StudyMed医師国家試験

主役はいつも患者―SPIKESモデルで学ぶ「悪い知らせ」の伝え方

第108回医師国家試験 H問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第108回 H問題 第3問

悪い知らせを伝える際の「SPIKESモデル」に該当しないのはどれか。

  1. a.面談の環境を整える。
  2. b.患者の認識を評価する。
  3. c.知識と情報を提供する。
  4. d.患者の感情に共感を示す。
  5. e.医師のストレスを説明する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、悪い知らせを伝えるときの面談の型、SPIKESモデルの問題だ。6つの段階の頭文字を正確に思い出せるかと、このモデルが誰を中心に組み立てられているかがポイントになる。まず、悪い知らせとはどんな情報のことだと思う?
医学生医学生
がんの告知のような、患者さんにとってつらい情報のことでしょうか。
ドクタードクター
そうだね。もう少し正確に言うと、がんの診断や再発、治療が効いていないことなど、患者の将来の見通しを大きく悪い方向に変えてしまう情報のことだ。こうした面談の進め方を6段階にまとめたのが、Buckmanらが提唱したSPIKESモデルだ。頭文字は言えるかな。
医学生医学生
医療面接の講義で習いました。S、P、I、K、E、Sで……最初のSはSetting、PはPerceptionだったと思います。
ドクタードクター
いいね。順に整理しよう。最初のSettingは面談の環境設定だ。プライバシーが守られる個室を用意し、PHSの呼び出しなどで中断されないようにして、十分な時間を確保する。家族に同席してほしいかも患者と相談し、向き合って座る。選択肢にある「面談の環境を整える」はまさにここに当たる。
医学生医学生
次のPerceptionは、患者さんが今の病状をどう理解しているかを確かめる段階ですね。
ドクタードクター
その通り。「これまでの経過をどのように聞いていますか」といった開かれた質問で、患者の理解や受け止め方を把握する。患者の認識と実際の病状のずれがわかれば、どこから、どう話せばよいかが決まる。「患者の認識を評価する」もSPIKESに含まれるね。
医学生医学生
Iは何でしたっけ。Informationかと思っていました。
ドクタードクター
そこはよく間違えるところだ。IはInvitation、つまり患者がどこまで詳しく知りたいかという求めを確認する段階なんだ。情報そのものを伝えるのは次のKnowledgeになる。
医学生医学生
Knowledgeで説明するときは、検査結果を正確に全部伝えればよいのでしょうか。
ドクタードクター
正確さは大事だけれど、伝え方にもコツがある。まず「残念なお知らせがあります」と前置きして心の準備を促し、専門用語を避けて、情報を小分けにして伝える。途中で理解を確かめながら進めることも大切だ。これが「知識と情報を提供する」に当たる。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、専門用語を使わないように何度も注意されました。そのあとのEは共感ですね。
ドクタードクター
そう、Emotions、あるいはEmpathyだ。悪い知らせを聞いた患者には、驚きや怒り、悲しみ、否認などさまざまな感情が生じる。医師はその感情に気づいて言葉にし、理由を確かめ、「つらいお知らせでしたね」と共感的に応答する。感情が落ち着くまで沈黙を恐れずに待つことも含まれる。「患者の感情に共感を示す」もSPIKESの一段階だ。
医学生医学生
最後のSはStrategy and Summaryで、今後の方針を示して話をまとめる段階ですね。そうなると、残る「医師のストレスを説明する」はどこにも当てはまりません。
ドクタードクター
正解だ。SPIKESの6段階はどれも、患者の理解、希望、感情を中心に組み立てられている。医師が自分のつらさを患者に打ち明けると、患者に気遣いの負担をかけてしまい、面談の焦点が患者からずれてしまうんだ。
医学生医学生
でも、悪い知らせを伝えるのは医師にとってもつらいことですよね。臨床実習の腫瘍内科で告知に同席したとき、先生もとても緊張しているように見えました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。実際、悪い知らせを伝えることは医師にとっても大きなストレスで、手順が決まっているSPIKESを使うことでそのストレスが軽くなるとされている。ただしそれは型を使うことの効果であって、面談の中で患者に説明する段階ではない。ここを混同しないことが大事だ。
医学生医学生
型があるから医師も落ち着いて面談ができる、ということなんですね。日本独自のモデルもあると聞いたことがあります。
ドクタードクター
SHAREモデルだね。日本のがん患者への意向調査を基に作られたもので、支持的な環境設定、悪い知らせの伝え方、付加的な情報、安心感と情緒的サポートの4要素からなる。臨床で気をつけたいのは、治療の選択肢や症状緩和、支援体制など希望を持てる情報もあわせて伝えること。それから「詳しくは知りたくない」という患者の意向も尊重して、代わりに誰に伝えるかを確認しておくことだ。
医学生医学生
「すべてを正確に伝える」ことと「患者が望む形で伝える」ことのバランスが大切なんですね。
ドクタードクター
その通り。知識として6段階を覚えるだけでなく、どの段階も患者を主役にしているという軸を理解しておけば、実際の面談でも迷いにくくなるよ。

