「徐々に」では起こらない―胸痛の問診で見抜く大動脈解離の本当の顔
第109回医師国家試験 F問題 第5問
国試問題にチャレンジ
胸痛の特徴と疑われる疾患の組合せで適切でないのはどれか。
- a.頸部へ放散する痛み ―― 狭心症
- b.針で刺したような痛み ―― 肋間神経痛
- c.呼吸性に変動する痛み ―― 胸膜炎
- d.徐々に増強する胸背部の痛み ―― 大動脈解離
- e.食後の仰臥位で増強する痛み ―― 逆流性食道炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
胸痛の鑑別では、部位・放散、性状、発症様式、持続時間、増悪・寛解因子、随伴症状を系統的に聴取することが基本で、痛みの特徴は発生源となる臓器を反映します。狭心症は胸骨裏の圧迫感が頸部・下顎・左肩へ放散し、肋間神経痛は肋骨に沿った針で刺すような痛み、胸膜炎は呼吸で増強する鋭い痛み、逆流性食道炎は食後や臥位で増強する胸やけ様の痛みが典型です。大動脈解離は突然発症で発症時に痛みが最も強く、引き裂かれるような胸背部痛が移動しうることが特徴であり、「徐々に増強する」経過は合致しません。急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓症、緊張性気胸といった緊急疾患の典型像を正確に把握しておくことが、救急外来での見逃し防止に直結します。
解答・解説
正解はdです
胸痛の鑑別では「部位・放散」「性状(どんな痛みか)」「発症様式(突然か徐々にか)」「持続時間」「増悪・寛解因子(呼吸、体位、食事、労作など)」「随伴症状」を系統的に聴取することが基本である。痛みの性状や誘因は、痛みを生み出している臓器・組織の種類(心筋、胸膜、神経、食道、大動脈など)をよく反映するため、問診だけでもかなりの程度まで原因を絞り込める。 本問は、各疾患に典型的な胸痛の特徴を正しく対応させられるかを問う。特に、緊急性の高い疾患(急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓症、緊張性気胸など)の典型像を確実に押さえておくことが重要である。大動脈解離は「突然発症し、発症時に痛みが最大となる」ことが最大の特徴であり、「徐々に増強する」という記述はこれと合致しない。
選択肢考察
- ×a. 頸部へ放散する痛み ―― 狭心症
適切な組合せである。狭心症の胸痛は、前胸部(胸骨裏)の締めつけ感・圧迫感として自覚されることが多く、左頸部、下顎、歯、左肩から左上腕内側などへ放散することがある。これは心臓からの内臓求心性線維と、これらの体表部位からの体性感覚線維が脊髄の同じ髄節に入るために生じる関連痛である。労作性狭心症では発作は通常数分から15分以内に治まり、安静やニトログリセリン舌下投与で速やかに(多くは数分以内に)軽快する。冷汗を伴うこともある。
- ×b. 針で刺したような痛み ―― 肋間神経痛
適切な組合せである。肋間神経痛は、肋骨下縁に沿って走る肋間神経の刺激による痛みで、神経の走行に一致して肋骨に沿った帯状の範囲に、針で刺すような、あるいは電気が走るような鋭い痛みが突発的に出現する。痛む部位を指で示せる(限局している)ことが多く、咳嗽、深呼吸、体幹のひねりで誘発・増強されやすい。原因として帯状疱疹(皮疹出現前に痛みが先行することがある)、胸椎疾患、特発性などがある。
- ×c. 呼吸性に変動する痛み ―― 胸膜炎
適切な組合せである。胸膜は臓側胸膜(肺表面)と壁側胸膜(胸壁内面)からなり、痛覚神経(肋間神経や横隔神経)が分布するのは壁側胸膜である。胸膜に炎症が起こると、呼吸に伴って両胸膜がこすれ合ったり伸展されたりするため、深吸気や咳嗽で増強する鋭い痛み(胸膜性胸痛)となる。痛みを避けるために呼吸が浅くなることもあり、聴診で胸膜摩擦音を聴取することがある。なお、呼吸性変動は心膜炎、気胸、肺塞栓症(胸膜に及ぶ肺梗塞)などでもみられる。
