StudyMed医師国家試験

PaCO2が上がっているのにアルカローシス?―血液ガスは「pHと同じ向き」から読む

第117回医師国家試験 A問題 第75問

国試問題にチャレンジ

第117回 A問題 第75問

動脈血ガス分析(room air)の結果を示す。 pH   PaCO2 (Torr) PaO2 (Torr) HCO3- (mEq/L) 7.48 52 72 37 単純性の酸塩基平衡障害として,最初の変化(1次性変化)と代償性変化(2次性変化)の組合せで正しいのはどれか。       1次性変化           2次性変化

  1. a.呼吸性アシドーシス ―― なし
  2. b.呼吸性アシドーシス ―― あり
  3. c.呼吸性アルカローシス ―― なし
  4. d.呼吸性アルカローシス ―― あり
  5. e.代謝性アシドーシス ―― なし
  6. f.代謝性アシドーシス ―― あり
  7. g.代謝性アルカローシス ―― なし
  8. h.代謝性アルカローシス ―― あり

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は動脈血ガスから酸塩基平衡障害を読み解く問題だ。ポイントは、PaCO2とHCO3-のどちらが1次性変化で、どちらが代償なのかを順序立てて判断すること。まず最初に何を見るかな。
医学生医学生
PaCO2が高いので、まず呼吸性アシドーシスを考えてしまいました。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴なんだ。数値の異常から入ると迷子になる。最初に見るべきはpH。pHが基準値より低ければアシデミア、高ければアルカレミアだ。今回はどっちだろう。
医学生医学生
基準がおよそ7.35〜7.45なので、7.48はアルカレミアですね。あれ、そうするとPaCO2の上昇とは合わないです。
ドクタードクター
いい気づきだね。PaCO2の上昇はpHを下げる方向の変化だから、アルカレミアの原因にはなれない。では、pHと同じ向き、つまりpHを上げる方向に動いているのはどちらかな。
医学生医学生
HCO3-が37 mEq/Lで、基準の22〜26をかなり上回っています。HCO3-が増えればアルカリ側に傾くので、こちらが原因ですね。
ドクタードクター
その通り。だから1次性変化は代謝性アルカローシス。生理学の講義で習ったHenderson-Hasselbalchの式を思い出してほしい。pHはHCO3-とPaCO2の比で決まるから、HCO3-が上がると、比を戻そうとしてPaCO2も同じ向きに上がる。これが代償だ。
医学生医学生
つまり換気を減らしてCO2をためることで、pHを下げようとしているわけですね。
ドクタードクター
そう、呼吸性代償としての低換気だ。だから2次性変化は「あり」になる。代償がなければPaCO2は40 Torr前後のままのはずだから、「代謝性アルカローシスで代償なし」は誤りになるね。
医学生医学生
呼吸性アシドーシスで腎がHCO3-をためた結果、という可能性はないんでしょうか。慢性の呼吸不全ならHCO3-が上がると内科の講義で聞きました。
ドクタードクター
鋭い疑問だ。確かに慢性呼吸性アシドーシスではHCO3-が上がる。でも代償はpHを正常方向に近づけるだけで、正常を越えてアルカリ側まで行き過ぎることはない。過代償は起こらない、というのが大原則なんだ。pHがアルカリ側にある以上、1次性の呼吸性アシドーシスでは説明がつかない。
医学生医学生
なるほど。呼吸性アルカローシスはPaCO2が下がるはずなので逆ですし、代謝性アシドーシスはHCO3-もpHも下がるので、どちらも合わないですね。
ドクタードクター
完璧だ。単純性の障害では、HCO3-とPaCO2は同じ方向に動くのが原則。もし逆向きに動いていたら混合性障害を疑うといい。もう一歩進めて、代償の程度が妥当かも確認しておこう。代謝性アルカローシスでは、簡便法でPaCO2はおよそHCO3-に15を足した値になるとされる。
医学生医学生
37に15を足すと52で、実測とぴったりです。ちゃんと予測範囲内の代償なんですね。
ドクタードクター
だから単純性として矛盾しない。ちなみにPaO2が軽度に低いのも、この代償性の低換気で説明できる。肺胞気式でA-aDO2を概算するとほぼ正常範囲で、肺自体のガス交換障害を積極的に疑う所見ではないんだ。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、低酸素を見たらA-aDO2を計算しろと言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい習慣だね。最後に、代謝性アルカローシスの原因も押さえておこう。代表は嘔吐や胃液吸引による胃酸の喪失、ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬、原発性アルドステロン症やCushing症候群、甘草による偽性アルドステロン症などだ。
医学生医学生
下痢も消化液を失うので、アルカローシスになりそうな気がしますが……。
ドクタードクター
そこはよく間違えるところ。下痢ではHCO3-を含む腸液が失われるので、むしろアニオンギャップ正常型の代謝性アシドーシスになることが多い。上からの喪失はアルカローシス、下からの喪失はアシドーシスと整理するといい。臨床では尿中Cl-も役立つ。低ければ嘔吐や利尿薬使用後のように生理食塩液で改善しやすいCl反応性、高ければ鉱質コルチコイド過剰などのCl抵抗性を考える。
医学生医学生
pHで向きを決め、同じ向きの因子を1次性とし、もう一方を代償として予測式で確かめる。この順番を守れば迷わなさそうです。
ドクタードクター
その通り。呼吸性代償は数分〜数時間で始まるけれど、低換気は低酸素を招くので、PaCO2が上がれるのはおよそ55〜60 Torr程度までという限界もある。それを大きく超えるPaCO2なら、呼吸性アシドーシスの合併を考えよう。

