石のように硬く、痛まず、動かない―触診で見抜くがん転移リンパ節
第108回医師国家試験 H問題 第4問
国試問題にチャレンジ
がんの転移によるリンパ節腫脹の特徴はどれか。
- a.軟らかい。
- b.圧痛がない。
- c.可動性がある。
- d.皮膚に熱感がある。
- e.相互の癒合がない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
がんの転移によるリンパ節腫脹は、がん細胞が線維化を伴いながらゆっくりリンパ節を置き換えるため、石様硬で圧痛がないことが多く、被膜を越えて浸潤すると周囲に固定され、リンパ節同士が癒合します。これに対して炎症性の腫脹は浮腫と充血により軟らかく、圧痛や皮膚の発赤・熱感を伴い、可動性が保たれ癒合しにくいのが典型です。悪性リンパ腫は弾性硬で無痛性、結核性リンパ節炎は癒着しやすく軟化・自壊することがあるなど、触感の違いも鑑別の手がかりになります。部位(Virchow転移、腋窩の乳癌転移など)、大きさ、経過、全身症状もあわせて評価し、悪性が疑われる場合は生検で確定診断を行います。所見を病態から説明できるようにしておくと、身体診察の精度が上がり、見逃してはならない悪性疾患に早く気づけるようになります。
解答・解説
正解はbです
表在リンパ節の腫大を診察するときは、部位・大きさ・硬さ・圧痛の有無・可動性(周囲組織との固定)・リンパ節同士の癒合・表面皮膚の発赤や熱感を順に確認する。これらの触診所見の組み合わせから、腫脹の原因が炎症(感染症など)なのか、腫瘍(がんの転移、悪性リンパ腫)なのかをある程度推定できる。 炎症性のリンパ節腫脹では、病原体や炎症性サイトカインに反応してリンパ節内のリンパ球が急速に増え、浮腫と充血が起こる。そのためリンパ節は比較的軟らかく、被膜が急に引き伸ばされて痛み(自発痛・圧痛)を生じ、表面の皮膚に発赤や熱感を伴うことがある。周囲への浸潤はないので、指で押すと動く(可動性がある)。 これに対してがんの転移では、リンパ流に乗って到達したがん細胞がリンパ節内で増殖し、線維性の間質反応(desmoplasia)を伴いながらリンパ節を置き換えていく。増大は比較的ゆっくりで炎症反応が乏しいため、硬く(石様硬と表現される)、痛みを伴わないことが多い。さらにがん細胞が被膜を破って周囲組織へ浸潤すると、隣接するリンパ節同士が癒合して塊となり、皮下組織や深部組織に固定されて動かなくなる。 したがって「がんの転移によるリンパ節腫脹」の典型像は「硬い・圧痛がない・可動性がない(固定)・熱感がない・相互に癒合する」であり、この中で選択肢に一致するのは「圧痛がない」である。
選択肢考察
- ×a. 軟らかい。
がんの転移リンパ節は、がん細胞の増殖とそれに伴う線維化によって硬く触れ、石のように硬いと表現される。軟らかいリンパ節は、浮腫や充血を伴う炎症性(反応性・感染性)の腫脹でみられる所見である。
- ○b. 圧痛がない。
がんの転移ではリンパ節がゆっくりと増大し、急性の炎症反応をほとんど伴わないため、被膜の急な伸展や炎症性メディエーターによる痛みが生じにくい。そのため無痛性で圧痛を欠くのが特徴である。一方、感染などによる炎症性の腫脹では圧痛を伴うことが多い。ただし、がんの転移リンパ節でも内部の壊死や急速な増大、神経浸潤があれば痛むことがあり、「痛みがない=良性ではない」と逆に理解しておくことが臨床上重要である。
- ×c. 可動性がある。
がんが増殖してリンパ節被膜を越え周囲組織に浸潤すると、リンパ節は皮下や深部の組織に固着し、可動性が失われる。可動性が保たれるのは周囲への浸潤がない炎症性(反応性)のリンパ節腫脹で典型的である。
- ×d. 皮膚に熱感がある。
表面の皮膚の熱感や発赤は、局所の血流増加を伴う急性炎症(化膿性リンパ節炎など)の所見である。がんの転移リンパ節では炎症反応が乏しいため、通常は皮膚の熱感を伴わない。
- ×e. 相互の癒合がない。
がんの転移では、腫瘍細胞が被膜を破って隣接するリンパ節や周囲組織に浸潤するため、複数のリンパ節が互いに癒合して一塊の腫瘤(いわゆるpacket状)として触れることが多い。相互の癒合がなく1個ずつ分離して触れるのは、反応性リンパ節腫脹で典型的である。
リンパ節腫脹の触診による鑑別の目安
・炎症性(感染・反応性):軟らかい〜弾性軟、圧痛・自発痛あり、可動性あり、癒合なし、皮膚の発赤・熱感を伴うことがある。急に大きくなることが多い。 ・がんの転移:石様硬、無痛性、周囲に固定され可動性なし、相互に癒合、熱感なし。 ・悪性リンパ腫:弾性硬(消しゴム様と表現される)、無痛性。初期には可動性が保たれることが多いが、進行すると癒合し可動性が低下する。 ・結核性リンパ節炎:痛みは乏しいことが多く、周囲との癒着や癒合を来しやすい。進行すると乾酪壊死により軟化し、皮膚に自壊して瘻孔を作ることがある。
大きさ
一般に直径1cmを超えるリンパ節腫大は病的とみなされることが多く、がんの転移などの悪性疾患では1cm以上、さらには2cmを超えることもしばしばある。サイズも炎症性との鑑別の参考になる。
部位の意義
・左鎖骨上窩リンパ節(Virchow転移):胃癌など腹部臓器のがんが胸管を介して転移しやすい部位である。 ・腋窩リンパ節:乳癌の転移が代表的である。 ・頸部リンパ節:頭頸部癌、甲状腺癌などの転移がみられる。 ・鼠径リンパ節:下肢、外陰部、肛門周囲などの病変を反映する。
その他の判断材料
年齢(高齢者では悪性の可能性が上がる)、経過(2〜4週以上縮小しない場合は精査を考える)、発熱・体重減少・盗汗などの全身症状も重要である。確定診断にはリンパ節生検(または穿刺吸引細胞診)による病理組織学的検査が必要である。
POINT
・がんの転移リンパ節:硬い(石様硬)、圧痛なし、可動性なし(周囲に固定)、熱感なし、相互に癒合。 ・炎症性リンパ節:軟らかい、圧痛あり、可動性あり、熱感・発赤を伴うことがある、癒合しにくい。 ・悪性リンパ腫は弾性硬・無痛性で、炎症性とも転移とも異なる触感を示す。 ・無痛性だからといって良性とは限らない。硬く、固定され、増大するリンパ節は悪性を疑い生検を考える。
