「静かなる殺人者」の素顔―卵巣癌の組織型・発見時期・治療を総ざらい
第110回医師国家試験 A問題 第6問
国試問題にチャレンジ
卵巣癌について正しいのはどれか。
- a.漿液性腺癌が最も多い。
- b.放射線療法が標準的治療である。
- c.進行癌で発見されることは少ない。
- d.子宮内膜症は発生母地とならない。
- e.最近10年で我が国の罹患率は低下した。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
卵巣癌の大部分は上皮性で、最も多い組織型は漿液性癌(漿液性腺癌)であり、わが国では子宮内膜症との関連から明細胞癌の割合が欧米より高いのが特徴です。卵巣は骨盤深部にあって初期症状に乏しく、半数以上がⅢ・Ⅳ期の進行癌として発見されるため「silent killer」と呼ばれます。標準治療は病期決定と最大限の腫瘍減量を目指す手術と、TC療法を中心とした化学療法の組み合わせで、放射線療法は主体ではありません。子宮内膜症性嚢胞は明細胞癌・類内膜癌の発生母地となり、わが国の罹患は排卵回数の増加などを背景に長期的に増加しています。組織型・発見時期・治療・リスク因子を一続きで理解しておくことは、外来で付属器腫瘤に出会ったときの判断の土台になります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
卵巣癌の組織型の頻度、標準治療、発見時の病期、発生母地、わが国の疫学という基本的な特徴を問う問題である。
要点
卵巣悪性腫瘍の大部分(約9割)は、卵巣表面や卵管上皮などに由来する上皮性腫瘍であり、そのうち最も多い組織型は漿液性癌(漿液性腺癌)である。わが国の卵巣癌に占める割合はおおむね3〜4割で、次いで明細胞癌、類内膜癌、粘液性癌が続く。わが国では欧米に比べて明細胞癌の割合が高いのが特徴で、これは子宮内膜症を発生母地とする癌が多いことと関係する。 卵巣は骨盤の奥深くにあり、腫瘍が大きくなるか腹水がたまるまで症状が出にくいため、約半数以上がⅢ・Ⅳ期の進行癌として発見される。治療は手術(病期決定と可能な限りの腫瘍減量)と、プラチナ製剤とタキサン系薬剤を中心とした化学療法の組み合わせが標準であり、放射線療法は主役ではない。 これらを踏まえると、正しいのは「漿液性腺癌が最も多い」である。
選択肢考察
- ○a. 漿液性腺癌が最も多い。
卵巣癌の大部分を占める上皮性腫瘍のなかで、漿液性癌はもっとも頻度が高く、わが国でも卵巣癌全体のおおむね3〜4割を占める。特に高異型度漿液性癌は、卵管采の上皮から発生するものが多いと考えられており、進行期で発見されやすく、腹膜播種と腹水を伴いやすい。腫瘍マーカーではCA125が上昇しやすい。
- ×b. 放射線療法が標準的治療である。
卵巣癌の標準治療は、手術療法(子宮・両側付属器摘出、大網切除、必要に応じてリンパ節郭清などによる病期決定と最大限の腫瘍減量)と、パクリタキセル+カルボプラチン(TC療法)を基本とする化学療法の組み合わせである。進行例では分子標的薬(ベバシズマブ、PARP阻害薬など)による維持療法も行われる。卵巣癌は腹腔内全体に播種しやすく、腹腔全体への照射は腸管などへの障害が大きいため、放射線療法は脳転移や骨転移の症状緩和など限られた場面で用いられるにすぎない。
- ×c. 進行癌で発見されることは少ない。
卵巣は腹腔内の骨盤深部にあり、初期にはほとんど症状がない。腹部膨満感、腹囲増大、下腹部の圧迫感などの症状が出たときには、腹膜播種や腹水を伴うⅢ・Ⅳ期であることが多く、半数以上が進行癌で見つかる。有効な検診法も確立していないことから「silent killer(静かなる殺人者)」と呼ばれる。
- ×d. 子宮内膜症は発生母地とならない。
卵巣の子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)は、明細胞癌や類内膜癌の発生母地となる。悪性化の頻度は1%弱(報告によりおおむね0.3〜0.8%程度)とされ、40歳以上、嚢胞径の大きいもの(おおむね10cm以上)、閉経後に増大するものなどでリスクが高い。嚢胞内に充実部分が出現した場合は悪性化を疑う。
- ×e. 最近10年で我が国の罹患率は低下した。
わが国の卵巣癌の罹患数は長期的には増加してきており、近年は横ばいからやや増加の傾向にある。低下はしていない。背景には少子化による排卵回数の増加(妊娠・授乳による排卵休止期間の減少)や、食生活の欧米化などが関係すると考えられている。
卵巣腫瘍の分類
卵巣腫瘍は由来組織により、上皮性腫瘍、性索間質性腫瘍、胚細胞腫瘍などに分類され、それぞれに良性・境界悪性・悪性がある。悪性腫瘍(卵巣癌)の大部分は上皮性である。
上皮性卵巣癌の主な組織型と特徴
・漿液性癌:最多。高異型度と低異型度に分けられ、高異型度漿液性癌は卵管采由来が多い。進行期発見が多く、CA125高値。BRCA1/2遺伝子の病的バリアントを有する遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)と関連する。 ・明細胞癌:わが国で多く、子宮内膜症との関連が強い。化学療法が効きにくい。血栓症を合併しやすい。 ・類内膜癌:子宮内膜症との関連がある。子宮体癌と同時に発生することもある。 ・粘液性癌:巨大な腫瘤を形成しやすく、CA19-9やCEAが上昇しうる。
リスク因子と予防因子
リスク因子:未経産、家族歴(HBOC、Lynch症候群)、子宮内膜症、加齢など。 予防的に働く因子:妊娠・出産、授乳、経口避妊薬の使用(排卵回数を減らす)。
症状と診断
初期は無症状で、進行すると腹部膨満、腹囲増大、頻尿、便秘などが現れる。経腟超音波で、多房性で壁の肥厚や乳頭状の充実部分を伴う嚢胞性腫瘤、充実性腫瘤を認める場合は悪性を疑う。MRIで性状を評価し、CT(PET-CT)で転移・播種を評価する。腫瘍マーカーとしてはCA125が代表的である。確定診断と進行期分類は手術による(手術進行期分類)。
治療
初回手術で残存腫瘍をできるだけ少なくすること(最大限の腫瘍減量)が予後を左右する。術後はTC療法などの化学療法を行う。初回手術で完全切除が困難な場合は、術前化学療法の後に手術(interval debulking surgery)を行うこともある。
POINT
・卵巣癌の大部分は上皮性で、最多の組織型は漿液性癌である。わが国では明細胞癌の割合が欧米より高い。 ・初期は無症状で、半数以上が進行癌(Ⅲ・Ⅳ期)で発見される(silent killer)。 ・標準治療は手術(病期決定と最大限の腫瘍減量)+プラチナ製剤・タキサン系薬剤による化学療法であり、放射線療法は主体ではない。 ・子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)は明細胞癌・類内膜癌の発生母地となる。 ・わが国の卵巣癌の罹患は長期的に増加し、近年は横ばい〜やや増加である。
