StudyMed医師国家試験

「徐々に」では起こらない―胸痛の問診で見抜く大動脈解離の本当の顔

第109回医師国家試験 F問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第109回 F問題 第5問

胸痛の特徴と疑われる疾患の組合せで適切でないのはどれか。

  1. a.頸部へ放散する痛み ―― 狭心症
  2. b.針で刺したような痛み ―― 肋間神経痛
  3. c.呼吸性に変動する痛み ―― 胸膜炎
  4. d.徐々に増強する胸背部の痛み ―― 大動脈解離
  5. e.食後の仰臥位で増強する痛み ―― 逆流性食道炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胸痛の特徴と疾患の組合せから「適切でないもの」を選ぶ問題だ。胸痛の性状や誘因は、どの臓器・組織が痛みを出しているかをよく反映する。だから問診だけでもかなり絞り込めるんだ。特に見逃せない緊急疾患の典型像を正確に押さえているかが試されているよ。
医学生医学生
胸痛の問診は、OSCEの医療面接で何度も練習しました。部位、性状、発症の仕方、持続時間、増悪・寛解因子、随伴症状でしたね。
ドクタードクター
その通り。その枠組みで一つずつ確認しよう。まず、頸部へ放散する痛みと狭心症。
医学生医学生
狭心症は胸骨の裏が締めつけられる感じで、左肩や腕に放散するのが典型ですよね。頸部も含まれるんですか。
ドクタードクター
含まれるよ。左頸部、下顎、歯、左肩から左上腕内側などへ放散することがある。心臓からの内臓求心性線維と、これらの体表部位からの体性感覚線維が脊髄の同じ髄節に入るために生じる関連痛だね。だから歯が痛いと歯科を受診した人が実は狭心症だった、ということも起こりうる。この組合せは適切だ。
医学生医学生
次の針で刺したような痛みと肋間神経痛も、そのまま合っている気がします。
ドクタードクター
そうだね。肋間神経は肋骨の下縁に沿って走るから、肋骨に沿った帯状の範囲に、針で刺すような、電気が走るような鋭い痛みが出る。痛む場所を指で示せることが多く、咳や深呼吸、体をひねる動きで誘発されやすい。原因として帯状疱疹は大事で、皮疹より痛みが先に出ることがあるから注意が必要だ。
医学生医学生
皮膚科の実習で、皮疹が出る前に胸痛で循環器を受診していた帯状疱疹の患者さんがいました。
ドクタードクター
まさに典型例だね。次は呼吸性に変動する痛みと胸膜炎。胸膜のどこに痛覚があるか覚えているかな。
医学生医学生
解剖で習ったのは、痛覚があるのは壁側胸膜で、臓側胸膜にはない、でした。
ドクタードクター
正解。炎症を起こした胸膜同士が呼吸のたびにこすれたり引き伸ばされたりするから、深吸気や咳で増強する鋭い痛みになる。聴診で胸膜摩擦音が聞こえることもある。ただし呼吸性変動は心膜炎、気胸、肺塞栓症でもみられるから、胸膜炎だけの特徴ではない点も頭に入れておこう。この組合せも適切だ。
医学生医学生
食後の仰臥位で増強する痛みと逆流性食道炎も、教科書どおりの組合せですね。
ドクタードクター
そう。食後は胃内容量が多く、一過性の下部食道括約筋弛緩も起こりやすい。そこで横になると重力の助けがなくなって逆流しやすい。だから食後すぐ横になったときや夜間の就寝中に胸やけ様の痛みが出やすいんだ。適切な組合せだね。
医学生医学生
となると、残る大動脈解離が答えですね。でも、胸背部の痛みは大動脈解離らしいと思ったので、どこが違うのか少し迷いました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。胸背部という部位は合っている。問題は「徐々に増強する」という発症様式だ。大動脈解離は内膜に亀裂が入って中膜が裂け、偽腔ができる病気だから、痛みは裂けたその瞬間に始まり、発症直後に最も強い。突然発症・発症時最強が最大の特徴なんだ。
医学生医学生
裂けた瞬間がピーク、と考えると納得できます。痛みの部位が移動することもあるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう、解離が進むにつれて胸から背部、腰部、腹部へと移ることがある。性状は引き裂かれるような、刃物で刺されたような激痛だ。血圧の左右差、大動脈弁閉鎖不全による拡張期雑音、分枝の閉塞による臓器虚血の症状も手がかりになる。逆に徐々に強くなる胸痛なら、心膜炎や胸膜炎などの炎症性疾患をまず考える。
医学生医学生
発症様式は「突然」か「徐々に」かで、疾患の性質がかなり見えてくるんですね。
ドクタードクター
その感覚は救急で特に役立つ。突然発症の胸痛では、急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓症、緊張性気胸といった命に関わる疾患をまず除外する。急性心筋梗塞は狭心症に似た痛みでも20〜30分以上続き、ニトログリセリンで改善しない。ただし高齢者や糖尿病の患者さんでは痛みが乏しいこともあるから油断は禁物だ。
医学生医学生
救急外来の実習で、胸痛の人にはまず心電図をとるように言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
それは基本だね。もう一つ臨床上の注意として、大動脈解離が冠動脈に及ぶと心筋梗塞のような心電図変化が出ることがある。そこで安易に抗血栓療法を始めると危険だから、背部痛や血圧の左右差など解離を疑う所見がないか必ず確認する姿勢が大切だ。

