肝膿瘍はどこから来る?―消化管疾患と合併症を「病態」でつなぐ
第109回医師国家試験 I問題 第13問
国試問題にチャレンジ
消化管疾患とその合併症の組合せで誤っているのはどれか。
- a.Crohn病 ―― 痔瘻
- b.偽膜性腸炎 ―― 肝膿瘍
- c.Meckel憩室 ―― イレウス
- d.潰瘍性大腸炎 ―― 中毒性巨大結腸症
- e.虚血性大腸炎 ―― 大腸穿孔
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
消化管疾患の合併症は、病変の深さや部位、障害の仕組みから導くことができます。全層性炎症のCrohn病は痔瘻や瘻孔・狭窄を、重症の潰瘍性大腸炎は中毒性巨大結腸症を、壊死型の虚血性大腸炎は穿孔を、卵黄腸管遺残であるMeckel憩室は腸重積や絞扼によるイレウスを起こします。偽膜性腸炎はC. difficileの毒素による大腸粘膜の障害で、合併症は中毒性巨大結腸症や穿孔、脱水などであり、肝膿瘍は典型的ではありません。腸疾患に続発する肝膿瘍の代表は門脈経由のアメーバ性肝膿瘍で、化膿性肝膿瘍では経胆道性が最多です。病態から合併症を推論する習慣は、知識の定着だけでなく、病棟で重症化のサインを見逃さないためにも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
問われていること
代表的な消化管疾患について、その疾患に特徴的、あるいはよく知られた合併症を正しく対応させられるかを問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、関連の乏しい組合せを一つ選ぶ。
考え方
各疾患の病態から、どのような合併症が起こりやすいかを考えるとよい。 ・Crohn病は腸管壁の全層に及ぶ炎症なので、瘻孔・膿瘍・狭窄を作りやすく、肛門周囲にも病変が出やすい。 ・潰瘍性大腸炎は大腸粘膜の炎症で、重症化すると結腸が麻痺・拡張する。 ・虚血性大腸炎は血流障害による病変で、虚血が高度なら壁が壊死する。 ・Meckel憩室は回腸に残った袋状の構造で、腸の通過を妨げる原因になりうる。 ・偽膜性腸炎は大腸粘膜にとどまる毒素性の腸炎で、合併症は大腸そのものの重症化(中毒性巨大結腸症や穿孔)である。 肝膿瘍を起こす腸疾患として重要なのは、門脈を経て肝臓に病原体が運ばれるアメーバ赤痢(赤痢アメーバ感染症)である。偽膜性腸炎と肝膿瘍の組合せは誤りであり、これが正解となる。
選択肢考察
- ×a. Crohn病 ―― 痔瘻
正しい組合せである。Crohn病は口腔から肛門までの消化管のどこにでも生じうる、非連続性の全層性肉芽腫性炎症である。全層に炎症が及ぶため、痔瘻や肛門周囲膿瘍などの肛門病変を高頻度に合併し、難治性の痔瘻をきっかけに診断されることも多い。ほかにも腸管同士や膀胱・皮膚との瘻孔(内瘻・外瘻)、腸管狭窄、穿孔、膿瘍を合併する。
- ○b. 偽膜性腸炎 ―― 肝膿瘍
誤った組合せであり、これが正解である。偽膜性腸炎は、抗菌薬投与などで腸内細菌叢が乱れた結果(菌交代現象)、Clostridioides(旧名Clostridium)difficileが増殖し、その産生する毒素によって大腸粘膜が傷害される腸炎である。病変は大腸粘膜にとどまり、合併症としては中毒性巨大結腸症、腸管穿孔、脱水・電解質異常などが問題となるが、肝膿瘍は典型的な合併症ではない。腸疾患に続発する肝膿瘍としては、赤痢アメーバが門脈を経て肝臓に達するアメーバ性肝膿瘍が代表的である。
- ×c. Meckel憩室 ―― イレウス
