「詰まる」か「破れる」か―病態から読み解く脳血管障害の治療選択
第109回医師国家試験 B問題 第27問
国試問題にチャレンジ
脳血管障害とその治療の組合せで適切なのはどれか。
- a.もやもや病 ―― 動脈塞栓術
- b.ラクナ梗塞 ―― 経皮血管形成術〈PTA〉
- c.くも膜下出血 ―― 動脈瘤塞栓術
- d.心原性脳塞栓 ―― 頸動脈内膜剝離術
- e.高血圧性脳出血 ―― 血栓溶解療法
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
脳血管障害の治療は、血管が「詰まる」虚血か「破れる」出血かという病態によって方向性が決まります。くも膜下出血の多くは脳動脈瘤破裂によるもので、早期の再破裂を防ぐために開頭クリッピング術または血管内コイル塞栓術を行うため、動脈瘤塞栓術との組合せが適切です。もやもや病は虚血が本態なので血行再建術、ラクナ梗塞は細い穿通枝の病変なので抗血小板薬と血圧管理、心原性脳塞栓は心内血栓が原因なので抗凝固療法が中心となり、高血圧性脳出血への血栓溶解療法は禁忌です。くも膜下出血後の脳血管攣縮や正常圧水頭症など、急性期以降の管理もあわせて押さえておきましょう。病態から治療を導く考え方は、組合せ問題だけでなく救急外来での初期対応の判断にも直結します。
解答・解説
正解はcです
問われていること
脳血管障害は病型によって病態がまったく異なり、それに応じて選ぶ治療も異なる。本問は「病態をふまえて治療法を選べるか」を確認する問題である。
考え方
治療法を選ぶときは、まず「その病態で何が起きているのか」を考えるとよい。 ・血管が狭くなる・詰まる(虚血)病態 → 血流を回復させる治療(血栓溶解、血栓回収、血行再建術、狭窄部の拡張など)と再発予防(抗血小板薬・抗凝固薬) ・血管が破れる(出血)病態 → 出血源の処理(動脈瘤の閉塞など)、血圧管理、血腫による圧迫の解除 この原則に照らすと、出血している病態に血栓溶解療法を行う、血流が足りない病態に血管を塞ぐ治療を行う、病変の部位と一致しない血管に手術を行う、といった組合せは誤りだとわかる。くも膜下出血の多くは脳動脈瘤の破裂によるもので、最も重要なのは再出血の予防である。そのため、動脈瘤を血流から遮断する治療(開頭クリッピング術または血管内コイル塞栓術)が行われる。したがって「くも膜下出血 ―― 動脈瘤塞栓術」が適切な組合せである。
選択肢考察
- ×a. もやもや病 ―― 動脈塞栓術
もやもや病は、内頸動脈終末部からWillis動脈輪(脳底部で左右の内頸動脈系と椎骨脳底動脈系をつなぐ動脈の輪)にかけて進行性の狭窄・閉塞が起こる疾患である。その結果、脳底部に細い異常血管網(もやもや血管)が発達する。基本の病態は脳血流の不足であり、症状は一過性脳虚血発作(TIA)や脳梗塞として現れる。小児では、泣く・熱い食べ物を吹き冷ますなどの過換気がきっかけになりやすい。成人では、もろい異常血管網から脳出血を起こすこともある。治療の中心は血流を増やす血行再建術である。浅側頭動脈と中大脳動脈の枝をつなぐ直接血行再建術(STA-MCA吻合術)と、側頭筋や硬膜などを脳表に接着させて新たな血管の発達を促す間接血行再建術がある。血管を塞ぐ動脈塞栓術を行うと虚血がさらに悪化するため、この組合せは不適切である。
- ×b. ラクナ梗塞 ―― 経皮血管形成術〈PTA〉
ラクナ梗塞は、主幹動脈から直接分かれる細い穿通枝(レンズ核線条体動脈など)が閉塞して起こる、直径15mm未満の小さな梗塞である。主な原因は高血圧による細動脈の変性(リポヒアリノーシス)で、被殻・内包・視床・橋などに好発する。経皮血管形成術(PTA)は、カテーテルでバルーンを狭窄部まで進めて拡張する治療で、太い血管の狭窄が対象となる。直径数百μm程度の穿通枝には行えない。ラクナ梗塞の急性期には、適応を満たせば発症4.5時間以内のrt-PA(遺伝子組換え組織型プラスミノゲン・アクチベータ)静注療法を行える。そのほか、抗血小板療法(オザグレルナトリウム点滴、アスピリン内服など)や脳保護薬(エダラボン)が用いられる。慢性期は抗血小板薬(シロスタゾール、クロピドグレル、アスピリンなど)の継続と、厳格な血圧管理が再発予防の基本となる。
- ○c. くも膜下出血 ―― 動脈瘤塞栓術
くも膜下出血の約80〜90%は脳動脈瘤の破裂が原因である。破裂した動脈瘤は、発症後早期(特に24時間以内)に再破裂しやすく、再破裂すると予後が著しく悪化する。このため、急性期治療の最重要課題は、動脈瘤を血流から遮断して再出血を防ぐことである。その方法は2つある。1つは開頭して動脈瘤の頸部(ネック)をクリップで挟む脳動脈瘤頸部クリッピング術、もう1つはカテーテルを動脈瘤内まで進めてプラチナコイルなどを詰める血管内治療(瘤内コイル塞栓術)である。どちらを選ぶかは、重症度、年齢や全身状態、動脈瘤の部位・形状(ネックの広さなど)を考えて決める。したがって、動脈瘤塞栓術はくも膜下出血の治療として適切である。
