StudyMed医師国家試験

むくみは「左右差」が語る―片側の下腿浮腫で真っ先に疑うべき疾患

第120回医師国家試験 B問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第120回 B問題 第9問

片側の下腿浮腫をきたすことが多いのはどれか。

  1. a.肝硬変
  2. b.橋本病
  3. c.うっ血性心不全
  4. d.深部静脈血栓症
  5. e.ネフローゼ症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は浮腫の「分布」から原因を絞り込む問題だ。浮腫が両足に出ているのか、片足だけなのか。この単純な違いが、原因が全身にあるのか局所にあるのかを教えてくれる。まずは浮腫がどうして起こるのか、基本から整理しよう。
医学生医学生
生理学の講義で習ったStarlingの法則ですね。毛細血管の静水圧と膠質浸透圧のバランスで水の出入りが決まる、という。
ドクタードクター
その通り。浮腫は間質に水がたまった状態で、主な機序は、静水圧の上昇、膠質浸透圧の低下、血管透過性の亢進、リンパ還流の障害の4つ。これに甲状腺機能低下症のような特殊な機序が加わる。では、心不全で下腿がむくむのはどの機序かな。
医学生医学生
右心不全で体静脈圧が上がるので、静水圧の上昇です。
ドクタードクター
正解。ここで大事なのは、体静脈圧の上昇は左右の下肢に等しく及ぶということ。だから心不全の浮腫は両側性で、重力の影響で下腿や足背、寝たきりの人なら背中や仙骨部に目立つ。
医学生医学生
肝硬変とネフローゼ症候群は、どちらも低アルブミン血症で膠質浸透圧が下がるパターンですね。これも全身の血液の問題だから両側性、と。
ドクタードクター
そう。肝硬変では肝臓でのアルブミン合成が落ち、ネフローゼ症候群では尿中に大量の蛋白が失われる。どちらもナトリウム・水の貯留が加わって浮腫が悪化するけれど、条件は全身で同じだから、浮腫は両足に同じように出る。押すと凹みが残る圧痕性浮腫だ。
医学生医学生
橋本病はどうでしょう。甲状腺機能低下症でむくむのは知っていますが、機序がちょっと曖昧です。
ドクタードクター
そこは押さえておきたいね。甲状腺機能低下症が進むと、皮下にヒアルロン酸などのムコ多糖類が沈着して水を抱え込む。これが粘液水腫で、指で押しても凹みが残りにくい非圧痕性浮腫になるのが特徴だ。顔面や下腿前面にみられるけれど、ホルモンの異常は全身に及ぶから、やはり両側性になる。
医学生医学生
ということは、片側に出るのは局所で何かが詰まっている場合で、選択肢では深部静脈血栓症ですね。
ドクタードクター
その通り。深部静脈に血栓ができると、そこより末梢の静脈還流が妨げられて、詰まった側の下肢だけが比較的急に腫れる。疼痛や圧痛、皮膚の発赤や色調変化を伴うことも多い。危険因子はVirchowの三徴で整理しよう。
医学生医学生
血流のうっ滞、血管内皮の障害、凝固能の亢進です。整形外科の実習で、術後の患者さんに弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置を使っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその予防だね。長期臥床、手術後、長時間の座位、悪性腫瘍、妊娠、経口避妊薬などが代表的な危険因子だ。それから、左下肢に多いことも知っておこう。左総腸骨静脈は右総腸骨動脈と椎体の間に挟まれて圧迫されやすいからなんだ。
医学生医学生
血栓が下大静脈まで広がったら両側性になることもありますか。
ドクタードクター
ありうる。だから「多くは片側性」という理解が正確だ。逆に、ネフローゼ症候群は凝固能が亢進するから深部静脈血栓症を合併しやすく、両側の浮腫に片側の腫脹が上乗せされることもある。左右差が急に出てきたら、背景疾患があっても血栓を疑う姿勢が大切だよ。
医学生医学生
片側性の浮腫って、深部静脈血栓症以外にはどんなものがありますか。
ドクタードクター
リンパ浮腫、とくに婦人科癌や乳癌のリンパ節郭清後や放射線治療後の続発性リンパ浮腫が代表だ。慢性化すると非圧痕性になる。ほかに、発赤・熱感を伴う蜂窩織炎、Baker嚢腫の破裂、外傷なども片側性の原因になる。
医学生医学生
診断はDダイマーと超音波でしょうか。
ドクタードクター
そう。まずWellsスコアなどで臨床的な可能性を評価し、低リスクならDダイマー陰性で除外できる。確定には下肢静脈の圧迫超音波検査が第一選択で、血栓がある静脈はプローブで押しても潰れない。治療の中心は抗凝固療法だ。そして何より怖いのは、血栓が飛んで肺血栓塞栓症を起こすこと。片側の下腿浮腫は「見逃してはいけないサイン」だと覚えておこう。

