StudyMed医師国家試験

裂け目は心臓に届くか―Stanford B型大動脈解離で「起こらない合併症」を見抜く

第109回医師国家試験 I問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第109回 I問題 第10問

Stanford B型急性大動脈解離の合併症として可能性が最も低いのはどれか。

  1. a.血胸
  2. b.腎不全
  3. c.下肢虚血
  4. d.腸管壊死
  5. e.急性心筋梗塞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、Stanford B型の急性大動脈解離で起こりにくい合併症を選ぶ問題だ。ポイントは、B型の解離が大動脈のどこからどこまでに及ぶのか、そしてその範囲からどんな血管が枝分かれしているのか。解剖をイメージできれば答えは自然に出てくるよ。
医学生医学生
A型とB型の違いは、エントリーの位置で決まるんでしたっけ。
ドクタードクター
よくある勘違いだね。Stanford分類はエントリーの位置ではなく、解離が上行大動脈に及ぶかどうかで分ける。上行大動脈に及べばA型で原則緊急手術、及ばなければB型で、合併症がなければ降圧と安静を中心とした内科的治療が基本になる。エントリーの位置で分けるのはDeBakey分類のほうだ。
医学生医学生
あ、そうでした。DeBakeyのⅢ型がStanford B型に対応するんですよね。
ドクタードクター
その通り。では合併症の考え方を整理しよう。大動脈解離の合併症は大きく3つに分けられる。1つ目は外膜が破れる「破裂」、2つ目は分枝の血流が途絶える「臓器灌流障害」、3つ目は上行大動脈や大動脈基部の病変による「心臓関連の合併症」だ。
医学生医学生
B型は下行大動脈から下なので、3つ目の心臓関連は起こりにくい、ということですか。
ドクタードクター
鋭いね。それが今回の核心だ。冠動脈は大動脈基部のバルサルバ洞から出ている。解離が基部に及ぶと冠動脈入口部が圧排されたり、解離が冠動脈そのものに進展したりして心筋梗塞を起こすけれど、これは上行大動脈に解離が及ぶA型でしか成立しない。だからB型の合併症として最も考えにくいのは急性心筋梗塞だ。
医学生医学生
循環器の講義で、A型解離では右冠動脈がやられやすくて下壁梗塞の形をとる、と聞いた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。だからこそ、下壁梗塞の患者さんに安易に抗血栓療法を始める前に解離を疑う視点が大事なんだ。同じ理屈で、心タンポナーデや急性大動脈弁閉鎖不全症もA型に特徴的な合併症だよ。では残りの選択肢を見ていこう。まず血胸はどうかな。
医学生医学生
B型でも下行大動脈が破裂すれば起こりそうです。
ドクタードクター
そう。急性期の偽腔の外側の壁は外膜と中膜の一部しかなく、とても薄くてもろい。偽腔の圧に耐えきれず破れると、下行大動脈は左胸腔に接しているから左血胸になることが多い。B型でも起こりうる重篤な合併症で、ステントグラフト内挿術、いわゆるTEVARや手術による緊急治療が必要になる。
医学生医学生
腎不全や腸管壊死、下肢虚血は、2つ目の臓器灌流障害ですね。
ドクタードクター
その通り。B型解離は腹部大動脈まで進展することが多い。解離が分枝に直接及んだり、膨らんだ偽腔が真腔を押しつぶして分枝の入口をふさいだりすると、その先の臓器が虚血になる。腎動脈なら急性腎障害、上腸間膜動脈や腹腔動脈なら腸管虚血から腸管壊死、腸骨動脈なら下肢虚血だ。
医学生医学生
腸管虚血は早期にはお腹の所見が乏しいと、消化器外科の実習で教わりました。
ドクタードクター
大事なポイントだね。腹痛の割に腹部所見が軽い、代謝性アシドーシスや乳酸値上昇がある、といった手がかりを見逃さないこと。腸管虚血を合併したB型解離は予後不良で、速やかな血行再建が必要になる。下肢虚血も、重症なら再灌流後に高カリウム血症やミオグロビン尿による腎障害が起こりうるから注意が必要だ。
医学生医学生
選択肢以外で、B型でも起こる灌流障害はありますか。
ドクタードクター
対麻痺を覚えておこう。肋間動脈や腰動脈を介した脊髄の血流が障害されると起こる。逆に、脳虚血や上肢の血圧左右差は、腕頭動脈や総頸動脈が関わるA型で目立つ所見だ。
医学生医学生
血管の枝分かれの地図を頭に描けば、どの合併症が起こるか推測できるんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。最後に臨床の注意点だ。合併症のないB型は、β遮断薬などで収縮期血圧100〜120 mmHg程度を目標に降圧し、心拍数と痛みをコントロールする。一方、破裂や切迫破裂、臓器灌流障害、治療に抵抗する痛みや高血圧、大動脈径の急速な拡大がある「complicated B型」ではTEVARなどを考える。また、B型で発症しても解離が上行大動脈へ逆行性に進展すれば、その時点でA型として扱う。慢性期も偽腔が拡大して解離性大動脈瘤になることがあるから、画像での経過観察が欠かせない。
医学生医学生
B型だから安心、ではなく、灌流障害と破裂がないかを常に見張るということですね。

