StudyMed医師国家試験

石のように硬く、痛まず、動かない―触診で見抜くがん転移リンパ節

第108回医師国家試験 H問題 第4問

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第108回 H問題 第4問

がんの転移によるリンパ節腫脹の特徴はどれか。

  1. a.軟らかい。
  2. b.圧痛がない。
  3. c.可動性がある。
  4. d.皮膚に熱感がある。
  5. e.相互の癒合がない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、リンパ節腫脹の触診所見から、がんの転移に典型的な特徴を選ぶ問題だ。ポイントは、炎症によって腫れたリンパ節と比べて考えること。なぜその所見になるのかという病態までさかのぼると、丸暗記しなくても答えが出せるよ。
医学生医学生
リンパ節を触るときは、大きさと硬さを見ればよいのでしょうか。
ドクタードクター
それだけでは足りないね。部位、大きさ、硬さ、圧痛の有無、可動性、リンパ節同士の癒合、そして表面の皮膚の発赤や熱感を順に確認する。これらの組み合わせから、炎症によるものか腫瘍によるものかをある程度推定できるんだ。
医学生医学生
OSCEで頸部リンパ節の触診を練習したときも、その項目を順番に確認するように言われました。
ドクタードクター
いいね。まず炎症性のリンパ節腫脹から考えよう。感染などが起こると、リンパ節内でリンパ球が急速に増え、浮腫と充血が起こる。そうするとリンパ節はどんな触り心地になると思う?
医学生医学生
水分が多くなるので軟らかくて、急に膨らむから痛みもありそうです。
ドクタードクター
その通り。被膜が急に引き伸ばされるので自発痛や圧痛が出て、血流が増えるので表面の皮膚に発赤や熱感を伴うこともある。周囲に浸潤しているわけではないから、指で押すとよく動く。では、がんの転移はどうだろう。
医学生医学生
がん細胞がリンパ節の中で増えるのだから、硬くなりそうです。でも、がんなら周りを壊して痛みが強いのではないでしょうか。
ドクタードクター
そこが誤解しやすいところだ。転移では、リンパ流に乗ってきたがん細胞が線維性の間質反応を伴いながらゆっくりとリンパ節を置き換えていく。増大が緩やかで炎症反応が乏しいから、石のように硬いのに、痛みを伴わないことが多いんだ。だから選択肢の中では「圧痛がない」が正解になる。
医学生医学生
病理実習で、癌の周りに線維化が広がっている標本を見ました。あれが硬さの理由なんですね。
ドクタードクター
そう、desmoplasiaと呼ばれる反応だ。ほかの選択肢も確認しよう。「軟らかい」は浮腫や充血を伴う炎症性の腫脹でみられる所見で、転移なら石様硬になる。「皮膚に熱感がある」も局所の血流が増える急性炎症、たとえば化膿性リンパ節炎の所見だね。
医学生医学生
「可動性がある」はどうでしょう。リンパ節は普通、触ると動くイメージがあります。
ドクタードクター
反応性のリンパ節ならそうだね。でもがん細胞が被膜を破って周囲の組織に浸潤すると、リンパ節は皮下や深部の組織に固着して動かなくなる。同じ理由で、隣り合うリンパ節同士がくっついて一塊になるから、「相互の癒合がない」も転移の特徴とは逆なんだ。
医学生医学生
転移リンパ節は、硬い、痛くない、動かない、熱くない、くっついている、とまとめられますね。悪性リンパ腫も痛くないと習いましたが、触った感じは同じですか。
ドクタードクター
そこは区別しておきたい。悪性リンパ腫は弾性硬、消しゴムのような硬さと表現され、無痛性だ。初期には可動性が保たれることが多く、進行すると癒合して動きにくくなる。結核性リンパ節炎も痛みが乏しく、周囲と癒着しやすく、乾酪壊死で軟化して皮膚に自壊し瘻孔を作ることがある。
医学生医学生
部位にも意味がありますよね。消化器内科の実習で、胃癌の患者さんの左鎖骨上窩を触るように言われました。
ドクタードクター
Virchow転移だね。胸管を介して腹部のがんが転移しやすい部位だ。ほかに腋窩なら乳癌、頸部なら頭頸部癌や甲状腺癌、鼠径なら下肢や外陰部、肛門周囲の病変を考える。大きさでは一般に直径1cmを超えると病的とみなすことが多い。年齢、2〜4週以上縮小しない経過、発熱や体重減少、盗汗といった全身症状も判断材料になる。
医学生医学生
痛みがないのは悪いサインになりうる、ということですね。逆に痛ければ安心してよいのでしょうか。
ドクタードクター
そこは注意が必要だ。転移リンパ節でも、内部の壊死や急速な増大、神経浸潤があれば痛むことがある。痛みの有無だけで良悪性を決めつけず、硬くて固定され、増大していくリンパ節は悪性を疑って、リンパ節生検や穿刺吸引細胞診で病理学的に確認することが大切だよ。

まとめ

がんの転移によるリンパ節腫脹は、がん細胞が線維化を伴いながらゆっくりリンパ節を置き換えるため、石様硬で圧痛がないことが多く、被膜を越えて浸潤すると周囲に固定され、リンパ節同士が癒合します。これに対して炎症性の腫脹は浮腫と充血により軟らかく、圧痛や皮膚の発赤・熱感を伴い、可動性が保たれ癒合しにくいのが典型です。悪性リンパ腫は弾性硬で無痛性、結核性リンパ節炎は癒着しやすく軟化・自壊することがあるなど、触感の違いも鑑別の手がかりになります。部位(Virchow転移、腋窩の乳癌転移など)、大きさ、経過、全身症状もあわせて評価し、悪性が疑われる場合は生検で確定診断を行います。所見を病態から説明できるようにしておくと、身体診察の精度が上がり、見逃してはならない悪性疾患に早く気づけるようになります。

