StudyMed医師国家試験

「メタボ健診」の後に来るもの―特定保健指導は誰に、誰が、何のために行うのか

第109回医師国家試験 F問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第109回 F問題 第2問

特定保健指導について正しいのはどれか。

  1. a.実施主体は国である。
  2. b.健康増進法に規定されている。
  3. c.20歳から64歳までの被保険者が対象である。
  4. d.ポピュレーションストラテジーが根底にある。
  5. e.リスクの高い生活習慣を有する者が対象である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は特定保健指導の制度を問う公衆衛生の問題だ。この分野は「根拠法」「実施主体」「対象」「予防戦略の考え方」の4点を押さえれば、ほとんどの選択肢を判断できる。まずは特定保健指導がどんな流れで行われるか、思い出せるかな。
医学生医学生
特定健診、いわゆるメタボ健診を受けて、引っかかった人に保健指導をする、という理解です。
ドクタードクター
大筋はその通り。特定健診と特定保健指導は2008年度に始まった制度で、内臓脂肪型肥満に着目しているのが特徴なんだ。では、この制度はどの法律に規定されていると思う?
医学生医学生
健康づくりの話なので、健康増進法でしょうか。公衆衛生の講義で健康日本21と一緒に習った気がします。
ドクタードクター
そこが一番よくある引っかけだね。特定健診・特定保健指導の根拠法は「高齢者の医療の確保に関する法律」、略して高齢者医療確保法なんだ。健康増進法は健康日本21の推進や国民健康・栄養調査、受動喫煙対策、それに市町村が行うがん検診や歯周疾患検診、骨粗鬆症検診などの根拠法。ここはセットで区別しておこう。
医学生医学生
名前が似た制度が多いので混乱します。では実施するのは国ですか。
ドクタードクター
国は基本指針を定めて制度の枠組みをつくる立場で、自ら実施するわけではない。実施が義務づけられているのは医療保険者、つまり健康保険組合、協会けんぽ、市町村国保、共済組合などだ。医療費を負担する保険者が、加入者の生活習慣病を予防するという発想なんだね。
医学生医学生
対象年齢はどうでしょう。働く世代というイメージから、20歳から64歳くらいかと思っていました。
ドクタードクター
対象は40歳から74歳までの加入者で、被保険者だけでなく被扶養者も含む。生活習慣病が増え始める40歳からが対象で、75歳以上は後期高齢者医療制度に移るので義務の対象からは外れる。後期高齢者医療広域連合による健診は努力義務として行われているよ。
医学生医学生
なるほど、40歳と75歳が区切りなんですね。では、健診を受けた人のうち、どんな人が保健指導の対象になるんですか。
ドクタードクター
まず腹囲が男性85cm以上・女性90cm以上、あるいはBMI 25以上で内臓脂肪蓄積ありと判定する。そのうえで血糖高値、脂質異常、血圧高値、喫煙歴といった追加リスクの数を数え、その組合せで「動機付け支援」か「積極的支援」に振り分けるんだ。これを階層化という。
医学生医学生
つまり、生活習慣に問題があって生活習慣病を発症しやすい人を選んで指導するということですね。それなら「リスクの高い生活習慣を有する者が対象」が正しいと思います。
ドクタードクター
正解。そしてそれは、予防戦略の考え方にもつながる。リスクの高い人を選び出して重点的に介入する方法を何と呼ぶかな。
医学生医学生
ハイリスクストラテジーです。だとすると、ポピュレーションストラテジーが根底にあるという選択肢は逆ですね。
ドクタードクター
その通り。ポピュレーションストラテジーはリスクの高低にかかわらず集団全体に働きかけて、リスク分布そのものを良い方向にずらす戦略だ。減塩の啓発や受動喫煙防止の環境整備がその例だね。特定保健指導は健診で選別した人に介入するから、ハイリスクストラテジーにあたる。
医学生医学生
Roseの予防のパラドックスも講義で出てきました。多数の低リスク者から多くの患者が出る、という話でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。ハイリスクストラテジーは本人への効果が大きく介入の意義もわかりやすいけれど、集団全体への効果は限られる。ポピュレーションストラテジーは一人ひとりへの効果は小さくても、集団全体の発症を大きく減らしうる。両者は対立するものではなく、組み合わせるのが望ましいんだ。
医学生医学生
ちなみに、すでに高血圧の薬を飲んでいる人も保健指導の対象になりますか。
ドクタードクター
いい疑問だ。高血圧症・糖尿病・脂質異常症の治療薬を服用中の人は、医療機関で管理を受けているので特定保健指導の対象からは除外される。特定健診自体は受けるけどね。また、65〜74歳では積極的支援の基準に該当しても動機付け支援とする決まりもある。動機付け支援は原則1回の面接で行動目標を立て、3か月以上たってから評価する。積極的支援は初回面接に加えて3か月以上の継続的な支援を行う。
医学生医学生
臨床実習で外来の先生が健診結果を見ながら生活指導していたのも、こうした仕組みの延長なんですね。
ドクタードクター
そう。健診で異常を指摘されて受診した患者さんには、制度の流れを理解したうえで、治療が必要なのか、生活習慣の改善を支援する段階なのかを判断して伝えることが大切だ。公衆衛生の知識は、日常診療の説明にも直結するんだよ。

