起床時の頭痛と嘔吐―松果体部に潜む「放射線に弱い」腫瘍を見抜く
第108回医師国家試験 I問題 第77問
国試問題にチャレンジ
12歳の男児。頭痛と嘔吐とを主訴に来院した。2か月前から起床時に頭痛があり,時に嘔吐を伴うという。意識は清明。頭部造影MRIのT1強調矢状断像を別に示す。 この疾患の特徴はどれか。2つ選べ。

- a.水頭症
- b.網膜血管腫
- c.両耳側半盲
- d.血清CEA高値
- e.放射線高感受性
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
小児・思春期の男児で起床時の頭痛と嘔吐を認め、松果体部に均一に造影される腫瘤があれば、頭蓋内胚細胞腫瘍、なかでもジャーミノーマをまず考えます。松果体部腫瘍は中脳水道を圧迫して閉塞性水頭症による頭蓋内圧亢進を起こし、中脳背側の圧迫で上方注視麻痺などのParinaud徴候を生じます。ジャーミノーマは放射線・化学療法への感受性がきわめて高く予後良好ですが、小児では晩期障害を減らすため化学療法併用で照射を抑える工夫がなされます。腫瘍マーカーはCEAではなくhCGとAFPで、両耳側半盲は鞍上部病変、網膜血管腫はvon Hippel-Lindau病の所見として区別します。「部位が決める症状」と「組織型が決める性質」の2軸で整理する視点は、脳腫瘍全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
・12歳男児。2か月前から起床時の頭痛があり、ときに嘔吐を伴う。意識は清明である。 ・早朝(起床時)に強い頭痛と嘔吐は頭蓋内圧亢進の典型的な症状である。睡眠中は臥位で頭部からの静脈還流が減り、呼吸が浅くなって二酸化炭素が貯留し脳血管が拡張するため、頭蓋内圧がさらに上がりやすい。 ・頭部造影MRI(T1強調矢状断像)では、第三脳室の後方、中脳背側(四丘体)の上方にあたる松果体部に、均一に造影される境界明瞭な腫瘤がある。側脳室・第三脳室は拡大しており、腫瘤が中脳水道の入口付近を圧迫して髄液の流れを妨げていると考えられる。
診断へのプロセス
小児・思春期の男児に生じた松果体部腫瘍で、造影で均一に増強される充実性腫瘤であることから、最も考えられるのは頭蓋内胚細胞腫瘍、なかでも最も多いジャーミノーマ(胚腫)である。頭蓋内胚細胞腫瘍は10〜20歳前後に好発し、日本を含む東アジアに多く、松果体部に生じるものは圧倒的に男性に多い。好発部位は松果体部と神経下垂体部(鞍上部)で、両方に同時に病変がみられることもある。松果体部の鑑別としては、松果体実質腫瘍(松果体細胞腫・松果体芽腫)、奇形腫などのジャーミノーマ以外の胚細胞腫瘍、神経膠腫、髄膜腫などが挙がる。
設問の考え方
松果体部腫瘍の特徴は、(1)解剖学的位置による症状(中脳水道の閉塞による閉塞性水頭症、中脳背側の圧迫によるパリノー徴候)と、(2)組織型としてのジャーミノーマの性質(放射線・化学療法に対する感受性がきわめて高い、腫瘍マーカーとしてhCGやAFPを利用する)の2つの軸で整理するとよい。
選択肢考察
- ○a. 水頭症
松果体は中脳水道の入口(第三脳室後部)のすぐ背側に位置するため、この部位の腫瘍は中脳水道を圧迫・閉塞し、第三脳室より上流の髄液がうっ滞して閉塞性(非交通性)水頭症を起こしやすい。本例のMRIでも側脳室・第三脳室の拡大がみられ、起床時の頭痛・嘔吐という頭蓋内圧亢進症状の原因となっている。治療に先立ち、神経内視鏡による第三脳室底開窓術(腫瘍生検を同時に行うことが多い)や脳室ドレナージで髄液の流れを確保することがある。
- ×b. 網膜血管腫
網膜血管腫は、VHL遺伝子の変異による常染色体顕性(優性)遺伝のフォン・ヒッペル・リンドウ(von Hippel-Lindau)病の特徴である。この疾患では小脳・脳幹・脊髄の血管芽腫、腎細胞癌、褐色細胞腫、膵嚢胞などを合併する。松果体部腫瘍とは関係しない。
