t-PAを打つ前の「出血チェック」―血ガスが要らない理由まで説明できますか
第109回医師国家試験 I問題 第21問
国試問題にチャレンジ
脳梗塞に対してt-PA〈tissue plasminogen activator〉による血栓溶解療法を行う際に,事前に確認する必要がないのはどれか。
- a.血小板数
- b.頭部単純CT
- c.動脈血ガス分析
- d.頭蓋内出血の既往歴
- e.PT-INR〈prothrombin time-international normalized ratio〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性期脳梗塞に対するt-PA(アルテプラーゼ)静注療法は、発症から4.5時間以内に開始できる症例が対象で、最大の合併症は症候性頭蓋内出血です。そのため投与前には、発症時刻、頭蓋内出血や最近の手術・出血などの既往歴、コントロールできない高血圧や大動脈解離などの臨床所見、血糖・血小板数・PT-INR・APTTといった血液所見、頭部CTやMRIによる出血の除外と広範な早期虚血性変化の有無を、チェックリストに沿って確認します。代表的な基準として、血小板10万/μL以下、PT-INR 1.7超、血糖50 mg/dL未満または400 mg/dL超は適応外です。一方、動脈血ガス分析は判断項目に含まれず、動脈穿刺はかえって出血源となるため避けるべきです。各項目が「出血リスクの評価」という一つの軸でつながっていると理解しておくと、救急の現場でも迷わず短時間で適応判断ができます。
解答・解説
正解はcです
テーマ
急性期脳梗塞に対する組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA、わが国で用いられる薬剤はアルテプラーゼ)静注による血栓溶解療法の適応判断で、投与前に何を確認すべきかを問う問題である。「確認する必要がないもの」を選ぶ。
考え方
t-PAはプラスミノゲンをプラスミンに変換して、脳動脈を閉塞したフィブリン血栓を溶かす薬剤である。早期に再開通が得られれば機能予後が改善する一方、最大の合併症は症候性頭蓋内出血であり、全身の出血も起こりうる。そのため、投与前には「出血を起こしやすい状態ではないか」「すでに出血していないか」「梗塞がすでに完成して広範でないか」を、定められたチェックリストに沿って短時間で確認する。 チェックリストの主な項目は次のとおりである。 ・発症(最終健常確認)時刻:発症から4.5時間以内に投与開始できるか ・既往歴:非外傷性頭蓋内出血、最近の脳梗塞・頭部外傷・手術・消化管出血など ・臨床所見:くも膜下出血の疑い、急性大動脈解離の合併、降圧してもコントロールできない高血圧など ・血液所見:血糖、血小板数、PT-INR、APTT ・画像所見:頭部CTまたはMRIによる出血の除外、広範な早期虚血性変化や正中構造偏位の有無 動脈血ガス分析はこれらの項目に含まれず、適応の判断に必要ではない。むしろ動脈穿刺は、t-PA投与後に穿刺部から出血する原因になりうるため、不要な動脈穿刺は避けるべきである。
選択肢考察
- ×a. 血小板数
事前に確認が必要である。血小板は一次止血を担うため、血小板数が少ないとt-PA投与後の出血リスクが高まる。血小板数10万/μL以下は適応外とされる。同じ血液所見の項目として、血糖異常(50 mg/dL未満または400 mg/dL超)も適応外であり、これは低血糖・高血糖が脳卒中に似た症状を呈すること、高血糖が出血性変化を増やすことによる。
- ×b. 頭部単純CT
事前に確認が必要である。頭部単純CTは、まず脳出血やくも膜下出血を除外するために必須であり、出血性脳卒中であればt-PAは禁忌となる。さらに、中大脳動脈領域の3分の1を超えるような広範な早期虚血性変化(皮髄境界の不明瞭化、レンズ核の不明瞭化、脳溝の消失など)や、正中構造偏位を伴う圧排所見がある場合は、すでに梗塞が広く完成しており出血性梗塞の危険が高いため適応外となる。施設によってはCTの代わりにMRIで評価する。
