カリウムは細胞の内と外を行き来する―利尿薬と酸塩基で読み解く体液平衡
第109回医師国家試験 E問題 第20問
国試問題にチャレンジ
体液平衡について正しいのはどれか。
- a.ADH不適合分泌症候群〈SIADH〉では体液量は減少している。
- b.炭酸脱水酵素阻害薬は代謝性アルカローシスをきたす。
- c.ループ利尿薬は代謝性アシドーシスをきたす。
- d.代謝性アシドーシスは血清Kを上昇させる。
- e.塩分負荷は血清Kを上昇させる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
体液の量は総Na量(RAAS)が、血清Na濃度は水の出入り(ADHと口渇)が決めており、SIADHは水の調節異常による希釈性低Na血症で体液量はほぼ正常です。利尿薬では、近位尿細管でHCO3−再吸収を妨げる炭酸脱水酵素阻害薬が代謝性アシドーシスを、ループ利尿薬やサイアザイドは低K血症を伴う代謝性アルカローシスをきたします。K+の大部分は細胞内にあるため、代謝性アシドーシスではH+と交換にK+が細胞外へ出て血清Kが上昇し、アルカローシスでは低下しますが、下痢や尿細管性アシドーシスのようにK+喪失を伴う場合は低K血症となりうるため、移動と喪失の総和で考えることが大切です。塩分負荷は集合管でのK+分泌を促す方向に働き、血清Kを上昇させません。こうした原理の理解は、電解質異常の鑑別や高K血症の緊急治療の判断に直結します。
解答・解説
正解はdです
本問は、水・電解質・酸塩基平衡に関する基本事項をまとめて確認する問題である。各選択肢は次の3つのテーマに分けて整理するとわかりやすい。
1. 水バランスとNaバランスの区別(選択肢a)
体液の「量」(特に細胞外液量)を決めるのは体内の総Na量であり、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)などがこれを調節する。一方、血清Na「濃度」(=血漿浸透圧)を決めるのは水の出入りであり、抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)と口渇がこれを調節する。SIADHは水の調節の異常であり、Naの調節には本質的な異常がないことがポイントになる。
2. 利尿薬と酸塩基平衡(選択肢b、c)
利尿薬は作用する尿細管の部位によって、酸塩基平衡への影響が異なる。近位尿細管で重炭酸イオン(HCO3−)の再吸収を妨げる薬はアシドーシスを、遠位側へのNa到達量を増やしアルドステロン作用を強める薬はアルカローシスを起こす。
3. カリウムの細胞内外移動と腎排泄(選択肢d、e)
K+の約98%は細胞内にあり、細胞外液中のK+はわずかである。そのため細胞内外のわずかな移動でも血清K値は大きく変わる。酸塩基平衡の変化、インスリン、カテコラミン(β2刺激)などがこの移動に影響する。長期的なK+バランスは、主に腎の集合管でのK+分泌(アルドステロンと、遠位尿細管へのNa+到達量・尿流量に依存)で調節される。 これらの原則に照らすと、代謝性アシドーシスでは細胞外のH+が細胞内に入り、代わりにK+が細胞外へ出るため血清Kが上昇する、という記述が正しい。
選択肢考察
- ×a. ADH不適合分泌症候群〈SIADH〉では体液量は減少している。
SIADH(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone)は、血漿浸透圧が低いにもかかわらずADHの分泌が抑制されず、腎集合管で水の再吸収が続くことで水が体内に貯留し、希釈性の低Na血症をきたす病態である。貯留した水によって体液量はむしろ軽度に増加するが、体液量の増加に反応してナトリウム利尿(ナトリウム利尿ペプチドの分泌増加、アルドステロン抑制など)が起こるため、浮腫を生じるほどには増えず、臨床的には体液量は正常(ほぼ正常〜軽度増加)と評価される。体液量が減少している低Na血症(脱水、嘔吐・下痢、利尿薬、副腎不全など)とは区別しなければならない。
- ×b. 炭酸脱水酵素阻害薬は代謝性アルカローシスをきたす。
近位尿細管では、炭酸脱水酵素の働きにより、濾過されたHCO3−の大部分が再吸収される。アセタゾラミドなどの炭酸脱水酵素阻害薬はこの過程を妨げるため、HCO3−が尿中に失われ、血中HCO3−が低下する。その結果、アニオンギャップ正常(高Cl性)の代謝性アシドーシスをきたし、近位尿細管性アシドーシス(2型RTA)と同様の状態になる。遠位へのNa+到達量の増加によりK+排泄も増え、低K血症を伴いやすい。この性質を利用して、代謝性アルカローシスの補正に用いられることもある。
- ×c. ループ利尿薬は代謝性アシドーシスをきたす。
