神経線維の「走り方」が視野に出る―鼻側階段で見抜く原発開放隅角緑内障
第108回医師国家試験 I問題 第3問
国試問題にチャレンジ
左眼の視野(①~⑤)を別に示す。 原発開放隅角緑内障でみられるのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
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ドクターまとめ
原発開放隅角緑内障は網膜神経線維が障害される視神経症であり、視野異常も神経線維の弓状の走行に沿って現れます。初期にはBjerrum領域の傍中心暗点、Mariotte盲点の弓状拡大、鼻側の水平経線上の段差(鼻側階段)がみられ、中期に弓状暗点、末期に中心と耳側の島状視野が残ります。一方、塊状の盲点拡大はうっ血乳頭やAZOOR、輪状暗点は網膜色素変性症、中心暗点は視神経炎や黄斑疾患、下方の水平半盲は上方網膜の病変や虚血性視神経症を示唆します。緑内障は自覚症状に乏しい中途失明原因の第1位であり、眼底の構造変化と視野の機能変化を対応させて早期に見つけ、眼圧下降で進行を抑えることが重要です。暗点の形から障害部位を逆算する力は、眼科だけでなく神経眼科的な病変の局在診断にも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
本問はGoldmann(ゴールドマン)動的量的視野計の記録図から、原発開放隅角緑内障(primary open-angle glaucoma:POAG)に典型的な視野異常を選ぶ問題である。示されているのはすべて左眼の視野で、図の左側が耳側、右側が鼻側である。同心円状に描かれた何本もの線はイソプタ(等感度線:同じ明るさ・大きさの視標が見える範囲の境界)であり、斜線部は暗点または盲点を示す。
視野を読むときの基本
・生理的盲点(Mariotte盲点)は視神経乳頭に対応し、固視点から耳側約15°、水平経線のやや下方に位置する。 ・視野の上下左右は網膜上では反転する。例えば下方の視野欠損は上方の網膜(またはそれに対応する視神経線維)の障害を意味する。 ・暗点の形と位置から障害部位を推定できる。中心暗点は黄斑または乳頭黄斑線維束、輪状暗点は中間周辺部網膜、水平経線を境とする欠損は網膜神経線維や視神経、垂直経線を境とする半盲は視交叉以降の病変を示唆する。
緑内障の視野異常の考え方
緑内障は網膜神経節細胞とその軸索(網膜神経線維)が障害される進行性の視神経症である。網膜神経線維は乳頭から弓状に走行し、耳側では水平縫線を境に上下に分かれる。このため緑内障の視野障害は、神経線維の走行に沿った形をとり、次のように進行する。 ①初期:固視点から10〜20°付近(Bjerrum領域)の傍中心暗点、Mariotte盲点の上方または下方への弓状の拡大、鼻側の水平経線を境とする段差(鼻側階段:Rønne's nasal step) ②中期:Bjerrum領域の弓状暗点、鼻側視野の沈下・欠損 ③後期:視野狭窄が進み、中心の小島状視野と耳側の島状視野のみが残る。 図④では、Bjerrum領域に傍中心暗点を認め、鼻側のイソプタが水平経線の上下で段差をもって沈下している。これは緑内障の典型像であり、④が正解となる。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。耳側のMariotte盲点が上下および固視点方向へ大きく拡大した像である。暗点は垂直経線を越えておらず、半盲ではない。Mariotte盲点の拡大は、乳頭浮腫(うっ血乳頭。この場合は通常両眼性)や、乳頭周囲の網膜外層・網膜色素上皮レベルの疾患(急性帯状潜在性網膜外層症〈AZOOR〉、多発消失性白点症候群〈MEWDS〉など)でみられる。緑内障の初期にも盲点の拡大は起こり得るが、その場合は神経線維の走行に沿って弓状に鼻側へ延びていくのが特徴であり、①のように盲点がそのまま塊状に広がる形とは異なる。
- ×b. ②
誤り。中心部の視野と最周辺部の視野が残り、その間の中間部がドーナツ状に広く欠損した輪状暗点である。代表疾患は網膜色素変性症で、中間周辺部の視細胞(主に杆体)から障害が始まるため輪状暗点を呈し、進行すると求心性視野狭窄となる。夜盲を伴うのが特徴である。このほか網膜血管アーケード周囲を侵す網脈絡膜疾患でも生じ得る。
