StudyMed医師国家試験

生後2か月は「ワクチンデビュー」―移行抗体で読み解く予防接種スケジュール

第109回医師国家試験 E問題 第42問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第42問

生後2か月の乳児。ワクチン接種の相談のため母親に連れられて来院した。成長と発達とに異常を認めない。母親の話では,近隣の市から引っ越してきたばかりで,これまで予防接種を受けたことがない。  まず受けるように勧める予防接種の対象疾患はどれか。

  1. a.水痘
  2. b.日本脳炎
  3. c.Hib感染症
  4. d.麻疹と風疹
  5. e.流行性耳下腺炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、予防接種をまだ一度も受けていない乳児に、まず何を勧めるかという問題だ。カギは「生後2か月」という月齢。それぞれのワクチンがいつから始まるのか、そしてなぜその時期なのかを、理屈から整理していこう。
医学生医学生
今まで一度も受けていないなら、遅れを取り戻すためにも全部まとめて打てばいい気がしてしまいます。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、ワクチンには「打っても効きにくい時期」がある。その理由を考えるうえで大事なのが、母親から胎盤を通じて受け取った移行抗体だ。移行抗体はどの免疫グロブリンだったかな。
医学生医学生
胎盤を通過できるのはIgGだけなので、IgGです。免疫学の講義で何度も出てきました。
ドクタードクター
その通り。この移行IgGは生後しばらく乳児を守ってくれるけれど、おおむね生後6か月〜1年で消えていく。ここで問題になるのが生ワクチンだ。生ワクチンは弱毒化したウイルスを体内で増やして免疫をつけるから、移行抗体が残っていると中和されてしまい、十分な効果が得られないんだ。
医学生医学生
だから麻疹・風疹のMRワクチンや水痘ワクチンは1歳を過ぎてから接種するんですね。
ドクタードクター
そう。MRは1歳になったらできるだけ早く第1期、小学校入学前の1年間に第2期の計2回。水痘は1歳から3歳未満に2回接種する定期接種だ。流行性耳下腺炎、つまりおたふくかぜのワクチンも生ワクチンで1歳以降に接種するけれど、こちらは今も任意接種という違いがある。
医学生医学生
日本脳炎ワクチンは不活化ワクチンなので、移行抗体の問題は少なそうですが、乳児期に打たないんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。制度上は生後6か月から接種できるけれど、標準的には3歳で開始して、4歳で追加、9〜10歳で第2期という流れだ。いずれにしても生後2か月で接種するものではない。では残るHib感染症はどうだろう。
医学生医学生
Hibはインフルエンザ菌b型ですよね。小児科の実習で、乳児の細菌性髄膜炎の原因菌として肺炎球菌と並んで教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。Hibは乳幼児、特に乳児期に細菌性髄膜炎や急性喉頭蓋炎、敗血症などの重い侵襲性感染症を起こす。移行抗体だけでは守りきれず、しかも乳児期に重症化しやすいからこそ、生後2か月という早い時期から接種を始めて、乳児期のうちに複数回打って免疫をつけるんだ。だから今回まず勧めるのはHib感染症に対するワクチンになる。
医学生医学生
乳児は莢膜多糖体に対する抗体を作るのが苦手だと微生物学で習いましたが、それでもワクチンが効くんですか。
ドクタードクター
鋭いね。だからHibワクチンは、多糖体をたんぱく質と結合させた結合型ワクチンになっている。T細胞の助けを借りられるので、乳児でもしっかり抗体ができるんだ。定期接種化された後、日本の乳幼児のHib髄膜炎はほとんどみられなくなった。
医学生医学生
ワクチンの効果がはっきり数字に出た好例ですね。生後2か月で始めるのはHibだけですか。
ドクタードクター
いや、ほかにもある。小児用肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチン、経口生ワクチンのロタウイルスワクチンも生後2か月ごろに始めるのが一般的だ。さらに現在は、ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオにHibを加えた5種混合ワクチンが2024年4月から定期接種となり、Hibはこの5種混合として生後2か月から接種するのが標準になっている。
医学生医学生
ロタウイルスワクチンは生ワクチンなのに乳児期に打つんですね。BCGもそうでした。
ドクタードクター
そこは例外として押さえておこう。ロタウイルスワクチンは初回を生後14週6日までに受けることが推奨されている。月齢が上がると腸重積のリスクが高まるからだ。BCGは1歳未満で、標準的には生後5〜8か月に接種する。
医学生医学生
生後2か月に不活化ワクチンや結合型ワクチンを一斉にスタートして、MRや水痘などの生ワクチンは1歳から、日本脳炎は3歳から、という流れで覚えればいいですね。
ドクタードクター
その整理で十分だ。臨床で注意したいのは、今回のように転居などで接種が遅れている子への対応だね。母子健康手帳で接種歴を確認し、未接種のものを月齢に合わせて計画的に組み立てる。同時接種も安全性が確認されているので、受診回数を減らして早く免疫をつけるために積極的に活用されている。乳児期の感染症はワクチンで防げるものが多いからこそ、「最初の一歩」を遅らせないことが大切なんだ。

