StudyMed医師国家試験

「全部数える」か「定点で見張る」か―結核が全数把握される理由

第109回医師国家試験 B問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第7問

我が国の感染症対策において発生数の全数把握を行っているのはどれか。

  1. a.結核
  2. b.手足口病
  3. c.突発性発疹
  4. d.インフルエンザ
  5. e.ヘルパンギーナ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は感染症法にもとづくサーベイランス、つまり感染症の発生をどうやって国が把握しているかを問う問題だ。カギは「全数把握」と「定点把握」という2つの集め方の違いと、各疾患が感染症法の何類に当たるか。まずは2つの言葉の意味から確認しよう。
医学生医学生
全数把握は、診断した医師が全員届け出る方式ですよね。定点把握は……指定された病院だけが報告する方式でしたっけ。
ドクタードクター
その理解で合っているよ。全数把握は対象疾患を診断したすべての医師に届出を義務づけて、1例残らず把握する方式。定点把握は都道府県があらかじめ指定した医療機関だけが週ごとに患者数を報告する方式で、発生数そのものより流行の傾向や規模をつかむのが目的なんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「1〜4類は全部全数」と習った気がします。
ドクタードクター
そう、そこが最大のポイント。全数把握の対象は1〜4類感染症のすべて、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症、そして5類感染症の一部。5類の多く、特に小児にありふれたウイルス感染症は定点把握になっている。では選択肢を見ていこう。結核は何類かな?
医学生医学生
2類です。ということは全数把握ですね。
ドクタードクター
正解。結核は2類感染症で、診断した医師は直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出る。対象は確定患者だけでなく、疑似症患者や、治療が必要と判断された無症状病原体保有者、いわゆる潜在性結核感染症も含まれる。
医学生医学生
どうして結核はそこまで1例ずつ把握する必要があるんですか。
ドクタードクター
届出を受けた保健所が、接触者健診やDOTS、つまり直接服薬確認療法による服薬支援を行うからだ。家族や職場で感染が広がっていないかを調べ、確実に治療を完遂させるには、患者を一人ひとり把握していないとできない。ちなみに結核は昔は結核予防法で扱われていたけれど、2007年に感染症法へ統合されて2類に位置づけられたんだ。
医学生医学生
臨床実習の呼吸器内科で、結核疑いの患者さんが出たときに指導医の先生がすぐ保健所に電話していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれが全数把握の現場だね。次に手足口病、ヘルパンギーナ、突発性発疹。これらはどう分類されているかな。
医学生医学生
小児科実習でよく見た、いわゆる夏かぜや乳児の発熱ですね。ありふれた病気なので、全数を集めるのは現実的じゃない気がします。
ドクタードクター
いい感覚だ。3つとも5類の小児科定点で報告される疾患だ。手足口病はコクサッキーウイルスA16やエンテロウイルス71などが原因で、手のひら・足の裏・口の中に水疱ができる。ヘルパンギーナは主にコクサッキーウイルスA群で、突然の高熱と軟口蓋付近の小水疱・潰瘍が特徴。突発性発疹はHHV-6BやHHV-7が原因で、3日前後の高熱が下がるころに体幹中心の発疹が出る。どれも数多く発生するから、流行の動きを定点で見張るのが合理的なんだ。
医学生医学生
インフルエンザは少し迷いました。流行すると大きなニュースになるので、全部数えていそうな印象があって。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。季節性インフルエンザは5類の定点把握疾患だ。定点医療機関が週ごとに患者数を報告し、1定点当たりの報告数で注意報や警報のレベルを判断する。現在は急性呼吸器感染症、いわゆるARIの定点に再編されている。また入院例は基幹定点から報告される。
医学生医学生
でも鳥インフルエンザは違いましたよね。
ドクタードクター
よく気づいたね。鳥インフルエンザのH5N1とH7N9は2類、それ以外の鳥インフルエンザは4類、新型インフルエンザは新型インフルエンザ等感染症で、いずれも全数把握だ。同じ「インフルエンザ」でも種類で扱いがまったく違うから注意しよう。
医学生医学生
1〜4類は全数、5類は一部が全数で残りが定点、と整理すればいいんですね。5類で全数把握なのはどんな疾患がありますか。
ドクタードクター
代表的なのはAIDS、梅毒、麻疹、風疹、クロイツフェルト・ヤコブ病、破傷風、急性脳炎、侵襲性肺炎球菌感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症、劇症型溶血性レンサ球菌感染症など。5類全数は原則7日以内の届出だけど、麻疹、風疹、侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに届け出る必要がある。それから制度は変わるものだということも覚えておいてほしい。百日咳は2018年に定点から全数把握へ変わったし、新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類へ移行して全数把握から定点把握になった。
医学生医学生
CBTの問題集の古い解説だと違っていることもありそうですね。最新の分類を確認するようにします。
ドクタードクター
その姿勢が大事だ。届出は医師の法的義務で、怠れば公衆衛生上の対応が遅れてしまう。どの疾患を、いつまでに、どこへ届けるのかは、研修医になった初日から求められる知識だよ。

まとめ

日本の感染症発生動向調査には、診断したすべての医師が届け出る「全数把握」と、指定医療機関が流行状況を報告する「定点把握」の2つの方式があります。1〜4類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症はすべて全数把握で、5類は麻疹・風疹・梅毒・AIDSなど一部のみが全数把握です。結核は2類感染症として全数把握の対象であり、診断後直ちに保健所へ届け出ることで接触者健診やDOTSにつながります。手足口病・ヘルパンギーナ・突発性発疹は5類の小児科定点、季節性インフルエンザも5類の定点把握ですが、鳥インフルエンザや新型インフルエンザは全数把握である点に注意が必要です。百日咳や新型コロナウイルス感染症のように分類が変わることもあるため、最新の届出区分を把握しておくことが、臨床医としての法的義務と公衆衛生への貢献の基盤になります。