まとめ

特定健康診査・特定保健指導は、内臓脂肪型肥満に着目して生活習慣病を予防するための制度で、根拠法は高齢者医療確保法、実施主体は医療保険者、対象は40〜74歳の被保険者・被扶養者です。腹囲・BMIで内臓脂肪蓄積を判定し、血糖・脂質・血圧・喫煙の追加リスクの数によって動機付け支援と積極的支援に階層化し、リスクの高い生活習慣を有する人の行動変容を支援します。リスクの高い人を選んで介入するためハイリスクストラテジーにあたり、集団全体に働きかけるポピュレーションストラテジーとは区別されますが、両者は相補的に用いることが望まれます。健康増進法が根拠となるがん検診などとの違いや、服薬中の人が指導対象から外れる点も合わせて整理しておくと、制度問題に強くなり、健診後の患者説明にも役立ちます。

解答・解説

正解はeです

特定健康診査・特定保健指導の位置づけ

特定健康診査(特定健診)と特定保健指導は、2008年度から始まった生活習慣病予防のための制度で、内臓脂肪型肥満に着目した、いわゆる「メタボ健診」である。根拠法は「高齢者の医療の確保に関する法律」(高齢者医療確保法)であり、実施が義務づけられているのは国でも市町村の衛生部門でもなく、健康保険組合・協会けんぽ・国民健康保険などの医療保険者である。対象は40〜74歳の加入者(被保険者・被扶養者)である。

制度の流れ

まず特定健診を受けた人について、腹囲・BMIで内臓脂肪蓄積(肥満)の有無をみて、さらに血糖・脂質・血圧の異常や喫煙歴といった追加リスクの数を数える。これに基づいて生活習慣病の発症リスクが高い人を選び出し(階層化)、リスクの程度に応じて「動機付け支援」または「積極的支援」という特定保健指導を行う。

考え方

このように、集団全体の中からリスクの高い人を抽出して重点的に介入する手法は、ハイリスクストラテジー(ハイリスクアプローチ)にあたる。対象者は「リスクの高い生活習慣を持ち、生活習慣病を発症しやすい状態にある人」であり、生活習慣の改善によって発症を防ぐことが目的である。根拠法・実施主体・対象年齢・戦略の4点を正確に覚えておけば、正解は迷わず選べる。

選択肢考察

  1. ×a.  実施主体は国である。

    誤り。特定健診・特定保健指導の実施主体は医療保険者(健康保険組合、全国健康保険協会、市町村国保、共済組合など)である。高齢者医療確保法により、医療保険者は40〜74歳の加入者に対してこれらを実施することが義務づけられている。国は基本指針を定めるなど制度全体の枠組みをつくる立場であり、自ら実施するわけではない。

  2. ×b.  健康増進法に規定されている。

    誤り。特定健診・特定保健指導は「高齢者の医療の確保に関する法律」に規定されている。健康増進法は国民の健康づくり(健康日本21の推進、国民健康・栄養調査、受動喫煙対策など)や、市町村が行う健康増進事業(がん検診、歯周疾患検診、骨粗鬆症検診など)の根拠法であり、両者は区別して覚える必要がある。