まとめ

浮腫はStarlingの法則に基づき、静水圧の上昇、膠質浸透圧の低下、血管透過性の亢進、リンパ還流の障害などで生じます。心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、甲状腺機能低下症(橋本病)などの全身性疾患では左右の下肢が同じ条件にさらされるため浮腫は両側性となり、甲状腺機能低下症の粘液水腫は非圧痕性である点が特徴です。一方、静脈やリンパ管の局所的な閉塞では障害部位より末梢だけがむくむため片側性となり、その代表が深部静脈血栓症で、Virchowの三徴を背景に左下肢に多く発症します。診断はWellsスコアとDダイマー、圧迫超音波検査で進め、治療は抗凝固療法が中心です。片側の下肢浮腫を見たら肺血栓塞栓症につながる深部静脈血栓症をまず念頭に置くことが、日常診療での見逃し防止につながります。

解答・解説

正解はdです

【テーマ】浮腫の分布(片側性か両側性か)から原因を絞り込む考え方を問う問題である。

浮腫の成り立ち

浮腫は間質(組織間隙)に過剰な水分がたまった状態である。毛細血管での水の出入りはStarlingの法則で説明され、浮腫は主に次の機序で生じる。 ・毛細血管静水圧の上昇:心不全、静脈の閉塞(深部静脈血栓症など) ・血漿膠質浸透圧の低下:低アルブミン血症(肝硬変、ネフローゼ症候群、低栄養) ・毛細血管透過性の亢進:炎症、熱傷、アレルギー ・リンパ還流の障害:リンパ浮腫 ・ムコ多糖類(グリコサミノグリカン)の沈着:甲状腺機能低下症の粘液水腫

分布から考える

全身の循環・血漿蛋白・ホルモンに異常が生じる全身性疾患では、左右の下肢が同じ条件にさらされるため浮腫は両側性となり、重力の影響で下腿や足背、臥床患者では背部・仙骨部に目立つ。一方、静脈やリンパ管の一部が閉塞する局所性の疾患では、障害された部位より末梢側だけに浮腫が生じるため片側性となる。 本問の選択肢のうち、肝硬変・橋本病・うっ血性心不全・ネフローゼ症候群は全身性疾患であり両側性浮腫をきたす。局所の静脈閉塞によって片側性浮腫をきたすことが多いのは深部静脈血栓症である。

選択肢考察

  1. ×a.  肝硬変

    肝硬変では肝臓の蛋白合成能が低下し、血漿蛋白の主成分であるアルブミンが減少する。低アルブミン血症によって血漿膠質浸透圧が下がると、血管内の水分が間質へ移動して浮腫や腹水を生じる。さらに門脈圧亢進や、有効循環血漿量の低下に伴うレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の活性化によるナトリウム・水の貯留も関与する。全身性の機序であり、下腿浮腫は通常両側性で、指で押すと凹みが残る圧痕性浮腫(pitting edema)である。

  2. ×b.  橋本病

    橋本病(慢性甲状腺炎)は甲状腺に対する自己免疫により甲状腺機能が徐々に低下する疾患である。甲状腺機能低下症が進むと、皮下にヒアルロン酸などのムコ多糖類(グリコサミノグリカン)が沈着して水分を保持し、粘液水腫とよばれる浮腫を生じる。指で押しても凹みが残りにくい非圧痕性浮腫(non-pitting edema)が特徴で、顔面(眼瞼)や下腿の前面にみられる。全身のホルモン異常によるため両側性に現れる。