まとめ

Stanford分類は解離が上行大動脈に及ぶかどうかで分け、及ぶA型は原則緊急手術、及ばないB型は合併症がなければ降圧・安静を中心とした内科的治療が基本です。冠動脈は大動脈基部から分岐するため、解離による急性心筋梗塞は心タンポナーデや急性大動脈弁閉鎖不全症と同様にA型の合併症であり、B型では起こりにくいと考えます。B型で問題となるのは、下行大動脈の破裂による血胸と、腎動脈・上腸間膜動脈・腸骨動脈・肋間動脈などの分枝の灌流障害による腎不全、腸管壊死、下肢虚血、対麻痺です。破裂や灌流障害を伴うcomplicated B型ではTEVARなどの侵襲的治療を考慮し、逆行性進展や慢性期の瘤化にも注意します。解離の範囲と分枝の解剖を結びつけて合併症を予測する考え方は、救急外来での迅速な評価と治療方針の決定に直結します。

解答・解説

正解はeです

大動脈解離は、大動脈の内膜に亀裂(エントリー)が生じ、血液が中膜内に流れ込んで大動脈壁が二層に裂け、本来の血管腔(真腔)と新たな腔(偽腔)が生じる病態である。

Stanford分類

解離の範囲に基づく分類で、治療方針の決定に直結する。 ・A型:上行大動脈に解離が及ぶもの(エントリーの位置は問わない)。原則として緊急手術の適応。 ・B型:上行大動脈に解離が及ばないもの(主に左鎖骨下動脈分岐部より末梢の下行大動脈以下)。合併症のない例は降圧・安静などの内科的治療が基本となる。

合併症の考え方

大動脈解離の合併症は、(1)外膜の破綻による破裂・出血、(2)解離が分枝に及ぶ、あるいは拡大した偽腔が真腔を圧迫することによる分枝の血流障害(臓器灌流障害〈malperfusion〉)、(3)上行大動脈・大動脈基部の病変による心臓関連の合併症に整理できる。 B型解離の範囲は下行大動脈以下であるため、(1)として血胸・縦隔血腫・後腹膜血腫、(2)として肋間動脈・腰動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈、腎動脈、腸骨動脈などの分枝の虚血による合併症が起こりうる。一方、(3)の心臓関連の合併症、すなわち冠動脈閉塞による急性心筋梗塞、心タンポナーデ、急性大動脈弁閉鎖不全症は、解離が上行大動脈・大動脈基部に及ぶA型に特徴的な合併症である。冠動脈は大動脈基部(バルサルバ洞)から分岐するため、上行大動脈に解離が及ばないB型では、解離が冠動脈に波及して心筋梗塞を起こす機序が成立しない。したがって、B型解離の合併症として可能性が最も低いのは急性心筋梗塞である。

選択肢考察

  1. ×a.  血胸

    急性期の解離した大動脈では、偽腔の外側の壁は外膜と中膜の一部のみで薄く脆弱である。偽腔内圧に耐えきれず破綻すると血液が大動脈外へ漏出し、胸部下行大動脈が胸腔内に破裂すれば血胸となる。下行大動脈は左胸腔に接しているため左血胸となることが多い。破裂はB型解離でも起こりうる重篤な合併症で、ステントグラフト内挿術(TEVAR)や手術による緊急治療の適応となる。