解答・解説

正解はbです

表在リンパ節の腫大を診察するときは、部位・大きさ・硬さ・圧痛の有無・可動性(周囲組織との固定)・リンパ節同士の癒合・表面皮膚の発赤や熱感を順に確認する。これらの触診所見の組み合わせから、腫脹の原因が炎症(感染症など)なのか、腫瘍(がんの転移、悪性リンパ腫)なのかをある程度推定できる。 炎症性のリンパ節腫脹では、病原体や炎症性サイトカインに反応してリンパ節内のリンパ球が急速に増え、浮腫と充血が起こる。そのためリンパ節は比較的軟らかく、被膜が急に引き伸ばされて痛み(自発痛・圧痛)を生じ、表面の皮膚に発赤や熱感を伴うことがある。周囲への浸潤はないので、指で押すと動く(可動性がある)。 これに対してがんの転移では、リンパ流に乗って到達したがん細胞がリンパ節内で増殖し、線維性の間質反応(desmoplasia)を伴いながらリンパ節を置き換えていく。増大は比較的ゆっくりで炎症反応が乏しいため、硬く(石様硬と表現される)、痛みを伴わないことが多い。さらにがん細胞が被膜を破って周囲組織へ浸潤すると、隣接するリンパ節同士が癒合して塊となり、皮下組織や深部組織に固定されて動かなくなる。 したがって「がんの転移によるリンパ節腫脹」の典型像は「硬い・圧痛がない・可動性がない(固定)・熱感がない・相互に癒合する」であり、この中で選択肢に一致するのは「圧痛がない」である。

選択肢考察

  1. ×a.  軟らかい。

    がんの転移リンパ節は、がん細胞の増殖とそれに伴う線維化によって硬く触れ、石のように硬いと表現される。軟らかいリンパ節は、浮腫や充血を伴う炎症性(反応性・感染性)の腫脹でみられる所見である。

  2. ○b.  圧痛がない。

    がんの転移ではリンパ節がゆっくりと増大し、急性の炎症反応をほとんど伴わないため、被膜の急な伸展や炎症性メディエーターによる痛みが生じにくい。そのため無痛性で圧痛を欠くのが特徴である。一方、感染などによる炎症性の腫脹では圧痛を伴うことが多い。ただし、がんの転移リンパ節でも内部の壊死や急速な増大、神経浸潤があれば痛むことがあり、「痛みがない=良性ではない」と逆に理解しておくことが臨床上重要である。

  3. ×c.  可動性がある。

    がんが増殖してリンパ節被膜を越え周囲組織に浸潤すると、リンパ節は皮下や深部の組織に固着し、可動性が失われる。可動性が保たれるのは周囲への浸潤がない炎症性(反応性)のリンパ節腫脹で典型的である。

  4. ×d.  皮膚に熱感がある。

    表面の皮膚の熱感や発赤は、局所の血流増加を伴う急性炎症(化膿性リンパ節炎など)の所見である。がんの転移リンパ節では炎症反応が乏しいため、通常は皮膚の熱感を伴わない。

  5. ×e.  相互の癒合がない。

    がんの転移では、腫瘍細胞が被膜を破って隣接するリンパ節や周囲組織に浸潤するため、複数のリンパ節が互いに癒合して一塊の腫瘤(いわゆるpacket状)として触れることが多い。相互の癒合がなく1個ずつ分離して触れるのは、反応性リンパ節腫脹で典型的である。

リンパ節腫脹の触診による鑑別の目安

・炎症性(感染・反応性):軟らかい〜弾性軟、圧痛・自発痛あり、可動性あり、癒合なし、皮膚の発赤・熱感を伴うことがある。急に大きくなることが多い。 ・がんの転移:石様硬、無痛性、周囲に固定され可動性なし、相互に癒合、熱感なし。 ・悪性リンパ腫:弾性硬(消しゴム様と表現される)、無痛性。初期には可動性が保たれることが多いが、進行すると癒合し可動性が低下する。 ・結核性リンパ節炎:痛みは乏しいことが多く、周囲との癒着や癒合を来しやすい。進行すると乾酪壊死により軟化し、皮膚に自壊して瘻孔を作ることがある。

大きさ

一般に直径1cmを超えるリンパ節腫大は病的とみなされることが多く、がんの転移などの悪性疾患では1cm以上、さらには2cmを超えることもしばしばある。サイズも炎症性との鑑別の参考になる。

部位の意義

・左鎖骨上窩リンパ節(Virchow転移):胃癌など腹部臓器のがんが胸管を介して転移しやすい部位である。 ・腋窩リンパ節:乳癌の転移が代表的である。 ・頸部リンパ節:頭頸部癌、甲状腺癌などの転移がみられる。 ・鼠径リンパ節:下肢、外陰部、肛門周囲などの病変を反映する。

その他の判断材料

年齢(高齢者では悪性の可能性が上がる)、経過(2〜4週以上縮小しない場合は精査を考える)、発熱・体重減少・盗汗などの全身症状も重要である。確定診断にはリンパ節生検(または穿刺吸引細胞診)による病理組織学的検査が必要である。

POINT

・がんの転移リンパ節:硬い(石様硬)、圧痛なし、可動性なし(周囲に固定)、熱感なし、相互に癒合。 ・炎症性リンパ節:軟らかい、圧痛あり、可動性あり、熱感・発赤を伴うことがある、癒合しにくい。 ・悪性リンパ腫は弾性硬・無痛性で、炎症性とも転移とも異なる触感を示す。 ・無痛性だからといって良性とは限らない。硬く、固定され、増大するリンパ節は悪性を疑い生検を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。