StudyMed医師国家試験

t(14;18)が教えてくれる腫瘍細胞の素性―濾胞性リンパ腫のマーカーを「由来」から導く

第109回医師国家試験 I問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第109回 I問題 第38問

頸部リンパ節生検組織のH-E染色標本(A)(B)を別に示す。染色体検査ではt(14;18)転座が認められた。  腫瘍細胞に発現している可能性が高いのはどれか。2つ選べ。

第109回 I問題 第38問の問題画像
  1. a.CD3
  2. b.CD4
  3. c.CD8
  4. d.CD10
  5. e.CD20

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、リンパ節の組織像と染色体転座から腫瘍の正体を見抜き、その腫瘍細胞がどんな表面抗原をもつかを答える問題だ。ポイントは「この腫瘍はどの細胞のどの段階から生まれたのか」を考えること。由来がわかれば、マーカーは自然に決まってくるよ。
医学生医学生
t(14;18)といえば濾胞性リンパ腫ですよね。CBTの直前に転座の表を必死で覚えました。
ドクタードクター
その知識がまず役に立つね。組織像も確認しておこう。H-E染色の弱拡大では、リンパ節全体に淡く染まる濾胞状の結節がぎっしり並んでいて、強拡大では比較的そろった細胞が濾胞の中を密に埋めている。大型細胞がシート状に広がるびまん性の領域ははっきりしない。
医学生医学生
でも、濾胞があるだけなら反応性の濾胞過形成とも区別がつかないのでは?
ドクタードクター
いい疑問だ。反応性の濾胞は主に皮質に分布し、マントル層がはっきりしていて、胚中心にはアポトーシス小体を貪食したtingible body macrophageが目立ち、明調域と暗調域の極性もある。一方、腫瘍性の濾胞はリンパ節全体に背中合わせに密集し、マントル層が不明瞭で、そうした反応性の特徴に乏しい。そこにt(14;18)が加われば、濾胞性リンパ腫と考えてよい。
医学生医学生
t(14;18)では何が起きているんでしたっけ。BCL2が関係していた気がします。
ドクタードクター
18番染色体のBCL2遺伝子が、14番染色体の免疫グロブリン重鎖遺伝子の近くに移動して、その強力なエンハンサーの支配下に入る。結果として、アポトーシスを抑えるBcl-2蛋白が過剰に作られるんだ。胚中心では本来、選ばれなかったB細胞はアポトーシスで除かれるけれど、それが起きずに生き残って溜まっていく。だから「増えすぎる」というより「死ななすぎる」腫瘍なんだよ。
医学生医学生
だから進行がゆっくりなんですね。じゃあ由来は胚中心のB細胞ということになりますか。
ドクタードクター
その通り。濾胞性リンパ腫は胚中心由来の成熟B細胞腫瘍だ。すると腫瘍細胞には、B細胞であることを示すマーカーと、胚中心B細胞であることを示すマーカーの両方が出ると予想できる。具体的には何が思い浮かぶ?
医学生医学生
B細胞ならCD20ですね。血液内科の実習で、リツキシマブを投与している患者さんを担当しました。
ドクタードクター
そう、CD20はプレB細胞から成熟B細胞まで発現する汎B細胞マーカーで、形質細胞になると消える。濾胞性リンパ腫の腫瘍細胞はCD20陽性で、診断だけでなくリツキシマブやオビヌツズマブといった抗CD20抗体の治療標的にもなる。では、胚中心を示すマーカーは?
医学生医学生
CD10でしょうか。急性リンパ性白血病の講義でCALLAとして習った記憶があります。
ドクタードクター
よく結びつけたね。CD10はかつてCALLAと呼ばれた膜型の中性エンドペプチダーゼで、前駆B細胞と胚中心B細胞に発現する。濾胞性リンパ腫は胚中心由来だからCD10陽性となることが多い。Burkittリンパ腫や胚中心B細胞型のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫でも陽性になり、腫瘍の分化段階を推定する手がかりになるんだ。だから正解はCD10とCD20の2つ。
医学生医学生
残りのCD3、CD4、CD8はすべてT細胞のマーカーなので外れる、という理解でいいですか。
ドクタードクター
それで合っている。CD3はT細胞受容体と複合体をつくる汎T細胞マーカー、CD4はヘルパーT細胞、CD8は細胞傷害性T細胞のマーカーで、B細胞腫瘍の腫瘍細胞には出ない。ただし注意点がある。腫瘍組織には反応性のT細胞が混じっているので、免疫染色ではそれらがCD3やCD4で染まる。特に腫瘍性濾胞の中には、CD4陽性の濾胞ヘルパーT細胞が散らばっているんだ。
医学生医学生
病理実習で「染まっている細胞が腫瘍細胞かどうかを見極めなさい」と言われたのはそういう意味だったんですね。
ドクタードクター
まさにそこが病理診断の肝だね。発展知識も整理しよう。小型のB細胞リンパ腫の鑑別ではマーカーの組み合わせが重要で、濾胞性リンパ腫はCD10陽性・CD5陰性・Bcl-2陽性。マントル細胞リンパ腫はCD5陽性でサイクリンD1陽性、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫はCD5とCD23が陽性、MALTリンパ腫などの辺縁帯リンパ腫はCD5もCD10も陰性だ。それから、反応性濾胞の胚中心はBcl-2陰性なので、濾胞内がBcl-2陽性なら腫瘍性を強く示唆する。
医学生医学生
転座もセットで覚えたいです。t(11;14)がマントル細胞、t(8;14)がBurkitt、t(11;18)がMALTでしたよね。
ドクタードクター
完璧だ。t(2;5)の未分化大細胞型リンパ腫も加えておこう。臨床面では、濾胞性リンパ腫は年単位でゆっくり進み、低腫瘍量で無症状なら経過観察も選択肢になる。ただし経過中にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫へ形質転換することがあるので、急なリンパ節増大やLD上昇には注意が必要だ。
医学生医学生
「転座から遺伝子、遺伝子から由来、由来からマーカー」という順番で考えれば、丸暗記に頼らなくても答えにたどり着けそうです。
ドクタードクター
その通り。マーカーは単語帳で覚えるより、細胞の成り立ちと結びつけたほうがずっと忘れにくいし、初めて見る腫瘍にも応用が利くよ。