- ×c. 両耳側半盲
両耳側半盲は視交叉の中央部(両眼の鼻側網膜からの交叉線維)が下から圧迫されて起こり、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、鞍上部の胚細胞腫瘍などでみられる。松果体部腫瘍は視交叉から離れているため、通常は両耳側半盲を起こさない。松果体部腫瘍に特徴的な眼症状は、中脳背側(上丘・視蓋前域)の圧迫による上方注視麻痺などのパリノー徴候である。
- ×d. 血清CEA高値
CEA(癌胎児性抗原)は大腸癌などの消化器癌や肺腺癌の腫瘍マーカーであり、胚細胞腫瘍では上昇しない。頭蓋内胚細胞腫瘍で用いるマーカーは血清・髄液中のhCG(β-hCG)とAFPである。ジャーミノーマではマーカーは正常か、合胞体性栄養膜巨細胞を含む場合にhCGが軽度上昇する程度である。AFPの明らかな上昇は卵黄嚢腫瘍の成分を、hCGの著明な上昇は絨毛癌の成分を示唆し、これらはジャーミノーマより予後不良である。
- ○e. 放射線高感受性
ジャーミノーマは放射線にきわめて感受性が高く、放射線治療で速やかに縮小・消失し、長期生存率は90%を超える。化学療法(シスプラチン・カルボプラチンなどの白金製剤を含む多剤併用療法)にもよく反応する。成長期の小児では放射線による知能障害・内分泌障害・成長障害などの晩期障害が問題となるため、現在は化学療法を併用して照射線量や照射範囲を減らす治療が標準的である。なお、手術による全摘は必須ではなく、診断のための生検が主な役割となる。
頭蓋内胚細胞腫瘍
・原始生殖細胞に由来すると考えられる腫瘍で、正中構造(松果体部、神経下垂体部=鞍上部、基底核など)に好発する。 ・10〜20歳前後に多い。日本を含む東アジアで頻度が高く、小児脳腫瘍の中で比較的大きな割合を占める。 ・組織型:ジャーミノーマ(胚腫、最多)、奇形腫(成熟・未熟)、卵黄嚢腫瘍、胎児性癌、絨毛癌、およびそれらの混合型。 ・腫瘍マーカー:卵黄嚢腫瘍ではAFP、絨毛癌ではhCGが著明に上昇する。ジャーミノーマは胎盤型アルカリホスファターゼ(PLAP)やc-kitを免疫組織化学的に発現する。 ・予後:純粋なジャーミノーマは放射線・化学療法への反応が良好で予後が良い。マーカー高値を示す非ジャーミノーマ性胚細胞腫瘍は予後不良で、より強力な化学療法と放射線治療を要する。
発生部位と症状
・松果体部:閉塞性水頭症による頭蓋内圧亢進症状(早朝頭痛、嘔吐、うっ血乳頭)、中脳背側の圧迫によるパリノー徴候(上方注視麻痺、輻輳障害、対光反射と輻輳反射の解離〔対光反射が消失し輻輳反射は保たれる〕、輻輳後退眼振など)。 ・神経下垂体部(鞍上部):中枢性尿崩症(多尿・口渇、初発症状として多い)、下垂体前葉機能低下による成長障害・二次性徴の遅れ、視交叉圧迫による視力・視野障害(両耳側半盲など)。 ・hCG産生腫瘍では男児に思春期早発症をきたすことがある。
主な小児脳腫瘍の整理
・毛様細胞性星細胞腫:小脳に多く、嚢胞と壁在結節を形成する。予後良好。 ・髄芽腫:小脳虫部に多い悪性腫瘍で、髄液播種をきたしやすい。放射線感受性が高い。 ・上衣腫:第四脳室に多い。 ・頭蓋咽頭腫:鞍上部に生じ、石灰化と嚢胞を伴う。視野障害・下垂体機能低下・尿崩症をきたす。 ・胚細胞腫瘍:松果体部・鞍上部に好発する。
POINT
・起床時の頭痛・嘔吐は頭蓋内圧亢進を示唆する。 ・小児・思春期男児の松果体部腫瘍では、まずジャーミノーマを考える。 ・松果体部腫瘍は中脳水道を閉塞して閉塞性水頭症をきたし、中脳背側の圧迫でパリノー徴候(上方注視麻痺など)を生じる。 ・ジャーミノーマは放射線・化学療法への感受性がきわめて高く、予後は良好である。 ・胚細胞腫瘍の腫瘍マーカーはhCGとAFPであり、CEAではない。 ・両耳側半盲は視交叉を圧迫する鞍上部病変、網膜血管腫はフォン・ヒッペル・リンドウ病の所見である。
