前歯はてこの支点じゃない―経口気管挿管、準備から位置確認までの「正しい手順」
第109回医師国家試験 H問題 第15問
国試問題にチャレンジ
急変患者に対する経口気管挿管について誤っているのはどれか。
- a.口腔内吸引する。
- b.喉頭鏡は切歯を支えに用いる。
- c.挿管時に声門を確認する。
- d.挿管後は左右の側胸部で聴診する。
- e.胸部エックス線写真でチューブ位置を確認する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
経口気管挿管では、準備と十分な酸素化ののち、口腔内吸引で視野を確保し、喉頭鏡を柄の長軸方向(前上方)へ持ち上げて喉頭展開し、声門を直視してチューブを通過させます。喉頭鏡で上顎切歯を支点にするてこの操作は、歯牙の破折・脱落やその誤嚥を招くため誤りです。挿管後は心窩部と左右の前胸部・側胸部の5点聴診で食道挿管や右主気管支への片肺挿管を確認し、呼気CO2の検出で気管内留置を確かめ、胸部エックス線写真で先端の深さ(気管分岐部の数cm上)を評価します。エックス線写真だけでは食道挿管を否定できない点も重要です。手順の一つひとつに「なぜそうするのか」という理由があり、それを理解しておくことが急変対応での安全な気道確保につながります。
解答・解説
正解はbです
テーマ
経口気管挿管の基本手技と、挿管後のチューブ位置確認の手順を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、手技として行ってはならないものを選ぶ。
経口気管挿管の流れ
1. 準備:喉頭鏡(ライトの点灯確認)、適切なサイズの気管チューブ(カフ漏れの確認、スタイレット)、吸引器、バッグバルブマスク、酸素、カフ用注射器、固定具、呼気CO2モニターなどをそろえる。 2. 酸素化と体位:バッグバルブマスクなどで十分に酸素化し、頸部前屈・頭部後屈のスニッフィングポジション(においを嗅ぐ姿勢)をとって口腔・咽頭・喉頭の軸をそろえる。 3. 吸引:口腔内の分泌物・血液・吐物を吸引して視野を確保し、誤嚥を防ぐ。 4. 喉頭展開:左手で喉頭鏡を持ち、ブレードを口の右側から入れて舌を左へよけ、マッキントッシュ型ブレードでは先端を喉頭蓋谷に進める。喉頭鏡は柄の長軸方向(前上方)へ持ち上げるように力をかけ、上顎の歯を支点にしたてこの動きをしてはならない。 5. 挿管:声門を直視して確認し、チューブを声門に通す。カフが声門を越えたところで止め、カフを膨らませる。 6. 位置確認:胸郭の左右対称な挙上、5点聴診(心窩部と左右の前胸部・側胸部)、呼気CO2の検出(カプノグラフィ)で気管内にあることを確認し、固定後に胸部エックス線写真で深さを確認する。 この流れに照らすと、切歯を支点に喉頭鏡を操作することは歯の損傷を招く誤った操作である。
選択肢考察
- ×a. 口腔内吸引する。
正しい手技である。急変患者の口腔内には唾液、喀痰、血液、吐物などが貯留していることが多い。これらは喉頭展開時の視野を妨げ、誤嚥や気道閉塞の原因にもなるため、挿管前に吸引して除去しておく。吸引器は挿管中もすぐ使えるよう手元に準備する。
- ○b. 喉頭鏡は切歯を支えに用いる。
誤った手技であり、本問の正解である。喉頭鏡を上顎の切歯(前歯)に当てて支点とし、手首をこねるように操作すると、歯の破折・脱落を起こし、脱落歯が気道へ誤嚥される危険もある。喉頭鏡は歯に触れないようにし、柄の長軸方向(前上方)へ持ち上げて舌と下顎を挙上することで喉頭を展開する。動揺歯や差し歯のある患者では特に注意が必要である。
- ×c. 挿管時に声門を確認する。
正しい手技である。喉頭鏡で喉頭蓋とその奥の声門(左右の声帯の間)を直視し、チューブが声門を通過するのを目で確認しながら挿管する。声門を確認せずにチューブを進めると、すぐ背側にある食道へ誤って挿入する危険が高い。
- ×d. 挿管後は左右の側胸部で聴診する。
正しい手技である。挿管後はバッグで換気しながら、まず心窩部で胃への送気音がないことを確認し、次に左右の前胸部と側胸部(腋窩付近)で呼吸音が左右差なく聴取されるかを確かめる(5点聴診)。チューブが深すぎると右主気管支に入りやすく(右主気管支は左より太く、気管からの分岐角度が小さいため)、この場合は左の呼吸音が減弱・消失する。前胸部は対側の音が伝わりやすいため、側胸部での聴診が左右差の判定に有用である。
- ×e. 胸部エックス線写真でチューブ位置を確認する。
正しい手技である。聴診や呼気CO2で気管内挿管を確認した後、胸部エックス線写真でチューブ先端の深さを確認する。成人では先端が気管分岐部(carina)より約2~4cm口側(おおむね鎖骨頭の高さ付近)にあるのが目安で、浅すぎれば計画外抜管、深すぎれば片肺挿管の危険がある。なお、エックス線写真では食道挿管を否定できないため、気管内にあることの確認には呼気CO2の検出を併用する。
気管挿管の適応
気道閉塞・気道保護が必要な状態(意識障害による舌根沈下や誤嚥の危険)、心肺停止、呼吸不全で十分な酸素化・換気が得られない場合などが代表的である。
挿管チューブ位置の確認方法
・身体所見:胸郭挙上の左右差、5点聴診、チューブ内の呼気による曇り ・呼気CO2モニター(カプノメトリ/カプノグラフィ):気管内挿管の確認として最も信頼性が高く、波形を連続モニタリングすることが推奨されている(心停止で肺血流が極端に少ない場合はCO2が低く出ることがある)。 ・食道挿管検知器:注射器やバルブで陰圧をかけ、食道なら壁が虚脱して吸引できないことを利用する。 ・胸部エックス線写真:チューブの深さの確認。食道挿管の否定には使えない。
挿管チューブの深さの目安
成人の口角での固定位置は、男性でおよそ22~23cm、女性でおよそ20~21cm程度が目安とされる(体格により調整する)。
気管挿管の主な合併症
歯牙損傷、口唇・咽頭の損傷、食道挿管、片肺挿管(右主気管支挿管が多い)、嘔吐・誤嚥、低酸素血症、喉頭展開による迷走神経反射(徐脈)や交感神経刺激(高血圧・頻脈)など。
POINT
・喉頭鏡は歯を支点にせず、柄の長軸方向へ持ち上げて喉頭展開する(歯牙損傷・誤嚥の防止) ・挿管前に口腔内吸引、挿管時は声門を直視で確認 ・挿管後は心窩部と左右の前胸部・側胸部の5点聴診、呼気CO2モニターで確認 ・深さは胸部エックス線写真で確認(先端は気管分岐部の数cm上) ・片肺挿管は右主気管支に起こりやすい
