t(14;18)が教えてくれる腫瘍細胞の素性―濾胞性リンパ腫のマーカーを「由来」から導く
第109回医師国家試験 I問題 第38問
国試問題にチャレンジ
頸部リンパ節生検組織のH-E染色標本(A)(B)を別に示す。染色体検査ではt(14;18)転座が認められた。 腫瘍細胞に発現している可能性が高いのはどれか。2つ選べ。

- a.CD3
- b.CD4
- c.CD8
- d.CD10
- e.CD20
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
リンパ節全体に密集する濾胞状増殖とt(14;18)転座の組み合わせは濾胞性リンパ腫を示し、この転座ではBCL2遺伝子が免疫グロブリン重鎖遺伝子の制御下に入ってBcl-2が過剰発現し、アポトーシスを免れたB細胞が蓄積します。濾胞性リンパ腫は胚中心由来の成熟B細胞腫瘍なので、汎B細胞マーカーのCD20と胚中心マーカーのCD10が陽性となり、CD3・CD4・CD8といったT細胞マーカーは腫瘍細胞には発現しません(組織内の反応性T細胞は染まる点に注意)。さらにCD5陰性・Bcl-2陽性という特徴は、マントル細胞リンパ腫や慢性リンパ性白血病、反応性濾胞過形成との鑑別に役立ちます。CD20は抗CD20抗体治療の標的でもあり、低悪性度ながら形質転換に注意が必要です。「転座→由来→マーカー」と論理的につなげる考え方は、リンパ系腫瘍全般の理解の土台になります。
解答・解説
正解はd, eです
所見の整理
頸部リンパ節生検のH-E染色標本では、弱拡大(A左)でリンパ節全体に多数の淡く染まる濾胞(結節)状の構造が密に分布している。中〜強拡大(A右、B)では、濾胞内を比較的均一な胚中心様の腫瘍細胞が密に占め、大型細胞がびまん性に増殖する領域ははっきりしない。一般に濾胞性リンパ腫では、反応性の濾胞過形成と異なり、腫瘍性濾胞が皮質に限らずリンパ節全体に背中合わせに密集し、マントル層が不明瞭で、反応性胚中心にみられる tingible body macrophage(アポトーシス小体を貪食したマクロファージ)や極性(明調域・暗調域の区別)が乏しいことが腫瘍性を示唆する。
診断
この濾胞状増殖に、染色体検査の t(14;18)(q32;q21) 転座を合わせると、濾胞性リンパ腫と診断できる。この転座では、18番染色体上の BCL2 遺伝子が14番染色体上の免疫グロブリン重鎖(IGH)遺伝子の近くに移動し、IGHの強力なエンハンサーの制御下に置かれる。その結果、アポトーシスを抑制する Bcl-2 蛋白が過剰に発現し、本来は胚中心で選択されずにアポトーシスで除かれるはずのB細胞が生き残って蓄積する。t(14;18) は濾胞性リンパ腫の約8〜9割にみられ、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の一部にも認められる。
設問の考え方
濾胞性リンパ腫はリンパ節の胚中心に由来する成熟B細胞腫瘍である。したがって、腫瘍細胞には「B細胞であること」を示すマーカー(CD19、CD20、CD79a、表面免疫グロブリンなど)と、「胚中心B細胞であること」を示すマーカー(CD10、BCL6)が発現する。加えて、腫瘍性濾胞では Bcl-2 が陽性となる(反応性濾胞の胚中心ではBcl-2陰性)点が診断上重要である。一方、T細胞マーカー(CD3、CD4、CD8など)は腫瘍細胞には発現しない。CD5も通常は陰性で、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫やマントル細胞リンパ腫との鑑別に用いられる。
選択肢考察
- ×a. CD3
誤り。CD3はT細胞受容体と複合体をつくる分子で、T細胞系に特異的な汎T細胞マーカーである。T細胞リンパ腫の同定に用いられるが、B細胞腫瘍である濾胞性リンパ腫の腫瘍細胞には発現しない。腫瘍組織内に混在する反応性T細胞が陽性になるのみである。
- ×b. CD4