解答・解説

正解はaです

日本の感染症発生動向調査(サーベイランス)は、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に基づいて行われている。医師からの届出の集め方には、次の2種類がある。 ・全数把握:対象疾患を診断したすべての医師に届出を義務づけ、発生した症例をすべて把握する方式。 ・定点把握:都道府県があらかじめ指定した医療機関(定点)だけが患者数などを報告する方式。発生数そのものではなく、流行の傾向や規模をつかむことを目的とする。 全数把握の対象は、1類〜4類感染症の全疾患、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症(指定された場合)、新感染症、それに5類感染症の一部である。5類の多く、とくに小児に多いありふれたウイルス感染症は定点把握である。 したがって、各選択肢が感染症法の何類に当たるかを思い出せば答えが出る。結核は2類感染症なので全数把握である。手足口病・突発性発疹・ヘルパンギーナは5類の小児科定点、インフルエンザ(鳥インフルエンザと新型インフルエンザ等感染症を除く季節性のもの)は5類の定点把握疾患である。

選択肢考察

  1. ○a.  結核

    正しい。結核は2類感染症であり、全数把握の対象である。診断した医師は、直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事へ届け出なければならない。届出の対象は患者(確定例)、疑似症患者、無症状病原体保有者で、無症状病原体保有者は治療(いわゆる潜在性結核感染症の治療)が必要と判断される場合に届け出る。届出を受けた保健所は接触者健診や服薬支援(DOTS:直接服薬確認療法)などを行うので、1例ずつ確実に把握する必要がある。なお、結核は以前は結核予防法で扱われていたが、平成19年(2007年)に感染症法へ統合され、2類感染症に位置づけられた。

  2. ×b.  手足口病

    誤り。手足口病は5類感染症の定点把握疾患で、小児科定点から報告される。主な原因はコクサッキーウイルスA16やエンテロウイルス71などのエンテロウイルスで、夏に乳幼児を中心に流行する。手のひら・足の裏・口腔粘膜の水疱性発疹が特徴である。

  3. ×c.  突発性発疹

    誤り。突発性発疹は5類感染症の定点把握疾患で、小児科定点から報告される。ヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)とHHV-7が原因で、主に生後6か月〜2歳ごろに発症する。3日前後の高熱が下がるころに体幹を中心とした発疹が出るのが典型的な経過で、熱性けいれんを合併することがある。

  4. ×d.  インフルエンザ

    誤り。季節性インフルエンザは5類感染症の定点把握疾患である。指定された定点医療機関(内科・小児科。令和7年度からは急性呼吸器感染症〈ARI〉定点に再編)が患者数を週ごとに報告し、1定点当たりの報告数から流行の開始や注意報・警報レベルを判断する。さらにインフルエンザで入院した患者は、基幹定点(300床以上の病院など)から報告される。ただし、鳥インフルエンザ(H5N1)とH7N9は2類、それ以外の鳥インフルエンザは4類、新型インフルエンザは新型インフルエンザ等感染症に分類され、これらは全数把握である。「インフルエンザ」といっても種類によって扱いが違う点に注意が必要である。

  5. ×e.  ヘルパンギーナ

    誤り。ヘルパンギーナは5類感染症の定点把握疾患で、小児科定点から報告される。主にコクサッキーウイルスA群が原因で、夏に乳幼児の間で流行する。突然の高熱と、軟口蓋から口蓋垂付近にできる小水疱・潰瘍が特徴である。手足口病とともに、いわゆる夏かぜの代表である。

感染症法の類型と把握方法

・1類(エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱):全数把握。直ちに届出。 ・2類(急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、SARS、MERS、鳥インフルエンザH5N1・H7N9):全数把握。直ちに届出。 ・3類(コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス):全数把握。直ちに届出。 ・4類(A型肝炎、E型肝炎、狂犬病、マラリア、デング熱、日本脳炎、つつが虫病、レジオネラ症、ジカウイルス感染症など):全数把握。直ちに届出。 ・5類全数把握(後天性免疫不全症候群〈AIDS〉、梅毒、麻疹、風疹、クロイツフェルト・ヤコブ病、破傷風、急性脳炎、侵襲性肺炎球菌感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症、劇症型溶血性レンサ球菌感染症、百日咳、水痘〈入院例〉など):原則7日以内に届出。ただし麻疹、風疹、侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに届け出る。 ・5類定点把握:小児科定点(手足口病、ヘルパンギーナ、突発性発疹、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、水痘、流行性耳下腺炎、RSウイルス感染症など)。インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症は急性呼吸器感染症定点。ほかに眼科定点(流行性角結膜炎など)、性感染症定点(性器クラミジア感染症、淋菌感染症など)、基幹定点(マイコプラズマ肺炎、細菌性髄膜炎、感染症による入院例など)がある。 ・新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症:全数把握。

覚え方のコツ

・1〜4類はすべて全数把握である。5類は「一部が全数、残りが定点」と整理する。 ・百日咳は平成30年(2018年)に定点把握から全数把握へ変更された。 ・新型コロナウイルス感染症は令和5年(2023年)5月に5類へ移行し、全数把握から定点把握に変わった。

POINT

・全数把握の対象は、1〜4類感染症すべてと5類感染症の一部である。 ・結核は2類感染症で全数把握の対象であり、診断したら直ちに保健所へ届け出る。 ・手足口病、ヘルパンギーナ、突発性発疹は5類の小児科定点で把握する。 ・季節性インフルエンザは5類の定点把握疾患である。一方、鳥インフルエンザ(2類・4類)と新型インフルエンザは全数把握である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。