StudyMed医師国家試験

すり傷の砂は一粒残さず―汚染創は「まず洗う」が鉄則

第109回医師国家試験 H問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第109回 H問題 第16問

自転車で走行中に転倒し,受診した男性の右膝の写真を別に示す。  まず行うべき処置はどれか。

第109回 H問題 第16問の問題画像
  1. a.洗浄
  2. b.切開排膿
  3. c.縫合閉鎖
  4. d.皮膚移植
  5. e.抗菌薬の経口投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、自転車で転んだときの膝のけがへの初期対応を問う問題だ。写真から創の種類と汚れ具合を読み取り、「まず」何をすべきかを考えよう。写真を見て、どんな傷だと思う?
医学生医学生
膝の前に横長に皮膚がはがれていて、赤い面に茶色い汚れがついています。いわゆるすり傷でしょうか。
ドクタードクター
その通り。表皮が擦り取られて真皮が露出し、点状の出血がある。茶褐色の汚れは路面の土砂や砂粒と考えられる。創縁がぱっくり開いた深い傷ではなく、浅く面状に広がる擦過傷だね。膿や発赤・腫脹のような感染徴候もない。路面との摩擦でできた、異物が付着した汚染創と判断できる。
医学生医学生
汚れているなら、感染予防に抗菌薬を飲んでもらうのがいいですか。
ドクタードクター
そう考える人は多いけど、感染予防で一番大事なのは物理的に汚れと異物を取り除くことなんだ。抗菌薬はその代わりにならない。単純な擦過傷に一律で予防投与する必要はなく、高度汚染創や動物咬傷、免疫不全の患者など感染リスクが高い場合に検討する。少なくとも最初にやることではないね。
医学生医学生
ということは、まず洗浄ですね。
ドクタードクター
正解。外傷創の処置の基本は、まず十分に洗浄して汚れや異物を取り除き、細菌の数を減らすことだ。水道水や生理食塩水で大量に洗い流す。清潔な水道水は生理食塩水と比べて感染率に差がないとされていて、たっぷり使えるのが利点だよ。
医学生医学生
救急外来の実習で、先生が注射器で水圧をかけて砂を飛ばしているのを見ました。痛そうでしたが。
ドクタードクター
食い込んだ砂粒は、水圧で洗い流したり、ブラシや鑷子で取り除いたりする。痛みが強ければ局所麻酔を使っていい。ここで手を抜くと、感染だけでなく別の問題も起きるんだ。外傷性刺青って聞いたことあるかな。
医学生医学生
皮膚科の講義で出てきた気がします。砂が残ったまま治ると、色がついたままになるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。砂やアスファルト片が真皮内に残ったまま上皮化すると、黒〜青色の色素として永続的に残る。後から取るには削皮術やレーザーが必要で大変だから、受傷早期の徹底した洗浄が大切なんだ。
医学生医学生
縫合しないのは、すり傷だからですか。
ドクタードクター
その通り。縫合は切創や裂創のように、離れた創縁を寄せて閉じられる場合に行う。擦過傷は面状の欠損で、寄せる創縁がない。それに汚染創を洗わずに閉じれば、細菌と異物を中に閉じ込めて感染を招いてしまう。
医学生医学生
皮膚移植や切開排膿も、この傷には大げさですね。
ドクタードクター
皮膚移植は、深い熱傷のように広範囲の全層欠損で自然な上皮化が期待できない場合に考える。擦過傷なら、残った毛包や汗腺などの皮膚付属器や創縁から表皮が再生してくる。切開排膿は膿瘍に対する処置で、受傷直後の今回は適応がない。ただ、洗浄が不十分で異物が残ると、後で膿瘍をつくって切開排膿が必要になることはあるよ。
医学生医学生
洗った後は、ガーゼを当てて乾かせばいいですか。
ドクタードクター
そこは昔と考え方が変わったところだ。乾燥させると痂皮の下で上皮化が遅れるので、ハイドロコロイドなどの創傷被覆材や、ワセリンを塗った非固着性ガーゼで湿潤環境を保つ。これをmoist wound healingという。消毒薬も細胞毒性があって治癒を遅らせるので、創内に常用するのは推奨されない。
医学生医学生
土で汚れた傷なら、破傷風も気になります。
ドクタードクター
大事なポイントだね。土壌で汚染された創は破傷風のリスクがある。予防接種歴を確認して、必要なら破傷風トキソイドを接種し、汚染創で接種歴が不明・不十分なら抗破傷風ヒト免疫グロブリンも考慮する。洗浄、被覆、破傷風予防までをワンセットで覚えておこう。

まとめ

自転車転倒による膝の擦過傷で、創面に土砂が付着している汚染創では、まず水道水や生理食塩水で大量に洗浄し、ブラシや鑷子も用いて異物を除去します。異物が残ると創感染の原因になるだけでなく、真皮内に色素が残る外傷性刺青を生じ、後からの除去は困難です。擦過傷は寄せる創縁がないため縫合の対象ではなく、皮膚付属器からの上皮化が期待できるため皮膚移植も不要で、抗菌薬は洗浄の代わりになりません。洗浄後は消毒を常用せず湿潤環境を保つ被覆材で覆い、土壌汚染創では予防接種歴に応じて破傷風予防を行います。ありふれた外傷こそ「洗浄・被覆・破傷風予防」という基本を確実に実践することが、感染と整容上の後遺症を防ぐ鍵となります。