  3. ×c.  20歳から64歳までの被保険者が対象である。

    誤り。対象は40歳から74歳までの医療保険加入者(被保険者および被扶養者)である。75歳以上は後期高齢者医療制度の加入者となり、特定健診の義務の対象外である(後期高齢者医療広域連合による健康診査は努力義務として行われる)。

  4. ×d.  ポピュレーションストラテジーが根底にある。

    誤り。ポピュレーションストラテジー(ポピュレーションアプローチ)は、リスクの高低にかかわらず集団全体に働きかけて、集団全体のリスク分布を良い方向へずらす戦略である(例:減塩の啓発、受動喫煙防止の環境整備)。特定保健指導は健診で生活習慣病のリスクが高いと判定された人を選んで介入するものであり、ハイリスクストラテジーが根底にある。

  5. ○e.  リスクの高い生活習慣を有する者が対象である。

    正解。特定保健指導は、特定健診の結果、内臓脂肪蓄積があり、かつ高血糖・脂質異常・高血圧・喫煙といった追加リスクを有する人、すなわち食習慣や運動習慣などの生活習慣に問題があってメタボリックシンドロームとその先の生活習慣病(糖尿病、心血管疾患など)を発症するリスクが高い人を対象とする。リスクの数に応じて動機付け支援または積極的支援に振り分け、生活習慣の改善を支援する。

特定健康診査の要点

・根拠法:高齢者の医療の確保に関する法律 ・実施主体:医療保険者 ・対象:40〜74歳の被保険者・被扶養者 ・基本的な項目:質問票(服薬歴・喫煙歴など)、身体計測(身長・体重・BMI・腹囲)、血圧測定、理学的検査(身体診察)、尿検査(尿糖・尿蛋白)、血液検査(脂質・血糖・肝機能) ・詳細な健診の項目(一定の基準に該当し、医師が必要と判断した場合に実施):心電図、眼底検査、貧血検査、血清クレアチニン(eGFR)

特定保健指導の対象者の選び方(階層化)

1. 内臓脂肪蓄積の判定:腹囲が男性85cm以上・女性90cm以上、または腹囲がこれ未満でもBMI 25以上。 2. 追加リスク:血糖高値、脂質異常(中性脂肪高値またはHDLコレステロール低値)、血圧高値、喫煙歴(喫煙は他のリスクが1つ以上ある場合にカウント)。 3. 腹囲・BMIの区分と追加リスクの数により、「積極的支援」「動機付け支援」に分ける。65〜74歳では積極的支援に該当しても動機付け支援とする。 ・肥満に該当しない人は特定保健指導の対象とならない。 ・高血圧症・糖尿病・脂質異常症の治療薬を服用中の人は、医療機関で管理を受けているため特定保健指導の対象から除外される(特定健診自体は受ける)。 ・健診受診者全員には結果に関する「情報提供」が行われるが、これは特定保健指導の階層には含まれない。

支援の内容

・動機付け支援:原則1回の面接で行動目標を立て、3か月以上経過後に実績を評価する。 ・積極的支援:初回面接に加え、3か月以上の継続的な支援(面接・電話・メールなど)を行い、その後評価する。

ハイリスクストラテジーとポピュレーションストラテジー

・ハイリスクストラテジー:リスクの高い人を選んで介入する。対象者への効果が大きく、介入の意義が本人にわかりやすいが、集団全体への効果は限定的である。 ・ポピュレーションストラテジー:集団全体に働きかける。一人ひとりへの効果は小さいが、集団全体の疾病発生を大きく減らしうる(「多数の低リスク者から多くの患者が生じる」という予防のパラドックス)。 ・両者は相補的であり、組み合わせて用いることが望ましい。

POINT

・特定健診・特定保健指導の根拠法は高齢者医療確保法(健康増進法ではない)。 ・実施主体は医療保険者。 ・対象は40〜74歳の被保険者・被扶養者。 ・内臓脂肪蓄積(腹囲・BMI)+追加リスクで階層化し、動機付け支援・積極的支援を行う。 ・リスクの高い人を選んで介入するハイリスクストラテジーである。 ・服薬治療中の人は特定保健指導の対象外。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。