StudyMed医師国家試験

「詰まる」か「できる」か―上腸間膜動脈閉塞症を招く2つの背景疾患

第109回医師国家試験 I問題 第37問

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第109回 I問題 第37問

上腸間膜動脈閉塞症の原因となるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.肝硬変
  2. b.心房細動
  3. c.慢性膵炎
  4. d.動脈硬化症
  5. e.習慣性便秘症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、上腸間膜動脈閉塞症の原因となる疾患を選ぶ問題だ。ポイントは、動脈が閉塞するメカニズムを「塞栓症」と「血栓症」の2つに分けて考えること。そして、腸管虚血をきたす他の病態と混同しないことだ。まず、上腸間膜動脈がどこを栄養しているか確認しておこう。
医学生医学生
解剖学で習いました。小腸のほぼ全長と、盲腸から横行結腸の口側約3分の2までですよね。
ドクタードクター
その通り。だからここが急に詰まると、広範囲の腸管が虚血に陥り、壊死に至る。急性腸間膜虚血の代表で、診断が遅れると致死率が高い怖い病気だ。では、動脈が急に詰まる仕組みにはどんなものがあるかな。
医学生医学生
脳梗塞と同じように考えると、心臓でできた血栓が飛んでくる塞栓と、その場で血栓ができる血栓症でしょうか。
ドクタードクター
いい発想だね。まさに脳梗塞の心原性塞栓とアテローム血栓性梗塞の関係と同じ構図だ。まず塞栓症。これが最も多い原因で、塞栓源の代表は何だと思う?
医学生医学生
心房細動です。循環器内科の実習で、左心耳に血栓ができやすいので抗凝固療法が必要だと教わりました。
ドクタードクター
正解。心房が有効に収縮しないと左房、特に左心耳で血液がよどみ、血栓ができる。それが遊離して大動脈から流れ込む。上腸間膜動脈は腹部大動脈から鋭角に分岐していて、太くて血流も多いから塞栓が入り込みやすいんだ。だから心房細動は1つ目の正解になる。
医学生医学生
塞栓はどのあたりに詰まりやすいんですか。
ドクタードクター
中結腸動脈の分岐部付近より末梢に詰まりやすいので、空腸の起始部が虚血を免れることがある。次は血栓症。動脈硬化で起始部が狭くなっていたところに、プラークの破綻や脱水などを契機に血栓ができて閉塞する。動脈硬化症が2つ目の正解だ。
医学生医学生
高齢で高血圧や糖尿病、喫煙歴がある人に多いということですね。前触れはあるんでしょうか。
ドクタードクター
鋭い質問だ。徐々に狭窄が進むから、発症前に食後の腹痛、いわゆる腹部アンギーナや体重減少がみられることがある。食べると痛いから食事を避けるようになるんだ。起始部から閉塞するので、塞栓症より虚血範囲が広くなりやすい点も押さえておこう。では、残りの選択肢を見ていこう。肝硬変はどうかな。
医学生医学生
肝硬変は血栓ができやすいと聞いたことがあるので、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うポイントだね。肝硬変では門脈圧亢進で門脈血流がうっ滞し、門脈血栓症や上腸間膜「静脈」血栓症の危険因子になる。でもそれは静脈側の閉塞で、動脈の閉塞の原因ではない。動脈と静脈を区別することが大切だ。
医学生医学生
慢性膵炎も、膵臓のすぐそばに上腸間膜動脈が走っているので関係ありそうに思えました。
ドクタードクター
解剖学的には近いけれど、慢性膵炎で問題になるのは消化吸収障害、膵性糖尿病、膵石、仮性嚢胞などだ。炎症が脾静脈や門脈に波及して静脈血栓を起こしたり、仮性動脈瘤をつくったりすることはあるが、上腸間膜動脈閉塞症の原因として挙げられる疾患ではない。
医学生医学生
習慣性便秘症は、虚血性大腸炎の誘因として消化器内科の講義で出てきました。
ドクタードクター
よく覚えているね。便秘によるいきみや腸管内圧上昇で腸壁の血流が落ち、主に下行結腸からS状結腸に一過性の虚血が起こる。太い血管の閉塞を伴わない病態で、主幹動脈が詰まる本症とは別物だ。
医学生医学生
同じ「腸の虚血」でも、どの血管がどう詰まるかで全然違う病気になるんですね。
ドクタードクター
その整理がとても大事だ。臨床での注意点も話しておこう。この病気の早期の特徴は、激烈な腹痛を訴えるのに、お腹を触っても圧痛や腹膜刺激症状が乏しいという症状と所見の乖離だ。進行して腸管が壊死すると腹膜刺激症状、下血、ショックが出るが、そこまで待っていては手遅れになりかねない。
医学生医学生
救急外来の実習で、心房細動のある高齢者が急な腹痛で来たら必ず疑え、と言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれ。乳酸上昇を伴う代謝性アシドーシスなどもヒントになるが特異的ではないので、疑ったら速やかに造影CTで上腸間膜動脈内の造影欠損や腸管壁の造影不良を確認する。治療はヘパリンによる抗凝固を開始し、塞栓摘除術やカテーテル治療などで早期に血行再建を行い、壊死腸管があれば切除する。広範な小腸切除後は短腸症候群が問題になる。また、心不全やショックなどで血管が攣縮して起こる非閉塞性腸間膜虚血、NOMIという、動脈が開存しているのに虚血になる病態もあるので、あわせて覚えておこう。

