両脚だけが動かない―大脳鎌のそばに潜む「脳が原因の対麻痺」
第109回医師国家試験 F問題 第6問
国試問題にチャレンジ
頭部造影MRI(①~⑤)を別に示す。 対麻痺をきたすのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
対麻痺は両下肢に限局した運動麻痺で、原因の多くは胸髄以下の脊髄病変ですが、大脳病変でも起こりえます。下肢の一次運動野は大脳縦裂内側面の中心傍小葉にあり、左右が大脳鎌を挟んで隣接するため、大脳鎌髄膜腫・傍矢状洞部髄膜腫や両側前大脳動脈領域の障害では対麻痺を生じることがあります。一方、円蓋部髄膜腫は対側の上肢・顔面優位の片麻痺、松果体部腫瘍は閉塞性水頭症とParinaud症候群、鞍上部腫瘍は両耳側半盲、小脳橋角部の聴神経鞘腫は患側の難聴や小脳失調が典型です。ホムンクルスと血管支配を結びつけて理解しておくと、画像の病変部位から症状を予測する力が身につき、脊髄に異常のない対麻痺を見逃さない臨床判断にもつながります。
解答・解説
正解はaです
対麻痺とは
対麻痺は両下肢に限局した運動麻痺を指す。原因として最も多いのは胸髄以下の脊髄障害(外傷、腫瘍、脊髄炎、血管障害など)であるが、脳病変でも起こりうる。本問はその「脳由来の対麻痺」を、運動野の体部位局在から考えさせる問題である。
運動野の体部位局在
一次運動野は中心前回(中心溝の前方の脳回)にあり、身体の各部位を支配する領域が規則正しく並んでいる(いわゆるホムンクルス)。外側の円蓋部から下方(シルビウス裂側)に向かって顔面・口唇・舌などが、その上方に手・上肢・体幹が配置される。下肢を支配する領域は大脳半球の最上部からさらに大脳縦裂の内側面に回り込んだ部分(中心傍小葉)にある。左右の中心傍小葉は大脳鎌を挟んで向かい合っているため、大脳鎌・傍矢状洞部の腫瘍や前大脳動脈領域の障害では、両側の下肢領域が同時に障害されて対麻痺を生じうる。
画像の読み方
5枚はいずれも造影T1強調像の水平断である。 ①:頭頂に近い高位の断面で、大脳鎌に接して均一に強く造影される分葉状の腫瘤があり、大脳縦裂内側部(中心傍小葉付近)を圧排している。大脳鎌髄膜腫・傍矢状洞部髄膜腫が考えられる。 ②:側脳室体部レベルの断面で、右大脳円蓋部の硬膜に接する均一な造影腫瘤があり、周囲に浮腫を伴う。円蓋部髄膜腫が考えられる。 ③:側脳室の拡大(閉塞性水頭症)を伴い、第三脳室後部の松果体部に造影される腫瘤がある。松果体部腫瘍(胚細胞腫など)が考えられる。 ④:トルコ鞍上部(鞍上部)に造影される腫瘤があり、視交叉を下方から圧迫しうる位置にある。下垂体腺腫などの鞍上部腫瘍が考えられる。 ⑤:右小脳橋角部に、一部嚢胞様の不均一な造影を示す腫瘤があり、内耳道との関係から聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫)が考えられる。 したがって、両側の下肢運動野を障害して対麻痺をきたしうるのは、大脳縦裂内側部を圧迫する①である。
選択肢考察
- ○a. ①
大脳鎌に付着する髄膜腫(大脳鎌髄膜腫・傍矢状洞部髄膜腫)が大脳縦裂に沿って発育し、内側面の中心傍小葉を圧迫している。中心傍小葉には下肢の一次運動野(および一次体性感覚野)が存在するため、大脳鎌の両側に病変が及んだり、両側の内側部が圧排されたりすると両下肢の麻痺、すなわち対麻痺を生じる。上肢・顔面の領域は外側の円蓋部にあるため保たれやすい。脳病変による対麻痺の代表例であり、本問の正解である。なお、同部の障害では排尿障害(前頭葉内側の排尿中枢の障害)を伴うこともある。
- ×b. ②