解答・解説

正解はaです

画像の読み取り

右膝の前面に、横長の不整形な皮膚欠損がある。表皮が擦り取られて赤い真皮面が露出し、点状の出血がみられる。創面には茶褐色の汚れ(路面の土砂や砂粒と考えられる)が付着している。創縁が離開した深い切創・裂創ではなく、浅く面状に広がる創であり、膿の貯留や発赤・腫脹などの感染徴候もない。

診断

自転車での転倒という受傷機転と合わせ、路面との摩擦で生じた擦過傷(すり傷)で、土砂などの異物が付着した汚染創と判断できる。

設問の考え方

外傷創の処置の基本は、まず創を十分に洗浄して汚れや異物を取り除き、細菌数を減らすことである。汚染を残したままでは、いかなる閉鎖・被覆処置をしても感染の温床となるうえ、砂粒などが真皮内に残ると治癒後も皮膚に黒〜青色の色素として残る外傷性刺青(traumatic tattoo)を生じる。したがって「まず行うべき処置」は洗浄である。その後、湿潤環境を保つ被覆材で覆い、破傷風予防の必要性を評価する。

選択肢考察

  1. ○a.  洗浄

    汚染された擦過傷に対して最初に行うべき処置である。水道水や生理食塩水などで大量に洗い流し、付着した土砂を除去する。創面に食い込んだ砂粒は、注射器で水圧をかけて洗い流したり、ブラシや鑷子で取り除いたりする。痛みが強い場合は局所麻酔下に行う。受傷早期に異物を除去しておくことで、創感染と外傷性刺青を防げる。なお、清潔な水道水での洗浄は生理食塩水と比べて感染率に差がないとされ、大量に使える点で有用である。

  2. ×b.  切開排膿

    切開排膿は、皮下に膿が貯留した膿瘍に対して行う処置である。本例は受傷直後の擦過傷で、膿瘍を示す波動や発赤・腫脹は認めないため適応はない。ただし洗浄が不十分で異物が残ると、後に膿瘍を形成して切開排膿が必要になることがある。

  3. ×c.  縫合閉鎖

    縫合は、創縁が離開した切創や裂創で、創縁を寄せて閉じられる場合に行う。擦過傷は表皮〜真皮浅層の面状の欠損であり、寄せるべき創縁がないため縫合の対象とならない。また汚染創を洗浄せずに閉鎖すると、内部に細菌と異物を閉じ込めて感染を招く。

  4. ×d.  皮膚移植

    皮膚移植は、広範囲の全層皮膚欠損(深達性の熱傷や広い組織欠損など)で上皮化が期待できない場合に考慮する。擦過傷のような浅い創では、残っている毛包や汗腺などの皮膚付属器や創縁から表皮細胞が再生して上皮化するため、適切な洗浄と湿潤環境の保持で治癒が期待できる。

  5. ×e.  抗菌薬の経口投与

    汚染創の感染予防で最も重要なのは物理的な洗浄・異物除去であり、抗菌薬はその代わりにならない。単純な擦過傷に予防的抗菌薬を一律に投与する必要はなく、高度汚染創、動物咬傷、免疫不全患者など感染リスクが高い場合に検討する。少なくとも最初に行う処置ではない。

創の分類(機械的損傷)

・擦過傷:路面などとの摩擦で表皮が削り取られた浅い創。異物の混入が多い。 ・切創:鋭利な刃物による創。創縁は整で、縫合閉鎖の対象となりやすい。 ・裂創:鈍的外力で皮膚が引き裂かれた創。創縁は不整。 ・挫創:鈍的外力で皮膚と皮下組織が挫滅した創。 ・刺創:細長いものが刺さった創。表面は小さくても深部損傷に注意する。

擦過傷の処置の流れ

1. 洗浄:流水(水道水可)や生理食塩水で大量に洗う。異物は水圧、ブラッシング、鑷子で除去する。疼痛が強ければ局所麻酔を用いる。 2. 被覆:洗浄後は創面を乾燥させず湿潤環境に保つ(moist wound healing)。乾燥すると痂皮の下で上皮化が遅れるため、ハイドロコロイドなどの創傷被覆材や、ワセリンを塗布した非固着性ガーゼで覆う。 3. 消毒:消毒薬は細胞毒性があり創傷治癒を遅らせるため、創内への常用は推奨されない。 4. 破傷風予防:土壌で汚染された創は破傷風のリスクがある。予防接種歴を確認し、必要に応じて破傷風トキソイドを接種し、汚染創で接種歴が不明・不十分な場合には抗破傷風ヒト免疫グロブリンの投与も考慮する。

外傷性刺青

砂やアスファルト片などが真皮内に残ったまま上皮化すると、色素沈着として永続的に残る。後からの除去は困難(削皮術やレーザー治療が必要)であるため、受傷早期の十分な洗浄・異物除去が重要である。

POINT

・外傷創の処置はまず洗浄(大量の流水・生理食塩水)と異物除去 ・異物残存は創感染と外傷性刺青の原因になる ・擦過傷は縫合の対象外。洗浄後は湿潤環境を保つ被覆材で覆う ・抗菌薬は洗浄の代わりにならない。土壌汚染創では破傷風予防を評価する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。