく自然治癒しにくい。スポーツ復帰を希望する若年者や不安定性の強い例では、自家腱(半腱様筋腱・薄筋腱や骨付き膝蓋腱)を用いた関節鏡視下ACL再建術が標準的である。活動性の低い例では筋力訓練や装具による保存療法も選択される。
PCL損傷との比較
PCL損傷は脛骨の後方落ち込み(sagging sign)や後方引き出しテストで評価する。dashboard injuryや膝前面からの転倒で起こりやすい。
POINT
・ジャンプ着地・急停止・方向転換などの非接触型の膝捻挫はACL損傷の典型的な受傷機転である。 ・受傷時の断裂音、急性の関節血腫、その後の膝崩れが特徴である。 ・身体所見ではLachmanテスト、前方引き出しテスト、pivot shiftテストが陽性となる。 ・MRI矢状断ではACLの連続性途絶(大腿骨側に多い)を確認し、骨挫傷・半月板損傷の合併も評価する。 ・Osgood-Schlatter病は成長期の脛骨粗面の牽引性骨端症であり、成人の急性外傷とは区別する。