- ×d. 心原性脳塞栓 ―― 頸動脈内膜剝離術
心原性脳塞栓は、心臓内でできた血栓が脳動脈へ飛んで詰まる病型である。心房細動によって左心房(特に左心耳)にできる血栓が代表的な原因である。原因が心臓にあるので、頸動脈を手術しても病態は改善しない。頸動脈内膜剝離術(CEA)は、頸動脈分岐部の粥腫(プラーク)を内膜ごと取り除く手術で、アテローム硬化による頸動脈狭窄が対象である。症候性で高度狭窄(おおむね70%以上)、または無症候性で60%以上の狭窄などが適応となる。心原性脳塞栓の急性期には、適応があれば発症4.5時間以内のrt-PA静注療法を行う。主幹動脈閉塞例では機械的血栓回収療法も行われ、原則は発症6時間以内だが、画像評価で条件を満たせば24時間以内まで適応が広がっている。再発予防の中心は抗凝固療法である。非弁膜症性心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)やワルファリンを用い、急性期にはヘパリンを使うこともある。
- ×e. 高血圧性脳出血 ―― 血栓溶解療法
高血圧性脳出血は、長く続いた高血圧で傷んだ穿通枝などの細い動脈が破綻して起こる。好発部位は被殻、視床、皮質下、小脳、橋である。すでに出血している病態に、血栓を溶かして出血を助長する血栓溶解療法を行うことは禁忌である。脳出血はrt-PA静注療法の代表的な禁忌でもある。治療の基本は、血腫の増大を防ぐための急性期降圧(収縮期血圧140mmHg未満を目標とすることが多い)、脳浮腫・頭蓋内圧亢進への対策、全身管理である。外科的治療(開頭血腫除去術、神経内視鏡下血腫除去術、CT定位的血腫吸引術)は、血腫量が多い被殻出血、径3cm以上で神経症状が悪化している、または脳幹を圧迫している小脳出血、一部の皮質下出血などで検討する。脳室穿破によって水頭症をきたした場合は脳室ドレナージを行う。視床出血や脳幹出血そのものに対して血腫除去術を行うことは原則としてない。
脳血管障害の主な治療の整理
(1) 脳梗塞(虚血性脳卒中) ・急性期再灌流療法:rt-PA静注療法(発症4.5時間以内、病型は問わない。出血や大手術後などの禁忌がないことを確認する)。主幹動脈閉塞には機械的血栓回収療法(原則は発症6時間以内、画像条件を満たせば24時間以内まで) ・アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞:抗血小板療法(急性期はアスピリン、オザグレルナトリウム、アルガトロバンなど。慢性期はアスピリン、クロピドグレル、シロスタゾール) ・心原性脳塞栓:抗凝固療法(DOAC、ワルファリン。急性期はヘパリン) ・脳保護薬:エダラボン(フリーラジカルを除去する薬。腎機能障害に注意) (2) 頸動脈狭窄症 ・頸動脈内膜剝離術(CEA)、または頸動脈ステント留置術(CAS)。CASは心疾患などでCEAの危険性が高い例で選ばれることが多い。 (3) もやもや病 ・直接・間接の血行再建術。急性期の脳梗塞には抗血小板薬などの内科治療を行う。 (4) くも膜下出血(脳動脈瘤破裂) ・再破裂予防:開頭クリッピング術、または血管内コイル塞栓術 ・発症4〜14日ごろに起こる脳血管攣縮(脳の動脈が一時的に強く収縮し、遅れて脳梗塞を起こす状態)への対策:ファスジル、オザグレルナトリウム、クラゾセンタンなど。循環血液量を保つことも重要である。 ・正常圧水頭症(慢性期)には、脳室腹腔シャントなどのシャント術を行う。 (5) 高血圧性脳出血 ・降圧、頭蓋内圧管理。部位と血腫量に応じて、開頭・内視鏡下・定位的血腫除去術や脳室ドレナージを行う。
血管内治療の広がり
近年は、カテーテルを使う脳血管内治療が大きく発展している。脳動脈瘤のコイル塞栓術、急性期脳梗塞の血栓回収療法、頸動脈狭窄のステント留置術、脳動静脈奇形や硬膜動静脈瘻の塞栓術などが日常診療で行われている。
POINT
・くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)の治療は、再破裂予防のためのクリッピング術またはコイル塞栓術である。 ・もやもや病は虚血が基本の病態であり、血行再建術(STA-MCA吻合術など)を行う。 ・ラクナ梗塞・アテローム血栓性脳梗塞には抗血小板薬、心原性脳塞栓には抗凝固薬を用いる。 ・頸動脈内膜剝離術の対象は、アテローム硬化による頸動脈狭窄である。 ・脳出血に対する血栓溶解療法は禁忌である。