まとめ

胸痛の鑑別では、部位・放散、性状、発症様式、持続時間、増悪・寛解因子、随伴症状を系統的に聴取することが基本で、痛みの特徴は発生源となる臓器を反映します。狭心症は胸骨裏の圧迫感が頸部・下顎・左肩へ放散し、肋間神経痛は肋骨に沿った針で刺すような痛み、胸膜炎は呼吸で増強する鋭い痛み、逆流性食道炎は食後や臥位で増強する胸やけ様の痛みが典型です。大動脈解離は突然発症で発症時に痛みが最も強く、引き裂かれるような胸背部痛が移動しうることが特徴であり、「徐々に増強する」経過は合致しません。急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓症、緊張性気胸といった緊急疾患の典型像を正確に把握しておくことが、救急外来での見逃し防止に直結します。

解答・解説

正解はdです

胸痛の鑑別では「部位・放散」「性状(どんな痛みか)」「発症様式(突然か徐々にか)」「持続時間」「増悪・寛解因子(呼吸、体位、食事、労作など)」「随伴症状」を系統的に聴取することが基本である。痛みの性状や誘因は、痛みを生み出している臓器・組織の種類(心筋、胸膜、神経、食道、大動脈など)をよく反映するため、問診だけでもかなりの程度まで原因を絞り込める。 本問は、各疾患に典型的な胸痛の特徴を正しく対応させられるかを問う。特に、緊急性の高い疾患(急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓症、緊張性気胸など)の典型像を確実に押さえておくことが重要である。大動脈解離は「突然発症し、発症時に痛みが最大となる」ことが最大の特徴であり、「徐々に増強する」という記述はこれと合致しない。

選択肢考察

  1. ×a.  頸部へ放散する痛み ―― 狭心症

    適切な組合せである。狭心症の胸痛は、前胸部(胸骨裏)の締めつけ感・圧迫感として自覚されることが多く、左頸部、下顎、歯、左肩から左上腕内側などへ放散することがある。これは心臓からの内臓求心性線維と、これらの体表部位からの体性感覚線維が脊髄の同じ髄節に入るために生じる関連痛である。労作性狭心症では発作は通常数分から15分以内に治まり、安静やニトログリセリン舌下投与で速やかに(多くは数分以内に)軽快する。冷汗を伴うこともある。

  2. ×b.  針で刺したような痛み ―― 肋間神経痛

    適切な組合せである。肋間神経痛は、肋骨下縁に沿って走る肋間神経の刺激による痛みで、神経の走行に一致して肋骨に沿った帯状の範囲に、針で刺すような、あるいは電気が走るような鋭い痛みが突発的に出現する。痛む部位を指で示せる(限局している)ことが多く、咳嗽、深呼吸、体幹のひねりで誘発・増強されやすい。原因として帯状疱疹(皮疹出現前に痛みが先行することがある)、胸椎疾患、特発性などがある。

  3. ×c.  呼吸性に変動する痛み ―― 胸膜炎

    適切な組合せである。胸膜は臓側胸膜(肺表面)と壁側胸膜(胸壁内面)からなり、痛覚神経(肋間神経や横隔神経)が分布するのは壁側胸膜である。胸膜に炎症が起こると、呼吸に伴って両胸膜がこすれ合ったり伸展されたりするため、深吸気や咳嗽で増強する鋭い痛み(胸膜性胸痛)となる。痛みを避けるために呼吸が浅くなることもあり、聴診で胸膜摩擦音を聴取することがある。なお、呼吸性変動は心膜炎、気胸、肺塞栓症(胸膜に及ぶ肺梗塞)などでもみられる。

