妊娠10週、母体に何が起きている?―「ホルモンの時期」と「子宮の時期」で読み解くマイナートラブル
第109回医師国家試験 F問題 第4問
国試問題にチャレンジ
妊娠10週の初妊婦で最も認められるのはどれか。
- a.悪心
- b.痔核
- c.多尿
- d.妊娠線
- e.下肢浮腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
妊娠中の母体変化は、ホルモン変化が前面に出る妊娠初期と、子宮増大による伸展・圧迫が目立つ中期〜後期に分けて整理すると理解しやすくなります。妊娠10週はhCGがピークを迎える時期で、悪心・嘔吐を中心とするつわりが最もよくみられ、多くは妊娠12〜16週ころまでに軽快します。妊娠線、下肢浮腫、痔核、静脈瘤は子宮が大きくなってから目立つ所見であり、また妊娠初期の頻尿(回数の増加)と多尿(尿量の増加)は区別が必要です。つわりが重症化した妊娠悪阻では輸液とビタミンB1補充でWernicke脳症を予防し、多胎や胞状奇胎などhCG高値の背景にも注意します。時期ごとの変化を押さえておくことは、妊婦健診で正常と異常を見分ける基礎になります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
妊娠に伴う母体の変化は、時期によって現れやすいものが異なる。本問は「妊娠10週」という妊娠初期(妊娠14週未満)の時点で、最もよくみられる所見を選ばせる問題である。
時期ごとの整理
妊娠初期には、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)やエストロゲン・プロゲステロンなどのホルモンが急激に増加し、それに伴う全身症状が前面に出る。代表がつわり(悪心・嘔吐、食欲不振、食べ物の好みの変化など)で、妊娠5〜6週ころから始まり、hCGがピークとなる妊娠8〜11週ころに最も強くなりやすく、多くは妊娠12〜16週ころまでに自然に軽快する。 一方、妊娠中期から後期になると、子宮が大きくなることによる機械的な影響(腹壁の伸展、下大静脈や骨盤内静脈の圧迫)と、循環血漿量の増加・水分貯留が目立つようになり、妊娠線、下肢浮腫、痔核、下肢静脈瘤などが出現しやすくなる。
考え方
妊娠10週の子宮はまだ骨盤内にとどまる大きさ(およそ手拳大)であり、子宮増大による圧迫や腹壁の伸展が問題になる段階ではない。したがって、ホルモン変化による症状である悪心が最も頻度が高い。
選択肢考察
- ○a. 悪心
正解。つわりによる悪心・嘔吐は妊婦の50〜80%にみられ、妊娠5〜6週ころに始まり、妊娠10週前後に最も強くなりやすい。hCGの上昇、エストロゲン・プロゲステロンの増加、プロゲステロンによる消化管運動の低下などが関与すると考えられている。妊娠10週はまさにつわりの好発時期にあたる。
- ×b. 痔核
誤り。妊娠中は増大した子宮による骨盤内静脈の圧迫やうっ血、プロゲステロンによる便秘傾向などから、内痔核が生じやすい。ただし、これらの要因が強くなるのは子宮が大きくなる妊娠中期〜後期であり、分娩時のいきみで悪化することも多い。妊娠10週では一般的でない。
- ×c. 多尿
誤り。妊娠中は腎血漿流量や糸球体濾過量(GFR)が増加するため尿量はやや増える傾向にあるが、病的な多尿(一般に1日尿量3L以上)には至らない。なお妊娠初期には、増大し始めた子宮が前方の膀胱を圧迫することで頻尿(排尿回数の増加)がよくみられるが、これは尿量が増える多尿とは別の概念であり、区別が必要である。
- ×d. 妊娠線
誤り。妊娠線は、子宮の増大に伴って腹壁などの皮膚が急速に引き伸ばされ、真皮の膠原線維・弾性線維が断裂して生じる線状の皮膚変化である。新しいものは赤紫色を呈し(新妊娠線)、分娩後は白色の瘢痕様となる(旧妊娠線)。腹部の皮膚が大きく伸展する妊娠中期〜後期に出現しやすく、初妊婦の妊娠10週ではまずみられない。
- ×e. 下肢浮腫
誤り。妊娠中は循環血漿量の増加と体内の水分・ナトリウム貯留が生理的に起こる。さらに増大した子宮が下大静脈や骨盤内静脈を圧迫して下肢の静脈圧が上昇するため、下肢に浮腫が生じやすい。これらは子宮が大きくなる妊娠後期に目立つ所見であり、妊娠10週では一般的でない。
つわりと妊娠悪阻
・つわり(morning sickness):妊娠5〜6週ころから一過性に生じる悪心・嘔吐、食欲不振、食嗜の変化などの消化器症状で、多くは妊娠12〜16週ころまでに消失する。朝の空腹時に強いことが多いが、一日中続くこともある。 ・妊娠悪阻(hyperemesis gravidarum):つわりが重症化し、脱水、体重減少、電解質異常、尿中ケトン体陽性などの栄養障害をきたした状態である。入院治療を要するのは全妊婦の1〜2%程度とされる。治療は輸液による水分・電解質の補正が中心で、ビタミンB1(チアミン)欠乏によるWernicke脳症を予防するため、ブドウ糖を含む輸液ではビタミンB1を補充する。 ・多胎妊娠や胞状奇胎などhCGが高値となる状態では、つわりや妊娠悪阻が強くなりやすい。
妊娠時期別にみられやすい母体の変化
・妊娠初期:つわり、頻尿(子宮による膀胱圧迫)、乳房の張り・圧痛、基礎体温の高温相持続、眠気・倦怠感、乳輪や外陰部の色素沈着の始まり ・妊娠中期〜後期:妊娠線、色素沈着の増強(正中線、乳輪)、下肢浮腫、下肢静脈瘤、外陰部静脈瘤、痔核、便秘、腰背部痛、仰臥位低血圧症候群(子宮による下大静脈の圧迫)、生理的貧血(循環血漿量の増加が赤血球量の増加を上回るため) ・妊娠末期:子宮底の上昇による胸やけ・息切れ、児頭の下降に伴う頻尿の再燃
妊娠に伴う腎機能の変化
腎血漿流量・GFRは妊娠初期から増加し、非妊娠時より約40〜50%増える。そのため血清クレアチニンや尿素窒素は非妊娠時より低値となる。
POINT
・妊娠10週はつわりの好発時期であり、悪心が最もよくみられる。 ・つわりは妊娠5〜6週ころに始まり、多くは12〜16週ころまでに消失する。妊婦の50〜80%にみられる。 ・妊娠線、下肢浮腫、痔核、静脈瘤は子宮増大による伸展・圧迫が原因で、妊娠中期〜後期に多い。 ・妊娠初期の頻尿(排尿回数の増加)と多尿(尿量の増加)は区別する。 ・妊娠悪阻の治療では輸液とともにビタミンB1を補充し、Wernicke脳症を予防する。
