カリウムを上げる薬はどれ?―「細胞内シフト」と「腎排泄」の2本の軸で整理する
第116回医師国家試験 A問題 第6問
国試問題にチャレンジ
高カリウム血症の原因となるのはどれか。
- a.β刺激薬
- b.インスリン
- c.ループ利尿薬
- d.グリチルリチン
- e.レニン・アンジオテンシン系抑制薬
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血清カリウム濃度は、Na+/K+-ATPaseを介した細胞内外の移動と、集合管でのアルドステロン依存性の腎排泄という2つの経路で調節されています。レニン・アンジオテンシン系抑制薬(ACE阻害薬、ARB、直接的レニン阻害薬)はアルドステロン分泌を減らしてカリウム排泄を抑えるため高カリウム血症の原因となり、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬、ST合剤、NSAIDs、ヘパリン、β遮断薬なども同様に注意が必要です。一方、インスリンとβ2刺激薬はカリウムを細胞内へ移動させ、ループ利尿薬は集合管へのナトリウム到達量増加とRAA系亢進により、グリチルリチンは偽性アルドステロン症によって、いずれも低カリウム血症を起こします。腎機能障害や高齢、併用薬のある患者でRAS抑制薬を使う際は血清カリウムと腎機能の確認が欠かせません。「細胞内シフト」と「アルドステロン軸」の2本柱で薬剤を整理する考え方は、電解質異常の鑑別と安全な薬物療法の基盤になります。
解答・解説
正解はeです
体内のカリウム(K)の約98%は細胞内にあり、血清K濃度は通常3.5〜5.0 mEq/L程度の狭い範囲に保たれている。血清K濃度を変化させる薬剤は、大きく次の2つの経路のどちらかに作用する。 【1】細胞内外の移動(シフト) ・細胞膜のNa+/K+-ATPase(ナトリウムポンプ)が活性化すると、Kが細胞内へ取り込まれて血清Kは低下する。インスリンやβ2刺激薬がこの作用をもつ。逆にβ遮断薬はKを細胞外に出やすくし、血清Kを上げる方向に働く。 【2】腎臓からの排泄 ・Kの尿中排泄は主に集合管で行われ、アルドステロンがNa+の再吸収と引き換えにK+(およびH+)の分泌を促す。また、集合管に届くNa+と尿流量が多いほどKの排泄は増える。 ・アルドステロン作用を強める状態(利尿薬によるレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系〔RAA系〕の亢進、偽性アルドステロン症など)では低K血症に、アルドステロン作用を弱める薬剤では高K血症になる。 この枠組みで選択肢を整理すると、アルドステロンの産生を減らしてKの排泄を抑えるレニン・アンジオテンシン系抑制薬が高K血症の原因となり、その他の薬剤はいずれも血清Kを低下させる方向に働く。
選択肢考察
- ×a. β刺激薬
低K血症の原因となる。β2受容体が刺激されると細胞内のcAMP(環状AMP)が増え、Na+/K+-ATPaseが活性化されてKが細胞内へ移動するため、血清K濃度が低下する。気管支喘息発作でβ2刺激薬を頻回に吸入した際などに低K血症がみられ、この作用を利用してサルブタモール吸入が高K血症の治療に用いられることもある。なお、β1刺激によりレニン分泌が増えRAA系が亢進することも、K排泄を増やす方向に働く。
- ×b. インスリン
低K血症の原因となる。インスリンは骨格筋や肝臓などの細胞膜のNa+/K+-ATPaseを活性化し、ブドウ糖の取り込みとともにKを細胞内へ移動させる。このため血清K濃度は低下する。糖尿病ケトアシドーシスの治療でインスリンを投与すると急速に血清Kが下がるため、K補充を並行して行う必要がある。逆にこの作用を利用して、ブドウ糖とインスリンの同時静注(グルコース・インスリン療法)は高K血症の緊急治療として用いられる。
- ×c. ループ利尿薬
低K血症の原因となる。ループ利尿薬(フロセミドなど)はHenleループ上行脚のNa+-K+-2Cl-共輸送体を阻害してNaの再吸収を抑える。その結果、下流の集合管に届くNa+と尿流量が増え、Na+の再吸収と引き換えにK+とH+の分泌が増える。さらに体液量の減少によりRAA系が亢進し、アルドステロンがK排泄を一層促す。このため低K血症と代謝性アルカローシスをきたしやすい。サイアザイド系利尿薬も同様に低K血症の原因となる。
