「全部数える」か「定点で見張る」か―結核が全数把握される理由
第109回医師国家試験 B問題 第7問
国試問題にチャレンジ
我が国の感染症対策において発生数の全数把握を行っているのはどれか。
- a.結核
- b.手足口病
- c.突発性発疹
- d.インフルエンザ
- e.ヘルパンギーナ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
日本の感染症発生動向調査には、診断したすべての医師が届け出る「全数把握」と、指定医療機関が流行状況を報告する「定点把握」の2つの方式があります。1〜4類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症はすべて全数把握で、5類は麻疹・風疹・梅毒・AIDSなど一部のみが全数把握です。結核は2類感染症として全数把握の対象であり、診断後直ちに保健所へ届け出ることで接触者健診やDOTSにつながります。手足口病・ヘルパンギーナ・突発性発疹は5類の小児科定点、季節性インフルエンザも5類の定点把握ですが、鳥インフルエンザや新型インフルエンザは全数把握である点に注意が必要です。百日咳や新型コロナウイルス感染症のように分類が変わることもあるため、最新の届出区分を把握しておくことが、臨床医としての法的義務と公衆衛生への貢献の基盤になります。
解答・解説
正解はaです
日本の感染症発生動向調査(サーベイランス)は、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に基づいて行われている。医師からの届出の集め方には、次の2種類がある。 ・全数把握:対象疾患を診断したすべての医師に届出を義務づけ、発生した症例をすべて把握する方式。 ・定点把握:都道府県があらかじめ指定した医療機関(定点)だけが患者数などを報告する方式。発生数そのものではなく、流行の傾向や規模をつかむことを目的とする。 全数把握の対象は、1類〜4類感染症の全疾患、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症(指定された場合)、新感染症、それに5類感染症の一部である。5類の多く、とくに小児に多いありふれたウイルス感染症は定点把握である。 したがって、各選択肢が感染症法の何類に当たるかを思い出せば答えが出る。結核は2類感染症なので全数把握である。手足口病・突発性発疹・ヘルパンギーナは5類の小児科定点、インフルエンザ(鳥インフルエンザと新型インフルエンザ等感染症を除く季節性のもの)は5類の定点把握疾患である。
選択肢考察
- ○a. 結核
正しい。結核は2類感染症であり、全数把握の対象である。診断した医師は、直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事へ届け出なければならない。届出の対象は患者(確定例)、疑似症患者、無症状病原体保有者で、無症状病原体保有者は治療(いわゆる潜在性結核感染症の治療)が必要と判断される場合に届け出る。届出を受けた保健所は接触者健診や服薬支援(DOTS:直接服薬確認療法)などを行うので、1例ずつ確実に把握する必要がある。なお、結核は以前は結核予防法で扱われていたが、平成19年(2007年)に感染症法へ統合され、2類感染症に位置づけられた。
- ×b. 手足口病
誤り。手足口病は5類感染症の定点把握疾患で、小児科定点から報告される。主な原因はコクサッキーウイルスA16やエンテロウイルス71などのエンテロウイルスで、夏に乳幼児を中心に流行する。手のひら・足の裏・口腔粘膜の水疱性発疹が特徴である。
- ×c. 突発性発疹
誤り。突発性発疹は5類感染症の定点把握疾患で、小児科定点から報告される。ヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)とHHV-7が原因で、主に生後6か月〜2歳ごろに発症する。3日前後の高熱が下がるころに体幹を中心とした発疹が出るのが典型的な経過で、熱性けいれんを合併することがある。
- ×d. インフルエンザ
誤り。季節性インフルエンザは5類感染症の定点把握疾患である。指定された定点医療機関(内科・小児科。令和7年度からは急性呼吸器感染症〈ARI〉定点に再編)が患者数を週ごとに報告し、1定点当たりの報告数から流行の開始や注意報・警報レベルを判断する。さらにインフルエンザで入院した患者は、基幹定点(300床以上の病院など)から報告される。ただし、鳥インフルエンザ(H5N1)とH7N9は2類、それ以外の鳥インフルエンザは4類、新型インフルエンザは新型インフルエンザ等感染症に分類され、これらは全数把握である。「インフルエンザ」といっても種類によって扱いが違う点に注意が必要である。
- ×e. ヘルパンギーナ
誤り。ヘルパンギーナは5類感染症の定点把握疾患で、小児科定点から報告される。主にコクサッキーウイルスA群が原因で、夏に乳幼児の間で流行する。突然の高熱と、軟口蓋から口蓋垂付近にできる小水疱・潰瘍が特徴である。手足口病とともに、いわゆる夏かぜの代表である。
感染症法の類型と把握方法
・1類(エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱):全数把握。直ちに届出。 ・2類(急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、SARS、MERS、鳥インフルエンザH5N1・H7N9):全数把握。直ちに届出。 ・3類(コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス):全数把握。直ちに届出。 ・4類(A型肝炎、E型肝炎、狂犬病、マラリア、デング熱、日本脳炎、つつが虫病、レジオネラ症、ジカウイルス感染症など):全数把握。直ちに届出。 ・5類全数把握(後天性免疫不全症候群〈AIDS〉、梅毒、麻疹、風疹、クロイツフェルト・ヤコブ病、破傷風、急性脳炎、侵襲性肺炎球菌感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症、劇症型溶血性レンサ球菌感染症、百日咳、水痘〈入院例〉など):原則7日以内に届出。ただし麻疹、風疹、侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに届け出る。 ・5類定点把握:小児科定点(手足口病、ヘルパンギーナ、突発性発疹、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、水痘、流行性耳下腺炎、RSウイルス感染症など)。インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症は急性呼吸器感染症定点。ほかに眼科定点(流行性角結膜炎など)、性感染症定点(性器クラミジア感染症、淋菌感染症など)、基幹定点(マイコプラズマ肺炎、細菌性髄膜炎、感染症による入院例など)がある。 ・新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症:全数把握。
覚え方のコツ
・1〜4類はすべて全数把握である。5類は「一部が全数、残りが定点」と整理する。 ・百日咳は平成30年(2018年)に定点把握から全数把握へ変更された。 ・新型コロナウイルス感染症は令和5年(2023年)5月に5類へ移行し、全数把握から定点把握に変わった。
POINT
・全数把握の対象は、1〜4類感染症すべてと5類感染症の一部である。 ・結核は2類感染症で全数把握の対象であり、診断したら直ちに保健所へ届け出る。 ・手足口病、ヘルパンギーナ、突発性発疹は5類の小児科定点で把握する。 ・季節性インフルエンザは5類の定点把握疾患である。一方、鳥インフルエンザ(2類・4類)と新型インフルエンザは全数把握である。
