波を鎮めて再発を防ぐ―双極性障害の維持療法と「気分安定薬」
第108回医師国家試験 I問題 第30問
国試問題にチャレンジ
双極性障害〈躁うつ病〉の維持療法の治療薬として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.バルプロ酸
- b.炭酸リチウム
- c.ハロペリドール
- d.フェノバルビタール
- e.メチルフェニデート
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
双極性障害は躁状態とうつ状態を繰り返す慢性の気分障害で、再発率が高くエピソードを重ねるほど再発間隔が短くなりやすいため、気分安定薬による維持療法が治療の柱となります。代表的な気分安定薬は炭酸リチウムとバルプロ酸で、リチウムは自殺予防効果をもつ一方、治療域が狭く血中濃度測定や甲状腺・腎機能の監視が必要であり、バルプロ酸は急速交代型や混合状態に有用ですが肝障害や強い催奇形性に注意します。ハロペリドールは急性期の鎮静に短期間使うことはあっても維持療法には用いず、フェノバルビタールには気分安定作用がなく、メチルフェニデートや抗うつ薬単独は躁転を招くおそれがあります。気分安定薬を軸に、各薬剤の副作用や相互作用、心理教育や生活リズムの調整まで含めて理解しておくことが、長期にわたる双極性障害診療の基盤となります。
解答・解説
正解はa, bです
双極性障害(躁うつ病)は、躁状態(または軽躁状態)とうつ状態を繰り返す慢性の気分障害である。再発率が非常に高く、エピソードを繰り返すほど次の再発までの間隔が短くなりやすいため、急性期の症状が落ち着いた後も長期にわたって薬物療法を続け、再発を予防すること(維持療法)が治療の柱となる。 維持療法の中心となるのは「気分安定薬」と呼ばれる薬剤群である。気分安定薬とは、躁とうつの両方向への気分の振れを抑え、再発を予防する作用をもつ薬の総称で、代表は炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンである。本問では選択肢の中から気分安定薬を2つ選べばよい。 残りの選択肢は、抗精神病薬(第一世代)、抗てんかん薬(バルビツール酸系)、中枢神経刺激薬であり、それぞれの薬理作用と主な適応を思い出せば、双極性障害の維持療法には用いないことが判断できる。
選択肢考察
- ○a. バルプロ酸
バルプロ酸はもともと抗てんかん薬であるが、抗躁作用をもち、気分安定薬として双極性障害の躁状態の治療と再発予防に用いられる。GABA(γ-アミノ酪酸、抑制性神経伝達物質)の作用増強などが機序として考えられている。特に躁とうつが短期間で入れ替わる急速交代型(ラピッドサイクラー)や、躁とうつの症状が混在する混合状態で、リチウムより効果が期待できるとされる。副作用として肝障害、高アンモニア血症、膵炎、血小板減少、体重増加などがあり、催奇形性(神経管閉鎖障害など)が強いため妊娠可能年齢の女性では慎重な判断が必要である。維持療法に適切な薬剤である。
- ○b. 炭酸リチウム
炭酸リチウムは双極性障害の治療における代表的な気分安定薬であり、躁状態の治療と再発予防(維持療法)の第一選択薬の一つである。躁病相の再発予防効果に加えて、自殺リスクを低下させる効果が示されている点も重要である。一方で有効血中濃度と中毒域が近い(治療域が狭い)ため、定期的な血中濃度測定が必要である。中毒では振戦の増悪、嘔吐・下痢、意識障害、けいれんなどが出現し、脱水、腎機能低下、NSAIDs・利尿薬(特にサイアザイド系)・ACE阻害薬の併用で血中濃度が上昇しやすい。長期投与では甲状腺機能低下症、腎性尿崩症、腎機能障害にも注意する。維持療法に適切な薬剤である。
- ×c. ハロペリドール
ハロペリドールはブチロフェノン系の第一世代(定型)抗精神病薬で、強力なドパミンD2受容体遮断作用をもつ。激しい興奮や妄想を伴う躁状態の急性期に、鎮静目的で短期間用いられることはある。しかし長期投与では錐体外路症状(パーキンソニズム、アカシジアなど)や遅発性ジスキネジアの危険が高く、さらにうつ状態への転落を招くおそれも指摘されているため、維持療法には適さない。なお、第二世代(非定型)抗精神病薬のうちクエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールなどは維持療法に用いられることがあるが、ハロペリドールはこれに当たらない。
- ×d. フェノバルビタール
フェノバルビタールはバルビツール酸系の薬剤で、抗てんかん薬や鎮静薬として用いられる。同じ抗てんかん薬でもバルプロ酸・カルバマゼピン・ラモトリギンとは異なり、気分安定作用は確立しておらず、双極性障害の治療薬ではない。眠気や認知機能低下、依存性、肝の薬物代謝酵素誘導による薬物相互作用などの問題もあり、維持療法には不適切である。
- ×e. メチルフェニデート
メチルフェニデートは中枢神経刺激薬(精神刺激薬)で、ドパミンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害して覚醒度や注意力を高める。国内での適応はナルコレプシー(速放錠)と注意欠如・多動症(ADHD、徐放錠)に限られ、依存性が問題となるため流通が管理されている薬剤である。気分を高揚させる作用があるため、双極性障害ではむしろ躁状態を誘発・悪化させるおそれがあり、維持療法には不適切である。
双極性障害の病型
双極I型障害は明らかな躁病エピソードを少なくとも1回もつもの、双極II型障害は軽躁病エピソードと抑うつエピソードをもち、躁病エピソードを満たしたことがないものをいう。
病相ごとの薬物療法の考え方
・躁状態の急性期:気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸など)や第二世代抗精神病薬(オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール、リスペリドンなど)を用いる。興奮が強い場合は両者を併用することもある。 ・うつ状態:クエチアピン、オランザピン、ルラシドン、炭酸リチウム、ラモトリギンなどを用いる。抗うつ薬の単独使用は躁転(躁状態への移行)や急速交代化を招くおそれがあり、原則として避ける。 ・維持期:気分安定薬が中心で、炭酸リチウムが最も基本的な薬剤である。そのほかバルプロ酸、ラモトリギン(特にうつ病相の予防)、一部の第二世代抗精神病薬が用いられる。
主な気分安定薬の注意点
・炭酸リチウム:治療域が狭く血中濃度モニタリングが必須。甲状腺機能低下症、腎性尿崩症、催奇形性(心奇形)。 ・バルプロ酸:肝障害、高アンモニア血症、膵炎、強い催奇形性(神経管閉鎖障害)。 ・カルバマゼピン:スティーヴンス・ジョンソン症候群などの重症薬疹、無顆粒球症、低ナトリウム血症、酵素誘導による相互作用。 ・ラモトリギン:重症薬疹を避けるため少量から緩徐に増量する。
非薬物療法
疾患の理解と再発の早期徴候を学ぶ心理教育、規則正しい生活リズムの維持なども再発予防に重要である。
POINT
・双極性障害の維持療法の中心は気分安定薬であり、代表は炭酸リチウムとバルプロ酸(ほかにカルバマゼピン、ラモトリギン)。 ・炭酸リチウムは治療域が狭く、血中濃度測定が必須。自殺予防効果もある。 ・第一世代抗精神病薬(ハロペリドール)は躁状態の急性期に短期間用いることはあるが、維持療法には用いない。 ・抗うつ薬単独や精神刺激薬(メチルフェニデート)は躁転を招くおそれがある。 ・フェノバルビタールは抗てんかん薬だが気分安定作用はない。
