StudyMed医師国家試験

慢性炎症が癌を育てる―胆管癌のリスクファクターとPBCの落とし穴

第109回医師国家試験 I問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第109回 I問題 第15問

胆管癌のリスクファクターでないのはどれか。

  1. a.肝内結石症
  2. b.先天性胆道拡張症
  3. c.膵・胆管合流異常症
  4. d.原発性硬化性胆管炎
  5. e.原発性胆汁性肝硬変〈原発性胆汁性胆管炎〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胆管癌のリスクファクターでないものを選ぶ問題だ。並んでいる選択肢はどれも胆道の病気なので紛らわしいけれど、判断の軸は一つ。「その病態が、太い胆管の上皮を長期間、炎症や化学的刺激、胆汁うっ滞にさらし続けるかどうか」だ。
医学生医学生
慢性炎症が発癌につながるというのは、病理学の講義で習った炎症発癌の考え方ですね。
ドクタードクター
そう。傷害と再生を繰り返すうちに遺伝子異常が積み重なり、過形成、異形成、そして癌へと進む。胆管では胆管上皮内腫瘍、BilINという前癌病変が知られている。ではまず、肝内結石症はどうかな。
医学生医学生
結石があれば胆汁が滞って、細菌感染による胆管炎を繰り返しそうです。リスクになると思います。
ドクタードクター
正解。特に肝内胆管癌の高危険群とされ、経過観察中や肝切除の標本で癌が見つかることもある。注意したいのは、結石を取り除いても胆管狭窄や炎症が残っていればリスクは消えないことだ。だから長期の経過観察が必要になる。
医学生医学生
先天性胆道拡張症と膵・胆管合流異常は、セットで出てくることが多い気がします。
ドクタードクター
鋭いね。膵・胆管合流異常は、膵管と胆管が十二指腸壁の外で合流するため、Oddi括約筋の作用が合流部に及ばない先天異常だ。膵液が胆道内に逆流し、活性化された膵酵素などが胆道上皮を障害し続ける。先天性胆道拡張症のほとんどはこの合流異常を合併しているから、どちらも胆道癌のリスクになる。
医学生医学生
小児外科の実習で、胆道拡張症の子どもが診断後すぐに手術を受けていました。癌の予防のためだったんですね。
ドクタードクター
その通り。拡張胆管を切除して胆汁と膵液の流れを分ける分流手術を行う。ちなみに合流異常でも、胆管拡張がある型では胆管癌と胆嚢癌の両方に、拡張がない型では特に胆嚢癌に注意が必要だ。非拡張型では合併する胆道癌の大半が胆嚢癌なんだ。
医学生医学生
原発性硬化性胆管炎はどうでしょう。名前に胆管炎とあるので、慢性炎症そのものですよね。
ドクタードクター
まさに典型例だ。肝内外の胆管に原因不明の炎症と線維化が起こり、多発性の狭窄と拡張をきたす。MRCPやERCPでは数珠状の所見が見られる。経過中に胆管癌を合併する頻度はおよそ10%とされ、重要な死因の一つだよ。困るのは、良性の狭窄と癌による狭窄の区別が難しいことだ。
医学生医学生
では、原発性胆汁性胆管炎も胆管の病気なのでリスクになりそうに思えます。でも残るのはこれだけですね。
ドクタードクター
そこが落とし穴だ。PBCが正解、つまり胆管癌のリスクファクターとはされていない。PBCは中年女性に多い自己免疫性疾患で、抗ミトコンドリア抗体が陽性になり、肝内の小葉間胆管が慢性非化膿性破壊性胆管炎によって少しずつ壊されて消えていく。病変は顕微鏡レベルの細い胆管に限られていて、PSCのように太い胆管に慢性炎症や狭窄を起こすわけではないんだ。
医学生医学生
同じ「胆管炎」でも、壊れて消えていく細い胆管と、炎症が続いて狭窄する太い胆管では意味が違うということですね。
ドクタードクター
いい言い換えだ。PBCが進行して肝硬変に至った場合に問題になる悪性腫瘍は肝細胞癌だよ。ちなみに旧称の原発性胆汁性肝硬変は、診断時に肝硬変になっていない例が大半であることから、2016年に原発性胆汁性胆管炎へと名称が変わった。
医学生医学生
PBCとPSCは国試で対比されやすいので、まとめて覚えたいです。
ドクタードクター
PBCは中年女性、抗ミトコンドリア抗体、小葉間胆管の破壊、治療はウルソデオキシコール酸が第一選択。PSCは若年男性と高齢者に二峰性のピークがあり、潰瘍性大腸炎の合併が多く、胆管癌に加えて大腸癌のリスクも上がる。有効な薬物治療は確立しておらず、進行例では肝移植が考慮される。PSCの患者で黄疸が急に悪化したり、狭窄が進んだり、CA19-9が上がったりしたら、胆管癌の合併を疑うのが臨床上の注意点だ。
医学生医学生
ほかのリスクファクターも知っておくべきですか。
ドクタードクター
アジアの流行地では肝吸虫などの寄生虫感染が重要だ。化学物質では、かつて造影剤に使われたトロトラストや、印刷業務での1,2-ジクロロプロパンが知られている。わが国では印刷事業場での集団発生を機に、職業性の胆管癌として認定された経緯がある。公衆衛生の講義でも出てくるテーマだね。