- ○d. 徐々に増強する胸背部の痛み ―― 大動脈解離
適切でない組合せであり、これが正解である。大動脈解離は、大動脈の内膜に亀裂(エントリー)が生じて中膜が裂け、血液が流入して偽腔を形成する疾患である。痛みは解離が起こったその瞬間に始まり、発症直後に最も強い(突然発症・発症時最強)。性状は「引き裂かれるような」「刃物で刺されたような」激痛で、胸部から背部へ突き抜けるように感じられ、解離の進展に伴って痛みの部位が背部・腰部・腹部へと移動することがある。したがって「徐々に増強する」という経過は大動脈解離に典型的ではない。徐々に増強する胸痛であれば、むしろ心膜炎や胸膜炎などの炎症性疾患などを考える。
- ×e. 食後の仰臥位で増強する痛み ―― 逆流性食道炎
適切な組合せである。逆流性食道炎(胃食道逆流症:GERD)では、胃酸を含む胃内容物が食道へ逆流して食道粘膜を刺激し、胸骨裏の灼熱感(胸やけ)や胸痛を生じる。食後は胃内容量が多く、一過性下部食道括約筋弛緩も起こりやすいため逆流が増え、さらに仰臥位や前屈位では重力の助けがなくなって逆流しやすくなる。そのため、食後すぐに横になったときや夜間・早朝の就寝中に症状が出やすい。胸を手のひらでさするような訴え方をすることが多い。左側臥位より右側臥位で悪化しやすいともいわれる。
胸痛を起こす代表的疾患と痛みの特徴
・狭心症:胸骨裏の圧迫感・絞扼感。左肩・左腕・頸部・下顎へ放散。数分〜15分以内。労作で誘発(労作性)または夜間・早朝の安静時に出現(冠攣縮性)。ニトログリセリンが有効。 ・急性心筋梗塞:狭心症と同様の部位・性状だが、より強く、20〜30分以上持続し、ニトログリセリンで改善しない。冷汗、悪心、呼吸困難を伴うことがある。高齢者や糖尿病患者では痛みが乏しいこともある。 ・急性心膜炎:鋭い前胸部痛で、吸気や仰臥位で増強し、坐位・前屈位で軽減する。心膜摩擦音、心電図の広範なST上昇が手がかり。 ・大動脈解離:突然発症の引き裂かれるような激痛。胸部から背部へ、さらに腰部・腹部へ移動しうる。血圧の左右差、大動脈弁閉鎖不全による拡張期雑音、分枝閉塞による臓器虚血症状を伴うことがある。 ・肺塞栓症:突然の呼吸困難と胸痛。長期臥床や術後、下肢深部静脈血栓症などの危険因子が背景にある。 ・気胸:突然の片側胸痛と呼吸困難。やせ型の若年男性に多い。 ・胸膜炎:呼吸・咳嗽で増強する鋭い痛み。 ・肋間神経痛・帯状疱疹:肋骨に沿った帯状の鋭い痛み。帯状疱疹では皮疹が後から出ることがある。 ・肋軟骨炎(Tietze症候群など):圧痛部位が明確で、押すと痛みが再現される。 ・逆流性食道炎:胸やけ様の痛み。食後・臥位・前屈位で増強。 ・食道けいれん:狭心症に似た胸骨裏の痛みで、ニトログリセリンで軽快することもあり鑑別を要する。 ・腹部臓器(胆石発作、膵炎、消化性潰瘍)も上腹部から胸部の痛みとして訴えられることがある。
解剖学的な整理
胸痛の原因は、心筋、心膜、大動脈、気管・気管支、胸膜、胸壁(筋・骨格・皮膚・神経)、食道、胸郭外臓器(頸椎、胆嚢、胃など)と、発生源ごとに整理すると覚えやすい。内臓由来の痛みは部位がはっきりしない鈍い痛みや放散痛となりやすく、胸膜・胸壁由来の痛みは部位が明確で鋭い痛みとなりやすい。
POINT
・大動脈解離は「突然発症・発症時最強・引き裂かれるような胸背部痛・痛みの移動」が特徴。徐々に増強するのは典型的でない。 ・狭心症は胸骨裏の圧迫感で、頸部・下顎・左肩・左腕に放散し、ニトログリセリンで改善する。 ・胸膜炎は呼吸性に変動する鋭い痛み。 ・肋間神経痛は肋骨に沿った針で刺すような痛み。 ・逆流性食道炎は食後・臥位で増強する胸やけ様の痛み。 ・胸痛の問診では、部位・放散、性状、発症様式、持続時間、増悪・寛解因子、随伴症状を系統的に確認する。