まとめ

リンパ節全体に密集する濾胞状増殖とt(14;18)転座の組み合わせは濾胞性リンパ腫を示し、この転座ではBCL2遺伝子が免疫グロブリン重鎖遺伝子の制御下に入ってBcl-2が過剰発現し、アポトーシスを免れたB細胞が蓄積します。濾胞性リンパ腫は胚中心由来の成熟B細胞腫瘍なので、汎B細胞マーカーのCD20と胚中心マーカーのCD10が陽性となり、CD3・CD4・CD8といったT細胞マーカーは腫瘍細胞には発現しません(組織内の反応性T細胞は染まる点に注意)。さらにCD5陰性・Bcl-2陽性という特徴は、マントル細胞リンパ腫や慢性リンパ性白血病、反応性濾胞過形成との鑑別に役立ちます。CD20は抗CD20抗体治療の標的でもあり、低悪性度ながら形質転換に注意が必要です。「転座→由来→マーカー」と論理的につなげる考え方は、リンパ系腫瘍全般の理解の土台になります。

解答・解説

正解はd, eです

所見の整理

頸部リンパ節生検のH-E染色標本では、弱拡大(A左)でリンパ節全体に多数の淡く染まる濾胞(結節)状の構造が密に分布している。中〜強拡大(A右、B)では、濾胞内を比較的均一な胚中心様の腫瘍細胞が密に占め、大型細胞がびまん性に増殖する領域ははっきりしない。一般に濾胞性リンパ腫では、反応性の濾胞過形成と異なり、腫瘍性濾胞が皮質に限らずリンパ節全体に背中合わせに密集し、マントル層が不明瞭で、反応性胚中心にみられる tingible body macrophage(アポトーシス小体を貪食したマクロファージ)や極性(明調域・暗調域の区別)が乏しいことが腫瘍性を示唆する。

診断

この濾胞状増殖に、染色体検査の t(14;18)(q32;q21) 転座を合わせると、濾胞性リンパ腫と診断できる。この転座では、18番染色体上の BCL2 遺伝子が14番染色体上の免疫グロブリン重鎖(IGH)遺伝子の近くに移動し、IGHの強力なエンハンサーの制御下に置かれる。その結果、アポトーシスを抑制する Bcl-2 蛋白が過剰に発現し、本来は胚中心で選択されずにアポトーシスで除かれるはずのB細胞が生き残って蓄積する。t(14;18) は濾胞性リンパ腫の約8〜9割にみられ、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の一部にも認められる。

設問の考え方

濾胞性リンパ腫はリンパ節の胚中心に由来する成熟B細胞腫瘍である。したがって、腫瘍細胞には「B細胞であること」を示すマーカー(CD19、CD20、CD79a、表面免疫グロブリンなど)と、「胚中心B細胞であること」を示すマーカー(CD10、BCL6)が発現する。加えて、腫瘍性濾胞では Bcl-2 が陽性となる(反応性濾胞の胚中心ではBcl-2陰性)点が診断上重要である。一方、T細胞マーカー(CD3、CD4、CD8など)は腫瘍細胞には発現しない。CD5も通常は陰性で、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫やマントル細胞リンパ腫との鑑別に用いられる。