まとめ

胆管癌は、胆管上皮が慢性炎症、化学的刺激、胆汁うっ滞に長期間さらされることを背景に発生します。肝内結石症、膵・胆管合流異常とそれを高率に伴う先天性胆道拡張症、原発性硬化性胆管炎は代表的なリスクファクターで、PSCでは胆管癌の合併がおよそ10%とされ、大腸癌のリスクも高まります。一方、原発性胆汁性胆管炎は小葉間胆管が自己免疫的に破壊される疾患で胆管癌の高危険群ではなく、肝硬変期に問題となるのは肝細胞癌です。ほかに肝吸虫感染や1,2-ジクロロプロパンなどの化学物質も危険因子として知られています。「どの胆管に、どんな刺激が続くのか」という視点で整理すると、名前の似た疾患を取り違えず、高危険群の適切な経過観察にもつなげられます。

解答・解説

正解はeです

胆管癌(胆管上皮から発生する悪性腫瘍)の発生には、胆管上皮が長期間にわたって炎症・刺激・うっ滞にさらされることが深く関わっている。慢性的な炎症の下では上皮の傷害と再生が繰り返され、その過程で遺伝子異常が積み重なり、過形成→異形成(胆管上皮内腫瘍〈BilIN〉など)→癌へと進展すると考えられている。 したがって、胆管癌のリスクファクターを考える際は「胆管に持続的な炎症や化学的刺激、胆汁うっ滞をもたらす病態かどうか」を基準にすればよい。代表的なものは、肝内結石症(結石による慢性胆管炎)、膵・胆管合流異常(膵液の胆道内逆流による化学的刺激)とそれを高率に伴う先天性胆道拡張症、原発性硬化性胆管炎(胆管の慢性炎症と線維化)である。 一方、原発性胆汁性胆管炎(PBC、旧称:原発性胆汁性肝硬変)は肝内の小葉間胆管が自己免疫的に破壊される疾患であるが、胆管癌の高危険群とはされていない。進行して肝硬変に至った例で問題となる悪性腫瘍は肝細胞癌である。本問は「リスクファクターでないもの」を問うており、これが正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  肝内結石症

    胆管癌のリスクファクターである。肝内胆管に結石が存在すると、胆汁のうっ滞と細菌感染による慢性胆管炎が繰り返し起こり、胆管上皮が持続的に傷害される。このため、とくに肝内胆管癌(肝内胆管から発生する胆管細胞癌)の高危険群とされ、肝内結石症の経過観察中や肝切除標本で癌が見つかることがある。結石の除去後も胆管狭窄や炎症が残っていれば発癌リスクは消えないため、長期の経過観察が必要である。

  2. ×b.  先天性胆道拡張症

    胆管癌のリスクファクターである。先天性胆道拡張症(総胆管を含む肝外胆管が嚢腫状・紡錘状に拡張する先天異常)のほとんどは膵・胆管合流異常を合併している。そのため膵液が胆道内に逆流して拡張胆管内にうっ滞し、胆管上皮を慢性的に刺激することで、胆管癌・胆嚢癌の両方が高率に発生する。発癌予防のため、診断がついた時点で拡張胆管の切除と胆道再建(分流手術)が行われる。