- ×c. ③
誤り。固視点を含む中心部の暗点(中心暗点)で、周辺のイソプタはほぼ正常に保たれている。黄斑部または乳頭黄斑線維束の障害を示し、視神経炎(視力低下・眼球運動痛・中心フリッカー値低下を伴う)が代表的である。そのほか加齢黄斑変性などの黄斑疾患、Leber遺伝性視神経症、中毒性視神経症(エタンブトールなど)でもみられる。緑内障では中心視野は末期まで比較的保たれることが多い。
- ○d. ④
正しい。Bjerrum領域(固視点から約10〜20°の弓状の領域)に傍中心暗点があり、鼻側のイソプタが水平経線を境に上下で段差をもって沈み込んでいる(鼻側階段)。網膜神経線維は耳側で水平縫線を境に上下に分かれて走行するため、上下の神経線維の障害程度に差があると、鼻側の水平経線上に段差が生じる。傍中心暗点・弓状暗点・鼻側階段はいずれも網膜神経線維の走行に沿った障害を反映したもので、原発開放隅角緑内障に特徴的な視野異常である。
- ×e. ⑤
誤り。水平経線より下方の視野がほぼ全体にわたって欠損している(下方の水平半盲)。視野の下方は網膜の上方に対応するため、上方の網膜剝離、上方の網膜動脈分枝閉塞症・網膜静脈分枝閉塞症、あるいは乳頭の上半分が障害される虚血性視神経症などで生じる。いずれも比較的急性に発症することが多い。緑内障でも進行すると上下どちらかの視野が広く失われることはあるが、そこに至るまでに鼻側の弓状暗点や鼻側階段を経ることが一般的であり、本図のような像は緑内障の典型ではない。
原発開放隅角緑内障(POAG)の概要
・隅角は開放しているが、線維柱帯からの房水流出抵抗が増すなどして視神経が障害される慢性進行性の疾患である。 ・日本では眼圧が正常範囲(おおむね21 mmHg以下)にとどまる正常眼圧緑内障が緑内障全体の大半を占め、これも広義のPOAGに含まれる。40歳以上の有病率は約5%とされ、日本における中途失明原因の第1位である。 ・自覚症状に乏しく、視野障害は周辺から徐々に進むため、気付いたときには進行していることが多い。健診での眼底検査・眼圧測定による早期発見が重要である。
眼底所見
・視神経乳頭陥凹の拡大(陥凹乳頭径比の増大)、リム(辺縁部)の菲薄化、乳頭出血、網膜神経線維層欠損(NFLD)がみられる。光干渉断層計(OCT)で神経線維層の菲薄化を定量評価できる。 ・眼底所見(構造変化)と視野異常(機能変化)が対応することが診断の要点である。
視野検査
・Goldmann視野計:動的に視標を動かしてイソプタを描く。周辺視野を含む全体像の把握に優れる。 ・Humphrey視野計:静的に中心30°(または24°、10°)以内の感度を測定する。緑内障の初期変化は中心30°以内に出やすいため、診断や経過観察に頻用される。
治療
・エビデンスのある唯一の治療は眼圧下降である。点眼薬(プロスタグランジン関連薬、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、α2作動薬、ROCK阻害薬など)を第一選択とし、不十分な場合にレーザー治療(選択的レーザー線維柱帯形成術)や手術(線維柱帯切除術など)を行う。失われた視野は回復しないため、進行抑制が目標となる。
視野異常と障害部位の対応(まとめ)
・中心暗点:黄斑疾患、視神経炎など ・輪状暗点:網膜色素変性症など ・Mariotte盲点拡大:うっ血乳頭、AZOOR、MEWDSなど ・弓状暗点・鼻側階段:緑内障 ・水平半盲(上下どちらかの欠損):網膜剝離、網膜動静脈分枝閉塞、虚血性視神経症 ・両耳側半盲:視交叉病変(下垂体腺腫など) ・同名半盲:視索以降の病変(脳梗塞など)
POINT
・緑内障の視野異常は網膜神経線維の走行に沿う。初期はBjerrum領域の傍中心暗点・Mariotte盲点の弓状拡大・鼻側階段、中期は弓状暗点、末期は中心と耳側の島状視野が残る。 ・中心視野は末期まで比較的保たれる。 ・中心暗点→視神経炎・黄斑疾患、輪状暗点→網膜色素変性症、下方の水平半盲→上方網膜の病変や虚血性視神経症。 ・視野の上下は網膜上で反転することを意識して障害部位を推定する。
