「明日だけは出社したい」―風疹患者の電話に医師はどう答えるか
第108回医師国家試験 G問題 第50問
国試問題にチャレンジ
28歳の男性。発熱と皮疹とを主訴に来院した。体温36.7℃。耳の後ろから顔,上半身にかけて丘疹性紅斑を認める。左頸部に圧痛を伴う径2 cmのリンパ節を触知する。風疹と診断して頓服の解熱薬を処方し,自宅での安静を指示した。午後電話があり,明日どうしてもはずせない仕事があるので会社に行ってもよいかと相談を受けた。 本人であることを確認した後の回答として適切なのはどれか。
- a.「保健所と相談してみます」
- b.「ご自身で判断してください」
- c.「出勤しないで自宅で療養してください」
- d.「会社の産業医の許可をとってから出勤してください」
- e.「男性ばかりの職場であれば出勤してもらって結構です」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
風疹は発疹出現の約1週間前から出現後約1週間までウイルスを排出し、飛沫・接触で強い感染力をもつため、発疹がある時期の出勤は控えるよう医師が明確に指示する必要があります。最大の懸念は妊娠初期の妊婦への感染による先天性風疹症候群(心疾患・難聴・白内障)で、妊婦は外見で判別できず通勤中にも接触しうるため、職場の性別構成は安全の根拠になりません。判断を患者本人や保健所、産業医に委ねるのは不適切で、診断書の発行など休みやすくする配慮を添えつつ、学校保健安全法の基準と同じく発疹が消えるまで自宅療養を勧めます。あわせて、風疹は感染症法の5類感染症(全数把握)で直ちに届け出ること、予防の基本がMRワクチンであることも重要です。感染症の診療では、目の前の患者だけでなく社会全体を守るという公衆衛生の視点を持つことが医師に求められます。
解答・解説
正解はcです
状況の整理
28歳の男性が、発熱と、耳の後ろから顔・上半身に広がる丘疹性紅斑、圧痛のある頸部リンパ節腫脹で受診した。発熱・発疹・リンパ節腫脹の三つがそろっており、風疹と診断されている。風疹では耳介後部・後頭部・頸部のリンパ節が腫れやすく、発疹は顔から体幹・四肢へ広がる。受診時の体温は36.7℃で、風疹の発熱は軽いか短いことが多い。 患者は、症状は軽いので明日は出勤したいと考えている。電話で本人確認を済ませたうえで、医師としてどう答えるかが問われている。
設問の考え方
風疹は飛沫感染と接触感染で広がり、感染力が強い。ウイルスを排出するのは発疹が出る約1週間前から、発疹が出たあと約1週間までとされる。発疹がある今は、まさに他人にうつす時期である。 出勤すれば、通勤中の電車や職場で、免疫のない多くの人にうつすおそれがある。とくに問題なのは妊婦への感染である。妊娠初期(おおむね妊娠20週ごろまで)の妊婦が感染すると、胎児に先天性風疹症候群(CRS)が起こりうる。相手が妊娠していることは外見からはわからず、職場の構成とも関係なく通勤中に接触しうる。 したがって医師は、感染拡大を防ぐ観点から、発疹が消えるまで出勤を控えて自宅で療養するよう、はっきり指示すべきである。患者の事情に配慮して、会社に提出する診断書の発行を申し出るなどの対応を添えるのも望ましい。
選択肢考察
- ×a. 「保健所と相談してみます」
風疹は感染症法の5類感染症で、全数把握の対象である。診断した医師は、直ちに(診断後すぐに)保健所へ届け出る義務がある。しかし、個々の患者が出勤してよいかどうかは、診察した医師が医学的に判断して答えるべきことであり、保健所の判断を待つ必要はない。回答を先送りすると、患者が自己判断で出勤してしまうおそれもある。
- ×b. 「ご自身で判断してください」
最終的に行動を決めるのは本人だが、患者は医師の意見を求めて電話している。風疹は他人にうつす感染症であり、本人の体調だけの問題ではない。判断を患者任せにするのは、公衆衛生上の責任を果たしておらず、医師として不適切である。