まとめ

血液ガスの酸塩基評価は、まずpHでアシデミアかアルカレミアかを決め、pHと同じ向きに動いている因子を1次性変化と判断するのが基本です。pH上昇とHCO3-上昇がそろえば代謝性アルカローシスであり、PaCO2の上昇は低換気による呼吸性代償と解釈できます。代償は過代償にならないため、アルカレミアの状態を呼吸性アシドーシスの代償で説明することはできず、代償の妥当性は「PaCO2≒HCO3-+15」などの予測式で確認します。代謝性アルカローシスの原因として嘔吐、利尿薬、鉱質コルチコイド過剰などを挙げ、下痢はむしろ代謝性アシドーシスをきたす点も押さえておきましょう。この手順を身につけておくと、救急や病棟で出会う複雑な血液ガスも系統的に読み解けるようになります。

解答・解説

正解はhです

評価の手順

動脈血ガスの酸塩基評価は「①pHでアシデミアかアルカレミアかを決める → ②PaCO2とHCO3-のどちらがpHと同じ向きに動いているかで1次性変化を決める → ③もう一方がpHを正常に戻す向きに動いていれば代償(2次性変化)と判断する → ④代償の程度が予測範囲内かを確認する」の順で行う。

本問への当てはめ

①pH 7.48で基準値(およそ7.35〜7.45)を上回り、アルカレミアである。 ②HCO3-は37 mEq/Lと基準値(およそ22〜26 mEq/L)を大きく上回る。HCO3-の上昇はpHを上げる方向の変化であり、アルカレミアと向きが一致する。一方、PaCO2は52 Torrと基準値(およそ35〜45 Torr)を超えて上昇しており、これはpHを下げる(酸性に傾ける)方向の変化で、アルカレミアの原因にはなり得ない。したがって1次性変化は代謝性アルカローシスである。 ③PaCO2の上昇は、pHの上昇を打ち消そうとする方向の変化であり、肺胞換気を減らしてCO2を貯留させる呼吸性代償(2次性変化)があると判断できる。 ④代謝性アルカローシスにおける呼吸性代償の予測式として、ΔPaCO2 ≒ 0.7×ΔHCO3-、あるいは簡便法の「PaCO2 ≒ HCO3- + 15」がよく用いられる。前者ではΔHCO3- = 37−24 = 13より予測PaCO2 ≒ 40 + 9 ≒ 49 Torr、後者では予測PaCO2 ≒ 37 + 15 = 52 Torrとなり、実測の52 Torrはおおむね予測範囲にあって単純性(代償を伴う代謝性アルカローシス)として矛盾しない。 なお、PaO2 72 Torrと軽度に低下しているが、これは代償性の低換気によるものとして説明できる。肺胞気式でA-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)を概算すると、PAO2 ≒ 150 − 52/0.8 ≒ 85 Torr、A-aDO2 ≒ 85 − 72 ≒ 13 Torrで、ほぼ正常範囲であり、肺自体のガス交換障害を積極的に疑う所見ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  呼吸性アシドーシス ―― なし

    pHは7.48でアルカレミアであり、アシドーシスを1次性変化とする病態ではない。PaCO2 52 Torrの上昇だけを見ると呼吸性アシドーシスを考えたくなるが、呼吸性アシドーシスが1次性ならpHは低下するはずである。また、代償なしとするとHCO3-37 mEq/Lの著明な上昇を説明できない。

  2. ×b.  呼吸性アシドーシス ―― あり

    呼吸性アシドーシスに対する腎性代償としてHCO3-は上昇し得るが、代償はpHを正常方向へ戻すだけで、正常を越えてアルカリ側に行き過ぎることはない(過代償は起こらない)。本問はpH 7.48とアルカレミアであるため、1次性の呼吸性アシドーシスでは説明できない。

  3. ×c.  呼吸性アルカローシス ―― なし

    pHはアルカリ側であるが、呼吸性アルカローシスは過換気によりPaCO2が低下する病態である。本問ではPaCO2が52 Torrと逆に上昇しており、1次性の呼吸性アルカローシスは否定される。

  4. ×d.  呼吸性アルカローシス ―― あり

    呼吸性アルカローシスが1次性であれば、PaCO2が低下し、代償としてHCO3-が低下するはずである。本問はPaCO2・HCO3-ともに上昇しており、この組合せとは逆の動きである。

