鼻水・のど・咳がそろって家族にも―「ただのかぜ」を自信をもって診断する
第109回医師国家試験 F問題 第18問
国試問題にチャレンジ
19歳の男性。鼻汁と咽頭痛とを主訴に来院した。2日前から透明な鼻汁が多く,咽頭痛とともに少し咳が出るため受診した。痰は少量で透明な色調である。軽度の頭重感があるが食事は普通に摂取できている。同居している家族も同様の症状を呈している。既往歴に特記すべきことはない。体温37.3℃。咽頭に軽度発赤を認める。頸部リンパ節を触知しない。呼吸音に異常を認めない。 最も考えられるのはどれか。
- a.肺炎
- b.気管支喘息
- c.急性上気道炎
- d.伝染性単核球症
- e.連鎖球菌性咽頭炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
鼻汁・咽頭痛・咳が同時に同程度に出現し、微熱で全身状態が良好、透明な鼻汁や痰、家族内発症を伴う場合は、ウイルス性の急性上気道炎(かぜ症候群)を最も考えます。呼吸音が正常であることは肺炎や気管支喘息に合わず、頸部リンパ節腫脹がないことや咳があることは伝染性単核球症や溶連菌性咽頭炎(Centor基準で低スコア)を遠ざけます。治療は対症療法が基本で、抗菌薬は不要であり、鼻汁の色だけで細菌感染と判断しないことも重要です。一方で、10日以上続く症状や二峰性の経過、開口障害・流涎・呼吸困難などのレッドフラッグがあれば副鼻腔炎や急性喉頭蓋炎などを考えます。ありふれた疾患を所見の分布と陰性所見から自信をもって診断し、見逃してはならない病態を拾い上げる力は、日常診療の基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・19歳の男性で、既往歴に特記事項はない。 ・2日前から透明な鼻汁が多く、咽頭痛と軽い咳を伴う。痰は少量で透明(膿性ではない)。 ・軽度の頭重感はあるが食事は普通に摂れており、全身状態は良好である。 ・同居家族にも同じような症状がある(家族内での感染の広がり)。 ・体温37.3℃(微熱)、咽頭は軽度発赤のみ、頸部リンパ節は触知せず、呼吸音にも異常がない。
診断へのプロセス
1.病変の部位:鼻汁(鼻)、咽頭痛(咽頭)、咳が同時にみられ、鼻から咽頭にかけての複数の部位に症状が出ている。呼吸音が正常であることから、下気道(気管支・肺)に明らかな病変は考えにくい。 2.原因の推定:鼻汁・咽頭痛・咳の三つが同時に、同程度にみられる経過は、ウイルスが上気道の粘膜に広く感染したときの典型像である。細菌感染が一か所に限局して起こる場合(例えば溶連菌による咽頭炎)は、咽頭痛が際立ち、鼻汁や咳は目立たないことが多い。さらに、短い経過、家族内発症、透明な鼻汁・痰、微熱、良好な全身状態は、いずれもウイルス感染を支持する。 3.鑑別疾患の除外:呼吸音が正常で膿性痰や高熱もないため、肺炎は考えにくい。喘鳴(wheezes)がなく、気管支喘息にも合わない。頸部リンパ節腫脹がないことは、伝染性単核球症や溶連菌性咽頭炎に合わない。 以上から、ウイルス性の急性上気道炎(いわゆるかぜ症候群)が最も考えられる。治療は安静、水分摂取、解熱鎮痛薬などの対症療法が中心であり、抗菌薬は不要である。
選択肢考察
- ×a. 肺炎
考えにくい。若年者の細菌性肺炎では、高熱、膿性(黄色〜緑色)の痰、胸痛などがみられ、聴診で粗い断続性ラ音(coarse crackles)を聴取し、胸部エックス線写真で浸潤影を認めることが多い。マイコプラズマなどの非定型肺炎は、頑固な乾いた咳が長引くことが特徴である。本例は微熱にとどまり、痰は少量で透明、呼吸音も正常で、鼻汁が症状の中心であるため肺炎に合わない。
- ×b. 気管支喘息
考えにくい。気管支喘息は気道の慢性炎症による可逆性の気道狭窄が本態で、発作性の呼吸困難、喘鳴、咳嗽が夜間から早朝にかけて悪化しやすく、聴診で呼気時の笛音(wheezes)を聴取する。本例には既往歴がなく、呼吸困難や喘鳴もなく、呼吸音も正常である。また、主訴が鼻汁と咽頭痛であり、家族も同様の症状を示していることは感染症を強く示唆する。なお、喘息はアレルギー性鼻炎を合併することがあるため、鼻汁の存在だけで喘息を否定するわけではない。
