黄斑を「断面」で見る―加齢黄斑変性と眼科検査の対応表
第108回医師国家試験 I問題 第4問
国試問題にチャレンジ
加齢黄斑変性の検査に用いられるのはどれか。
- a.Schirmer試験
- b.アノマロスコープ
- c.光干渉断層計〈OCT〉
- d.フレアセルフォトメーター
- e.スペキュラーマイクロスコープ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
加齢黄斑変性は、加齢に伴い黄斑部の網膜色素上皮・Bruch膜・脈絡膜に異常が生じて変視症や中心暗点、視力低下を来す疾患であり、検査には黄斑部の構造を評価できる光干渉断層計(OCT)が欠かせません。OCTは非侵襲的に網膜の断層像を得られ、新生血管、ドルーゼン、網膜下液などを捉えて診断・病型分類から抗VEGF薬の効果判定まで幅広く用いられます。一方、Schirmer試験は涙液、アノマロスコープは色覚、フレアセルフォトメーターは前房の炎症、スペキュラーマイクロスコープは角膜内皮を評価する検査です。眼科検査は「どの部位・どの機能を見るか」で整理すると、知らない検査名が出ても推論で選択肢を絞れるようになります。
解答・解説
正解はcです
加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)は、加齢に伴って黄斑部(網膜の中心で、視力を担う部分)の網膜色素上皮・Bruch膜・脈絡膜に異常が生じ、視力が低下する疾患である。欧米では成人の失明原因の上位を占め、日本でも中途失明原因の主要疾患の一つである。 本問は、眼科で用いる各種検査がそれぞれ眼のどの部位・どの機能を評価するものかを整理できているかを問う。検査を「評価する部位」で分類すると考えやすい。 ・涙液(眼表面):Schirmer試験 ・色覚:アノマロスコープ ・前房(前眼部の炎症):フレアセルフォトメーター ・角膜内皮:スペキュラーマイクロスコープ ・網膜・脈絡膜(眼底、特に黄斑):光干渉断層計(OCT)、眼底写真、蛍光眼底造影 AMDは黄斑部の病気であるから、眼底、とりわけ黄斑部の構造を詳しく評価できる検査を選べばよい。OCTは黄斑部網膜の断層像を非侵襲的に得られ、AMDの診断・病型分類・治療効果判定に欠かせない検査である。
選択肢考察
- ×a. Schirmer試験
誤り。Schirmer試験は涙液分泌量を評価する検査である。目盛り付きの濾紙を下眼瞼の耳側寄りの結膜囊に挟み、5分後に濡れた長さを測定する。点眼麻酔をしない方法(Ⅰ法)で5 mm以下を異常とするのが一般的で、ドライアイやSjögren症候群の診断に用いられる。眼表面の検査であり、黄斑部の評価には用いない。
- ×b. アノマロスコープ
誤り。アノマロスコープは色覚異常の確定診断に用いる装置である。赤色光と緑色光を混ぜた色を黄色光と一致させる(Rayleigh等色)際の混色比から、1型(赤)・2型(緑)色覚の区別や程度(2色覚か異常3色覚か)を判定する。スクリーニングには石原色覚検査表などの仮性同色表が用いられる。AMDでも黄斑部障害に伴い色覚が低下することはあるが、アノマロスコープはAMDの診断のための検査ではない。
- ○c. 光干渉断層計〈OCT〉
正しい。光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)は、近赤外域の光を眼底に当て、組織から戻ってくる反射光の干渉を解析して、網膜の断層像を高解像度で描出する装置である。造影剤を使わず短時間で非侵襲的に撮影でき、網膜の各層に加えて脈絡膜や視神経乳頭周囲も観察できる。AMDでは、網膜色素上皮下や網膜下の脈絡膜新生血管、ドルーゼン、網膜色素上皮剝離、漿液性網膜剝離、網膜内の浮腫・液貯留などを捉えることができ、診断に加えて抗VEGF薬硝子体内注射の効果判定や再投与の判断にも用いられる。近年は血流を非侵襲的に描出するOCTアンギオグラフィも普及している。
- ×d. フレアセルフォトメーター
誤り。レーザーフレアセルフォトメーターは、前房にレーザー光を当ててその散乱を測定し、前房内の蛋白濃度(フレア)と細胞数(セル)を定量する装置である。血液房水柵の破綻の程度、すなわち前房の炎症の強さを客観的に評価でき、ぶどう膜炎の活動性評価や内眼手術後の炎症の経過観察に用いられる。前眼部の検査であり、黄斑部の評価には用いない。
- ×e. スペキュラーマイクロスコープ
誤り。スペキュラーマイクロスコープは角膜内皮細胞を撮影し、細胞密度や形態(大小不同、六角形細胞の割合)を評価する装置である。角膜内皮細胞は再生しないため、密度が著しく低下すると角膜のポンプ機能が保てなくなり、水疱性角膜症を来す。白内障手術などの内眼手術の術前評価、コンタクトレンズ長期装用者やFuchs角膜内皮ジストロフィの評価に用いられる。黄斑部の評価には用いない。
加齢黄斑変性(AMD)の病型
・滲出型(新生血管型):脈絡膜から新生血管が網膜色素上皮下や網膜下に伸び、出血や滲出を起こして急速に視力が低下する。日本人に多い亜型としてポリープ状脈絡膜血管症がある。 ・萎縮型:網膜色素上皮と視細胞が徐々に萎縮する(地図状萎縮)。進行は緩徐である。 ・前駆病変として、網膜色素上皮下に老廃物が沈着したドルーゼンがある。
症状
・変視症(物がゆがんで見える)、中心暗点、視力低下。Amslerチャート(格子状の表)で変視や暗点を自己チェックできる。
AMDで用いる主な検査
・眼底検査・眼底写真:出血、ドルーゼン、網膜色素上皮の変化を観察する。 ・OCT:網膜の断層像で液貯留や新生血管の位置を評価する。OCTアンギオグラフィでは造影剤なしで新生血管の血流を描出できる。 ・フルオレセイン蛍光眼底造影(FA):網膜血管や新生血管からの蛍光漏出を評価する。 ・インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA):脈絡膜血管の描出に優れ、ポリープ状脈絡膜血管症の診断に有用である。
治療
・滲出型:抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬の硝子体内注射が第一選択である。光線力学的療法(PDT)を併用することもある。 ・予防:禁煙が最も重要な危険因子対策である。特定の組成のサプリメント(抗酸化ビタミン・亜鉛・ルテインなど)が進行抑制に有効とされる。
眼科検査と対象部位の整理
・涙液:Schirmer試験、涙液層破壊時間(BUT) ・角膜:スリットランプ(細隙灯顕微鏡)、角膜内皮はスペキュラーマイクロスコープ、角膜形状は角膜トポグラフィ ・前房:隅角鏡(隅角の評価)、フレアセルフォトメーター(炎症の定量) ・網膜・脈絡膜:眼底検査、OCT、蛍光眼底造影、網膜電図(ERG) ・色覚:仮性同色表(スクリーニング)、パネルD-15、アノマロスコープ(確定診断)
POINT
・OCTは網膜の断層像を非侵襲的に得る検査で、AMDをはじめ黄斑疾患の診断・治療効果判定に必須である。 ・検査と対象を対応させて覚える:Schirmer試験→涙液、アノマロスコープ→色覚、フレアセルフォトメーター→前房炎症、スペキュラーマイクロスコープ→角膜内皮。 ・AMDの症状は変視症・中心暗点・視力低下。滲出型の治療は抗VEGF薬硝子体内注射。