まとめ

上腸間膜動脈閉塞症は、小腸のほぼ全長と右側結腸を栄養する動脈が急に閉塞して広範な腸管虚血・壊死をきたす重篤な疾患で、原因は心房細動などによる心原性の塞栓症と、動脈硬化で狭窄した起始部に血栓が形成される血栓症の2つに大別されます。血栓症では発症前に食後腹痛(腹部アンギーナ)や体重減少がみられることがあります。肝硬変は門脈圧亢進を介して腸間膜「静脈」血栓症の背景となり、習慣性便秘症は主幹動脈の閉塞を伴わない虚血性大腸炎の誘因であるため、動脈閉塞とは区別が必要です。激しい腹痛に比べて腹部所見が乏しいことが早期の特徴で、心房細動をもつ高齢者の突然の腹痛では本症を疑い、造影CTで速やかに評価して血行再建につなげることが救命の鍵になります。腸管虚血を「どの血管が、どのような機序で詰まるか」で整理しておくと、急性腹症の鑑別全体に役立ちます。

解答・解説

正解はb, dです

上腸間膜動脈(superior mesenteric artery: SMA)閉塞症は、小腸のほぼ全長と右側結腸(盲腸〜横行結腸の口側約2/3)を栄養するSMAが急に閉塞し、広範な腸管虚血から壊死に至る疾患である。急性腸間膜虚血の代表であり、診断が遅れると致死率が高い。 原因は大きく次の2つに分けられ、本問ではこの2つの背景疾患を選べばよい。 ・塞栓症: 心臓などでできた血栓が血流に乗って運ばれ、SMAに詰まるもの。最も多い原因で、塞栓源の代表は心房細動による左房(特に左心耳)内血栓である。ほかに僧帽弁狭窄症、心筋梗塞後の左室内血栓、感染性心内膜炎の疣贅なども塞栓源となる。SMAは腹部大動脈から鋭角に分岐し、太く血流が多いため塞栓が入り込みやすい。 ・血栓症: 動脈硬化によりもともと狭窄していたSMA起始部に、プラークの破綻などを契機として血栓が形成され閉塞するもの。高齢者、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの動脈硬化危険因子をもつ人に多く、発症前に食後腹痛(腹部アンギーナ)や体重減少を伴う慢性腸間膜虚血の経過があることがある。 このほか、急性腸間膜虚血には非閉塞性腸間膜虚血(NOMI: 心不全、ショック、脱水、血管収縮薬などによる腸間膜血管の攣縮で、動脈が閉塞していないのに虚血となるもの)や腸間膜静脈血栓症があるが、これらは「SMA閉塞症」とは区別される。 臨床的には、激烈な腹痛があるのに腹部の圧痛や腹膜刺激症状が乏しい(症状と身体所見の乖離)ことが早期の特徴であり、心房細動の既往をもつ高齢者の突然の腹痛では本症を疑い、造影CTで速やかに評価する。

選択肢考察

  1. ×a.  肝硬変

    誤り。肝硬変では門脈圧亢進症をきたし、門脈血流のうっ滞などから門脈血栓症や上腸間膜静脈血栓症の危険因子となる。しかしこれは静脈側の閉塞であり、動脈である上腸間膜動脈の閉塞の原因とはならない。動脈と静脈の閉塞を混同しないことが重要である。