- ○c. 急性上気道炎
最も考えられる。急性上気道炎は鼻腔から咽頭・喉頭までの上気道に起こる急性炎症で、その大部分はライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、アデノウイルスなどのウイルスが原因である。鼻汁・咽頭痛・咳の三症状が同時に急に出現し、微熱程度で全身状態が保たれ、数日から1週間程度で自然に治る経過が典型的である。本例の、2日前からの透明な鼻汁、咽頭痛、軽い咳、透明な痰、37.3℃の微熱、軽度の咽頭発赤、呼吸音正常、家族内発症という所見は、いずれもこれによく合う。
- ×d. 伝染性単核球症
考えにくい。伝染性単核球症は主にEpstein-Barrウイルス(EBV)の初感染で起こり、思春期から若年成人に多く、唾液を介して感染する(kissing diseaseとも呼ばれる)。発熱、強い咽頭痛と白苔を伴う扁桃炎、頸部(特に後頸部)リンパ節の腫脹が三大症状であり、肝脾腫や異型リンパ球の増加、肝機能障害を伴う。本例は頸部リンパ節を触知せず、咽頭所見も軽度で、鼻汁が目立つ点も合わない。
- ×e. 連鎖球菌性咽頭炎
考えにくい。A群β溶血性レンサ球菌(GAS)による咽頭炎は5〜15歳程度の学童に多く、急な38℃以上の発熱、強い咽頭痛、扁桃の発赤腫脹や白苔、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹を特徴とし、咳や鼻汁はみられないことが多い。本例は微熱にとどまり、咽頭発赤は軽度、頸部リンパ節を触知せず、鼻汁と咳がある点でいずれも合わない。
急性上気道炎(かぜ症候群)の概要
・鼻腔、咽頭、喉頭の急性炎症の総称で、原因の大部分(約8〜9割)はウイルスである。代表はライノウイルスで、ほかにコロナウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどがある。 ・飛沫感染や接触感染で広がるため、家族内や集団内で発生することが多い。 ・治療は対症療法が基本である。ウイルスには抗菌薬が無効であり、不要な抗菌薬投与は副作用や薬剤耐性菌を増やすため行わない。 ・初期には透明だった鼻汁が経過中に黄色く変化することはウイルス感染でもよくみられ、色だけで細菌感染と判断するのは早計である。症状が10日以上続く場合や、いったん軽快した後に再び悪化する場合(二峰性の経過)は、細菌性副鼻腔炎などの合併を考える。
症状の分布による整理
・鼻汁・咽頭痛・咳が同時に同程度:ウイルス性の上気道炎(かぜ) ・咽頭痛が主体:急性咽頭炎・扁桃炎(溶連菌、EBV、アデノウイルスなど) ・鼻症状が主体(鼻閉、膿性鼻汁、顔面痛):急性副鼻腔炎 ・咳が主体:急性気管支炎、肺炎
溶連菌性咽頭炎の予測スコア(Centor基準・McIsaacスコア)
・38℃を超える発熱、咳がないこと、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹、扁桃の腫脹または白苔の4項目を各1点とする(Centor基準)。 ・McIsaacスコアでは年齢を加え、3〜14歳で+1点、45歳以上で−1点とする。 ・点数が高いほど溶連菌感染の可能性が高く、迅速抗原検査や培養を行う判断材料となる。本例は発熱が38℃未満、咳あり、リンパ節腫脹なし、白苔の記載なしであり、点数は0点(19歳のため年齢による加減もなし)となり、溶連菌の可能性は低い。
見逃してはならない咽頭痛(レッドフラッグ)
強い咽頭痛があるのに咽頭所見が乏しい場合、開口障害、流涎、くぐもり声、呼吸困難がある場合は、急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍などの重篤な疾患を考える。
POINT
・鼻汁、咽頭痛、咳が同時に急に出現し、微熱で全身状態が良好、家族内発症もある場合は、ウイルス性の急性上気道炎を考える。 ・呼吸音が正常であることは肺炎や気管支喘息に合わない所見である。 ・伝染性単核球症と溶連菌性咽頭炎はいずれも頸部リンパ節腫脹を伴うことが多い。溶連菌性咽頭炎では咳がないことも特徴である(Centor基準)。 ・ウイルス性上気道炎に抗菌薬は不要である。