- ○c. 動脈血ガス分析
t-PA静注療法のチェックリストには含まれず、事前に確認する必要はない。血液ガスの値は血栓溶解療法の適応・禁忌の判断に関与しない。加えて、圧迫止血しにくい部位を含め、動脈穿刺はt-PA投与後の出血源となりうるため、適応判断のために動脈血を採取する意義はなく、治療開始を遅らせる要因にもなる。意識障害や呼吸不全の評価が別途必要な場合でも、まずはパルスオキシメータによる酸素飽和度の監視で対応できることが多い。
- ×d. 頭蓋内出血の既往歴
事前に確認が必要である。非外傷性頭蓋内出血の既往は、時期を問わず適応外とされる。既往歴としてはほかに、1か月以内の脳梗塞(短時間で症状が消失した一過性脳虚血発作は含まない)、3か月以内の重篤な頭部・脊髄の外傷または手術、21日以内の消化管または尿路出血、14日以内の大手術または頭部以外の重篤な外傷なども適応外項目であり、本人・家族から聴取して確認する。
- ×e. PT-INR〈prothrombin time-international normalized ratio〉
事前に確認が必要である。PT-INR(プロトロンビン時間の国際標準比)は外因系凝固の指標で、ワルファリン服用中や凝固異常症で延長する。凝固能が低下した状態でt-PAを用いると出血リスクが著しく高まるため、PT-INR 1.7超は適応外とされる。同様にAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)が前値の1.5倍(目安としておおむね40秒)を超えて延長している場合も適応外である。直接経口抗凝固薬(DOAC)服用患者では、最終服用時刻も確認する。
t-PA静注療法の概要
・対象:発症から4.5時間以内に治療開始できる虚血性脳血管障害(脳梗塞)。発症時刻が不明な場合も、MRIで拡散強調画像(DWI)に病変がありFLAIR画像では明瞭でない(DWI-FLAIRミスマッチ)ときには投与を考慮できる。 ・用量:わが国ではアルテプラーゼ0.6 mg/kg(上限60 mg)を用い、その10%を急速静注し、残りを1時間かけて点滴静注する。 ・効果:3か月後の機能転帰良好例を有意に増加させる。治療開始が早いほど効果が大きいため、来院から投与までの時間短縮が重要である。 ・主な合併症:症候性頭蓋内出血(非投与例に比べ明らかに増加する)、全身出血、口舌血管浮腫など。
チェックリストの構成
適応外(禁忌)項目と慎重投与項目に分かれ、以下の領域から確認する。 1. 発症時刻(最終健常確認時刻) 2. 既往歴:非外傷性頭蓋内出血、1か月以内の脳梗塞、3か月以内の重篤な頭部・脊髄外傷や手術、21日以内の消化管・尿路出血、14日以内の大手術・重篤な外傷など 3. 臨床所見:くも膜下出血(疑い)、急性大動脈解離の合併、出血の合併、収縮期血圧185 mmHg以上または拡張期血圧110 mmHg以上で降圧療法後も下がらない場合など 4. 血液所見:血糖50 mg/dL未満または400 mg/dL超、血小板10万/μL以下、PT-INR 1.7超、APTT延長など 5. 画像所見:CT/MRIでの広範な早期虚血性変化、正中構造偏位を伴う圧排所見
投与後の管理
投与後24時間は血圧を180/105 mmHg未満に管理し、神経症状を頻回に評価する。抗血栓薬は原則として24時間以内には開始しない。また、主幹動脈閉塞例では、t-PA静注に加えて(あるいは単独で)血管内治療(機械的血栓回収療法)が検討される。
POINT
・t-PA静注療法は発症4.5時間以内の脳梗塞が対象で、最大の合併症は症候性頭蓋内出血。 ・投与前の確認:発症時刻、既往歴(頭蓋内出血など)、臨床所見(血圧、大動脈解離など)、血液検査(血糖、血小板数、PT-INR、APTT)、頭部画像(出血の除外、広範な早期虚血性変化)。 ・主な基準値:血小板10万/μL以下、PT-INR 1.7超、血糖50未満・400超 mg/dL、血圧185/110 mmHg以上(降圧後も)は適応外。 ・動脈血ガス分析はチェック項目に含まれず、動脈穿刺はむしろ出血源となりうる。
