吸っても引けない骨髄―原発性骨髄線維症を「確定」させる2つの証拠
第108回医師国家試験 I問題 第32問
国試問題にチャレンジ
原発性骨髄線維症の確定診断に有用なのはどれか。2つ選べ。
- a.白赤芽球症
- b.標的赤血球
- c.血清LD上昇
- d.JAK2遺伝子変異
- e.骨髄組織の鍍銀染色陽性
対話形式の解説
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ドクターまとめ
原発性骨髄線維症は、造血幹細胞の遺伝子変異による巨核球の腫瘍性増殖と、それに続く骨髄の反応性線維化を特徴とする骨髄増殖性腫瘍です。WHO診断基準では、骨髄生検での巨核球の増殖・異型と鍍銀染色で示される細網線維の増生、JAK2・CALR・MPL変異などクローン性の証明が大基準であり、確定診断の決め手となります。一方、白赤芽球症や血清LD上昇、貧血、脾腫は小基準で、他疾患でもみられる非特異的な所見です。末梢血では標的赤血球ではなく涙滴赤血球が特徴的で、骨髄穿刺はドライタップになりやすいため生検が必須です。「よくみられる所見」と「特異性の高い所見」を区別して診断基準を読み解く姿勢は、他の血液疾患の診断を学ぶうえでも役立ちます。
解答・解説
正解はd, eです
原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)は、骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms:MPN)の一つである。造血幹細胞レベルで生じた遺伝子変異によって巨核球などが腫瘍性に増殖し、それらが放出するサイトカイン(TGF-β、血小板由来増殖因子など)の作用で骨髄の線維芽細胞が反応性に増えて、骨髄が線維化していく疾患である。骨髄での造血が障害されるため、脾臓・肝臓で髄外造血が起こり、巨大な脾腫を生じる。 診断はWHO分類の診断基準に基づいて行われる。この基準では、所見が「大基準」と「小基準」に分けられている。 ・大基準:①骨髄生検で巨核球の増殖・異型と、細網線維(またはコラーゲン線維)の増生を認める、②他の骨髄系腫瘍(慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、骨髄異形成症候群など)の基準を満たさない、③JAK2・CALR・MPL遺伝子変異、またはその他のクローン性マーカーを認める(それがない場合は反応性の線維化を除外する) ・小基準:他の原因によらない貧血、白血球増加、触知可能な脾腫、血清LD上昇、白赤芽球症 大基準3項目すべてと、小基準の少なくとも1項目を満たすことで診断する。 「確定診断に有用」とは、他の疾患と区別できる特異性の高い所見を指す。大基準に含まれる骨髄組織の線維化(鍍銀染色で証明)と、腫瘍性(クローン性)増殖を示すドライバー遺伝子変異が、これに該当する。一方、白赤芽球症や血清LD上昇は小基準であり、他の多くの疾患でもみられるため、単独では確定診断の根拠にならない。
選択肢考察
- ×a. 白赤芽球症
白赤芽球症(leukoerythroblastosis)とは、末梢血中に赤芽球(有核赤血球)と幼若な顆粒球(骨髄球・後骨髄球など)が同時に出現する状態をいう。通常、骨髄はこれらの未熟な細胞を末梢へ出さない「関門」の役割を果たしているが、髄外造血が起こっている場合や、骨髄が線維化・腫瘍浸潤などで破壊された場合には、未熟な細胞が末梢へ流出する。原発性骨髄線維症でよくみられ、WHO診断基準の小基準の一つであるが、癌の骨髄転移、粟粒結核、重症感染症、大量出血後などでも出現する非特異的な所見であり、確定診断の根拠とはならない。
- ×b. 標的赤血球
標的赤血球(target cell)は、中心部と辺縁部が濃く、その間が淡く染まるため、弓矢の的のように見える赤血球である。赤血球の体積に比べて膜の面積が相対的に大きいときに生じ、サラセミアやヘモグロビンC症などの異常ヘモグロビン症、鉄欠乏性貧血、摘脾後、閉塞性黄疸などの肝疾患でみられる。原発性骨髄線維症に特徴的な赤血球形態は、しずくのような形をした涙滴赤血球(tear drop cell)であり、標的赤血球は診断に有用ではない。