  2. ×b.  腎不全

    B型解離は腹部大動脈まで進展することが多く、解離が腎動脈に直接及ぶ場合や、拡大した偽腔が真腔を圧迫して腎動脈起始部の血流を妨げる場合に、腎血流が低下して急性腎障害(腎不全)をきたす。片側の腎動脈が偽腔から分岐する場合など、病態はさまざまである。腎動脈の血流障害は腎血管性高血圧を介して血圧コントロールを困難にすることもある。

  3. ×c.  下肢虚血

    解離が腹部大動脈の末端から総腸骨動脈に及んだり、偽腔による真腔の圧迫で下肢への血流が低下したりすると、下肢虚血をきたす。下肢の疼痛、冷感、脈拍の消失や左右差がみられ、重症例では筋壊死から再灌流障害(高カリウム血症、ミオグロビン尿による腎障害など)を起こす。

  4. ×d.  腸管壊死

    解離が上腸間膜動脈や腹腔動脈に及んだり、その起始部で偽腔が真腔を圧迫したりすると、腸管への血流が低下して腸管虚血、さらに腸管壊死に至る。腹痛、代謝性アシドーシス、乳酸値の上昇などが手がかりとなるが、早期は所見に乏しいことも多い。腸管虚血を合併したB型解離は予後不良であり、速やかな血行再建を要する。

  5. ○e.  急性心筋梗塞

    大動脈解離に伴う急性心筋梗塞は、解離が大動脈基部に及んで冠動脈入口部が閉塞・圧排されたり、解離が冠動脈そのものに進展したりすることで起こる。冠動脈はバルサルバ洞から分岐するため、この機序は上行大動脈に解離が及ぶStanford A型に限られる(右冠動脈が侵されやすく、下壁梗塞の形をとることが多い)。B型は定義上、上行大動脈に解離が及ばないため、解離による冠動脈閉塞は起こらない。したがってB型解離の合併症として最も可能性が低い。なお、B型として発症した解離が上行大動脈へ逆行性に進展した場合は、その時点でA型として扱われる。

DeBakey分類との対応

・Ⅰ型:エントリーが上行大動脈にあり、解離が弓部より末梢まで及ぶ(Stanford A型)。 ・Ⅱ型:解離が上行大動脈に限局する(Stanford A型)。 ・Ⅲ型:エントリーが下行大動脈にあり、上行大動脈に解離が及ばない(Stanford B型)。腹部に及ばないものをⅢa、腹部に及ぶものをⅢbとする。

Stanford型ごとの主な合併症

・A型に特徴的:心タンポナーデ(心膜腔への破裂)、急性大動脈弁閉鎖不全症(大動脈基部の解離による弁輪の変形・弁尖の支持喪失)、急性心筋梗塞(冠動脈閉塞)、脳虚血(腕頭動脈・総頸動脈の血流障害)、上肢の血圧左右差。 ・A型・B型の両方で起こりうる:血胸・縦隔血腫・後腹膜血腫などの破裂、対麻痺(肋間動脈・腰動脈を介した脊髄の血流障害)、腸管虚血、腎不全、肝機能障害、下肢虚血。

B型解離の治療

合併症のないB型解離は、降圧(β遮断薬などを用い、収縮期血圧100〜120 mmHg程度を目標とする)、心拍数のコントロール、鎮痛、安静による内科的治療が基本である。破裂・切迫破裂、臓器灌流障害、内科的治療に抵抗する疼痛や高血圧、急速な大動脈径の拡大などを伴う「complicated B型」では、エントリー閉鎖を目的とした胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)や外科手術を考慮する。慢性期には偽腔の拡大による解離性大動脈瘤の形成に注意し、画像による経過観察を続ける。

POINT

・Stanford A型:上行大動脈に解離が及ぶ(原則緊急手術)。B型:及ばない(合併症がなければ内科的治療)。 ・冠動脈は大動脈基部から分岐するため、解離による急性心筋梗塞はA型の合併症であり、B型では起こらない。心タンポナーデ・急性大動脈弁閉鎖不全症も同様にA型に特徴的である。 ・B型解離の合併症:破裂(血胸など)と分枝の灌流障害(腎不全、腸管壊死、下肢虚血、対麻痺など)。 ・合併症を伴うB型解離にはTEVARなどの侵襲的治療を考慮する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。