選択肢考察

  1. ×a.  CD3

    誤り。CD3はT細胞受容体と複合体をつくる分子で、T細胞系に特異的な汎T細胞マーカーである。T細胞リンパ腫の同定に用いられるが、B細胞腫瘍である濾胞性リンパ腫の腫瘍細胞には発現しない。腫瘍組織内に混在する反応性T細胞が陽性になるのみである。

  2. ×b.  CD4

    誤り。CD4はヘルパーT細胞の代表的マーカーで、MHCクラスⅡ分子と結合する補助受容体である(単球・マクロファージの一部にも発現する)。成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)や菌状息肉症/Sézary症候群などのCD4陽性T細胞腫瘍で陽性となるが、濾胞性リンパ腫の腫瘍細胞には発現しない。なお、腫瘍性濾胞内には反応性の濾胞ヘルパーT細胞(CD4陽性)が散在する。

  3. ×c.  CD8

    誤り。CD8は細胞傷害性T細胞のマーカーで、MHCクラスⅠ分子と結合する補助受容体である。T細胞大顆粒リンパ球性白血病など一部のT細胞腫瘍で陽性となるが、B細胞腫瘍である濾胞性リンパ腫の腫瘍細胞には発現しない。

  4. ○d.  CD10

    正しい。CD10(膜型中性エンドペプチダーゼ、かつてCALLAと呼ばれた)は、胚中心B細胞や前駆B細胞に発現する分子である。濾胞性リンパ腫は胚中心B細胞由来であるため、腫瘍細胞はCD10陽性となることが多い。CD10はBurkittリンパ腫、前駆B細胞性急性リンパ芽球性白血病、胚中心B細胞型のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫などでも陽性となり、腫瘍の由来(分化段階)を推定する手がかりとなる。

  5. ○e.  CD20

    正しい。CD20はプレB細胞から成熟B細胞にかけて発現する汎B細胞マーカーである(形質細胞に分化すると消失する)。成熟B細胞腫瘍である濾胞性リンパ腫の腫瘍細胞はCD20陽性であり、これは診断に用いられるだけでなく、抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ、オビヌツズマブ)による治療の標的にもなる。

濾胞性リンパ腫の概要

・胚中心B細胞由来の低悪性度(インドレント)B細胞リンパ腫で、日本では非Hodgkinリンパ腫のなかでびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に次いで多い。 ・中高年に多く、無痛性の多発性リンパ節腫大で発見されることが多い。診断時に進行期(骨髄浸潤を含む)であることが多いが、進行は緩徐で年単位の経過をとる。 ・腫瘍内の大型細胞(centroblast)の割合によりグレード分類されてきた。経過中にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫へ組織学的形質転換を起こすことがあり、急速なリンパ節増大やLDH上昇が手がかりとなる。 ・治療: 低腫瘍量で無症状なら経過観察(watchful waiting)も選択肢となる。高腫瘍量・有症状では抗CD20抗体と化学療法の併用などを行う。限局期では放射線療法が選択される。

主なリンパ系腫瘍の染色体転座と関連遺伝子

・t(14;18): 濾胞性リンパ腫(BCL2) ・t(11;14): マントル細胞リンパ腫(CCND1、サイクリンD1) ・t(8;14): Burkittリンパ腫(MYC) ・t(11;18): MALTリンパ腫(API2-MALT1) ・t(2;5): 未分化大細胞型リンパ腫(NPM-ALK)

小型B細胞リンパ腫の免疫形質の鑑別

・濾胞性リンパ腫: CD20+、CD10+、CD5−、Bcl-2+、BCL6+ ・マントル細胞リンパ腫: CD20+、CD5+、CD10−、サイクリンD1+ ・慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫: CD20弱陽性、CD5+、CD23+、CD10− ・MALTリンパ腫などの辺縁帯リンパ腫: CD20+、CD5−、CD10−

POINT

・t(14;18) → BCL2-IGH 融合 → Bcl-2過剰発現によるアポトーシス抵抗性 → 濾胞性リンパ腫。 ・濾胞性リンパ腫は胚中心由来の成熟B細胞腫瘍: CD19・CD20・CD79a陽性、CD10・BCL6陽性、Bcl-2陽性、CD5陰性。 ・CD3・CD4・CD8はT細胞マーカーであり、腫瘍細胞には発現しない。 ・CD20は抗CD20抗体(リツキシマブなど)の治療標的でもある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。