StudyMed医師国家試験

接合部から縦に走る赤い線―内視鏡で読み解く逆流性食道炎

第109回医師国家試験 I問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第109回 I問題 第11問

上部消化管内視鏡像を別に示す。  診断はどれか。

第109回 I問題 第11問の問題画像
  1. a.食道平滑筋腫
  2. b.逆流性食道炎
  3. c.食道静脈瘤
  4. d.進行食道癌
  5. e.食道憩室

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は上部消化管内視鏡の写真1枚から食道の病気を見分ける問題だ。ポイントは「病変がどこにあるか」「どんな形・色をしているか」の2つ。選択肢には、腫瘍、炎症、血管の病気、癌、形の異常と、性質のまったく違う食道疾患が並んでいる。まず写真を見て、何が一番目につくかな。
医学生医学生
下部食道に赤い筋が何本か縦に走っていて、白っぽいものが付いているように見えます。癌の潰瘍でしょうか。
ドクタードクター
白いものに注目したのはいいね。あれは白苔といって、びらんや潰瘍の表面を覆う付着物だ。ただ癌の潰瘍なら、周りが土手のように盛り上がった深い潰瘍や、不整な隆起になることが多い。今回は浅いびらんが、食道胃接合部に接して始まり、ひだに沿って縦に口側へ伸びている。この「場所」と「並び方」に意味があるんだ。
医学生医学生
胃との境目から始まっているということは、胃から何かが上がってきている、ということですか。
ドクタードクター
その通り。胃酸や胃内容物が逆流すると、いちばん強くさらされるのは接合部のすぐ上の粘膜だ。だから粘膜傷害は接合部から始まり、ひだの頂上に沿って縦長の線状びらんとして現れる。接合部に接している、縦走・線状、浅いびらんと白苔、この3つがそろえば逆流性食道炎と診断できる。
医学生医学生
消化器内科の講義で習ったロサンゼルス分類の写真に似ている気がします。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。逆流性食道炎の重症度はロサンゼルス分類で評価する。粘膜傷害がひだ1本に限局した5mm未満ならGrade A、5mm以上あるけれど別々のひだの傷害がつながっていなければB、2本以上のひだにまたがって連続すればC、全周の75%以上ならDだ。日本では、色調変化だけのGrade Mと、変化なしのGrade Nも加えている。今回のように複数のひだにびらんがある像は、おおむねBからC程度に相当すると考えられる。
医学生医学生
では、ほかの選択肢との違いも確認したいです。食道平滑筋腫は、CBTの勉強では粘膜下腫瘍の代表と覚えました。
ドクタードクター
そう、食道平滑筋腫は食道の非上皮性良性腫瘍で最も多く、筋層から発生するので粘膜下腫瘍の形をとる。正常な粘膜に覆われた、表面なめらかな半球状の盛り上がりとして見えるのが特徴で、びらんや白苔は通常伴わない。線状のびらんとは見た目がまるで違うね。
医学生医学生
食道静脈瘤も縦に走るので、ちょっと紛らわしい気がします。
ドクタードクター
縦に走るという点は共通しているから、そこは良い疑問だ。ただ静脈瘤は、門脈圧亢進症で粘膜下の静脈が太くなったものだから、青っぽい色調の、直線状・蛇行状・数珠状の「盛り上がり」として見える。進行すると表面に発赤所見、つまりred color signが出てくる。今回は盛り上がりではなく、粘膜表面の浅い傷が主体だから区別できる。
医学生医学生
食道憩室は、壁が外に袋状に飛び出したものでしたよね。
ドクタードクター
そう、内視鏡では内腔から外へ向かう穴やくぼみとして見える。咽頭食道部のZenker憩室、中部食道の牽引性憩室、横隔膜上憩室などがある。今回の写真に袋状のくぼみはないね。進行食道癌は先ほど話したように、限局潰瘍型の2型が最も多く、周堤を伴う深い潰瘍や狭窄が目立つ。
医学生医学生
色と形で、粘膜下の腫瘍、血管、炎症、癌、構造の異常を見分けるわけですね。病態がわかっていれば、見え方も予想できる気がします。
ドクタードクター
まさにそれが内視鏡読影のコツだよ。ここから臨床の話を少し広げよう。胸やけや呑酸などの症状と粘膜傷害をまとめて胃食道逆流症、GERDという。内視鏡で粘膜傷害があるものが逆流性食道炎、症状はあるのに傷害がないものを非びらん性胃食道逆流症、NERDとよぶんだ。
医学生医学生
原因としては、下部食道括約筋のゆるみや食道裂孔ヘルニアでしょうか。臨床実習で、背中の曲がった高齢の方が胸やけで受診していました。
ドクタードクター
よく結びつけたね。一過性の括約筋弛緩、食道裂孔ヘルニアに加え、肥満・妊娠・円背などの腹圧上昇、高脂肪食も関わる。ピロリ菌の除菌後に胃酸分泌が回復して悪化することもある。治療は減量や就寝前の食事を避けるといった生活指導と、プロトンポンプ阻害薬やボノプラザンなどのP-CABによる酸分泌抑制が中心だ。重症例では維持療法を行い、薬が効きにくい例や大きな裂孔ヘルニアを伴う例では腹腔鏡下噴門形成術が検討される。
医学生医学生
長く続くと何か怖い合併症はありますか。
ドクタードクター
出血や潰瘍、瘢痕による狭窄のほか、下部食道の扁平上皮が円柱上皮に置き換わるBarrett食道が重要だ。これは食道腺癌の発生母地になるから、慢性的な逆流のある人では、内視鏡で接合部の粘膜をよく観察する習慣をつけておこう。

