ピントが合わない世界で視力は育たない―小児の強度遠視は眼鏡で守る
第108回医師国家試験 H問題 第2問
国試問題にチャレンジ
小児の両眼の強度遠視への対応はどれか。
- a.経過観察
- b.輻湊訓練
- c.矯正眼鏡装用
- d.縮瞳薬点眼
- e.両眼内直筋後転手術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
遠視は調節を休ませた状態で焦点が網膜より後方に結ぶ屈折異常で、小児の両眼の強度遠視は、鮮明な像が得られないことによる屈折異常弱視と、過剰な調節に伴う輻湊による調節性内斜視の原因になります。対応の基本は、調節麻痺薬を用いた屈折検査に基づいて遠視を完全に矯正する凸レンズ眼鏡を常用させることで、純粋な調節性内斜視は眼鏡だけで眼位が正常化します。経過観察は強度遠視では感受性期を逃すため不適切で、輻湊訓練は輻湊不全など、内直筋後転術は乳児内斜視や部分調節性内斜視の残存斜視角が対象であり、縮瞳薬も屈折異常の矯正にはなりません。視力の感受性期はおおむね8歳頃までであり、3歳児健診などでの早期発見と早期矯正が子どもの生涯の視機能を左右します。
解答・解説
正解はcです
問われていること
視覚が発達している途中の小児に、両眼とも強い遠視がある場合の対応を問う問題である。
遠視とは
遠視は、調節(毛様体筋が収縮して水晶体を厚くし、屈折力を増やすこと)を休ませた状態で、平行光線の焦点が網膜より後方に結ぶ屈折異常である。軽い遠視なら調節によってピントを合わせられるが、強度遠視では遠くを見るときでも強い調節が必要になり、近くを見るときにはさらに大きな調節が必要になる。調節しきれない分は網膜にぼけた像しか映らない。
小児で問題になる2つの点
1. 弱視:視力は生後から8歳頃までの感受性期に、網膜の中心窩に鮮明な像が映ることで発達する。両眼の強度遠視では両眼とも鮮明な像が得られず、両眼の視力の発達が妨げられる(屈折異常弱視)。 2. 調節性内斜視:調節と輻湊(両眼を内側に寄せる運動)は連動している(調節性輻湊)。強い調節を続けると過剰な輻湊が起こり、内斜視を生じる(多くは1歳半〜3歳頃に発症)。
対応の考え方
どちらも原因は「矯正されていない遠視」である。したがって、調節麻痺薬(アトロピンやシクロペントラート)で調節を取り除いた状態で屈折検査を行い、遠視を完全に矯正する凸レンズの眼鏡を常用させることが基本の対応となる。これにより網膜に鮮明な像が得られて視力が発達し、過剰な調節とそれに伴う輻湊も不要となる。
選択肢考察
- ×a. 経過観察
小児の視覚は感受性期にあるため、強度遠視を矯正せずに放置すると屈折異常弱視や調節性内斜視を生じる。感受性期を過ぎると視力の回復は難しくなるため、早期に矯正を始めることが重要であり、経過観察は不適切である。なお、軽度の遠視は乳幼児では生理的にみられ、成長とともに減少するため経過観察でよいことがある。本問は「強度」遠視である点が判断の分かれ目である。
- ×b. 輻湊訓練
輻湊訓練は、近くを見るときに両眼を十分に内側へ寄せられない輻湊不全や、一部の間欠性外斜視に対して行われる訓練である。遠視では調節に伴って輻湊がむしろ過剰となり内斜視を生じやすいため、輻湊を強める訓練は目的に合わない。また屈折異常そのものは改善しない。
- ○c. 矯正眼鏡装用
調節麻痺薬を点眼して調節の影響を除いたうえで屈折値を測定し、遠視を完全に矯正する凸レンズ眼鏡を常時かけさせる。網膜に鮮明な像が結ばれることで屈折異常弱視の予防・治療となり、過剰な調節が不要になることで調節性内斜視の予防・治療にもなる。純粋な調節性内斜視は眼鏡装用だけで眼位が正常化する。屈折異常そのものを矯正できる対応はこれだけである。
- ×d. 縮瞳薬点眼
縮瞳薬(ピロカルピンなど)は瞳孔を小さくする薬であり、緑内障の眼圧下降などに用いられる。縮瞳によって焦点深度がわずかに深くなっても、強度遠視の屈折異常は矯正されず、弱視の予防にはならない。海外ではかつて調節性内斜視の補助療法として一部の縮瞳薬が使われたことがあるが、標準的な治療ではない。
- ×e. 両眼内直筋後転手術
内直筋後転術は、眼球を内側に引く内直筋の付着部を後ろにずらして作用を弱め、内斜視の眼位を矯正する手術である。乳児内斜視や、眼鏡で矯正しきれない内斜視が残る部分調節性内斜視に対して行われる。遠視そのものを治す手術ではなく、また眼鏡で眼位が正常化する調節性内斜視には手術を行わない。強度遠視への最初の対応ではない。
弱視の種類
・屈折異常弱視:両眼の強度遠視や強度乱視により、両眼とも鮮明な像が得られないために生じる。 ・不同視弱視:左右の屈折度数の差が大きく(遠視や乱視の左右差)、屈折異常の強い片眼が弱視になる。 ・斜視弱視:斜視眼の像が抑制されることで、片眼が弱視になる。 ・形態覚遮断弱視:先天白内障、眼瞼下垂、角膜混濁、長期の眼帯などで網膜に像が届かないために生じる。
治療の原則
・原因の除去(屈折異常の完全矯正、白内障手術など)がまず行われる。 ・片眼性の弱視(不同視弱視・斜視弱視)では、眼鏡による矯正に加え、健眼をアイパッチなどで遮蔽して弱視眼を使わせる(健眼遮蔽)。 ・治療効果は感受性期(おおむね8歳頃まで)に高く、早期発見のため3歳児健診での視覚検査が重要である。
近視との違い
近視は近くには焦点が合うため、日常的に鮮明な像を得る機会がある。よほど強度でない限り弱視になりにくい。弱視の原因として重要なのは遠視と乱視である。
内斜視の分類(治療との対応)
・乳児内斜視:生後6か月以内に発症し、斜視角が大きい。手術(両眼内直筋後転術など)を行う。 ・調節性内斜視(屈折性):遠視による。完全矯正眼鏡で眼位が正常化する。 ・部分調節性内斜視:眼鏡で斜視角は減少するが内斜視が残る。残った分に対して手術を考慮する。
POINT
・小児の強度遠視は、屈折異常弱視と調節性内斜視の原因となる。 ・対応は、調節麻痺薬を用いた屈折検査に基づく完全矯正眼鏡の常用である。 ・視力の感受性期(〜8歳頃)を逃さないよう、早期に矯正を始める。 ・調節性内斜視は眼鏡で治す。手術は乳児内斜視や部分調節性内斜視の残った斜視角に対して行う。