  3. ×c.  うっ血性心不全

    心臓のポンプ機能が低下すると、心室の拡張終期圧が上がり、上流の静脈系にうっ血が生じる。左心不全では肺静脈圧の上昇による肺うっ血(呼吸困難、起坐呼吸)、右心不全では体静脈圧の上昇による頸静脈怒張・肝腫大・下腿浮腫が現れる。体静脈圧の上昇は左右の下肢に等しく及ぶため、下腿浮腫は両側性の圧痕性浮腫となる。腎血流の低下に伴うナトリウム・水の貯留も浮腫を悪化させる。

  4. ○d.  深部静脈血栓症

    深部静脈血栓症(DVT:deep vein thrombosis)は、下腿の深部静脈(ヒラメ静脈など)、膝窩静脈、大腿静脈、腸骨静脈などの深部静脈に血栓が形成される疾患である。血栓より末梢側の静脈還流が妨げられて毛細血管静水圧が上昇するため、閉塞した側の下肢だけに比較的急速な腫脹・浮腫が生じ、疼痛、圧痛、皮膚の発赤や色調変化を伴うことが多い。危険因子は血流のうっ滞(長期臥床、長時間の座位、手術後)、血管内皮の障害、血液凝固能の亢進(悪性腫瘍、妊娠、経口避妊薬、血栓性素因など)である(Virchowの三徴)。解剖学的に左総腸骨静脈が右総腸骨動脈と椎体の間で圧迫されやすいため、左下肢に多い。血栓が下大静脈まで及ぶと両側性になりうるが、多くは片側性であり、片側下腿浮腫の原因として最も重要な疾患である。肺血栓塞栓症の原因となるため見逃してはならない。

  5. ×e.  ネフローゼ症候群

    ネフローゼ症候群は、糸球体の障害により大量の蛋白尿(成人では1日3.5g以上)が出て、低アルブミン血症(血清アルブミン3.0g/dL以下)をきたす病態である。血漿膠質浸透圧の低下に加え、腎臓でのナトリウム貯留も加わって浮腫を生じる。全身性の病態であるため浮腫は両側性で、眼瞼や下腿に目立つ圧痕性浮腫である。高度になると胸水・腹水を伴う。なお、ネフローゼ症候群は凝固能亢進により深部静脈血栓症や腎静脈血栓症を合併しやすく、その場合には片側性の下肢浮腫が加わりうる点は知っておくとよい。

浮腫の分布による鑑別

1.全身性(両側性)浮腫 ・心性:うっ血性心不全(右心不全) ・肝性:肝硬変 ・腎性:ネフローゼ症候群、腎不全、急性糸球体腎炎 ・内分泌性:甲状腺機能低下症(粘液水腫、非圧痕性) ・栄養性:低栄養による低アルブミン血症 ・薬剤性:カルシウム拮抗薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、ステロイドなど ・特発性浮腫:若い女性に多い 2.局所性(片側性になりやすい)浮腫 ・静脈性:深部静脈血栓症、慢性静脈不全、静脈の外部からの圧迫 ・リンパ性:原発性リンパ浮腫、続発性リンパ浮腫(骨盤内・腹腔内悪性腫瘍、乳癌・子宮癌などのリンパ節郭清後、放射線治療後) ・炎症性:蜂窩織炎など(発赤・熱感・疼痛を伴う) ・その他:Baker嚢腫の破裂、外傷など

圧痕性と非圧痕性

指で5〜10秒ほど圧迫して凹みが残るものを圧痕性浮腫という。低アルブミン血症や静水圧上昇による浮腫は圧痕性である。凹みが残らない非圧痕性浮腫は、甲状腺機能低下症(粘液水腫)や慢性化したリンパ浮腫でみられる。

深部静脈血栓症の診断

臨床的な可能性の評価(Wellsスコアなど)を行い、低リスクではDダイマー(フィブリン分解産物)陰性で除外できる。確定には下肢静脈の圧迫超音波検査が第一選択で、血栓のある静脈はプローブで圧迫しても潰れない。治療の中心は抗凝固療法である。

POINT

・全身性疾患(心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、甲状腺機能低下症)による浮腫は両側性である。 ・片側性の下肢浮腫では、深部静脈血栓症、リンパ浮腫、蜂窩織炎などの局所性疾患を考える。 ・深部静脈血栓症は左下肢に多く、肺血栓塞栓症の原因となるため見逃してはならない。 ・甲状腺機能低下症の粘液水腫は非圧痕性浮腫である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。