まとめ

生後2か月は乳児期の予防接種を始める目安となる時期で、乳児期に細菌性髄膜炎などの重症感染症を起こしやすいHib感染症に対するワクチンを、肺炎球菌・B型肝炎・ロタウイルスなどとともにまず接種します。Hibワクチンは多糖体をたんぱく質と結合させた結合型ワクチンで乳児でも免疫がつき、現在はジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオと合わせた5種混合ワクチンとして生後2か月から接種するのが標準です。一方、MR・水痘・おたふくかぜなどの生ワクチンは、胎盤を通過した母体由来IgGによる中和を避けるため1歳以降に接種し、日本脳炎ワクチンは標準的に3歳から開始します。移行抗体と疾患の好発年齢から各ワクチンの接種時期を理解しておくと、接種が遅れた子の計画立案など、実際の小児診療や保健指導にも応用できます。

解答・解説

正解はcです

設問の整理

成長・発達に問題のない生後2か月の乳児で、これまで予防接種を一度も受けていない。生後2か月は、多くの乳児期ワクチンの接種が始まる時期(いわゆる「ワクチンデビュー」)であり、この月齢で接種を開始できる、あるいは開始すべきワクチンを選べばよい。

考え方

乳児期早期に接種を始めるワクチンは、母体から受け継いだ移行抗体だけでは防ぎきれず、乳児期に重症化しやすい感染症を対象としている。代表がインフルエンザ菌b型(Hib)と肺炎球菌で、いずれも生後数か月〜2歳ごろの乳幼児に細菌性髄膜炎などの侵襲性感染症を起こす。これらに対するワクチンは生後2か月から接種を始め、乳児期のうちに複数回接種して免疫をつける。 一方、麻疹・風疹(MR)、水痘、流行性耳下腺炎などの生ワクチンは、移行抗体の影響でワクチンウイルスが十分に増殖できず効果が落ちるため、移行抗体が消える1歳以降に接種する。日本脳炎ワクチンは標準的には3歳から始める。 したがって、選択肢のうち生後2か月でまず接種を勧めるのはHib感染症に対するワクチンである。 なお本問の出題当時はHibワクチンを単独で接種していたが、2024年4月からはジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ・Hibをまとめた5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)が定期接種に導入され、生後2か月から接種を始めるのが標準となっている。Hib感染症が生後2か月で開始すべき対象疾患であることに変わりはない。

選択肢考察

  1. ×a.  水痘

    水痘ワクチンは弱毒生ワクチンで、2014年10月から定期接種となった。対象は1歳から3歳未満で、標準的には生後12〜15か月に1回目を接種し、その後6〜12か月の間隔をあけて2回目を接種する(最短間隔は3か月)。移行抗体の影響を避けるため1歳未満では接種しないので、生後2か月でまず勧めるものではない。