まとめ

SPIKESモデルは、がんの診断や再発など患者の将来を大きく悪い方向に変える情報を伝えるための6段階の面談手順で、Setting(環境設定)、Perception(患者の認識の把握)、Invitation(知りたい程度の確認)、Knowledge(情報提供)、Emotions/Empathy(感情への共感)、Strategy and Summary(方針の提示とまとめ)からなります。どの段階も患者の理解・希望・感情を中心に組み立てられており、医師自身のストレスを患者に説明する段階は含まれません。悪い知らせを伝えることは医師にとっても負担ですが、決まった型を用いることでそのストレスが軽減されるとされ、それは面談の段階ではなく手順を使うことの効果です。日本の患者の意向を基にしたSHAREモデルもあわせて知っておくとよいでしょう。前置きをして小分けに伝える、沈黙を待つ、希望につながる情報を添えるといった具体的な工夫は、OSCEの医療面接から実際の臨床まで役立つ基本的なコミュニケーション技術です。

解答・解説

正解はeです

問われていること

「悪い知らせ(bad news)」とは、がんの診断・再発・治療の効果がないことなど、患者の将来の見通しを大きく、かつ悪い方向に変えてしまう情報を指す。こうした情報を伝える面談の進め方を6段階にまとめたのがSPIKESモデルであり、Buckmanらが2000年に提唱した。各段階の頭文字をつなげてSPIKESと呼ぶ。

SPIKESの6段階

・S:Setting(面談の設定)… プライバシーが守られる落ち着いた場所を用意し、十分な時間を確保する。同席してほしい家族などを確認し、患者と向き合って座る。 ・P:Perception(患者の認識の把握)… 伝える前に、患者が病状や検査の目的をどう理解しているかを尋ねる。 ・I:Invitation(患者からの求めの確認)… 患者がどの程度詳しく知りたいかを確認する。 ・K:Knowledge(知識・情報の提供)… 前置き(例:「残念なお知らせがあります」)をしてから、専門用語を避け、少しずつ伝え、理解を確かめながら進める。 ・E:Emotions / Empathy(感情への共感的対応)… 患者の感情の動きに気づき、その理由を確かめ、共感を示す。 ・S:Strategy and Summary(方針の提示とまとめ)… 今後の治療やケアの計画を示し、話し合った内容を要約して次につなげる。

正解を導く考え方

選択肢a〜dは、それぞれSetting、Perception、Knowledge、Empathyに当たる。SPIKESはいずれの段階も「患者の理解・希望・感情」を中心に構成されており、医師自身のストレスを患者に説明する段階は含まれない。したがって、該当しないのはeである。

選択肢考察

  1. ×a.  面談の環境を整える。

    SPIKESの最初のS(Setting)に当たる。個室などプライバシーの守られる場所を確保し、PHSの呼び出しなどで中断されないようにし、時間に余裕をもって面談を始める。必要に応じて家族の同席を患者と相談する。悪い知らせを伝える前提となる準備であり、SPIKESに含まれる。

  2. ×b.  患者の認識を評価する。

    P(Perception)に当たる。「これまでの経過についてどのように聞いていますか」などの開かれた質問で、患者の理解度や受け止め方を把握する。患者の認識と実際の病状との間のずれを知ることで、どこから・どのように説明すべきかを決められる。SPIKESに含まれる。

  3. ×c.  知識と情報を提供する。

    K(Knowledge)に当たる。前置きをして心の準備を促してから、専門用語を避けたわかりやすい言葉で、情報を小分けにして伝える。途中で患者の理解を確認しながら進め、過度にぶっきらぼうな表現は避ける。SPIKESに含まれる。

  4. ×d.  患者の感情に共感を示す。

    E(Emotions/Empathy)に当たる。悪い知らせを聞いた患者には、驚き・怒り・悲しみ・否認などの感情が生じる。医師はその感情を観察して言葉にし、その理由を確かめ、「つらいお知らせでしたね」などと共感的に応答する。感情が落ち着くまで待つことも含まれる。SPIKESに含まれる。

  5. ○e.  医師のストレスを説明する。

    SPIKESのどの段階にも該当しない。SPIKESは患者の理解・希望・感情に焦点を当てた面談の手順であり、医師の心理的負担を患者に説明することは求められていない。医師が自分のつらさを伝えると、患者に気遣いの負担をかけ、面談の焦点が患者からずれてしまう。なお、悪い知らせを伝えることは医師にとってもストレスとなり、手順が定まったSPIKESを用いることでそのストレスを軽減できるとされる。しかしそれは手順を用いる効果であり、面談の中の段階ではない。

悪い知らせを伝えるコミュニケーション

・SPIKES:Setting、Perception、Invitation、Knowledge、Emotions/Empathy、Strategy and Summaryの6段階。欧米のがん医療で広く用いられる。 ・SHARE:日本のがん患者の意向調査を基に作られたモデルである。Supportive environment(支持的な環境設定)、How to deliver the bad news(悪い知らせの伝え方)、Additional information(付加的な情報)、Reassurance and Emotional support(安心感と情緒的サポート)の4要素からなる。

面談で意識すべきこと

・開かれた質問(open-ended question)で患者の考えや気持ちを引き出す。 ・沈黙を恐れず、患者が感情を表出し、考える時間を確保する。 ・希望を持てる情報(可能な治療、症状緩和、支援体制など)もあわせて伝える。 ・「知りたくない」という患者の意向も尊重し、代わりに誰に伝えるかを確認する。

POINT

・SPIKES=Setting(環境設定)、Perception(認識の把握)、Invitation(知りたい程度の確認)、Knowledge(情報提供)、Empathy(共感)、Strategy and Summary(方針とまとめ)。 ・すべて患者中心の手順であり、医師自身のストレスを説明する段階はない。 ・日本ではSHAREモデルも知られている。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。