自分の臓器を残して「別の場所」へ―膵臓移植が異所性で行われる理由
第109回医師国家試験 B問題 第26問
国試問題にチャレンジ
一般的に異所性移植が行われるのはどれか。
- a.肺
- b.心臓
- c.肝臓
- d.膵臓
- e.小腸
対話形式の解説
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医学生まとめ
臓器移植には、病変臓器を摘出して本来の位置にドナー臓器を植え込む同所性移植と、自己臓器を原則として残し別の部位に植え込む異所性移植があります。一般的に異所性移植が行われるのは腎臓と膵臓で、いずれも下腹部の腸骨窩に植え込み、腸骨動静脈に血管を吻合します。膵移植の主な対象は1型糖尿病で、外分泌機能が保たれた自己膵は侵襲を避けるため残され、腎不全合併例では膵腎同時移植が行われます。一方、肺・心臓・肝臓・小腸は気道や主要血管、消化管との連続性が必要なため同所性移植が標準です。「なぜその臓器でその術式なのか」を臓器の機能と解剖から理解しておくと、移植医療全体の知識を体系的に整理できます。
解答・解説
正解はdです
問われていること
臓器移植の術式には、同所性移植と異所性移植がある。本問では、通常の臨床で異所性移植として行われる臓器を選ぶ。
用語の整理
・同所性移植(orthotopic transplantation):レシピエント(移植を受ける人)の病気の臓器を摘出し、その解剖学的に本来の位置にドナーの臓器を植え込む方法。 ・異所性移植(heterotopic transplantation):レシピエント自身の臓器は原則として残したまま、本来とは異なる部位にドナーの臓器を植え込む方法。
考え方
異所性移植が選ばれるのは、①自己の臓器を摘出する必要がない(または摘出が患者にとって大きな負担になる)、②本来の位置でなくても血管をつなげば機能を発揮できる、という条件を満たす臓器である。代表例が腎臓と膵臓で、いずれも下腹部の腸骨窩に植え込み、腸骨動静脈に血管を吻合する。 一方、肺・心臓・肝臓・小腸は、胸腔や腹腔内の限られた空間で主要な血管・気道・消化管との連続性を保つ必要があり、病変臓器を摘出して同じ場所に植え込む同所性移植が標準である。したがって正解は膵臓である。
選択肢考察
- ×a. 肺
肺移植では、病変のある肺を摘出し、同じ胸腔内にドナー肺を植え込む同所性移植が行われる。片肺移植と両肺移植があり、気管支、肺動脈、肺静脈(左房カフ)を吻合する。わが国では脳死ドナーからの移植のほか、生体ドナー2人から肺葉を1つずつ提供してもらう生体肺葉移植も行われるが、いずれも同所性である。
- ×b. 心臓
心臓移植では、レシピエントの心臓を摘出して同じ位置にドナー心を植え込む同所性移植が標準術式である。かつてはレシピエントの心臓を残したまま補助としてドナー心を並列に植え込む異所性心移植も試みられたが、現在ではごく例外的な方法であり、一般的ではない。わが国の心臓移植は脳死ドナーからのみ行われる。
- ×c. 肝臓
肝移植では、レシピエントの肝臓を摘出し、同じ位置にドナー肝(生体肝移植では肝臓の一部)を植え込む同所性移植が標準である。肝静脈・門脈・肝動脈・胆管の再建が必要となる。わが国では生体肝移植の件数が多い。自己肝の一部を残して補助的に部分肝を移植する補助肝移植もあるが、特殊な方法である。
- ○d. 膵臓
膵臓移植では、レシピエントの膵臓は摘出せずに残し、ドナーの膵臓(通常は十二指腸の一部を付けたもの)を下腹部の腸骨窩に植え込む異所性移植が行われる。血管は総腸骨動静脈または外腸骨動静脈に吻合し、膵液(外分泌)は付属させた十二指腸を小腸(腸管ドレナージ)や膀胱(膀胱ドレナージ)につないで排出させる。自己膵は外分泌機能を保っていることが多く、摘出すると手術侵襲が大きいため残される。主な対象はインスリン分泌が枯渇した1型糖尿病患者で、腎不全を合併している場合は膵腎同時移植が行われる。
- ×e. 小腸
小腸移植は、短腸症候群や腸管運動機能障害などによる腸管不全の患者に行われる。病的な腸管を切除または評価したうえで、ドナー小腸を腹腔内に植え込み、上腸間膜動静脈系などに血管を吻合し、レシピエントの消化管と連続させる。本来の小腸の役割を担わせる同所性移植であり、異所性移植には分類されない。
同所性移植と異所性移植のまとめ
・同所性移植:心臓、肺、肝臓、小腸(および角膜)。 ・異所性移植:腎臓、膵臓。
腎移植
・ドナー腎を腸骨窩(後腹膜腔)に植え込み、腎動静脈を腸骨動静脈に、尿管を膀胱に吻合する。 ・レシピエントの自己腎は、多発性嚢胞腎で巨大な場合や感染源となる場合などを除き、通常は摘出しない。
膵移植の形態
・膵腎同時移植(SPK):1型糖尿病で末期腎不全を合併する患者が対象。わが国の膵移植の大半を占める。 ・腎移植後膵移植(PAK):先に腎移植を受けた患者に膵臓を追加で移植する。 ・膵単独移植(PTA):腎機能が保たれているが血糖管理がきわめて不安定な患者が対象。 ・膵島移植:膵臓から分離したランゲルハンス島を門脈内に注入する細胞移植で、これも本来の位置とは異なる部位への移植である。
わが国の臓器移植法で脳死下提供が可能な臓器
心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球(角膜)。このうち腎臓と眼球は心停止後の提供も可能である。
POINT
・異所性移植が一般的に行われるのは腎臓と膵臓で、いずれも腸骨窩に植え込み、自己臓器は原則残す。 ・心臓、肺、肝臓、小腸は病変臓器を摘出して同じ位置に植え込む同所性移植が標準である。 ・膵移植の主な対象は1型糖尿病で、腎不全合併例では膵腎同時移植が行われる。
