流産を繰り返す理由はどこにある?―不育症のリスク因子を4つの領域で整理する
第109回医師国家試験 I問題 第20問
国試問題にチャレンジ
不育症の原因として考えにくいのはどれか。
- a.子宮奇形
- b.月経前症候群
- c.甲状腺機能低下症
- d.染色体均衡型転座
- e.抗リン脂質抗体症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
不育症は、妊娠は成立するものの2回以上の流産・死産を繰り返して生児が得られない状態で、3回以上連続する流産は習慣流産と呼ばれます。主なリスク因子は、子宮形態異常(特に中隔子宮)、甲状腺機能異常や糖尿病などの内分泌異常、夫婦いずれかの均衡型転座などの染色体構造異常、抗リン脂質抗体症候群をはじめとする免疫・凝固異常に整理できます。抗リン脂質抗体症候群には低用量アスピリンとヘパリン、甲状腺機能低下症にはレボチロキシン、中隔子宮には子宮鏡下中隔切除術、均衡型転座には遺伝カウンセリングと、原因に応じた対応があります。一方、月経前症候群は黄体期に症状が出て月経とともに消える機能的な症候群で、流産との関連はありません。系統的に検査しても半数以上は原因不明であることを知っておくと、患者への説明や精神的支援の場面でも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
テーマ
不育症(妊娠は成立するが、流産や死産を繰り返して生児が得られない状態)の原因・リスク因子を問う問題である。「考えにくいもの」を一つ選ぶ。
考え方
不育症のリスク因子は、大きく次の領域に整理できる。 ・子宮の形態異常(解剖学的要因) ・内分泌異常(甲状腺機能異常、糖尿病など) ・夫婦いずれかの染色体構造異常(均衡型転座など) ・抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫・血液凝固異常(プロテインS欠乏症、第XII因子欠乏症など) これらはいずれも、胎児の染色体の不均衡、胎盤・子宮内膜への血流障害や血栓形成、着床・胎盤形成の環境悪化などの機序で妊娠の継続を妨げる。 一方、月経前症候群(PMS)は黄体期に現れる心身の症状が月経開始とともに消える機能的な症候群であり、器質的異常を伴わず、妊娠の維持や流産との関連も示されていない。したがって「考えにくい」のは月経前症候群である。
選択肢考察
- ×a. 子宮奇形
不育症の原因となる。中隔子宮、双角子宮などの子宮形態異常では、子宮腔の変形や、中隔部の血流が乏しい内膜への着床によって胎盤形成が障害され、流産を繰り返すことがある。特に中隔子宮は流産との関連が強く、子宮鏡下中隔切除術が治療選択肢となる。子宮形態の評価には超音波(3D含む)、子宮卵管造影、MRIなどを用いる。
- ○b. 月経前症候群
月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)は、月経前の黄体期(月経開始の3〜10日前頃から)に、いらいら・抑うつ・不安などの精神症状や、乳房痛・腹部膨満感・頭痛・浮腫などの身体症状が出現し、月経が始まると速やかに軽快・消失する病態である。黄体期のホルモン変動に対する感受性が関与すると考えられるが、子宮や胎盤、凝固系などに器質的異常を起こすものではなく、流産・死産との関連は認められていない。したがって不育症の原因としては考えにくい。
- ×c. 甲状腺機能低下症
不育症の原因(リスク因子)となる。甲状腺ホルモンは妊娠初期の胎盤形成や妊娠維持に重要であり、甲状腺機能低下症では流産・早産・妊娠高血圧症候群などのリスクが上昇する。糖尿病などと並ぶ内分泌的リスク因子であり、不育症の一次スクリーニングとして甲状腺機能(TSH、FT4)の検査が行われる。機能低下があればレボチロキシンで補充し、妊娠前から甲状腺機能を適正に保つ。
- ×d. 染色体均衡型転座
不育症の原因となる。夫婦のどちらかが相互転座やRobertson転座などの均衡型転座をもつ場合、本人は遺伝子量に過不足がないため表現型は正常であるが、減数分裂の際に染色体の分配が不均衡となった配偶子が一定の割合で生じる。その結果、不均衡型の染色体をもつ胚となって流産を繰り返す。不育症の検査として夫婦の染色体検査(G分染法)が行われ、異常が見つかった場合は遺伝カウンセリングを行う。
- ×e. 抗リン脂質抗体症候群
不育症の代表的な原因であり、治療により生児獲得率の改善が期待できる重要な病態である。抗リン脂質抗体症候群(APS)は、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインI抗体、ループスアンチコアグラントなどの抗リン脂質抗体により動静脈血栓症や妊娠合併症をきたす自己免疫疾患である。胎盤の血栓形成や絨毛の機能障害により、反復流産、子宮内胎児死亡、妊娠高血圧腎症、胎児発育不全などを起こす。妊娠中は低用量アスピリンとヘパリンの併用療法が行われる。
用語の定義(わが国)
・不育症:妊娠は成立するが、2回以上の流産・死産を繰り返して生児が得られない状態。 ・反復流産:2回連続する流産。 ・習慣流産:3回以上連続する流産。
頻度
臨床的に確認された妊娠のうち、約15%は流産に終わるとされ、流産そのものは珍しくない。習慣流産は妊娠を希望する女性の1〜2%程度、不育症(2回以上)は5%程度と推定されている。
流産・不育症の原因
・偶発的な胎児(胚)の染色体異常:単発の流産の原因として最も多く、母体側に原因がなくても流産が繰り返されることがある。 ・抗リン脂質抗体症候群 ・子宮形態異常(中隔子宮、双角子宮など) ・内分泌異常(甲状腺機能低下症・亢進症、コントロール不良の糖尿病など) ・夫婦の染色体構造異常(均衡型転座、逆位など) ・凝固因子異常(プロテインS欠乏症、第XII因子欠乏症など) 系統的に検査をしても、半数以上の症例では明らかなリスク因子が見つからない(原因不明)。原因不明の不育症でも、精神的支援などにより次回妊娠で生児を得られることが多い。
主な対応
・抗リン脂質抗体症候群:低用量アスピリン+ヘパリン ・中隔子宮:子宮鏡下中隔切除術を検討 ・甲状腺機能低下症:レボチロキシン補充 ・均衡型転座:遺伝カウンセリング。着床前遺伝学的検査が選択肢となる場合がある
月経前症候群(PMS)
月経前3〜10日の黄体期に精神症状・身体症状が出現し、月経開始とともに消失する。精神症状が特に強く社会生活に支障をきたすものを月経前不快気分障害(PMDD)とよぶ。治療は生活指導のほか、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、漢方薬などが用いられる。妊孕性や流産との関連はない。
POINT
・不育症=2回以上の流産・死産で生児が得られない状態。習慣流産=3回以上連続する流産。 ・主なリスク因子:抗リン脂質抗体症候群、子宮形態異常、甲状腺機能異常・糖尿病、夫婦の均衡型転座、凝固因子異常。 ・APSは低用量アスピリン+ヘパリンで治療する代表的な不育症原因。 ・月経前症候群は機能的な症候群であり、流産とは関連しない。