- ○c. 「出勤しないで自宅で療養してください」
風疹は発疹が出たあと約1週間はウイルスを排出し、飛沫でうつる。出勤すると、通勤中や職場で免疫のない人、とくに妊婦に感染させ、先天性風疹症候群を引き起こす危険がある。学校保健安全法では、風疹は第二種の学校感染症で「発疹が消失するまで」出席停止とされており、社会人でも同じ目安で出勤を控えるのが適切である。感染拡大を防ぐため、医師としてはっきり自宅療養を指示するこの回答が正しい。
- ×d. 「会社の産業医の許可をとってから出勤してください」
産業医は、労働者の健康管理や職場の衛生について事業者に助言する立場の医師である。本例では、診察した医師がすでに風疹と診断しており、感染性のある時期であることは明らかなので、出勤を控えるよう指示すればよい。産業医の許可があれば出勤してよいかのような言い方は、感染拡大の危険を伝えず、判断を他の人に回しており不適切である。産業医が判断しても、発疹がある間は出勤を控えるという結論は変わらない。
- ×e. 「男性ばかりの職場であれば出勤してもらって結構です」
風疹は性別に関係なく感染する。男性の同僚に免疫がなければ、その人が発症し、さらに家族の妊婦などに広げる可能性がある。また、通勤中の公共交通機関では妊婦を含む不特定多数の人と接する。日本では、予防接種の機会がなかった成人男性の免疫の不足が流行の原因の一つとされており、男性ばかりの職場なら安全という考えは誤りである。
風疹の概要
・病原体:風疹ウイルス(トガウイルス科) ・感染経路:飛沫感染と接触感染。妊婦から胎児への経胎盤感染もある。 ・潜伏期:14〜21日(平均16〜18日程度) ・症状:発熱、全身の小さな紅い発疹(顔から体幹・四肢へ広がり、約3日で消え、色素沈着を残しにくい)、耳介後部・後頭部・頸部のリンパ節腫脹。成人では関節痛・関節炎を伴いやすい。約15〜30%は症状が出ない不顕性感染である。 ・合併症:血小板減少性紫斑病、脳炎など。 ・感染力のある期間:発疹が出る約1週間前から、出たあと約1週間まで。
先天性風疹症候群(CRS)
免疫のない妊婦が妊娠初期に感染すると、胎児に先天性心疾患(動脈管開存症など)、感音性難聴、白内障・緑内障、色素性網膜症などが起こる。これが三大症状(心疾患・難聴・白内障)である。感染の時期が早いほど発生率が高く、妊娠20週を過ぎるとまれになる。風疹の妊婦には生ワクチンを接種できないため、妊婦の周りの人(家族、同僚など)が免疫を持つことが大切である。
法律上の位置づけ
・感染症法:風疹・先天性風疹症候群ともに5類感染症(全数把握)。診断した医師は直ちに保健所へ届け出る。 ・学校保健安全法:第二種の学校感染症。出席停止期間は「発疹が消失するまで」。 ・予防接種法:MRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)の定期接種。第1期(1歳)と第2期(小学校入学前の1年間)の2回。過去の制度の影響で接種機会がなかった世代の成人男性(1962〜1979年度生まれ)を対象に、抗体検査と追加接種を公費で行う事業も行われた。
就業への対応
感染症法で定める就業制限は主に1〜3類感染症などが対象で、風疹には法律上の就業制限はない。ただし感染拡大を防ぐため、学校の出席停止と同じく発疹が消えるまで出勤を控えるよう指導するのが一般的である。
POINT
・風疹は発疹が出る約1週間前から出たあと約1週間まで感染力がある。発疹が消えるまで登校・出勤を控える(学校保健安全法では第二種、発疹が消失するまで出席停止)。 ・妊婦への感染は先天性風疹症候群(心疾患・難聴・白内障)を起こすため、男女を問わず、職場の構成に関係なく感染対策が必要である。 ・患者から意見を求められたら、医師が医学的根拠に基づいて明確に指示する。判断を患者本人や他機関に任せない。 ・風疹は感染症法の5類感染症(全数把握)で、直ちに届け出る。