右大脳円蓋部の髄膜腫である。円蓋部の運動野は上肢・顔面を主に支配しており、一側の病変であるため、運動麻痺が出るとしても対側(左)の片麻痺(特に上肢・顔面優位)であり、両下肢のみの対麻痺にはならない。そのほか、部位に応じて焦点てんかん発作や感覚障害などを生じうる。
- ×c. ③
松果体部の腫瘍(胚細胞腫が代表的)で、中脳水道の閉塞による閉塞性水頭症(側脳室の拡大)を伴っている。症状は頭痛・嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状と、中脳背側(四丘体部)の圧迫による Parinaud 症候群(上方注視麻痺、輻輳障害、対光反射と輻輳反射の解離など)が中心である。錐体路が直接障害される部位ではなく、対麻痺の原因にはならない。
- ×d. ④
トルコ鞍上部に進展する腫瘍で、下垂体腺腫などが考えられる。視交叉を下方から圧迫するため、交叉線維(両眼の鼻側網膜由来)が障害されて両耳側半盲をきたすのが典型である。そのほか下垂体機能低下症やホルモン過剰症状を伴うことがあるが、運動野や錐体路は障害されないので対麻痺はきたさない。
- ×e. ⑤
右小脳橋角部の腫瘍で、聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫)が考えられる。初発症状は患側(右)の感音難聴・耳鳴が多く、増大すると三叉神経障害による顔面のしびれ・角膜反射低下、顔面神経障害、小脳の圧迫による患側の小脳失調などを生じる。非常に大きくなれば脳幹を圧迫して錐体路症状を呈することもありうるが、一側性病変であり両下肢に限局した対麻痺の原因とはならない。
一次運動野と体部位局在(ホムンクルス)
・一次運動野は中心前回(Brodmann 4野)にあり、一次体性感覚野は中心溝をはさんだ後方の中心後回にある。 ・外側から内側に向かって、おおむね舌・顔面 → 手指 → 上肢 → 体幹 → 下肢の順に並ぶ。手指や顔面は支配領域が広い。 ・下肢・足の領域は大脳縦裂内側面の中心傍小葉にある。
血管支配との関係
・中大脳動脈は大脳半球外側面(顔面・上肢の運動野)を灌流するため、その閉塞では顔面・上肢優位の片麻痺となる。 ・前大脳動脈は内側面(下肢の運動野)を灌流するため、その閉塞では下肢優位の片麻痺となる。両側の前大脳動脈が一本の幹から出る変異(azygos 型など)がある場合や両側病変では、対麻痺様の症状を呈しうる。
対麻痺の原因の整理
・脊髄性(最多):胸髄以下の外傷、脊髄腫瘍、転移性脊椎腫瘍、横断性脊髄炎、多発性硬化症・視神経脊髄炎、脊髄梗塞、硬膜外膿瘍、HTLV-1関連脊髄症、遺伝性痙性対麻痺など。 ・脳性:大脳鎌・傍矢状洞部髄膜腫、両側前大脳動脈領域梗塞、上矢状静脈洞血栓症、脳性麻痺(痙直型両麻痺)など。 ・末梢性:Guillain-Barré症候群などでは下肢から始まる弛緩性麻痺を呈することがある。
頭蓋内腫瘍と部位別の主な症状
・松果体部腫瘍:閉塞性水頭症、Parinaud症候群。 ・下垂体腺腫・鞍上部腫瘍:両耳側半盲、内分泌異常。 ・聴神経鞘腫:一側の感音難聴・耳鳴、顔面のしびれ、小脳失調。 ・円蓋部髄膜腫:てんかん発作、対側の片麻痺・感覚障害。
POINT
・対麻痺は両下肢のみの運動麻痺で、原因の多くは胸髄以下の脊髄病変だが、大脳病変でも起こる。 ・下肢の一次運動野は大脳縦裂内側面の中心傍小葉にあり、大脳鎌をはさんで左右が隣接する。 ・大脳鎌髄膜腫・傍矢状洞部髄膜腫や両側前大脳動脈領域の障害は対麻痺の原因となる。 ・松果体部腫瘍→Parinaud症候群・水頭症、鞍上部腫瘍→両耳側半盲、小脳橋角部腫瘍→患側の難聴・小脳失調。