- ×d. グリチルリチン
低K血症の原因となる。グリチルリチンは甘草(漢方薬に多く含まれる生薬)の主成分で、腎臓の11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素2型(11β-HSD2)を阻害する。この酵素は通常、コルチゾールを鉱質コルチコイド受容体に結合しにくいコルチゾンへ変換しているが、阻害されるとコルチゾールが鉱質コルチコイド受容体を直接刺激する。その結果、アルドステロンが過剰なのと同じ状態となり、高血圧・低K血症・代謝性アルカローシスをきたす(偽性アルドステロン症)。このとき血中のレニンとアルドステロンはともに低値となる。
- ○e. レニン・アンジオテンシン系抑制薬
高K血症の原因となり、本問の正解である。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、直接的レニン阻害薬などは、アンジオテンシンIIの生成や作用を抑えることで副腎皮質からのアルドステロン分泌を減少させる。アルドステロンの作用が弱まると、集合管でのNa+再吸収とK+・H+の分泌が減り、Kが体内に貯留して血清K濃度が上昇する。腎機能障害のある患者、高齢者、糖尿病患者、カリウム保持性利尿薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を併用している患者では特に高K血症をきたしやすく、投与開始後には血清Kと腎機能の確認が必要である。
血清K濃度を変化させる主な薬剤
・高K血症の原因:ACE阻害薬、ARB、直接的レニン阻害薬、鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)、その他のカリウム保持性利尿薬(トリアムテレン)、ST合剤(トリメトプリムが集合管のNaチャネルを抑える)、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)、NSAIDs(レニン分泌の低下)、ヘパリン(アルドステロン産生の低下)、β遮断薬、ジギタリス中毒(Na+/K+-ATPase阻害)、スキサメトニウム(脱分極性筋弛緩薬)、K製剤など。 ・低K血症の原因:ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、β2刺激薬、インスリン、甘草・グリチルリチン(偽性アルドステロン症)、副腎皮質ステロイド(大量投与)、アムホテリシンB、下剤の乱用など。
高K血症の症状と治療
・症状:筋力低下、しびれ、不整脈。心電図ではテント状T波、PR延長・P波の消失、QRS幅の拡大がみられ、進行すると心室細動や心停止に至る。 ・治療:心筋の保護にグルコン酸カルシウム静注、Kの細胞内移動にグルコース・インスリン療法、β2刺激薬吸入、炭酸水素ナトリウム(アシドーシス時)、体外への除去に陽イオン交換樹脂やK吸着薬、ループ利尿薬、重症・腎不全例では血液透析を行う。原因薬剤は中止・減量する。
注意
採血時の溶血、著しい白血球増多・血小板増多などで、実際には体内のKが増えていないのに見かけ上高値となる偽性高K血症もある。
POINT
・レニン・アンジオテンシン系抑制薬(ACE阻害薬、ARB、レニン阻害薬)はアルドステロンを減らしK排泄を抑制するため、高K血症の原因となる。 ・β2刺激薬とインスリンはNa+/K+-ATPaseを介してKを細胞内に移動させ、低K血症を起こす(高K血症の治療にも利用される)。 ・ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬は集合管へのNa到達量の増加とRAA系の亢進により低K血症を起こす。 ・グリチルリチン(甘草)は11β-HSD2を阻害し偽性アルドステロン症(高血圧・低K血症・低レニン・低アルドステロン)を起こす。 ・高K血症の原因薬:RAS抑制薬、K保持性利尿薬、ST合剤、NSAIDs、カルシニューリン阻害薬、ヘパリン、β遮断薬など。