  2. ○b.  心房細動

    正しい。心房細動では心房が有効に収縮しないため、左房、とくに左心耳で血液がうっ滞して血栓ができやすい。この血栓が遊離して大動脈から上腸間膜動脈に流れ込むと塞栓症を起こす。塞栓症はSMA閉塞症の原因として最も多く、心房細動はその代表的な塞栓源である。塞栓は中結腸動脈分岐部付近より末梢に詰まりやすいため、空腸起始部が虚血を免れることがある。

  3. ×c.  慢性膵炎

    誤り。慢性膵炎で問題となるのは膵外分泌不全による消化吸収障害(脂肪便など)、膵内分泌不全による糖尿病(膵性糖尿病)、膵石、仮性嚢胞などである。膵周囲の炎症が脾静脈や門脈に波及して静脈血栓症を起こすことや、仮性動脈瘤を形成することはあるが、上腸間膜動脈閉塞症の原因として挙げられる疾患ではない。

  4. ○d.  動脈硬化症

    正しい。動脈硬化によりSMA起始部にプラークが形成されて内腔が狭窄し、そこにプラークの破綻や血流低下(脱水、低心拍出など)を契機として血栓が形成されると、SMAが閉塞する(血栓症)。徐々に狭窄が進む場合は側副血行路が発達していることが多いが、最終的に閉塞すると広範な腸管虚血を生じる。SMA起始部から閉塞するため、塞栓症より虚血範囲が広くなりやすい。発症前に食後腹痛(腹部アンギーナ)や体重減少がみられることがある。

  5. ×e.  習慣性便秘症

    誤り。習慣性便秘症は、排便時のいきみや硬便による腸管内圧の上昇から腸壁の血流が低下し、虚血性大腸炎(主に下行結腸〜S状結腸に生じる、太い血管の閉塞を伴わない一過性の虚血)の誘因となる。しかし、上腸間膜動脈という主幹動脈が閉塞する本症の原因とはならない。

腸管虚血の整理

・急性腸間膜虚血  SMA塞栓症: 心房細動などが塞栓源。突然発症。  SMA血栓症: 動脈硬化性狭窄に血栓形成。腹部アンギーナの前駆がありうる。  非閉塞性腸間膜虚血(NOMI): 心不全、ショック、透析、ジギタリスや血管収縮薬などによる血管攣縮。主幹動脈は開存している。  腸間膜静脈血栓症: 門脈圧亢進症(肝硬変)、凝固異常(プロテインC・S欠乏、抗リン脂質抗体症候群など)、腹腔内炎症、悪性腫瘍などが背景。 ・慢性腸間膜虚血(腹部アンギーナ): 動脈硬化による複数の腸管動脈の狭窄で、食後腹痛・体重減少・食事恐怖を示す。 ・虚血性大腸炎: 便秘や動脈硬化を背景に、左側結腸に多い。多くは一過性で保存的に軽快する。

SMA閉塞症の臨床像と治療

・症状: 突然の激しい腹痛に比べ、初期は腹部所見が乏しい。進行すると腸管壊死により腹膜刺激症状、下血、ショックを呈する。 ・検査: 白血球増多、代謝性アシドーシス(乳酸上昇)、CK・LDH・AST上昇などがみられるが特異的ではない。診断には造影CT(SMA内の造影欠損、腸管壁の造影不良、門脈ガス、腸管気腫など)が有用で、血管造影は診断と治療を兼ねられる。 ・治療: 抗凝固療法(ヘパリン)を開始し、早期に血行再建(塞栓摘除術、血栓溶解療法、カテーテル治療、バイパス術など)を行う。壊死腸管があれば切除する。広範な小腸切除後は短腸症候群が問題となる。

POINT

・SMA閉塞症の原因は塞栓症(心房細動などの心原性塞栓が最多)と血栓症(動脈硬化性狭窄部の血栓形成)である。 ・激しい腹痛に比べて腹部所見が乏しいことが早期の特徴で、診断には造影CTが有用である。 ・肝硬変(門脈圧亢進)は腸間膜「静脈」血栓症の背景であり、動脈閉塞とは区別する。 ・習慣性便秘症は虚血性大腸炎の誘因であり、主幹動脈の閉塞とは別の病態である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。