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ゼロでなければアウト―水道水で大腸菌だけが「検出されないこと」の理由

第109回医師国家試験 B問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第8問

水道法に基づく水質基準で検出されないことと規定されているのはどれか。

  1. a.塩素酸
  2. b.大腸菌
  3. c.カルシウム
  4. d.マグネシウム
  5. e.総トリハロメタン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は水道法にもとづく水質基準の問題だ。ほとんどの項目は「〇〇mg/L以下」という上限値で決められているけれど、ひとつだけ特別な書き方をされている項目がある。どの項目が「ゼロでなければならない」のか、その考え方に注目しよう。
医学生医学生
有害なものは全部ゼロにすべき、という気もしますが、そうではないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。化学物質の基準値は、生涯にわたって毎日飲み続けても健康に影響が出ない量をもとに決められている。だから、ゼロでなくても許容される量が存在するんだ。一方、病原微生物は話が違う。
医学生医学生
微生物は少しでも入っていたら、そこから増えたり感染したりするからでしょうか。
ドクタードクター
考え方として近いね。特に大腸菌は人や動物の腸管に常在する菌だから、水中にいればふん便で汚染されたことを意味する。そうなると赤痢菌や病原性大腸菌、ノロウイルスなど、ふん便を介して広がる病原体が一緒に混入しているおそれがある。だから大腸菌は検出されること自体が問題で、基準は「検出されないこと」と規定されている。水質基準51項目のうち、この形なのは大腸菌だけだ。
医学生医学生
微生物学の実習で、大腸菌はふん便汚染の指標菌だと習いました。昔は「大腸菌群」と言っていた気がするんですが。
ドクタードクター
よく覚えているね。2004年の基準改正までは「大腸菌群」が指標だった。ただ大腸菌群には土壌など自然界由来の菌も含まれるので、よりふん便汚染に特異的な「大腸菌」に改められたんだ。では、ほかの選択肢を見ていこう。総トリハロメタンはどうかな。
医学生医学生
発がん性があると聞いたので、ゼロであるべき物質のように思えます。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだ。トリハロメタンは、原水中のフミン質などの有機物と消毒用の塩素が反応してできる消毒副生成物。クロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ブロモホルムの4物質の合計が総トリハロメタンで、基準値は0.1mg/L以下だ。塩素消毒をする限りある程度は生じてしまうから、上限値で管理されている。
医学生医学生
消毒をやめるわけにはいかないので、リスクのバランスをとっているんですね。塩素酸も同じ考え方ですか。
ドクタードクター
その通り。塩素酸は消毒に使う次亜塩素酸ナトリウムが保存中に分解してできる消毒副生成物で、基準は0.6mg/L以下。これも避けられない生成物だから、健康影響が出ない濃度で管理するんだ。
医学生医学生
カルシウムとマグネシウムは、むしろ体に必要なミネラルですよね。
ドクタードクター
そう。この2つはまとめて「カルシウム、マグネシウム等(硬度)」として300mg/L以下と決められている。天然の水にもともと含まれる成分で、健康被害を防ぐというより、硬度が高すぎると味が悪くなったり、せっけんが泡立ちにくくなったりする生活上の支障を防ぐための項目なんだ。マグネシウムの多い硬水は苦味を感じやすく、飲み慣れない人では下痢を起こすこともある。
医学生医学生
なるほど、ゼロを求めるのは「存在すること自体が汚染の証拠」になる大腸菌だけ、と理解すればいいですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。もうひとつ、よく比較されるのが一般細菌。こちらは水の清浄度を全体的に示す指標で、1mLの検水で形成される集落数が100以下と上限値で決められている。大腸菌との規定の違いは頻出だよ。
医学生医学生
残留塩素も水質基準に入っていますか。CBTの勉強中に混乱したところです。
ドクタードクター
混乱しやすいところだね。残留塩素は水質基準項目ではなく、水道法施行規則にもとづく衛生上の措置として決められている。給水栓、つまり蛇口で遊離残留塩素0.1mg/L以上を保つという下限の規定だ。配水の途中で細菌が再び増えるのを防ぐのが目的だから、上限ではなく下限なんだ。
医学生医学生
上限で管理するもの、下限で管理するもの、ゼロを求めるもの、と3パターンで整理できそうです。
ドクタードクター
いい整理だね。臨床でも、災害時や井戸水を使う地域で下痢症が集団発生したときには、飲用水のふん便汚染を疑う視点が大切になる。水の安全は感染症予防の土台で、上下水道の整備は歴史的に消化器感染症を大きく減らしてきた。公衆衛生の知識は、こうした集団レベルの判断に直結するんだ。

まとめ

水道水の水質は水道法第4条にもとづく省令で51項目が定められており、ほとんどの項目は健康影響や生活上の支障が出ない上限値で規定されています。その中で大腸菌だけは「検出されないこと」とされており、これは大腸菌の存在がふん便汚染を意味し、病原体混入のおそれを示すためです。総トリハロメタン(0.1mg/L以下)や塩素酸(0.6mg/L以下)は塩素消毒に伴って避けられない消毒副生成物、カルシウム・マグネシウム等(硬度、300mg/L以下)は生活上の性状に関わる項目で、いずれも上限値で管理されます。あわせて、一般細菌は1mL中の集落数100以下、残留塩素は蛇口で遊離残留塩素0.1mg/L以上という下限規定であることも押さえておきましょう。基準の「書き方」の違いからその背景にある考え方を理解することが、水を介した感染症の予防という公衆衛生の基本につながります。

