詰まった胆管に昇ってくるのは誰か―急性胆管炎の起炎菌は「腸の住人」
第108回医師国家試験 I問題 第31問
国試問題にチャレンジ
急性胆管炎の原因菌として頻度が高いのはどれか。2つ選べ。
- a.Clostridium difficile
- b.Escherichia coli
- c.Haemophilus influenzae
- d.Helicobacter pylori
- e.Klebsiella spp.〈クレブシエラ属菌〉
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性胆管炎は、胆管閉塞でうっ滞した胆汁に、十二指腸から逆行性に侵入した腸内細菌が増殖して起こる内因性感染が主体です。そのため起炎菌は腸内細菌目のグラム陰性桿菌が中心で、大腸菌が最多、次いでクレブシエラ属であり、グラム陽性菌では腸球菌、術後や重症例では嫌気性菌も関与します。C. difficileは偽膜性腸炎、インフルエンザ菌は呼吸器・中耳・髄膜炎、ピロリ菌は胃炎・潰瘍・胃癌と、菌の生息部位と疾患を結びつけると鑑別が容易になります。治療は血液培養採取後の速やかな抗菌薬投与に加え、胆道ドレナージによる減圧が本質で、Reynolds 5徴を示す重症例では緊急対応が必要です。感染源の「入り口」から起炎菌を推測する考え方は、尿路感染症など他の臓器感染症の理解や経験的抗菌薬選択にもそのまま応用できます。
解答・解説
正解はb, eです
急性胆管炎は、総胆管結石・胆管癌・膵頭部癌・胆管ステント閉塞などによって胆管が閉塞し、うっ滞した胆汁に細菌が増殖して起こる感染症である。胆管の内圧が上昇すると細菌やエンドトキシン(グラム陰性菌の細胞壁成分で、強い炎症を引き起こす毒素)が血中へ逆流しやすくなり、菌血症・敗血症性ショックへ急速に進行しうる。 胆管へ侵入する細菌の多くは、十二指腸から乳頭を経て逆行性(上行性)に入る腸内細菌であり、一部は門脈血を介して入ると考えられている。すなわち、急性胆管炎の起炎菌は患者自身の腸内常在菌による内因性感染が主体である。 したがって本問では、選択肢の中から「腸内に常在するグラム陰性桿菌」を選べばよい。胆汁培養で最も多く分離されるのは大腸菌(Escherichia coli)、次いでクレブシエラ属であり、この2つが正解となる。残りの選択肢は、それぞれ特徴的な疾患と結びつけて覚えておくべき病原体である。
選択肢考察
- ×a. Clostridium difficile
Clostridium difficile(現在の学名はClostridioides difficile)は芽胞を形成する偏性嫌気性のグラム陽性桿菌である。抗菌薬の投与で腸内細菌叢が乱れた際に増殖して毒素(トキシンA・B)を産生し、C. difficile感染症(抗菌薬関連下痢症、重症例では偽膜性腸炎)を起こす。腸管内で毒素により腸炎を起こす菌であり、急性胆管炎の起炎菌として頻度が高いものではない。
- ○b. Escherichia coli
大腸菌(Escherichia coli)は腸内に常在するグラム陰性桿菌(腸内細菌目)で、急性胆管炎の胆汁や血液培養から最も高頻度に分離される起炎菌である。十二指腸乳頭から逆行性に胆管へ侵入し、胆汁うっ滞下で増殖する。尿路感染症の起炎菌としても第1位であり、腸内細菌による内因性感染の代表として押さえておく。近年は基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌が増えており、抗菌薬選択の際に注意を要する。
- ×c. Haemophilus influenzae
インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)はグラム陰性の小桿菌で、上気道に常在し、呼吸器や頭頸部の感染症を起こす。代表的な疾患は市中肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪、急性中耳炎、副鼻腔炎、急性喉頭蓋炎、細菌性髄膜炎(特にb型莢膜株、Hib)などである。腸内細菌ではなく、急性胆管炎の起炎菌としての頻度は低い。
- ×d. Helicobacter pylori
ピロリ菌(Helicobacter pylori)はらせん状のグラム陰性桿菌で、ウレアーゼによって尿素からアンモニアを産生し胃酸を中和することで、胃粘膜に定着する。慢性胃炎(萎縮性胃炎)、胃・十二指腸潰瘍、胃癌、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープ、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)などとの関連が知られている。胃に定着する菌であり、急性胆管炎の起炎菌ではない。
- ○e. Klebsiella spp.〈クレブシエラ属菌〉
クレブシエラ属(代表はKlebsiella pneumoniae)は腸内に常在するグラム陰性桿菌(腸内細菌目)で、急性胆管炎・胆嚢炎の起炎菌として大腸菌に次いで多く分離される。厚い莢膜をもつことが特徴で、肝膿瘍や、アルコール多飲者・糖尿病患者の肺炎、尿路感染症の起炎菌としても知られる。大腸菌と同様にESBL産生株が問題となっている。
急性胆管炎の主な起炎菌
・グラム陰性桿菌:大腸菌(最多)、クレブシエラ属、エンテロバクター属、緑膿菌など ・グラム陽性球菌:腸球菌(Enterococcus属)が最多 ・嫌気性菌:バクテロイデス属、クロストリジウム属など(胆道-腸管吻合術後や高齢者・重症例で関与しやすい) 複数菌による混合感染も多い。
臨床像と診断
発熱(悪寒戦慄を伴う)、黄疸、右上腹部痛をシャルコー(Charcot)の3徴という。これに意識障害とショックが加わったものをレイノルズ(Reynolds)の5徴といい、重症化を示唆する。診断は国際診療ガイドライン(Tokyo Guidelines)に基づき、全身の炎症所見(発熱・炎症反応上昇)、胆汁うっ滞所見(黄疸・肝胆道系酵素上昇)、画像所見(胆管拡張や閉塞原因の描出)を組み合わせて行う。
治療
血液培養(可能なら胆汁培養)を採取したうえで、腸内グラム陰性桿菌をカバーする抗菌薬を速やかに開始する。治療の本質は閉塞した胆管の減圧・ドレナージであり、内視鏡的逆行性胆道ドレナージ(ERCPによるENBDやステント留置)が第一選択で、困難な場合は経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)などを行う。重症度に応じて緊急ドレナージが必要となる。
POINT
・急性胆管炎は腸内細菌の上行性感染による内因性感染が主体。 ・起炎菌の頻度:大腸菌が最多、次いでクレブシエラ属。グラム陽性菌では腸球菌。 ・C. difficile→偽膜性腸炎、H. influenzae→呼吸器・中耳・髄膜炎・喉頭蓋炎、H. pylori→胃炎・潰瘍・胃癌・MALTリンパ腫・ITP。 ・治療は抗菌薬に加え、胆道ドレナージによる減圧が本質。