ループ利尿薬(フロセミドなど)はHenleループ上行脚のNa+-K+-2Cl−共輸送体を阻害する。これにより、(1) Cl−に富む液が失われ細胞外液量が減少する(HCO3−は残るため相対的に濃縮される:濃縮性アルカローシス)、(2) 体液量減少によりRAASが活性化され、アルドステロンが集合管でのH+とK+の分泌を促す、(3) 集合管へのNa+到達量と尿流量が増え、H+・K+の分泌がさらに増える。これらの結果、低K血症を伴う代謝性アルカローシスをきたす。サイアザイド系利尿薬も同様に代謝性アルカローシスと低K血症を起こす。
- ○d. 代謝性アシドーシスは血清Kを上昇させる。
代謝性アシドーシスでは、細胞外に増えたH+が細胞内へ移動して緩衝される。このとき電気的中性を保つため、細胞内のK+が細胞外へ移動し、血清K値が上昇する。この細胞外へのK+移動は、塩酸(または塩化アンモニウム)負荷のような無機酸によるアシドーシスで目立ち、乳酸アシドーシスやケトアシドーシスなど有機酸によるアシドーシスでは比較的小さい(有機酸の陰イオンがH+とともに細胞内へ入りやすいためと考えられている)。ただし、実際の血清K値はK+の出入りの総和で決まる。下痢や尿細管性アシドーシス(近位型・遠位型)による代謝性アシドーシスでは、腸管や腎からK+が失われるため、細胞外への移動があってもむしろ低K血症を伴うことが多い点に注意する。逆にアルカローシスではK+が細胞内へ移動して血清Kは低下する。高K血症の鑑別では、こうした細胞内外の移動も考慮する。
- ×e. 塩分負荷は血清Kを上昇させる。
食塩(NaCl)を負荷すると、遠位尿細管・集合管へのNa+到達量と尿流量が増え、Na+の再吸収と引き換えにK+の分泌が促進される方向に働く。一方で、Na+の貯留により体液量が増えるとRAASが抑制されアルドステロンが減少するため、K+分泌促進の効果は打ち消される。結果として血清Kは原則として大きく変化せず、むしろ低下しうることはあっても、上昇させることはない。血清Kを上昇させるのは、K+を多く含む果物・生野菜の大量摂取、K製剤やRAAS阻害薬、腎機能障害などである。
SIADHの診断のポイント
・低Na血症と血漿浸透圧の低下があるのに、尿浸透圧が不適切に高い(100 mOsm/kg以上) ・尿中Na排泄が持続している(通常20〜30 mEq/L以上) ・脱水所見や浮腫がなく、体液量はほぼ正常 ・腎機能・副腎皮質機能・甲状腺機能は正常 ・血漿ADHが低浸透圧にもかかわらず抑制されていない ・BUNや血清尿酸値が低めになりやすい 原因として肺小細胞癌などの異所性ADH産生腫瘍、中枢神経疾患(髄膜炎、頭部外傷、くも膜下出血など)、肺疾患(肺炎など)、薬剤(ビンクリスチン、カルバマゼピン、SSRIなど)がある。治療の基本は水制限であり、バソプレシンV2受容体拮抗薬(トルバプタン)も用いられる。低Na血症を急速に補正すると浸透圧性脱髄症候群をきたすため、補正速度に注意する。
利尿薬と酸塩基・電解質異常の整理
・炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド):近位尿細管に作用。代謝性アシドーシス(AG正常)、低K血症。 ・ループ利尿薬(フロセミド):Henleループ上行脚。代謝性アルカローシス、低K血症、高Ca尿症、低Mg血症。 ・サイアザイド系利尿薬:遠位尿細管。代謝性アルカローシス、低K血症、低Ca尿症(血清Ca上昇傾向)、高尿酸血症、高血糖。 ・K保持性利尿薬(スピロノラクトン、エプレレノンなどのミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、トリアムテレン):集合管。代謝性アシドーシス、高K血症。
血清Kを細胞内外の移動で変化させる因子
・細胞外へ(血清K上昇):アシドーシス、インスリン欠乏、β遮断薬、高浸透圧(高血糖など)、細胞崩壊(横紋筋融解、腫瘍崩壊症候群、溶血) ・細胞内へ(血清K低下):アルカローシス、インスリン、β2刺激薬、カテコラミン 高K血症の緊急治療でインスリン(グルコースとともに投与)、β2刺激薬、炭酸水素ナトリウムが用いられるのは、K+を細胞内に移動させる作用を利用したものである。
POINT
・SIADHは水の調節異常であり、体液量は正常(〜軽度増加)で、浮腫や脱水を伴わない低Na血症である。 ・炭酸脱水酵素阻害薬は近位尿細管でのHCO3−再吸収を妨げ、代謝性アシドーシスをきたす。 ・ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬は代謝性アルカローシスと低K血症をきたす。 ・アシドーシスではK+が細胞外へ移動して血清Kが上昇し、アルカローシスでは低下する。 ・塩分負荷は血清Kを上昇させない(集合管でのK+分泌はむしろ促進される方向に働く)。