  4. ○d.  徐々に増強する胸背部の痛み ―― 大動脈解離

    適切でない組合せであり、これが正解である。大動脈解離は、大動脈の内膜に亀裂(エントリー)が生じて中膜が裂け、血液が流入して偽腔を形成する疾患である。痛みは解離が起こったその瞬間に始まり、発症直後に最も強い(突然発症・発症時最強)。性状は「引き裂かれるような」「刃物で刺されたような」激痛で、胸部から背部へ突き抜けるように感じられ、解離の進展に伴って痛みの部位が背部・腰部・腹部へと移動することがある。したがって「徐々に増強する」という経過は大動脈解離に典型的ではない。徐々に増強する胸痛であれば、むしろ心膜炎や胸膜炎などの炎症性疾患などを考える。

  5. ×e.  食後の仰臥位で増強する痛み ―― 逆流性食道炎

    適切な組合せである。逆流性食道炎(胃食道逆流症:GERD)では、胃酸を含む胃内容物が食道へ逆流して食道粘膜を刺激し、胸骨裏の灼熱感(胸やけ)や胸痛を生じる。食後は胃内容量が多く、一過性下部食道括約筋弛緩も起こりやすいため逆流が増え、さらに仰臥位や前屈位では重力の助けがなくなって逆流しやすくなる。そのため、食後すぐに横になったときや夜間・早朝の就寝中に症状が出やすい。胸を手のひらでさするような訴え方をすることが多い。左側臥位より右側臥位で悪化しやすいともいわれる。

胸痛を起こす代表的疾患と痛みの特徴

・狭心症:胸骨裏の圧迫感・絞扼感。左肩・左腕・頸部・下顎へ放散。数分〜15分以内。労作で誘発(労作性)または夜間・早朝の安静時に出現(冠攣縮性)。ニトログリセリンが有効。 ・急性心筋梗塞:狭心症と同様の部位・性状だが、より強く、20〜30分以上持続し、ニトログリセリンで改善しない。冷汗、悪心、呼吸困難を伴うことがある。高齢者や糖尿病患者では痛みが乏しいこともある。 ・急性心膜炎:鋭い前胸部痛で、吸気や仰臥位で増強し、坐位・前屈位で軽減する。心膜摩擦音、心電図の広範なST上昇が手がかり。 ・大動脈解離:突然発症の引き裂かれるような激痛。胸部から背部へ、さらに腰部・腹部へ移動しうる。血圧の左右差、大動脈弁閉鎖不全による拡張期雑音、分枝閉塞による臓器虚血症状を伴うことがある。 ・肺塞栓症:突然の呼吸困難と胸痛。長期臥床や術後、下肢深部静脈血栓症などの危険因子が背景にある。 ・気胸:突然の片側胸痛と呼吸困難。やせ型の若年男性に多い。 ・胸膜炎:呼吸・咳嗽で増強する鋭い痛み。 ・肋間神経痛・帯状疱疹:肋骨に沿った帯状の鋭い痛み。帯状疱疹では皮疹が後から出ることがある。 ・肋軟骨炎(Tietze症候群など):圧痛部位が明確で、押すと痛みが再現される。 ・逆流性食道炎:胸やけ様の痛み。食後・臥位・前屈位で増強。 ・食道けいれん:狭心症に似た胸骨裏の痛みで、ニトログリセリンで軽快することもあり鑑別を要する。 ・腹部臓器(胆石発作、膵炎、消化性潰瘍)も上腹部から胸部の痛みとして訴えられることがある。

解剖学的な整理

胸痛の原因は、心筋、心膜、大動脈、気管・気管支、胸膜、胸壁(筋・骨格・皮膚・神経)、食道、胸郭外臓器(頸椎、胆嚢、胃など)と、発生源ごとに整理すると覚えやすい。内臓由来の痛みは部位がはっきりしない鈍い痛みや放散痛となりやすく、胸膜・胸壁由来の痛みは部位が明確で鋭い痛みとなりやすい。

POINT

・大動脈解離は「突然発症・発症時最強・引き裂かれるような胸背部痛・痛みの移動」が特徴。徐々に増強するのは典型的でない。 ・狭心症は胸骨裏の圧迫感で、頸部・下顎・左肩・左腕に放散し、ニトログリセリンで改善する。 ・胸膜炎は呼吸性に変動する鋭い痛み。 ・肋間神経痛は肋骨に沿った針で刺すような痛み。 ・逆流性食道炎は食後・臥位で増強する胸やけ様の痛み。 ・胸痛の問診では、部位・放散、性状、発症様式、持続時間、増悪・寛解因子、随伴症状を系統的に確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。