正しい組合せである。Meckel憩室は胎生期の卵黄腸管(臍腸管)が退縮せずに残った真性憩室で、回腸末端(回盲弁から口側に数十cmの部位)の腸間膜付着部の対側に生じる。憩室が先進部となる腸重積、憩室から臍へ伸びる遺残索状物(卵黄管・卵黄血管の遺残)を軸にした腸軸捻転や絞扼、憩室炎後の癒着などにより、イレウス(腸閉塞)を起こす。
- ×d. 潰瘍性大腸炎 ―― 中毒性巨大結腸症
正しい組合せである。潰瘍性大腸炎の重症例・劇症例では、炎症が筋層まで波及して結腸の運動が停止し、結腸(特に横行結腸)が著明に拡張して全身の中毒症状(発熱、頻脈、意識障害など)を伴う中毒性巨大結腸症を起こすことがある。穿孔の危険が高く、内科治療で改善しなければ緊急手術(大腸全摘術)の適応となる。低カリウム血症、抗コリン薬・オピオイドの使用、注腸造影や内視鏡検査が誘因となりうる。
- ×e. 虚血性大腸炎 ―― 大腸穿孔
正しい組合せである。虚血性大腸炎は、主幹動脈に明らかな閉塞がないにもかかわらず大腸の血流が低下して粘膜に浮腫・出血・潰瘍を生じる疾患で、下行結腸からS状結腸に好発する。多くは数日〜2週間ほどで改善する一過性型だが、虚血が高度な壊死型では腸管壁が壊死し、穿孔や腹膜炎を起こして緊急手術が必要になる。治癒後に狭窄を残す狭窄型もある。
肝膿瘍の分類と原因
1)化膿性(細菌性)肝膿瘍:胆道感染(胆管炎など)からの経胆道性が最も多い。ほかに門脈を経由するもの(虫垂炎、憩室炎など腹腔内感染)、動脈を経由する敗血症、隣接臓器からの直接波及がある。起炎菌は大腸菌、Klebsiella属などのグラム陰性桿菌が多い。 2)アメーバ性肝膿瘍:大腸に感染した赤痢アメーバが門脈を経て肝臓へ達して生じる。右葉に単発で生じやすく、膿は「チョコレート状(アンチョビソース様)」と表現される。男性同性間の性的接触、流行地への渡航、施設内感染などが背景となる。治療はメトロニダゾール。
偽膜性腸炎(C. difficile感染症)
抗菌薬(クリンダマイシン、セフェム系、キノロン系などが代表的)の使用後、高齢者、入院患者に多い。下痢、腹痛、発熱を呈し、内視鏡では黄白色の小隆起(偽膜)が散在・融合してみられる。診断は便中のトキシンや抗原(GDH)の検出、遺伝子検査による。治療は原因抗菌薬の中止と、バンコマイシン経口投与またはフィダキソマイシンなどである(メトロニダゾールは軽症例で用いられることがある)。
Meckel憩室の特徴(「2の法則」)
人口の約2%にみられ、回盲弁から約2フィート(約60cm)口側にあり、長さ約2インチ(約5cm)、2歳以下で症状が出やすい、などと覚える。憩室内に異所性胃粘膜や膵組織を含むことがあり、異所性胃粘膜からの酸分泌で周囲の回腸に潰瘍ができると下血を起こす。診断には異所性胃粘膜に集積する99mTcO4-シンチグラフィ(Meckelシンチ)が用いられる。症状は下血、腸重積・イレウス、憩室炎など。
炎症性腸疾患の主な合併症の比較
潰瘍性大腸炎:中毒性巨大結腸症、大量出血、穿孔、大腸癌(長期経過例)。腸管外合併症として原発性硬化性胆管炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、関節炎、ぶどう膜炎など。 Crohn病:痔瘻・肛門周囲膿瘍、瘻孔、狭窄、腸閉塞、膿瘍、吸収障害による栄養障害。腸管外合併症は潰瘍性大腸炎と共通するものが多い。
POINT
・肝膿瘍を合併する腸疾患:アメーバ赤痢(門脈経由)。偽膜性腸炎ではない ・偽膜性腸炎の重篤な合併症:中毒性巨大結腸症、穿孔 ・Crohn病:全層性炎症→痔瘻・瘻孔・狭窄 ・潰瘍性大腸炎:重症例で中毒性巨大結腸症(緊急手術の適応となりうる) ・Meckel憩室:腸重積・絞扼などによるイレウス、異所性胃粘膜による下血 ・虚血性大腸炎:多くは一過性型だが、壊死型は穿孔・腹膜炎をきたす
