痛みは消えても便秘は残る―耐性のできないオピオイドの副作用
第120回医師国家試験 E問題 第22問
国試問題にチャレンジ
薬剤による便秘をきたすのはどれか。
- a.抗菌薬
- b.NSAID
- c.オピオイド
- d.プロトンポンプ阻害薬
- e.プロスタグランディン関連薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
薬剤性便秘は、腸管の蠕動低下や腸管内水分の減少をもたらす薬で起こり、その代表がオピオイドです。オピオイドはμオピオイド受容体を介して推進性蠕動と腸液分泌を抑え、便秘はほぼ必発で耐性がほとんどできないため、投与開始と同時に緩下薬を予防投与し、必要に応じてナルデメジンを用います。一方、抗菌薬やミソプロストールなどのプロスタグランジン製剤はむしろ下痢を起こし、NSAIDの代表的副作用は消化性潰瘍・腎障害・喘息誘発、PPIの便秘は低頻度です。抗コリン作用薬、Ca拮抗薬、鉄剤、ビンクリスチン、5-HT3受容体拮抗薬なども便秘の原因となるため、便秘を診たら処方薬を確認する姿勢が、とくに多剤併用の高齢者や緩和ケアの場面で重要になります。
解答・解説
正解はcです
便秘は、腸管の蠕動運動の低下、腸管内への水分分泌の減少、または腸管からの水分吸収の増加によって便が硬くなり、排出しにくくなる状態である。薬剤性便秘を考えるときは、その薬が(1)腸管の動きを弱めるか、(2)腸管内の水分を減らすか、という観点で整理するとわかりやすい。 代表的な原因薬は、オピオイド(μオピオイド受容体を刺激して蠕動を抑える)、抗コリン薬や抗コリン作用をもつ薬(三環系抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、抗パーキンソン病薬など)、カルシウム拮抗薬、鉄剤、アルミニウム含有制酸薬、陰イオン交換樹脂、ビンカアルカロイド系抗癌薬(ビンクリスチンなど)、5-HT3受容体拮抗薬(制吐薬)などである。なかでもオピオイドは便秘の頻度がきわめて高く、薬剤性便秘の典型として問われる。一方、抗菌薬やプロスタグランジン製剤はむしろ下痢の原因薬として知られており、逆の作用をもつ薬を区別できるかがポイントとなる。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬
抗菌薬は腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスを崩すため、副作用として下痢(抗菌薬関連下痢症)を起こしやすい。重症例ではClostridioides difficile(旧名Clostridium difficile)の異常増殖による偽膜性腸炎をきたす。また、アンピシリンなどでは出血性腸炎の報告もある。便秘の原因薬としては一般的でない。
- ×b. NSAID
NSAID(非ステロイド性抗炎症薬)はシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してプロスタグランジン産生を抑える。胃粘膜を守るプロスタグランジンが減るため、胃・十二指腸潰瘍や小腸・大腸の粘膜障害が代表的な副作用であり、ほかに腎障害やアスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)が問題となる。便秘は代表的な副作用ではない。
- ○c. オピオイド
オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど)は、腸管の神経叢に存在するμオピオイド受容体を刺激し、アセチルコリンの放出を抑えて推進性の蠕動運動を弱める。同時に腸液や膵液・胆汁の分泌も減り、腸内容物の通過が遅れる間に水分が過剰に吸収されて便が硬くなる。肛門括約筋の緊張も高まり排便しにくくなる。便秘は投与患者の大部分に起こり、悪心・眠気と異なり耐性がほとんど生じないため、投与中ずっと続く。このためオピオイド開始と同時に緩下薬を予防的に併用するのが原則であり、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(ナルデメジン)も用いられる。
- ×d. プロトンポンプ阻害薬
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃壁細胞のH+/K+-ATPaseを阻害して胃酸分泌を強力に抑える薬である。消化器系の副作用として下痢や腹部膨満感などがみられ、長期使用ではClostridioides difficile感染症や顕微鏡的大腸炎(collagenous colitis)による慢性下痢との関連も指摘されている。便秘の報告はあるが頻度は低く、薬剤性便秘の代表的な原因薬ではない。
- ×e. プロスタグランディン関連薬
プロスタグランジン(PG)E1・E2は腸管平滑筋を収縮させて蠕動運動を高め、腸管内への水分・電解質分泌を増やす。そのためPGE1誘導体であるミソプロストール(NSAID潰瘍の予防薬)は下痢が主な副作用であり、PG代謝物由来のルビプロストンは逆に慢性便秘症の治療薬として使われている。なお、緑内障治療に用いるPGF2α誘導体の点眼薬(ラタノプロストなど)の副作用は結膜充血、虹彩・眼瞼の色素沈着、睫毛の伸長など局所のものが中心で、便秘は起こさない。
薬剤性便秘の主な原因薬と機序
・オピオイド:μ受容体刺激による蠕動抑制、腸液分泌低下、水分吸収増加 ・抗コリン薬および抗コリン作用をもつ薬(三環系抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、抗パーキンソン病薬、過活動膀胱治療薬など):副交感神経(アセチルコリン)の作用を遮断して蠕動低下。抗精神病薬クロザピンでは重篤な腸閉塞に至ることがある。 ・カルシウム拮抗薬(とくにベラパミル):腸管平滑筋の弛緩 ・鉄剤、アルミニウム含有制酸薬、陰イオン交換樹脂:便の硬化・収斂作用 ・ビンクリスチンなどのビンカアルカロイド:自律神経障害による麻痺性イレウス ・5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロンなど):腸管運動抑制
下痢を起こしやすい薬
・抗菌薬(腸内細菌叢の変化、偽膜性腸炎) ・ミソプロストールなどPG製剤、マグネシウム製剤 ・コルヒチン、メトホルミン、イリノテカン(コリン作動性の早発性下痢と、活性代謝物による遅発性下痢)、分子標的薬など
オピオイドの主な副作用
・便秘:ほぼ必発で耐性ができにくい。投与開始時から緩下薬(酸化マグネシウム、刺激性下剤など)を併用し、必要に応じて末梢性μオピオイド受容体拮抗薬ナルデメジンを用いる。 ・悪心・嘔吐:投与初期や増量時に多く、1〜2週間ほどで耐性ができて軽減することが多い。化学受容器引き金帯(CTZ)のドパミン受容体刺激が関与するため、プロクロルペラジンなどのドパミン受容体拮抗薬が使われる(錐体外路症状に注意)。 ・眠気:投与初期に多く、数日〜1週間程度で軽減しやすい。腎機能低下時には代謝物の蓄積(とくにモルヒネ)で強く出る。 ・呼吸抑制:延髄呼吸中枢の二酸化炭素に対する反応性を低下させる。呼吸数の減少が早期の徴候で、拮抗薬ナロキソンで対処する。 ・そのほか縮瞳、尿閉、せん妄など。
POINT
・オピオイドの便秘はほぼ必発で耐性ができにくく、投与開始と同時に緩下薬を予防投与する。 ・薬剤性便秘の代表:オピオイド、抗コリン薬(および抗コリン作用をもつ薬)、Ca拮抗薬、鉄剤、ビンクリスチン、5-HT3受容体拮抗薬。 ・抗菌薬とPG製剤(ミソプロストール)は便秘ではなく下痢を起こす。 ・NSAIDの代表的副作用は消化性潰瘍・腎障害・喘息誘発である。
