StudyMed医師国家試験

痛くない虚血ほど怖い―無痛性虚血性心疾患の「背景・予後・治療」を整理する

第109回医師国家試験 D問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第17問

無痛性虚血性心疾患で正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.若年者に多い。
  2. b.糖尿病の合併は少ない。
  3. c.心筋梗塞後にも発生する。
  4. d.有痛性より予後が良好である。
  5. e.冠動脈バイパス術の適応基準は有痛性と同様である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は無痛性虚血性心疾患、つまり無症候性心筋虚血について、正しい記述を2つ選ぶ問題だ。心電図や負荷試験で虚血が客観的に証明されるのに、胸痛などの症状がない状態を指す。考えるべきは、どんな人に起こりやすいか、予後はどうか、治療方針は有痛性と変わるのか、の3点だよ。
医学生医学生
そもそも虚血があるのに痛くない、というのがイメージしにくいです。
ドクタードクター
実はそれほど珍しくないんだ。ホルター心電図で狭心症の患者さんを24時間観察すると、虚血発作の多くは無症状で、自覚される胸痛は虚血全体のごく一部にすぎないことが知られている。では、痛みを感じにくくなる背景には何があると思う?
医学生医学生
内分泌の講義で、糖尿病の患者さんは無痛性の心筋梗塞を起こすことがあると習いました。神経障害のせいでしょうか。
ドクタードクター
その通り。虚血心筋からの痛み刺激は、交感神経に伴走する求心性線維を通って中枢に伝わる。糖尿病性の自律神経障害でこの経路が傷むと、虚血があっても胸痛として感じにくくなる。だから「糖尿病の合併は少ない」は誤りで、むしろ最も代表的な背景疾患なんだ。
医学生医学生
「若年者に多い」も逆ですよね。高齢者のほうが痛みを感じにくそうです。
ドクタードクター
そう。加齢で痛覚の閾値が上がり、神経伝達も鈍くなる。高齢者では虚血の症状が胸痛ではなく、息切れや倦怠感、食欲不振といった非特異的な形で出ることも多く、見逃されやすい。では「心筋梗塞後にも発生する」はどうかな。
医学生医学生
梗塞を起こした部分の神経がやられてしまうから、その後の虚血は痛みが出にくい、ということでしょうか。
ドクタードクター
そういう理解でいい。梗塞部やその周囲の知覚神経が障害されることなどが理由と考えられている。無症候性心筋虚血のCohn分類でも、心筋梗塞後に生じるものは独立したII型として位置づけられているんだ。これが正しい記述のひとつだね。
医学生医学生
Cohn分類は初めて聞きました。ほかの型もあるんですか。
ドクタードクター
I型は狭心症の症状も心筋梗塞の既往も全くない人に見られるもので、健診の心電図異常などをきっかけに見つかる。III型は狭心症の患者さんで有痛性の発作と無痛性の発作が混在するもので、頻度はこれが最も高い。では次、予後についてはどう考える?
医学生医学生
痛くないなら虚血も軽いのかな、と思ってしまいました……。
ドクタードクター
そこがこの問題の一番の落とし穴だ。痛みの有無は虚血の重症度を反映しない。心筋が虚血にさらされている点は有痛性と変わらず、予後は同程度とされている。むしろ症状という警告がないぶん受診や治療が遅れ、心筋梗塞や突然死で初めて見つかることもあり、予後が悪くなりうる。だから「有痛性より予後が良好」は誤りだ。
医学生医学生
痛みは体のアラームなのに、それが鳴らないということですね。
ドクタードクター
うまい表現だね。そうすると治療方針も見えてくる。冠動脈バイパス術の適応基準はどうだろう。
医学生医学生
治療は痛みではなく虚血そのものに対して行うので、有痛性と同じ基準で考える、ということですか。
ドクタードクター
正解。治療方針を決めるのは胸痛の有無ではなく、客観的に証明された虚血の範囲や程度、冠動脈病変の部位や広がり、たとえば左主幹部病変や多枝病変か、それに左室機能や糖尿病の有無などだ。だから冠動脈バイパス術も経皮的冠動脈インターベンションも、適応基準は有痛性と同じ。抗血小板薬、スタチン、β遮断薬といった薬物療法の考え方も同様だよ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、糖尿病の患者さんに症状がないのに負荷心筋シンチをオーダーしていた理由がわかりました。
ドクタードクター
まさにそれが臨床での実践だ。ホルター心電図、運動負荷心電図、負荷心筋シンチグラフィ、負荷心エコー、冠動脈CTなどで客観的に評価する。特に糖尿病患者さんでは、症状がなくても積極的な評価を考慮する。また高齢者や糖尿病患者さんが「なんとなく息苦しい」「だるい」と訴えたときに、心筋虚血を鑑別に挙げられるかどうかが大切だ。脳血管疾患や末梢動脈疾患がある人も動脈硬化が全身に及んでいるから、同じように注意しておこう。

