食べられない高齢者に「少しずつ」から始める理由―経管栄養・静脈栄養の基本ルール
第109回医師国家試験 B問題 第25問
国試問題にチャレンジ
経口摂取ができない高齢者の栄養管理について正しいのはどれか。
- a.経鼻胃管からは水分投与を行わない。
- b.経管栄養開始時は徐々に投与量を増やす。
- c.静脈栄養療法時には口腔ケアは不要である。
- d.静脈栄養療法時には脂肪製剤を使用しない。
- e.経管栄養開始後は嚥下機能評価を行わない。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
経口摂取ができない高齢者の栄養管理では、「腸が使えるなら腸を使う」原則に従って経腸栄養を優先し、消化管が使えない場合や不足する場合に静脈栄養を用います。経管栄養は少量・低速度で開始して段階的に増量することが基本で、これは下痢・嘔吐とそれに伴う誤嚥性肺炎、さらに低リン血症などを生じるリフィーディング症候群を防ぐためです。経管栄養中も白湯による水分補給は必要であり、静脈栄養では脂肪乳剤をエネルギー源・必須脂肪酸源として併用するのが一般的です。口から食べていなくても口腔ケアは誤嚥性肺炎予防に欠かせず、嚥下機能を繰り返し評価して経口摂取の再開をめざします。安全な栄養投与とQOLの回復を両立させる視点は、高齢者医療のあらゆる場面で求められる基本です。
解答・解説
正解はbです
テーマ
脳血管障害の後遺症や認知症、サルコペニアなどにより、高齢者では摂食嚥下障害のため口から十分に食べられなくなることが多い。本問は、そうした高齢者に対する人工的な栄養補給(経腸栄養・静脈栄養)の基本的な管理を問うている。
考え方
栄養投与経路の選択では「腸が使えるなら腸を使う」が原則である。消化管が機能していれば、生理的で合併症が少なく、腸管粘膜の萎縮やバクテリアルトランスロケーション(腸内細菌が腸管壁を越えて体内に侵入すること)を防げる経腸栄養を優先し、消化管が使えない場合や経腸栄養だけでは不足する場合に静脈栄養を用いる。 いずれの経路を選んでも、次の点は共通して重要である。 1. 必要なエネルギー・蛋白質・脂質・水分・電解質・ビタミン・微量元素をバランスよく補うこと。 2. 長期間の飢餓状態にあった患者では、急な栄養投与によるリフィーディング症候群や消化器症状を避けるため、少量から開始して段階的に増量すること。 3. 口から食べていなくても口腔ケアを継続し、誤嚥性肺炎を予防すること。 4. 嚥下機能を繰り返し評価し、経口摂取の再開をめざすこと。 これらの原則に照らして各選択肢を判断すればよい。
選択肢考察
- ×a. 経鼻胃管からは水分投与を行わない。
誤り。経口摂取ができない患者は自力で水を飲めないため、水分も経管で補う必要がある。経腸栄養剤に含まれる水分は製剤により異なるが(1kcal/mLの製剤で約80〜85%)、それだけでは1日の必要水分量に届かないことが多く、栄養剤の注入前後に白湯(微温湯)を追加して補給する。注入後の白湯はチューブ内をフラッシュして閉塞を防ぐ役割も兼ねる。高齢者は口渇を感じにくく脱水に陥りやすいため、水分管理は特に重要である。
- ○b. 経管栄養開始時は徐々に投与量を増やす。
正しい。絶食が続いた消化管は消化吸収機能が低下しており、いきなり目標量を投与すると下痢・腹部膨満・嘔吐をきたしやすい。嘔吐は誤嚥性肺炎の原因にもなる。さらに低栄養状態の患者に急速にエネルギー(特に糖質)を与えると、インスリン分泌に伴って細胞内へリン・カリウム・マグネシウムが移動し、低リン血症などから心不全・不整脈・意識障害を起こすリフィーディング症候群の危険がある。このため少量・低速度で開始し、消化器症状や電解質を確認しながら数日かけて目標量まで段階的に増量する。
- ×c. 静脈栄養療法時には口腔ケアは不要である。
誤り。経口摂取をしていないと咀嚼による唾液分泌や自浄作用が低下し、口腔内はむしろ乾燥して細菌が増殖しやすくなる。嚥下障害のある高齢者はこの細菌を含む唾液を不顕性に誤嚥し、誤嚥性肺炎を起こしうる。したがって静脈栄養・経管栄養を問わず口腔ケアは必要であり、口腔機能の維持は将来の経口摂取再開にも役立つ。
- ×d. 静脈栄養療法時には脂肪製剤を使用しない。
誤り。脂肪乳剤(静注用脂肪乳剤)は1gあたり約9kcalとエネルギー密度が高く、少ない水分量で多くのエネルギーを補給できる。また必須脂肪酸欠乏の予防に不可欠であり、糖質のみを大量に投与した場合に生じやすい高血糖や脂肪肝を軽減する効果もある。このため中心静脈栄養でも末梢静脈栄養でも、適応に応じて脂肪乳剤を併用するのが一般的である。重症の脂質異常症や血栓症、重篤な肝障害などでは慎重投与・禁忌となる場合がある。
- ×e. 経管栄養開始後は嚥下機能評価を行わない。
誤り。経管栄養は経口摂取の代わりに栄養を確保する手段であって、経口摂取の断念を意味するものではない。経管栄養を行いながらリハビリテーション(嚥下訓練)を進め、反復唾液嚥下テストや改訂水飲みテスト、嚥下内視鏡検査(VE)、嚥下造影検査(VF)などで嚥下機能を定期的に再評価し、可能であれば経口摂取を再開する。食べる楽しみは生活の質(QOL)に大きく関わる。
栄養投与経路の選択
消化管が使える → 経腸栄養 ・短期間(おおむね4週間未満):経鼻胃管など ・長期間(4週間以上)の見込み:胃瘻(経皮内視鏡的胃瘻造設術:PEG)など 消化管が使えない、または経腸栄養で不足 → 静脈栄養 ・短期間:末梢静脈栄養(PPN) ・長期間・高カロリーが必要:中心静脈栄養(TPN)
経腸栄養の主な合併症
・下痢、腹部膨満、嘔吐(投与速度・濃度・量が過剰、浸透圧、細菌汚染など) ・胃食道逆流による誤嚥性肺炎(投与中・投与後は上半身を30〜45度挙上する) ・チューブの位置異常・閉塞・自己抜去
静脈栄養の主な合併症
・カテーテル関連血流感染症 ・高血糖、肝機能障害 ・腸管粘膜萎縮とバクテリアルトランスロケーション
リフィーディング症候群
長期の低栄養状態の患者に急激に栄養を再開した際に起こる代謝異常である。インスリン分泌により細胞内へリン・カリウム・マグネシウムが取り込まれ、低リン血症・低カリウム血症・低マグネシウム血症や、ビタミンB1欠乏、体液貯留を生じ、心不全・不整脈・呼吸不全・意識障害に至ることがある。予防には少量から開始して段階的に増量し、電解質をモニターしてビタミンB1を補充する。
POINT
・「腸が使えるなら腸を使う」:経腸栄養を優先する。 ・経管栄養は少量から開始して段階的に増量する(下痢・嘔吐、リフィーディング症候群の予防)。 ・経管栄養でも水分(白湯)の補給が必要である。 ・静脈栄養では脂肪乳剤もエネルギー源・必須脂肪酸源として用いる。 ・経口摂取していなくても口腔ケアは誤嚥性肺炎予防に必須である。 ・経管栄養中も嚥下機能を再評価し、経口摂取の再開をめざす。