  5. ×e.  代謝性アシドーシス ―― なし

    代謝性アシドーシスはHCO3-の低下とpHの低下を特徴とする。本問はpH 7.48、HCO3-37 mEq/Lと、いずれも反対方向に変化しており該当しない。

  6. ×f.  代謝性アシドーシス ―― あり

    代謝性アシドーシスでは、呼吸性代償として過換気が起こりPaCO2が低下する(予測式の例: PaCO2 ≒ 1.5×HCO3- + 8 ± 2、Winterの式)。本問はHCO3-上昇・PaCO2上昇・pH上昇であり、どの項目も合致しない。

  7. ×g.  代謝性アルカローシス ―― なし

    1次性変化を代謝性アルカローシスとする点は正しい。しかし代償がなければPaCO2は基準値内(40 Torr前後)にとどまるはずである。本問ではPaCO2が52 Torrまで上昇しており、低換気による呼吸性代償が働いていると判断されるため、「なし」は誤りである。

  8. ○h.  代謝性アルカローシス ―― あり

    pH 7.48のアルカレミアと同じ向きに動いているのはHCO3-の上昇(37 mEq/L)であり、1次性変化は代謝性アルカローシスである。PaCO2 52 Torrの上昇は、換気を抑えてCO2を蓄積しpHを下げようとする呼吸性代償である。予測PaCO2(≒HCO3- + 15 = 52 Torr、またはΔPaCO2 ≒ 0.7×13 ≒ 9 Torr)とも整合し、代償を伴う単純性の代謝性アルカローシスとして矛盾しない。

Henderson-Hasselbalchの式

pH = 6.1 + log[HCO3- /(0.03 × PaCO2)] pHは分子のHCO3-(腎・代謝が調節)と分母のPaCO2(肺・換気が調節)の比で決まる。一方が1次的に変化すると、比を元に戻すようにもう一方が同じ向きに動く(代償)。そのため、単純性の障害ではHCO3-とPaCO2は同じ方向に動くのが原則である。両者が逆方向に動いている場合は混合性障害を考える。

代償の原則

・代償は1次性変化を完全には打ち消さず、pHを正常方向へ近づけるにとどまる。過代償(pHが反対側に振れること)は起こらない。 ・呼吸性代償(代謝性障害に対するもの)は数分〜数時間で始まる。腎性代償(呼吸性障害に対するもの)は完成に数日を要する。 ・代謝性アルカローシスに対する呼吸性代償は、低換気が低酸素血症を招くため限界があり、PaCO2はおよそ55〜60 Torr程度までしか上がらないとされる。

主な代償予測式(目安)

・代謝性アシドーシス: PaCO2 ≒ 1.5×HCO3- + 8 ± 2(Winterの式) ・代謝性アルカローシス: ΔPaCO2 ≒ 0.7×ΔHCO3-(簡便法 PaCO2 ≒ HCO3- + 15) ・急性呼吸性アシドーシス: ΔHCO3- ≒ 0.1×ΔPaCO2、慢性: ≒ 0.35×ΔPaCO2 ・急性呼吸性アルカローシス: ΔHCO3- ≒ 0.2×ΔPaCO2、慢性: ≒ 0.5×ΔPaCO2

代謝性アルカローシスの原因

成立には「HCO3-が増える(または酸が失われる)発生因子」と「腎がHCO3-を排泄できない維持因子(体液量減少、Cl-欠乏、低K血症、鉱質コルチコイド過剰)」が関与する。 ・消化管からの酸の喪失: 嘔吐、胃液吸引(H+とCl-の喪失)。 ・腎からの酸の喪失: ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬、原発性アルドステロン症、Cushing症候群、甘草(グリチルリチン)による偽性アルドステロン症、Bartter症候群・Gitelman症候群など。 ・アルカリの負荷: 重炭酸ナトリウムの大量投与、ミルク・アルカリ症候群、大量輸血(クエン酸がHCO3-に代謝される)。 ・CO2貯留が慢性的に続いた後に急に換気を改善させた場合の高炭酸ガス血症後アルカローシス。 尿中Cl-濃度が低い(<20 mEq/L程度)ものは生理食塩液投与で改善しやすいCl反応性(嘔吐・利尿薬使用後など)、高いものはCl抵抗性(鉱質コルチコイド過剰など)と分類される。 なお、下痢では通常HCO3-を含む腸液が失われるため、むしろ代謝性アシドーシス(アニオンギャップ正常型)をきたすことが多い点に注意する。

POINT

・まずpHでアシデミア/アルカレミアを決め、pHと同じ向きに動いている因子を1次性変化とする。 ・HCO3-↑+pH↑ → 代謝性アルカローシス。PaCO2↑はその呼吸性代償(低換気)である。 ・単純性障害ではHCO3-とPaCO2は同じ方向に動く。代償は過代償にならない。 ・代謝性アルカローシスの代償予測: ΔPaCO2 ≒ 0.7×ΔHCO3-(簡便に PaCO2 ≒ HCO3- + 15)。 ・PaO2の軽度低下は代償性低換気で説明できることが多い(A-aDO2で確認)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。