まとめ

無痛性虚血性心疾患(無症候性心筋虚血)は、心電図や負荷試験で心筋虚血が客観的に証明されるにもかかわらず胸痛を伴わない病態で、糖尿病(自律神経障害による痛覚伝達の障害)、高齢者、心筋梗塞の既往がある人に起こりやすく、Cohn分類では心筋梗塞後のものがII型とされます。痛みがないことは虚血が軽いことを意味せず、予後は有痛性と同等で、発見の遅れによりむしろ不良となることもあります。治療方針は痛みの有無ではなく虚血の範囲や冠動脈病変の重症度、左室機能などで決まるため、冠動脈バイパス術やPCIの適応基準、薬物療法は有痛性と同じです。糖尿病患者などのハイリスク者では、症状がなくても負荷試験などで積極的に評価することが重要です。「痛くない=軽い」という思い込みを捨てることが、見逃しを防ぐ臨床判断の第一歩になります。

解答・解説

正解はc, eです

無痛性虚血性心疾患(無症候性心筋虚血、silent myocardial ischemia)とは、心電図のST変化、負荷心筋シンチグラフィ(放射性核種を用いて心筋の血流を画像化する検査)、負荷心エコーなどで心筋虚血が客観的に証明されるにもかかわらず、胸痛などの狭心症症状を伴わない病態を指す。 「心筋虚血があれば必ず胸痛が出る」わけではない。ホルター心電図(24時間心電図)で観察すると、狭心症患者に生じる虚血発作の多くは無症状であり、自覚される胸痛発作は虚血全体のごく一部にすぎないことが知られている。 本問を解く鍵は次の3点である。 (1) 痛みを感じにくくする背景は何か:糖尿病による自律神経障害(心臓からの痛覚を伝える求心性神経の障害)、高齢、心筋梗塞の既往(梗塞部の神経が障害される)などである。したがって若年者や非糖尿病者に多いとはいえない。 (2) 予後は良いのか:痛みがないことは虚血が軽いことを意味しない。症状による警告がない分、発見や治療が遅れやすく、予後は有痛性と同等か、むしろ不良になりうる。 (3) 治療方針は変わるのか:痛みの有無ではなく、虚血の有無・範囲や冠動脈病変の重症度によって治療を決める。したがって薬物療法も血行再建術(経皮的冠動脈インターベンションや冠動脈バイパス術)も、有痛性と同じ基準で適応を判断する。

選択肢考察

  1. ×a.  若年者に多い。

    誤り。無痛性心筋虚血は高齢者に多い。加齢に伴って痛覚の閾値が上がり、神経伝達も鈍くなるため、心筋虚血が起きても胸痛として自覚されにくくなる。高齢者では虚血の症状が胸痛ではなく、息切れ、倦怠感、食欲不振など非特異的な形で現れることも多く、見逃されやすい。

