なぜ同じ腕を2度刺すのか―血液型と交差適合試験を別々に採血する本当の理由
第109回医師国家試験 F問題 第3問
国試問題にチャレンジ
血液検査項目の組合せで,2回に分けて採血すべきなのはどれか。
- a.血糖とHbA1c
- b.ALTとHBs抗原
- c.白血球分画とCRP
- d.アルブミンと蛋白分画
- e.血液型と交差適合試験〈クロスマッチ〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
一般的な血液検査は、血清用・EDTA管・血糖用など採血管が異なっても1回の穿刺で採血すれば足りますが、輸血前の血液型検査と交差適合試験の検体は、別々のタイミングで2回に分けて採血します。同じ穿刺で採った検体では、その採血自体で患者を取り違えていた場合に結果が一致してしまい誤りに気づけないため、異なる時点の2検体で同じ血液型が得られて初めて血液型を確定するのです。ABO型不適合輸血はIgM抗体による補体活性化から血管内溶血を起こし、ショック、DIC、急性腎障害に至りうる重大な医療事故です。オモテ・ウラ検査、不規則抗体スクリーニング、交差適合試験の主試験といった輸血前検査の内容とともに、本人確認や複数人での照合を、緊急時でも省略しない姿勢を身につけることが、安全な輸血医療の基本となります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
通常の血液検査は、検査項目ごとに必要な採血管(血清用、EDTA加血漿用、フッ化ナトリウム入りの血糖用など)が異なっていても、1回の穿刺で複数の採血管に採血すれば足りる。わざわざ穿刺を2回に分けなければならないのは、検体の取り違えが重大な医療事故に直結し、それを防ぐために「別々に採った検体で同じ結果が出ること」を確認する必要がある場合である。
輸血前検査と二重チェック
その代表が輸血前の血液型検査と交差適合試験(クロスマッチ)である。患者の取り違えや採血管のラベルの貼り間違い(いわゆるwrong blood in tube)が起こると、血液型を誤って判定し、ABO型不適合輸血という致死的な事故につながる。そこで、血液型検査用の検体と交差適合試験用の検体を別のタイミングで採血し、交差適合試験用の検体でも血液型を再検査する。異なる時点で採った2つの検体で同じ血液型が得られた場合に初めて、その患者の血液型を確定する。どちらか一方の検体が別人のものであれば、2回の結果が一致しないことで誤りに気づくことができる。
考え方
他の組合せは、いずれも同じ穿刺で採血しても検査の質や安全性に問題は生じない。「2回に分ける」という特殊な手順の意味が、検体取り違えの検出にあることを理解していれば正解は明らかである。
選択肢考察
- ×a. 血糖とHbA1c
誤り。血糖は採血後に血球が糖を消費して値が下がるのを防ぐため、解糖阻止剤(フッ化ナトリウム)入りの採血管を用いることが多く、HbA1c(ヘモグロビンA1c、過去1〜2か月の平均血糖を反映)は全血を用いて測定する。両者は同じ採血管で測定できることもあり、1回の穿刺で採血して問題ない。分けて採る必要はない。
- ×b. ALTとHBs抗原
誤り。ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ、肝細胞障害の指標)とHBs抗原(B型肝炎ウイルスの表面抗原、感染の指標)はいずれも血清を用いて測定でき、同じ検体から測定可能である。分けて採血する理由はない。
- ×c. 白血球分画とCRP
誤り。白血球分画は抗凝固剤EDTA入りの採血管で採った全血で、CRP(C反応性蛋白、炎症マーカー)は血清で測定するため採血管は異なるが、同じ穿刺で複数の採血管に分注すればよく、穿刺を2回に分ける必要はない。感染症や炎症の評価では両者を同時に採ることが普通である。
- ×d. アルブミンと蛋白分画
誤り。アルブミンと蛋白分画(血清蛋白電気泳動によりアルブミン、α1、α2、β、γグロブリンに分ける検査)はいずれも血清で測定され、同じ検体から測定できる。分けて採血する理由はない。
- ○e. 血液型と交差適合試験〈クロスマッチ〉
正解。血液型検査用と交差適合試験用の検体を同じ穿刺で採ると、その採血自体で患者を取り違えていた場合、どちらの検体も誤った人のものになり、検査結果同士が一致してしまうため誤りを発見できない。別々のタイミングで採血した検体でそれぞれ血液型を検査し、結果が一致することを確かめて初めて血液型を確定する(ダブルチェック)。これにより、検体の取り違えによるABO型不適合輸血を防ぐことができる。
輸血前検査の概要
・ABO血液型検査:オモテ検査(患者赤血球に抗A・抗B試薬を反応させる)とウラ検査(患者血清に既知のA型・B型赤血球を反応させる)を行い、両者が一致することを確認する。 ・RhD血液型検査:抗D試薬を用いる。 ・不規則抗体スクリーニング:輸血歴や妊娠歴などで生じうる、ABO以外の赤血球抗原に対する抗体の有無を調べる。 ・交差適合試験:患者血液と輸血用製剤の血液を実際に反応させ、凝集や溶血が起こらないことを確認する。主試験(患者血清と供血者赤血球)が特に重要である。
検体取り違え防止の原則
・血液型検査用と交差適合試験用の検体は、異なる時点で別々に採血する。 ・同一患者から異なる時点で採取した2検体で同じ血液型が得られた場合に血液型を確定する。 ・採血時・輸血実施時には、患者本人に氏名などを名乗ってもらい、リストバンドや照合システムを用いて、複数の医療者で患者と検体・製剤を照合する。
ABO型不適合輸血の重大性
ABO型不適合輸血では、患者血中の抗A・抗B抗体(IgM)が輸血赤血球と反応して補体を活性化し、血管内溶血を起こす。発熱、悪寒、血圧低下、腰背部痛、ヘモグロビン尿などを呈し、ショック、播種性血管内凝固(DIC)、急性腎障害に進行して死亡することもある。輸血ミスは夜間・休日などの時間外や緊急時に起こりやすいことが知られており、こうした状況でも手順を省略しないことが重要である。
POINT
・輸血前の血液型検査と交差適合試験の検体は、別々のタイミングで2回に分けて採血する。 ・目的は検体(患者)取り違えの発見であり、2検体で同じ血液型が得られて初めて血液型を確定する。 ・ABO型不適合輸血は血管内溶血、ショック、DIC、急性腎障害をきたし、致死的になりうる。 ・その他の一般的な血液検査は、採血管が違っても1回の穿刺で採血してよい。