まとめ

逆流性食道炎の典型的な内視鏡像は、食道胃接合部に接して始まり、ひだに沿って縦に伸びる線状の発赤と、白苔を伴う浅いびらんです。これは逆流した胃酸に最もさらされるのが接合部直上の粘膜であることを反映しており、重症度はロサンゼルス分類で評価します。鑑別として、食道平滑筋腫は正常粘膜に覆われた半球状の粘膜下腫瘍、食道静脈瘤は青色調で数珠状の縦走隆起、進行食道癌は周堤を伴う深い潰瘍や不整な隆起、食道憩室は壁外へのくぼみとして見えます。治療の中心は生活指導とPPIやP-CABによる酸分泌抑制で、慢性化するとBarrett食道から食道腺癌につながりうる点にも注意が必要です。病態から内視鏡での「色と形」を予想できるようにしておくことが、食道疾患を見分ける力の土台になります。

解答・解説

正解はbです

画像の読み取り

内視鏡像では、食道胃接合部(下部食道と胃の境目)から口側に向かって、食道の長軸方向(縦方向)に伸びる線状の発赤と、白苔(潰瘍やびらんの表面を覆う白い付着物)を伴う浅いびらん・潰瘍が複数本みられる。これらの病変は接合部に接して始まり、口側へ連続して広がっている。粘膜下腫瘍のような半球状の隆起、青色調の怒張した静脈、腫瘍による不整な隆起や深い潰瘍、壁の外側への袋状のくぼみはいずれも認めない。

診断の考え方

胃酸や胃内容物が食道へ逆流すると、最も強く曝露されるのは食道胃接合部の直上の粘膜である。そのため、粘膜傷害(粘膜障害、mucosal break)は接合部から始まり、食道のひだの頂上に沿って縦に伸びる線状のびらんとして現れるのが典型である。「接合部に接している」「縦走・線状」「浅いびらん・白苔」という3つの特徴がそろえば、逆流性食道炎と診断できる。 本問は、代表的な食道疾患(粘膜下腫瘍、炎症、血管病変、悪性腫瘍、形態異常)の内視鏡像の特徴を区別できるかを問うている。それぞれの疾患でどのような色調・形態の病変になるかを、病態と結びつけて理解しておくことが重要である。

選択肢考察

  1. ×a.  食道平滑筋腫

    食道平滑筋腫は食道の非上皮性良性腫瘍(上皮以外の組織から生じる腫瘍)で最も頻度が高い。筋層から発生するため粘膜下腫瘍の形をとり、表面がなめらかな半球状の隆起として見える。表面は正常な粘膜に覆われており、びらんや潰瘍は通常伴わない。本画像の線状びらんとは所見が全く異なるため誤りである。

  2. ○b.  逆流性食道炎

    食道胃接合部に接して、長軸方向に配列する線状の発赤と白苔を伴う浅いびらん(粘膜傷害)が複数みられ、口側へ連続している。これは酸逆流によって接合部直上の粘膜が傷害されたときの典型像であり、逆流性食道炎の内視鏡所見に合致する。複数のひだ上にびらんがみられるため、ロサンゼルス分類ではおおむねGrade B〜C程度に相当する所見と考えられる。