  2. ×b.  日本脳炎

    日本脳炎ワクチンは不活化ワクチンの定期接種で、制度上は生後6か月から接種できるが、標準的には3歳で開始する。第1期は3歳で6〜28日の間隔をおいて2回、そのおおむね1年後(標準的には4歳)に追加1回、第2期として9〜10歳に1回接種する。いずれにしても生後2か月では接種できない。

  3. ○c.  Hib感染症

    インフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b:Hib)は、乳幼児の細菌性髄膜炎・喉頭蓋炎・敗血症などの主要な原因菌であり、特に5歳未満、なかでも乳児期に発症が多い。Hibワクチン(多糖体をたんぱく質と結合させた結合型ワクチン)は2013年に定期接種となり、ワクチン導入後、日本の乳幼児のHib髄膜炎はほとんどみられなくなった。生後2か月から接種でき、標準的には生後2〜7か月に開始して27〜56日の間隔で3回(初回接種)、初回終了後7〜13か月あけて1回追加接種する。現在は5種混合ワクチンとして接種されるのが標準である。

  4. ×d.  麻疹と風疹

    麻疹・風疹の混合ワクチン(MRワクチン)は生ワクチンで、移行抗体が残っている乳児期には十分な効果が得られないため、1歳になってから接種する。定期接種は第1期が1歳から2歳未満(1歳になったらできるだけ早く)、第2期が小学校入学前の1年間(年長児)の計2回である。生後2か月では接種しない。

  5. ×e.  流行性耳下腺炎

    流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)のワクチン(ムンプスワクチン)は生ワクチンで、現在も任意接種である。日本小児科学会は1歳以降に1回目(MRワクチンとの同時接種が可能)、小学校入学前の1年間に2回目の、計2回接種を推奨している。1歳未満では接種しないので、生後2か月の時点で勧めるものではない。

生後2か月から始めるワクチン(現行)

・5種混合(DPT-IPV-Hib:ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオ・Hib):定期接種。生後2か月から初回3回+追加1回。2024年4月から導入。かつては4種混合(DPT-IPV)を生後3か月から開始していたが、2023年4月から生後2か月開始に前倒しされた。 ・小児用肺炎球菌ワクチン(結合型):定期接種。生後2か月から初回3回+追加1回。 ・B型肝炎ワクチン:2016年10月から定期接種。1歳未満に3回(標準的には生後2か月、3か月、7〜8か月)。母子感染予防の対象児は出生直後から別の方式で接種する。 ・ロタウイルスワクチン(経口生ワクチン):2020年10月から定期接種。生後6週から接種でき、初回は生後14週6日までに受けることが推奨される(腸重積のリスクが高まる月齢を避けるため)。

その他の主な定期接種の時期

・BCG:1歳未満。標準的には生後5〜8か月。 ・MR:1歳(第1期)、小学校入学前1年間(第2期)。 ・水痘:1〜3歳未満に2回。 ・日本脳炎:標準的に3歳から開始、9〜10歳に第2期。 ・任意接種:流行性耳下腺炎、インフルエンザなど。

生ワクチンを1歳以降に接種する理由

胎盤を通じて母親から移行したIgG抗体が乳児期に残っていると、接種したワクチンウイルスが中和されて十分な免疫が得られない。移行抗体はおおむね生後6か月〜1年で消失するため、MR・水痘・ムンプスは1歳以降に接種する(BCG・ロタウイルスは例外的に乳児期に接種する生ワクチン)。

POINT

・生後2か月がワクチン接種開始の目安で、Hib・肺炎球菌・B型肝炎・ロタウイルス・5種混合(DPT-IPV-Hib)を始める。 ・MR・水痘・ムンプスなどの生ワクチンは移行抗体の影響を避けるため1歳以降。 ・日本脳炎は標準的に3歳から、BCGは生後5〜8か月が標準。 ・流行性耳下腺炎ワクチンは任意接種である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。