その解剖は誰のため、何のため?―監察医の行政解剖を他の解剖と見分ける
第109回医師国家試験 E問題 第21問
国試問題にチャレンジ
監察医が行う行政解剖の目的として適切なのはどれか。
- a.治療の適否
- b.病巣部位の確認
- c.生前の診断の正否
- d.犯罪捜査上の鑑定
- e.犯罪に関係なく,死因が明確でない場合の死因等の究明
対話形式の解説
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ドクターまとめ
解剖は、教育のための系統解剖、病院で亡くなった患者の病態を検証する病理解剖、死因を明らかにする法医解剖に大別され、法医解剖は犯罪の疑いがある死体の司法解剖と、犯罪性のない死体の行政解剖・承諾解剖・新法解剖に分かれます。監察医が行う行政解剖は、死体解剖保存法第8条に基づき、犯罪とは関係なく死因が明らかでない死体の死因究明を目的とし、遺族の承諾は不要で、結果は感染症・中毒・事故の予防など公衆衛生にも活かされます。治療の適否、病巣部位の確認、生前の診断の正否の検証は病理解剖の目的であり、犯罪捜査上の鑑定は刑事訴訟法に基づく司法解剖の目的です。監察医制度が実際に機能しているのは主に東京23区・大阪市・神戸市で、それ以外の地域は承諾解剖や新法解剖で補われています。医師法第21条の異状死届出から解剖の振り分けまでの流れを理解しておくことは、検案や死亡診断に関わるすべての医師にとって欠かせません。
解答・解説
正解はeです
本問は、わが国の解剖制度の種類と、それぞれが何のために行われるかを区別できるかを問う問題である。 人体の解剖は目的によって大きく、医学教育のための系統解剖、病院で亡くなった患者の病態を明らかにする病理解剖、そして死因を明らかにするための法医解剖に分けられる。法医解剖はさらに、犯罪の疑いがある死体を対象とする司法解剖と、犯罪とは関係のない(非犯罪死体の)死因究明を目的とする行政解剖・承諾解剖・新法解剖(調査法解剖)に分かれる。 監察医が行う行政解剖は、死体解剖保存法第8条に基づき、監察医制度が置かれた地域で行われる。対象は、伝染病・中毒・災害などで死亡した疑いのある死体や、その他死因の明らかでない死体(いわゆる異状死体のうち、犯罪性がないと判断されたもの)である。目的は死因を究明することであり、その結果は公衆衛生の向上(感染症・中毒・事故の実態把握や予防)にも役立てられる。この解剖は遺族の承諾を必要としない点も特徴である。 したがって、各選択肢が「どの種類の解剖の目的か」を振り分けると、犯罪とは無関係に死因不明の死体の死因を明らかにすることを述べた選択肢が、監察医による行政解剖の目的に該当する。
選択肢考察
- ×a. 治療の適否
病院で死亡した患者について、行われた治療が適切で効果があったかを検証するのは、主に病理解剖(剖検)の役割である。病理解剖は遺族の承諾のもとで病理医が行い、臨床経過と病理所見を照らし合わせる臨床病理検討会(CPC)などを通じて医療の質の向上に役立てられる。監察医の行政解剖は死因不明の死体の死因究明が主目的であり、治療内容の評価を目的とするものではない。
- ×b. 病巣部位の確認
病変がどこにどの程度広がっていたかを肉眼的・組織学的に確認するのは、病理解剖の目的である。病理解剖では臓器を詳しく調べ、腫瘍の進展範囲や転移、合併症の有無などを明らかにする。行政解剖でも結果として病変が見つかることはあるが、それは死因を確定する過程の一部であり、病巣部位の確認そのものが目的ではない。
- ×c. 生前の診断の正否
生前に付けられた臨床診断が正しかったかを検証するのは、主として病理解剖の目的である。なお、医療事故が疑われる事例では、司法解剖で診断や医療行為の妥当性が検討されることもある。いずれにしても、監察医が行う行政解剖の目的ではない。
- ×d. 犯罪捜査上の鑑定
犯罪の疑いがある死体(変死体)について、刑事訴訟法に基づき裁判所の鑑定処分許可状を得て、捜査機関の嘱託により法医学者が行うのが司法解剖であり、犯罪捜査上の鑑定はその目的である。司法解剖も遺族の承諾は不要である。監察医の行政解剖は犯罪性がないと判断された死体を対象とするため、捜査のための鑑定は目的に含まれない。なお、行政解剖の途中で犯罪の疑いが生じた場合は、警察に届け出て司法解剖へ切り替えられる。
- ○e. 犯罪に関係なく,死因が明確でない場合の死因等の究明
監察医による行政解剖は、死体解剖保存法第8条に基づき、犯罪性はないが死因が明らかでない死体(感染症・中毒・災害による死亡の疑いのあるものを含む)について、死因を究明するために行われる。監察医はまず死体の検案を行い、検案だけでは死因が判断できない場合に解剖を行う。遺族の承諾は不要である。得られた死因情報は、正確な死亡統計の作成や、感染症・中毒・事故の予防など公衆衛生の向上に活用される。
解剖の種類と目的の整理
・系統解剖:医学・歯学教育のために、正常な人体の構造を学ぶ目的で行う。献体によることが多い。 ・病理解剖:病院で死亡した患者について、遺族の承諾を得て行う。死因の確定、病変の広がりの確認、臨床診断や治療の妥当性・効果の検証が目的である。 ・司法解剖:犯罪の関与が疑われる死体について、刑事訴訟法に基づき裁判所の許可(鑑定処分許可状)を得て行う。犯罪捜査上の鑑定が目的で、遺族の承諾は不要である。 ・行政解剖(監察医による解剖):監察医制度のある地域で、死体解剖保存法第8条に基づき、犯罪性のない死因不明の死体について死因究明のため行う。遺族の承諾は不要である。 ・承諾解剖:監察医制度のない地域で、非犯罪死体の死因究明のため、遺族の承諾を得て行う解剖である。 ・新法解剖(調査法解剖):2013年施行の「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(死因・身元調査法)」に基づき、警察署長が死因を明らかにするため特に必要と判断した場合に行う。遺族の承諾は不要である。
監察医制度
監察医は、都道府県知事が任命し、死因が明らかでない死体の検案および解剖を行う医師である。監察医制度は政令で定められた地域にのみ置かれ、現在実際に機能しているのは主に東京23区、大阪市、神戸市である。制度のない地域では、非犯罪死体の死因究明は承諾解剖や新法解剖によって補われている。
異状死体の取り扱い
医師法第21条により、医師は死体を検案して異状があると認めた場合、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。警察の検視・調査によって犯罪性の有無が判断され、犯罪の疑いがあれば司法解剖、なければ行政解剖・承諾解剖・新法解剖などへ振り分けられる。
POINT
・監察医の行政解剖の目的:犯罪と関係のない、死因不明の死体の死因究明(死体解剖保存法第8条、遺族の承諾不要) ・病理解剖の目的:死因の確定、病巣の確認、生前の診断・治療の妥当性の検証(遺族の承諾が必要) ・司法解剖の目的:犯罪捜査上の鑑定(刑事訴訟法に基づく、遺族の承諾不要) ・監察医制度が機能している地域:東京23区、大阪市、神戸市