誤り。CD4はヘルパーT細胞の代表的マーカーで、MHCクラスⅡ分子と結合する補助受容体である(単球・マクロファージの一部にも発現する)。成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)や菌状息肉症/Sézary症候群などのCD4陽性T細胞腫瘍で陽性となるが、濾胞性リンパ腫の腫瘍細胞には発現しない。なお、腫瘍性濾胞内には反応性の濾胞ヘルパーT細胞(CD4陽性)が散在する。
- ×c. CD8
誤り。CD8は細胞傷害性T細胞のマーカーで、MHCクラスⅠ分子と結合する補助受容体である。T細胞大顆粒リンパ球性白血病など一部のT細胞腫瘍で陽性となるが、B細胞腫瘍である濾胞性リンパ腫の腫瘍細胞には発現しない。
- ○d. CD10
正しい。CD10(膜型中性エンドペプチダーゼ、かつてCALLAと呼ばれた)は、胚中心B細胞や前駆B細胞に発現する分子である。濾胞性リンパ腫は胚中心B細胞由来であるため、腫瘍細胞はCD10陽性となることが多い。CD10はBurkittリンパ腫、前駆B細胞性急性リンパ芽球性白血病、胚中心B細胞型のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫などでも陽性となり、腫瘍の由来(分化段階)を推定する手がかりとなる。
- ○e. CD20
正しい。CD20はプレB細胞から成熟B細胞にかけて発現する汎B細胞マーカーである(形質細胞に分化すると消失する)。成熟B細胞腫瘍である濾胞性リンパ腫の腫瘍細胞はCD20陽性であり、これは診断に用いられるだけでなく、抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ、オビヌツズマブ)による治療の標的にもなる。
濾胞性リンパ腫の概要
・胚中心B細胞由来の低悪性度(インドレント)B細胞リンパ腫で、日本では非Hodgkinリンパ腫のなかでびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に次いで多い。 ・中高年に多く、無痛性の多発性リンパ節腫大で発見されることが多い。診断時に進行期(骨髄浸潤を含む)であることが多いが、進行は緩徐で年単位の経過をとる。 ・腫瘍内の大型細胞(centroblast)の割合によりグレード分類されてきた。経過中にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫へ組織学的形質転換を起こすことがあり、急速なリンパ節増大やLDH上昇が手がかりとなる。 ・治療: 低腫瘍量で無症状なら経過観察(watchful waiting)も選択肢となる。高腫瘍量・有症状では抗CD20抗体と化学療法の併用などを行う。限局期では放射線療法が選択される。
主なリンパ系腫瘍の染色体転座と関連遺伝子
・t(14;18): 濾胞性リンパ腫(BCL2) ・t(11;14): マントル細胞リンパ腫(CCND1、サイクリンD1) ・t(8;14): Burkittリンパ腫(MYC) ・t(11;18): MALTリンパ腫(API2-MALT1) ・t(2;5): 未分化大細胞型リンパ腫(NPM-ALK)
小型B細胞リンパ腫の免疫形質の鑑別
・濾胞性リンパ腫: CD20+、CD10+、CD5−、Bcl-2+、BCL6+ ・マントル細胞リンパ腫: CD20+、CD5+、CD10−、サイクリンD1+ ・慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫: CD20弱陽性、CD5+、CD23+、CD10− ・MALTリンパ腫などの辺縁帯リンパ腫: CD20+、CD5−、CD10−
POINT
・t(14;18) → BCL2-IGH 融合 → Bcl-2過剰発現によるアポトーシス抵抗性 → 濾胞性リンパ腫。 ・濾胞性リンパ腫は胚中心由来の成熟B細胞腫瘍: CD19・CD20・CD79a陽性、CD10・BCL6陽性、Bcl-2陽性、CD5陰性。 ・CD3・CD4・CD8はT細胞マーカーであり、腫瘍細胞には発現しない。 ・CD20は抗CD20抗体(リツキシマブなど)の治療標的でもある。