- ×c. 血清LD上昇
LD(乳酸脱水素酵素)はほぼすべての細胞に含まれる酵素で、細胞が壊れたり、細胞の産生・崩壊が亢進したりすると血清中で上昇する。原発性骨髄線維症では無効造血や腫瘍細胞の増殖を反映して上昇し、WHO診断基準の小基準の一つとされている。しかし溶血性貧血、巨赤芽球性貧血、白血病・悪性リンパ腫、心筋梗塞、肝障害、横紋筋融解症など多くの疾患で上昇する非特異的な所見であり、確定診断の根拠とはならない。
- ○d. JAK2遺伝子変異
JAK2(ヤヌスキナーゼ2)は、エリスロポエチンやトロンボポエチンなどの造血因子の受容体から、細胞内へ増殖シグナルを伝えるチロシンキナーゼである。V617F変異が起こると、造血因子がなくても常にシグナルが入った状態になり、造血細胞が自律的に増殖する。この変異は原発性骨髄線維症の約半数(50〜60%程度)にみられ、腫瘍性(クローン性)の増殖であることを示す所見として、WHO診断基準の大基準に含まれる。反応性の骨髄線維化(癌の骨髄転移、感染症、自己免疫疾患などによるもの)との鑑別に特に有用である。ただしJAK2変異は真性赤血球増加症(約95%)や本態性血小板血症(約半数)でもみられるため、骨髄所見などと組み合わせてMPNの中での病型を判断する。JAK2変異がない例では、CALR遺伝子変異(約25〜30%)やMPL遺伝子変異(数%)が検出されることがある。
- ○e. 骨髄組織の鍍銀染色陽性
鍍銀染色(渡辺の鍍銀法、Gomori染色など)は、細網線維(レチクリン線維)を黒く染め出す染色法である。原発性骨髄線維症では、骨髄生検組織の鍍銀染色で細網線維の著しい増生が確認され、同時に巨核球の増殖と異型を認める。病期が進むとコラーゲン線維も増え、マッソン・トリクローム染色でも線維化が確認できる。これらの骨髄組織所見はWHO診断基準の大基準であり、診断の根幹をなす。なお、線維化のため骨髄穿刺では骨髄液が吸引できない「ドライタップ(dry tap)」となることが多く、診断には骨髄穿刺ではなく骨髄生検が必要である。
骨髄増殖性腫瘍(MPN)の整理
・慢性骨髄性白血病(CML):BCR::ABL1融合遺伝子(フィラデルフィア染色体) ・真性赤血球増加症(PV):JAK2変異(V617Fまたはexon12変異)がほぼ全例 ・本態性血小板血症(ET):JAK2(約半数)、CALR、MPL変異 ・原発性骨髄線維症(PMF):JAK2(約半数)、CALR、MPL変異。いずれの変異もない「トリプルネガティブ」例もある PVやETの経過中に骨髄線維化が進行することもあり、これは二次性骨髄線維症(post-PV MF、post-ET MF)と呼ばれる。
原発性骨髄線維症の臨床像
・中高年に多い。初期は無症状で、健診の血液検査異常や脾腫で発見されることがある。 ・巨大な脾腫(髄外造血による)と、それに伴う腹部膨満感・早期満腹感。 ・貧血症状、発熱・体重減少・盗汗などの全身症状。 ・末梢血:涙滴赤血球、白赤芽球症。白血球数・血小板数は初期には増加し、進行すると減少する。 ・骨髄:穿刺でドライタップ、生検で細網線維の増生と巨核球の増殖・異型。
治療
予後リスクに応じて治療を選択する。唯一の根治療法は同種造血幹細胞移植であり、高リスク例で検討される。脾腫や全身症状に対してはJAK阻害薬(ルキソリチニブなど)が用いられ、貧血には輸血や蛋白同化ステロイドなどが用いられる。一部は急性骨髄性白血病へ移行する。
POINT
・原発性骨髄線維症の確定診断の決め手:骨髄生検での線維化(鍍銀染色で細網線維の増生)と巨核球の増殖・異型、およびJAK2・CALR・MPL遺伝子変異によるクローン性の証明(いずれもWHO診断基準の大基準)。 ・白赤芽球症、血清LD上昇、貧血、脾腫、白血球増加は小基準であり、非特異的。 ・末梢血の特徴は涙滴赤血球と白赤芽球症。標的赤血球はサラセミア・肝疾患・摘脾後などでみられる。 ・骨髄穿刺はドライタップになりやすく、骨髄生検が必須。
