見つけても切らない、抜かない―無症状の大腸憩室症は「経過観察」が正解
第109回医師国家試験 I問題 第12問
国試問題にチャレンジ
人間ドックによる大腸がん検診の下部消化管内視鏡像を別に示す。自覚症状はない。 対応として適切なのはどれか。

- a.経過観察
- b.抗菌薬投与
- c.生検
- d.大腸全摘術
- e.粘膜切除術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
大腸内視鏡で腸管壁に多数の円形のくぼみ(開口部)を認めれば大腸憩室症であり、その大部分は筋層を欠く後天性の仮性憩室です。憩室そのものは癌化せず、無症状で炎症や出血などの合併症がなければ治療の対象とならないため、経過観察とし、症状出現時の受診と便通の調整を指導します。抗菌薬は憩室炎の治療に、手術は合併症を繰り返す例や重篤な合併症の例に限られ、生検や粘膜切除は不要であるうえ、壁が薄いため穿孔の危険を伴います。合併症としては、CTで診断し抗菌薬などで治療する憩室炎と、高齢者の無痛性血便の原因となる憩室出血が重要です。「所見がある=処置が必要」と短絡せず、病変の性質と症状の有無から介入の要否を判断する姿勢は、検診で見つかるさまざまな所見への対応に通じる基本です。
解答・解説
正解はaです
画像の読み取り
下部消化管内視鏡像では、大腸壁に円形〜楕円形の小さなくぼみ(開口部)が多数認められる。これは粘膜が腸管壁の外側へ袋状に飛び出した憩室の入り口であり、大腸憩室が多発した状態、すなわち大腸憩室症と診断できる。開口部周囲の粘膜に発赤・浮腫・膿の付着といった炎症所見はなく、出血もみられない。腫瘍を疑わせる隆起や不整な陥凹も認めない。
対応の考え方
対象者は人間ドックで内視鏡を受けた無症状の人である。憩室そのものは多くの場合無症状のまま経過し、癌化することもない。治療が必要になるのは、憩室炎(腹痛・発熱・炎症反応上昇)や憩室出血(無痛性の血便)などの合併症を起こした場合に限られる。したがって、合併症のない無症状の大腸憩室症に対しては、特別な治療や検査を追加せず経過観察とするのが適切である。 本問は「所見がある=何か処置が必要」と短絡せず、病変の性質と症状の有無から介入の必要性を判断できるかを問うている。
選択肢考察
- ○a. 経過観察
無症状で炎症や出血などの合併症を伴わない大腸憩室症は治療の対象とならない。憩室は悪性化しないため、定期的な特別の検査も不要である。腹痛・発熱・血便などが出現したら受診するよう説明したうえで経過観察とするのが適切である。生活上の助言として、便秘を避け食物繊維を十分にとることが勧められる。
- ×b. 抗菌薬投与
抗菌薬は、憩室に便などが詰まって細菌感染を起こした憩室炎(左下腹部痛や右下腹部痛、発熱、白血球増加・CRP上昇を伴う)の治療に用いられる。本例は無症状で内視鏡上も炎症所見がないため、抗菌薬投与の適応はない。予防的な投与も推奨されない。
- ×c. 生検
生検は、腫瘍や炎症性腸疾患など組織学的な確認が必要な病変が疑われるときに行う。憩室は腸壁の構造的な変化であり、内視鏡の見た目だけで診断がつく。さらに憩室の部分は筋層を欠いて壁が薄いため、不用意に生検すると穿孔の危険がある。本例で生検を行う必要はない。
- ×d. 大腸全摘術
大腸全摘術は、家族性大腸腺腫症(FAP)などの大腸ポリポーシスや、内科治療に抵抗する、あるいは癌・高度異形成を合併した潰瘍性大腸炎などに行われる侵襲の大きい手術である。憩室症では、憩室炎を繰り返す例や穿孔・膿瘍・瘻孔・狭窄を生じた例、止血困難な憩室出血の例でも、病変部の部分切除(S状結腸切除など)が基本であり、無症状例に全摘を行うことはない。
- ×e. 粘膜切除術
内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、腺腫や、リンパ節転移の可能性がきわめて低い早期大腸癌(粘膜内癌、または粘膜下層への浸潤がごく軽度にとどまる癌)など、粘膜の腫瘍性病変を切除するための治療である。憩室は腫瘍ではなく切除の対象とならない。また憩室部は壁が薄く、切除すれば穿孔の危険が高い。
大腸憩室の定義と分類
大腸憩室は、大腸壁の一部が腸管の外側へ袋状に突出したものであり、これが多発した状態を大腸憩室症という。憩室壁が腸管壁の全層(粘膜・粘膜下層・筋層・漿膜)からなるものを真性憩室(多くは先天性)、筋層を欠き粘膜と粘膜下層だけが突出したものを仮性憩室(後天性)とよぶ。大腸憩室の大部分は仮性憩室である。
成因
直動脈(血管)が筋層を貫く部位は筋層が弱く、腸管内圧が上昇すると、そこから粘膜が押し出されて憩室ができる。食物繊維の少ない食事や便秘による腸管内圧の上昇、加齢による腸管壁の脆弱化が関与し、高齢になるほど頻度が高い。
好発部位
欧米ではS状結腸を中心とした左側結腸に多い。日本ではかつて右側結腸(盲腸・上行結腸)に多いとされたが、食生活の欧米化と高齢化に伴い、左側結腸や両側に多発する例が増えている。
合併症
1)憩室炎:憩室内での細菌感染。右側では虫垂炎と、左側ではほかの腹部疾患との鑑別が必要。診断には腹部CTが有用で、急性期の大腸内視鏡は穿孔の危険があるため避ける。軽症は絶食・輸液・抗菌薬で治療し、膿瘍形成ではドレナージ、穿孔による汎発性腹膜炎では緊急手術を行う。 2)憩室出血:腹痛を伴わない突然の血便で発症し、高齢者の下部消化管出血の原因として頻度が高い。抗血栓薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用が危険因子となる。多くは自然に止血するが、内視鏡的止血術(クリップ、結紮術など)、血管塞栓術、手術が必要となることもある。 3)そのほか:穿孔、膿瘍、瘻孔(膀胱との瘻孔による気尿・糞尿など)、狭窄。
POINT
・内視鏡で多数の円形の開口部(くぼみ)→大腸憩室症 ・大腸憩室の大部分は筋層を欠く仮性(後天性)憩室 ・無症状で合併症のない憩室症は経過観察でよい(癌化しない) ・治療対象は合併症:憩室炎(抗菌薬、重症例は手術)、憩室出血(内視鏡的止血など) ・日本ではかつて右側結腸に多かったが、近年は左側結腸の憩室が増加している