解答・解説

正解はbです

水道水が満たすべき水質は、水道法第4条に基づく「水質基準に関する省令」で定められている。現行の水質基準は51項目で、大きく分けて(1)病原微生物の指標、(2)重金属・無機物質、(3)一般有機化学物質、(4)消毒副生成物、(5)味・におい・色・濁りなど生活利用上の性状、に関する項目から成る。 ほとんどの項目は「○○ mg/L以下であること」のように上限値で規定されている。化学物質は、生涯にわたって毎日飲み続けても健康に影響が出ない量を基に基準値が決められるため、ゼロでなくても許容される量が存在するからである。 これに対し、病原微生物については「少しでも入っていれば、ふん便汚染があり病原体が紛れ込んでいる可能性がある」という考え方をとる。そのため、ふん便汚染の指標である大腸菌だけは数値の上限ではなく「検出されないこと」と規定されている。 本問は、この「検出されないこと」という特別な書き方がされている項目を選ばせる問題である。各選択肢が上限値で決まる項目か、ゼロが求められる項目かを区別できれば解ける。

選択肢考察

  1. ×a.  塩素酸

    塩素酸は、消毒に使う次亜塩素酸ナトリウムが保存中に分解してできる消毒副生成物である。水質基準は0.6 mg/L以下と上限値で決められており、「検出されないこと」ではない。消毒剤を使う以上ある程度の生成は避けられないため、健康影響が出ない濃度で管理するという考え方がとられている。

  2. ○b.  大腸菌

    大腸菌は人や動物の腸管内に常在する菌で、水中に存在すればふん便による汚染を受けたことを意味する。その場合、赤痢菌・病原性大腸菌・ノロウイルスなど、ふん便を介して広がる病原体が混入しているおそれがある。そのため、大腸菌は検出されること自体が問題とされ、水質基準は「検出されないこと」と規定されている。水質基準51項目のうち、この形で規定されているのは大腸菌のみである。なお、2004(平成16)年の基準改正までは、自然界の土壌由来の菌も含む「大腸菌群」が指標だった。現在は、よりふん便汚染に特異的な「大腸菌」に改められている。

  3. ×c.  カルシウム

    カルシウムはマグネシウムとともに水の「硬度」を決める成分である。水質基準では「カルシウム、マグネシウム等(硬度)」として300 mg/L以下と規定されている。健康被害を防ぐというより、硬度が高すぎると味が悪くなる、せっけんが泡立ちにくくなる、といった生活上の支障を防ぐための項目である。天然水にはもともと含まれている成分であり、「検出されないこと」とはされていない。

  4. ×d.  マグネシウム

    マグネシウムもカルシウムとあわせて「カルシウム、マグネシウム等(硬度)」として300 mg/L以下と規定されている。マグネシウムが多い硬水は苦味を感じやすく、飲み慣れない人では下痢を起こすことがある。ただし、基準は上限値で決められており、「検出されないこと」ではない。

  5. ×e.  総トリハロメタン

    トリハロメタンは、原水中のフミン質などの有機物と消毒用の塩素が反応してできる消毒副生成物である。発がん性が懸念されている。総トリハロメタンは、クロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ブロモホルムの4物質の濃度を合計したもので、基準値は0.1 mg/L以下である。4物質それぞれにも個別の基準値がある。塩素消毒を行う限りある程度は生成されるため、「検出されないこと」ではなく上限値で管理されている。

水道法と水質基準

水道法は、清浄・豊富・低廉な水の供給を目的とする法律である。第4条で水道水が備えるべき要件を定め、具体的な項目と基準値は省令(水質基準に関する省令)で規定している。水道事業者には定期的な水質検査が義務付けられている。

主な水質基準項目の例

・病原微生物の指標:一般細菌は1 mLの検水で形成される集落数(コロニー数)が100以下。大腸菌は検出されないこと。 ・無機物・重金属:カドミウム、水銀、鉛、ヒ素、シアン、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素など。 ・消毒副生成物:塩素酸0.6 mg/L以下、総トリハロメタン0.1 mg/L以下、クロロホルム、ブロモジクロロメタン、臭素酸など。 ・性状に関する項目:カルシウム・マグネシウム等(硬度)300 mg/L以下、pH値5.8以上8.6以下、色度5度以下、濁度2度以下、味・臭気は「異常でないこと」など。

残留塩素について

残留塩素は水質基準項目ではない。水道法施行規則に基づく衛生上の措置として、給水栓(蛇口)で遊離残留塩素0.1 mg/L以上(結合残留塩素なら0.4 mg/L以上)を保つことが求められている。これは上限ではなく下限の規定であり、配水の途中で細菌が再び増えるのを防ぐためのものである。

一般細菌と大腸菌の違い

一般細菌は、水の清浄度を全体的に示す指標である。一定数までは許容され、上限値で管理される。大腸菌は、ふん便汚染を特異的に示す指標であり、存在してはならない。両者の規定の仕方の違いは頻出である。

POINT

・水道法の水質基準で「検出されないこと」と規定されているのは大腸菌のみである。 ・一般細菌は1 mLの検水で集落数100以下である。 ・硬度(カルシウム・マグネシウム等)は300 mg/L以下、総トリハロメタンは0.1 mg/L以下、塩素酸は0.6 mg/L以下である。 ・総トリハロメタンは、クロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ブロモホルムの4物質の合計である。 ・残留塩素は下限の規定(遊離残留塩素0.1 mg/L以上)であり、水質基準項目とは別枠である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。