  3. ×c.  膵・胆管合流異常症

    胆管癌のリスクファクターである。膵・胆管合流異常は、膵管と胆管が十二指腸壁外で合流するため、乳頭部括約筋(Oddi括約筋)の作用が合流部に及ばない先天異常である。膵液と胆汁が相互に逆流し、とくに膵液の胆道内への逆流により活性化された膵酵素やリゾレシチンなどが胆道上皮を障害し続けることで発癌に至る。 わが国の全国集計(成人例)では、胆道癌の合併頻度は胆管拡張例で約2割、胆管非拡張例で約4割と高い。合併した胆道癌の内訳をみると、胆管拡張例では胆嚢癌が約6割・胆管癌が約3割を占めるのに対し、非拡張例では胆嚢癌が約9割に達し、胆管癌は1割未満(約7%)にとどまる。つまり拡張型では胆管癌・胆嚢癌の両方に、非拡張型ではとくに胆嚢癌に注意が必要である。いずれの型でも胆管癌の発生母地となるため、リスクファクターに含まれる。

  4. ×d.  原発性硬化性胆管炎

    胆管癌のリスクファクターである。原発性硬化性胆管炎(PSC)は、肝内外の胆管に原因不明の慢性炎症と線維化が起こり、多発性の狭窄と拡張をきたす疾患で、潰瘍性大腸炎の合併が多い。持続する胆管の炎症を背景に、肝内・肝外のいずれにも胆管癌が発生しうる。経過中に胆管癌を合併する頻度は約10%とされ、PSCの重要な死因の一つである。良性の狭窄と癌による狭窄の区別が難しいことが臨床上の問題であり、狭窄の急な進行や黄疸の増悪、CA19-9上昇があれば癌の合併を疑う。

  5. ○e.  原発性胆汁性肝硬変〈原発性胆汁性胆管炎〉

    胆管癌のリスクファクターとはされていないため、これが正解である。原発性胆汁性胆管炎(PBC)は中年女性に多い自己免疫性の肝疾患で、抗ミトコンドリア抗体が陽性となり、肝内の小葉間胆管が慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)によって徐々に破壊・消失する。胆管の病変は顕微鏡レベルの細い胆管に限られ、PSCのように太い胆管の慢性炎症・狭窄を起こすわけではない。病期が進んで肝硬変に至ると肝細胞癌の発生がみられることはあるが、胆管癌の発生が増えることは確立していない。

胆管癌の分類

胆管癌は発生部位によって、肝内胆管癌(肝内の胆管から発生し、肝原発悪性腫瘍として扱われる)と肝外胆管癌(肝門部領域胆管癌・遠位胆管癌)に分けられる。肝外胆管癌は胆嚢癌・乳頭部癌とともに「胆道癌」として扱われる。

胆管癌の主なリスクファクター

・膵・胆管合流異常(先天性胆道拡張症を含む):膵液の逆流による化学的刺激。成人例の胆道癌合併は胆管拡張型で約2割、非拡張型で約4割。拡張型では胆嚢癌に加えて胆管癌(合併癌の約3割)も多く、非拡張型では合併癌の大半(約9割)が胆嚢癌である ・原発性硬化性胆管炎:胆管の慢性炎症・線維化 ・肝内結石症:胆汁うっ滞と慢性胆管炎 ・肝吸虫などの寄生虫感染:アジアの流行地で重要 ・化学物質への曝露:かつて造影剤として使われたトロトラスト、印刷業務における1,2-ジクロロプロパンなど(わが国では印刷事業場での胆管癌の集団発生を機に職業性疾患として認定された) ・肝内胆管癌ではB型・C型慢性肝炎や肝硬変も危険因子とされる

PBCとPSCの対比

・PBC:中年女性に多い。抗ミトコンドリア抗体陽性。小葉間胆管の破壊。ウルソデオキシコール酸が第一選択。合併する悪性腫瘍は主に肝細胞癌(肝硬変期)。 ・PSC:若年男性と高齢者に二峰性のピーク。潰瘍性大腸炎の合併が多い。ERCP/MRCPで数珠状の狭窄と拡張。胆管癌の合併がおよそ10%、大腸癌のリスクも上昇する。有効な薬物治療は確立しておらず、進行例では肝移植が考慮される。

名称変更

「原発性胆汁性肝硬変」は、診断時に肝硬変に至っていない例が大半であることから、2016年に「原発性胆汁性胆管炎」へ名称が変更された(略称PBCは同じ)。

POINT

・胆管癌は「胆管の慢性炎症・化学的刺激・胆汁うっ滞」を背景に発生する。 ・リスクファクター:膵・胆管合流異常(先天性胆道拡張症)、原発性硬化性胆管炎、肝内結石症、肝吸虫、化学物質(1,2-ジクロロプロパン、トロトラスト)。 ・原発性胆汁性胆管炎(PBC)は胆管癌の高危険群ではない。肝硬変期に問題となるのは肝細胞癌である。 ・PSCは胆管癌(約10%)と大腸癌のリスクが高い点を必ずセットで覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。