  2. ×b.  糖尿病の合併は少ない。

    誤り。糖尿病は無痛性心筋虚血を起こす最も代表的な背景疾患である。糖尿病性神経障害(特に自律神経障害)により、心臓からの痛覚を伝える求心性神経線維が障害され、虚血があっても胸痛を感じにくくなる。糖尿病患者では無症状のまま冠動脈病変が進行し、無痛性の心筋梗塞として発見されることもあるため、症状がなくても心電図や負荷試験などで積極的に評価する必要がある。

  3. ○c.  心筋梗塞後にも発生する。

    正しい。心筋梗塞を起こしたことがある患者では、梗塞部やその周囲の知覚神経が障害されるなどの理由で、その後の虚血発作が無症状で起こりやすい。無症候性心筋虚血を臨床的に分類したCohn(コーン)分類でも、心筋梗塞後に生じるものは独立した型(Ⅱ型)として位置づけられている。心筋梗塞後に残る無症候性の虚血は再梗塞や心臓死のリスクと関連するため、症状がなくても定期的な評価が重要である。

  4. ×d.  有痛性より予後が良好である。

    誤り。痛みの有無は虚血の重症度を反映しない。無痛性であっても、心筋が虚血にさらされている点は有痛性と変わらず、予後は有痛性と同程度とされる。むしろ症状という警告がないために受診や治療が遅れ、心筋梗塞や突然死で初めて見つかることもあり、予後が不良となる場合がある。「痛くないから軽い」と考えてはならない。

  5. ○e.  冠動脈バイパス術の適応基準は有痛性と同様である。

    正しい。虚血性心疾患の治療方針は、胸痛の有無ではなく、客観的に証明された虚血の範囲や程度、冠動脈病変の部位や広がり(左主幹部病変、多枝病変など)、左室機能、糖尿病の有無などによって決まる。そのため、冠動脈バイパス術(CABG:coronary artery bypass grafting)や経皮的冠動脈インターベンション(PCI:percutaneous coronary intervention)といった血行再建術の適応基準は、無痛性でも有痛性と同じである。薬物療法(抗血小板薬、スタチン、β遮断薬など)の方針も同様である。

無症候性心筋虚血のCohn分類

Ⅰ型:狭心症の症状も心筋梗塞の既往も全くない者に見られる無症候性心筋虚血。健診の心電図異常などをきっかけに見つかる。 Ⅱ型:心筋梗塞後の患者に見られる無症候性心筋虚血。 Ⅲ型:狭心症患者において、有痛性の発作とともに無痛性の虚血発作も混在するもの。頻度が最も高い。

無痛性心筋虚血を起こしやすい背景

・糖尿病(自律神経障害による痛覚伝達の障害) ・高齢者 ・心筋梗塞の既往 ・脳血管疾患 ・末梢動脈疾患

なぜ痛みを感じないのか

虚血心筋からの痛み刺激は、交感神経に伴走する求心性線維を介して中枢へ伝わる。糖尿病性神経障害などでこの経路が障害されたり、加齢で痛覚閾値が上昇したりすると、虚血が起きても胸痛として自覚されなくなる。また虚血の持続時間が短い、範囲が狭いといった要因も関与する。

検出法

ホルター心電図、運動負荷心電図、負荷心筋シンチグラフィ、負荷心エコー、冠動脈CTなどで客観的に評価する。ハイリスク者(特に糖尿病患者)では、症状がなくても積極的な評価を考慮する。

治療の原則

痛みの有無にかかわらず、心筋虚血そのものを制御することが目標である。基本は至適薬物療法(OMT:optimal medical therapy。抗血小板薬、スタチン、β遮断薬などと冠危険因子の管理)であり、虚血の範囲や冠動脈病変の重症度から適応があれば血行再建術(PCIまたはCABG)を行う。

POINT

・無痛性心筋虚血は、客観的に虚血が証明されるのに症状がない状態である。 ・糖尿病、高齢者、心筋梗塞後に起こりやすい。 ・予後は有痛性と同等であり、良好とはいえない(発見が遅れてむしろ不良になりうる)。 ・治療方針や血行再建術(PCI・CABG)の適応基準は有痛性と同じである。 ・「痛みがない=虚血が軽い」ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。