  3. ×c.  食道静脈瘤

    食道静脈瘤は門脈圧亢進症(主に肝硬変)によって食道粘膜下の静脈が拡張したもので、内視鏡では青色調〜白色調の、直線状・蛇行状・連珠状(数珠のように連なる)の縦走する隆起として見える。進行すると表面に発赤所見(red color sign)が現れる。本画像はびらん・白苔を主体とし、怒張した静脈の隆起を認めないため誤りである。

  4. ×d.  進行食道癌

    進行食道癌(癌が固有筋層以深に及ぶもの)は、肉眼型では限局潰瘍型(2型)が最も多く、ほかに隆起型(1型)、潰瘍浸潤型(3型)、びまん浸潤型(4型)がある。いずれも腫瘍による不整な隆起、周堤(潰瘍を囲む土手状の盛り上がり)を伴う深い潰瘍、内腔の狭窄などを示す。本画像の浅く規則的な線状びらんとは異なるため誤りである。

  5. ×e.  食道憩室

    食道憩室は食道壁の一部が外側へ袋状・テント状に突出したもので、内視鏡では食道内腔から外側へ向かうくぼみ(陥凹・開口部)として見える。発生部位により咽頭食道憩室(Zenker憩室)、中部食道の牽引性憩室、横隔膜上憩室などに分けられる。本画像では袋状のくぼみを認めず、粘膜表面の線状びらんが主体であるため誤りである。

逆流性食道炎と胃食道逆流症(GERD)

胃食道逆流症(GERD: gastroesophageal reflux disease)は、胃内容物の食道への逆流によって胸やけ・呑酸(酸っぱい液が上がってくる感覚)などの症状や食道粘膜傷害を生じる病態の総称である。このうち内視鏡で粘膜傷害を認めるものを逆流性食道炎(びらん性GERD)、症状はあるが粘膜傷害を認めないものを非びらん性胃食道逆流症(NERD)とよぶ。

病因

下部食道括約筋(LES)の機能低下や一過性LES弛緩、食道裂孔ヘルニア、腹圧上昇(肥満、妊娠、前屈姿勢)、胃酸分泌の増加、高脂肪食、加齢による円背などが関与する。Helicobacter pylori除菌後に胃酸分泌が回復して発症・増悪することもある。

ロサンゼルス分類(改訂版)

Grade N:内視鏡的に変化を認めない Grade M:色調変化(発赤や白濁)のみ Grade A:長径5mmを超えない粘膜傷害で、粘膜ひだに限局する Grade B:少なくとも1か所の粘膜傷害の長径が5mm以上あり、それぞれ別のひだ上に存在する粘膜傷害が互いに連続していない Grade C:少なくとも1か所の粘膜傷害が2条以上のひだに連続して広がっているが、全周の75%未満 Grade D:全周の75%以上にわたる粘膜傷害 (Grade N・Mは日本で追加された区分である。)

治療

生活習慣の改善(減量、就寝前の食事を避ける、上半身を挙上して寝る、禁煙など)と、酸分泌抑制薬が中心である。第一選択はプロトンポンプ阻害薬(PPI)またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB、ボノプラザン)で、重症例では維持療法を行う。薬物抵抗例や大きな食道裂孔ヘルニアを伴う例では、腹腔鏡下噴門形成術(Nissen手術など)が検討される。

合併症

出血、潰瘍、瘢痕性狭窄のほか、Barrett食道(食道下部の扁平上皮が円柱上皮に置き換わった状態)を生じることがあり、これは食道腺癌の発生母地となる。

POINT

・逆流性食道炎の典型的内視鏡像:食道胃接合部に接し、長軸方向に伸びる線状の発赤・びらん(白苔を伴う浅い潰瘍) ・重症度はロサンゼルス分類(Grade N, M, A〜D)で評価する ・食道平滑筋腫:正常粘膜に覆われた表面平滑な半球状の粘膜下腫瘍 ・食道静脈瘤:青色調の直線状〜連珠状の縦走する隆起 ・進行食道癌:不整な隆起、周堤を伴う潰瘍、狭窄(2型が最多) ・食道憩室:壁外への袋状突出、内視鏡では陥凹として見える ・治療の中心はPPI/P-CABによる酸分泌抑制

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。